2021年08月22日
【必読?】『サイコパスの真実』原田隆之
サイコパスの真実 (ちくま新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、今月の「Kindle月替わりセール」の中でも人気の1冊。以前、当ブログでも『入門 犯罪心理学』をレビューしたことのある原田隆之さんが、今やお茶の間でもおなじみの「サイコパス」というテーマに挑んだ作品です。
アマゾンの内容紹介から。
人当たりがよく、優しい言葉をかけ、魅力的な人柄。だけど、よくよく付き合うと、言葉だけが上滑りしていて、感情自体は薄っぺらい……。このような人格の持ち主を「サイコパス」と心理学では呼ぶ。近年、犯罪者の脳の機能や構造などが明らかになり、サイコパスの正体が明らかにされつつある。本書では、最先端の犯罪心理学の知見にもとづいてサイコパスの特徴をえがき、ヴェールに包まれた素顔に迫る。
月初より中古価格が値上がりして定価を超えたため、Kindle版が500円弱お買い得です!
Your friendly psychopath / milkisprotein
【ポイント】
■1.浅薄な情緒性ヘアは、サイコパスのこのような状態を評して、「言葉を知っているが、響きを知らない」と述べている。彼らにとって、感情は文字で覚えた知識でしかなく、実際に心が揺れ動いたり、喜びや悲しみを体験したりすることがない。まるで、セリフを読んでいるような空虚な言葉を操ることしかできない。
ヘアは、「机」「椅子」という中立的な言葉と、「癌」「死」という感情を動かされるような言葉をサイコパスに提示して、そのときの脳のはたらきを測定したが、驚くべきことがわかった。サイコパスの脳は、「死」という言葉を聞いても、「椅子」という言葉を聞いたときと同じような平板な反応しか示さなかったのである。
同様に、ブレアの実験では、人々が苦しんでいたり、子どもが泣いていたりする写真を見せた。しかし、サイコパスの自律神経反応(心拍や皮膚電気反応など) は、ほとんど変化しなかった。これらもまた、脳機能の重大な欠陥であると言える。
■2.「サイコパス」ジョブズが成功したワケ
第1は、彼自身の才能もさることながら、先に挙げたような「魅力ビーム」で多くの多彩な人々を惹きつけ、操作し、ときには切り捨て、都合よく利用していったという点が挙げられる。アップルという企業自体が、彼の拡大自我のような様相を呈していたのはそのためだろう。
第2は、敢然とリスクを取っていったという点である。伝記映画のなかで、ジョブズは、「偉大になりたければ、リスクを冒せ」と怒鳴っている。周囲の者が、「無理」「無謀」と言って尻込みするところを、彼はそれを口汚く罵り、蹴散らして、ひたすら前進する。
彼がリスクを取り続けた裏には、相応の自信の裏打ちがあったであろうし、「経営者の勘」のようなものがはたらいていたのかもしれないが、そもそもリスクそのものへの恐れが欠如していたのだと思われる。
第3は、平気で何度も他社のアイデアを「盗んだ」という点である。伝記のなかで、ジョブズ自身「我々は、偉大なアイデアをどん欲に盗んできました」と認めているように、ぼやぼやして盗まれるほうが悪いのだと言わんばかりの態度であった。
■3.サイコパスの環境要因
また、サイコパスの環境要因について調査した、ケンブリッジ研究と呼ばれる研究がある。これは、ロンドンの男児を対象に40年間という長きにわたって実施された追跡研究である。まず、8歳時にさまざまな環境的要因を測定した。そして、40年後、すなわち彼らが48歳になった時点で、サイコパス・チェックリストを実施し、サイコパスと非サイコパスに分け、8歳時点での環境要因の違いを比較した。
その結果、両群で有意に差が見られたのは、差が大きかったものから、「父親の不関与」「身体的ネグレクト」「父親が犯罪者であること」「世帯収入の低さ」「母親が犯罪者であること」「崩壊家庭」「きょうだいの非行」などであった。「父親の不関与」に関しては、両群の割合に6.5倍もの差があった。
サイコパスになった者とそうならなかった者には、生物学的な相違点があることはもちろんだが、このように家庭環境の差も無視できないことがわかる。
■4.サイコパスの治療は可能か
まず、専門家が口をそろえるのは、「サイコパスの治療はきわめて難しい」ということである。「不可能」と断言する者もいるし、そもそも治療の対象とは考えていない者すらいる。(中略)
では、なぜ治療が難しいのか。その第1の理由は、本人が困っていないから、つまり治りたいと思っていないからである。
シュナイダーが、精神病質には「自らが悩むタイプ」と「他人を悩ませるタイプ」があると述べたことは紹介したが、サイコパスはまさに「他人を悩ませるタイプ」の筆頭であって、「自らが悩むタイプ」ではない。(中略)
一方、本人が悩んでいないどころか、自信たっぷりで、悪いのは周囲のほうだと思っているようなサイコパスが、そもそも治療を求めるはずがない。また、治療を受けさせたとしても、治療へのアドヒアランス(遵守) が悪い。
ただ、きちんと治療を受けて、改心した振りをすれば、早期に釈放されるなど打算がはたらく場面では、表面的には治療に従う。だから、模範囚となって目論見どおりに早期釈放を勝ち取るのである。
■5.身近なサイコパスへの対処
(1)むやみに近寄らない身近なサイコパスは、そもそも治療の対象にはなりにくい。だとすれば、サイコパスというパーソナリティも、1つの個性としてとらえなくてはならないだろう。そのうえで、偏見や差別の対象とするのではなく、害を回避しながら上手に付き合っていくことが必要なのだと言える。
(2)表面的な言葉を鵜吞みにしない
(3)会う必要があるときは、一人ではなく複数で会うようにする
(4)自分の個人的なことを話さない
(5)本人の経歴等については、客観的証拠を基に判断する
(6)組織や企業では、重要な意思決定ができるポジションには就かせず、個人情報やセキュリティを扱う部署に配置しない
【感想】
◆私自身のサイコパスに関する理解と知識を、確認出来たり上書きすることができた作品でした。まず第1章では、著者の原田さんが実際に出会った4人のサイコパスが登場。
いずれも刑務所やそれに類似する施設(少年鑑別所、拘置所等)での面会だったため、犯罪者のサイコパスだったワケですが、態度の違いはあれど、これがもう絵に描いたような典型的な言動をしていました(詳細は本書を)。
ではサイコパスには具体的にはどのような特徴があるのか、について述べているのが、続く第2章。
ここではカナダの犯罪心理学者、ロバート・ヘアの「4因子説」(対人因子、感情因子、生活様式因子、反社会性因子)に従い、各因子に含まれるサイコパスの特徴を解説しています。
実は各因子ごとに、さらに「特徴的な側面」が4〜6つ挙げられており、それらを列挙するとかなりのボリュームになるので、詳細については割愛しました。
たとえば上記ポイントの1番目の「浅薄な情緒性」というのは、感情因子の中の1つの側面なのですが、まさにサイコパスらしさが如実に現れているかと。
また、最後の反社会性因子、というのは、サイコパスの犯罪の常習性(非サイコパスの再犯率は、一般犯罪が39.9%、暴力犯罪が2.7%だったのに対し、サイコパスの再犯率は、一般犯罪は2倍の81.8%、暴力犯罪は14倍の38.2%)の直接的な要因と言えると思います。
◆とはいえ、サイコパスならば誰でも犯罪者になるかと言えば、決してそうではないことを説いているのが本書の第3章。
犯罪を犯すサイコパスが「失敗したサイコパス」であれば、逆に「成功したサイコパス」もいるわけで、事例として実業家や科学者、医師、政治家、有名芸能人等に「それらしい」人もいます。
本書で具体的に挙げられているのが、上記ポイントの2番目のスティーブ・ジョブズ。
ここで列挙された理由は、いずれも「サイコパスの特徴」であり、こうした特徴ゆえにジョブズは成功したと言えるのでしょう。
もちろん、ジョブズの場合、成功とは直接関係ないサイコパス的エピソード(ガールフレンドが妊娠を告げると冷淡になる、慈善活動にまったく関心を寄せない等)にも事欠かないのですが。
また、この章で興味深かったのが、サイコパスの脳画像に独特の特徴がある、と見出したアメリカの著名な神経学者のお話。
たまたま別の用途で、自分の家族の脳画像を点検した彼は、その中にあきらかにサイコパスの特徴が表れている画像を見つけるのですが、実はそれは彼自身の画像だったという……(詳細は本書を)。
◆では、人がそうしたサイコパスになる要因が何か、について探っているのが本書の第4章です。
一卵性双生児と二卵性双生児における、サイコパスの一致率を比較すると、複数の研究のいずれもで一卵性の一致率の高さが際立っており(一卵性:42〜57%、二卵性15〜18%)、これはすなわち、遺伝的な要因が大きいということ。
とはいえ、その一卵性双生児でも一致率が100%でないということは、環境の要因もあるワケであり、その要因を明らかにしたのが、上記ポイントの3番目になります。
特に大きいのが「父親の不関与」と言われてしまうと、世のお父さん方も身が引き締まるのではないでしょうか。
なお、その理由として原田さんは「男性としてのロールモデルが欠落してしまうことが大きく影響しているからでは」と言われているのですが、それはサイコパスの男女比が、圧倒的に男性に偏っている(女性の数倍〜10倍程度が男性)という前提あってのお話です。
……ムスコのいる自分も他人ごとではないのですが。
◆それならば、「サイコパスが治療・予防できるのか?」という疑問に答えているのが、本書の第5章です。
上記ポイントの4番目では、いきなりその結論が述べられていて「きわめて難しい」とのこと。
実際、サイコパスは自分がサイコパスだと思ってなかったり、思っていてもいなくても、それで悩んだり困ったりすることがないというのがセツナイです。
それどころか上記では割愛していますが、とある治療法によっては、かえって再犯率が高まることもあるという(こちらも詳細は本書を)。
結果、上記ポイントの5番目にあるような対処法で自衛するしかありません。
これだって、相手が上司だったら避けられなくなることもあるのでしょうけどね……。
いずれにせよ、本書を読んでサイコパスの特徴を理解して、せめて騙されないようにだけはしたいものです。
あなたの近くにもサイコパスはいるかもしれません!?
サイコパスの真実 (ちくま新書)
はじめに 隣りのサイコパス
第1章 私が出会ったサイコパス
第2章 サイコパスとはどのような人々か―サイコパスの特徴
第3章 マイルド・サイコパス―サイコパスのスペクトラム
第4章 人はなぜサイコパスになるのか―サイコパスの原因
第5章 サイコパスは治るのか―サイコパスの予防、治療、対処
第6章 サイコパスとわれわれの社会―解決されないいくつかの問題
おわりに サイコパスはなぜ存在するのか
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【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。マルクス 資本論 シリーズ世界の思想 (角川選書)
定価が2000円以上するため、「499円」だと「77%OFF」という激安設定になる1冊。
結果、このKindle版が1200円以上お得な計算です!
ご声援ありがとうございました!
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