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2021年08月13日

【諦念?】『諦めの価値』森 博嗣


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諦めの価値 (朝日新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも注目されていた1冊。

当ブログでもおなじみである森博嗣さんが、一筋縄ではいかない「森節」を、いつものように展開してらっしゃいます。

アマゾンの内容紹介から。
さよなら、努力。 「諦め」は最良の人生戦略だ。
「諦めるな、頑張るんだ! 」という時代はもう終わった。
何かを成し遂げた人は、常に多くのことを諦め続けている。
あなたにとって、何が有益で何が無駄か、「正しい諦め」だけが、最大限の成功をもたらすだろう。
「自分はこれでいいのか」と思っているすべての人へ。
仕事、人間関係、日々の雑事に見切りをつけた結果、夢をかなえた作家が独自の思索で導いた諦め方を伝授する。

なお、上記の未読本記事の時点ではまだなかったKindle版が、「39%OFF」とほぼセール並みのお値段で配信されていますから、お見逃しなく!






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【ポイント】

■1.「本当に望んでいれば」夢は叶う
「望んでいれば夢は叶う」という言葉には、多少 端折った部分がある。実は、「本当に望んでいれば」というように補足する必要があるだろう。この場合の「本当に」は、「真剣に」とか「もの凄く」でも良い。
 ただぼんやりと、「あんな生活がしたいな」と 呟くだけでは、「望んでいる」という動詞には不足なのだ。これは、「憧れる」や「思う」程度の状況であって、具体的な行動を伴っていない。
 つまり、本当に「望む」のなら、なんらかの行動が伴うはずである。その夢に近づくため、なんらかの行為が必要だし、それをせずにはいられないのが普通だ。(中略)
 そして、「諦める」という動詞は、このような夢に向かう行動を断念することなのだ。ここから、「諦めなければ、夢は叶う」という法則が生まれる。
 諦めなければ、いずれ夢は叶うが、そのまえに死が訪れるかもしれない。その場合でも、一生夢を追い続けたことになり、夢が叶ったのと同じくらい自由で幸せな人生となるだろう。


■2.圧倒的な能力の差を見せつけられた場合の受け入れ方
 おっしゃるとおりです。能力の差は、歴然としてあります。しかも「ずるい」のではありません。才能がある人たちには、それが普通なのです。(中略)
「能力の低さ」を認めるしかありません。ただ、何と比較して低いのかは問題です。あなたは、そこそこの能力を持っています。たとえば、これだけの文章が書けます。おそらく文章を読むこともできるのでしょう。読み書きができない人は、あなたを「ずるい」というでしょうか?
 そういった、個人差や環境差は、受け入れる、受け入れないという問題以前に、絶対的に存在するものです。
 あなたの問題は、「今日の天気を受け入れないといけないでしょうか?」と同じものです。雨が受け入れられないなら、家でじっとしてるしかありません(家を受け入れられるならですが)。雨を受け入れて、傘をさして出かけるのは、ずるいことでしょうか?


■3.過去ではなく未来を諦めておく
「諦める」ならば、早めに諦めておく。そういう気持ちになっておく。でも、実際には諦めずにチャレンジしてみる。すると、駄目だったときの気持ちのシミュレーションができているので、失敗しても、「あらら、やっぱりね」で済む。
 実際、後悔したり、くよくよして落ち込んだりするのは、非常に時間の無駄である。そんな時間があるのなら、さきにその時間を使って、悲観的に予想しておく。事前に悔やんでおけば、覚悟ができるという精神的安定のほかにも、好ましくない可能性を思いつき、実際に最悪の事態に対処する準備ができるかもしれない。そうなったら 儲けものである。
「どうせ失敗するだろう」という事前の「諦め」は、こういった意味で有用といえる。実際に失敗してから諦めるのでは、手遅れなのだ。
 わかりやすくまとめるなら、過去のことを諦めたり、諦めようとするのではなく、未来のことを諦めておいた方が良い、となる。悲観的な予測をすれば、なにも手を打たない場合でも、少なくとも冷静さの維持に寄与するだろう。


■4.納得を先送りする
 いずれにしても確かなのは、「諦める」のは、諦めた方が良いという判断をその時点でしたからだ、という点である。「諦める」ことで得られる(と思しき)ものがある、なにかの目的に近づくことができる、との計算があった。だから「諦め」ようとしているのだ。そこを今一度自分でよく認識する。そうすることで自分を説得し、納得させることである。諦めきれない未練を断ち切るには、これしかない。
 もし、時間的な猶予が望めない場合には、完全に納得ができなくても、とりあえず自分に「諦め」てもらうしかない。諦めるとは、納得を先送りして、さきに利を取る1つの方法なのである。とりあえず「諦める」ことで、のちのちじわじわと納得や利益が戻ってくる。借金の反対(つまり金貸し?)である。
「諦める」と、その場は損をした気分になるが、のちのち利子がついて戻ってくるだろう。そういう行為だと思えば、少しは「諦める」ことが容易になるのではないか。


■5.感情は諦めて利を取る
 日常でも、かちんとくる場面というのはあるだろう。知らない人と、たまたまぶつかってしまったとか、自動車を運転していたら前に割り込まれたとか、相手の口の利き方がなんとなく気に 障ったとか。そんな場合に、さっと「諦める」ことができれば、それでお終いである。相手は、そもそも悪気がなかったかもしれない。あなたを貶めようとしていたわけではないだろう。
 しかし、ここで気が治まらない、という人がいて、しかもわりと多い。そういう人は、周囲にそれを伝えようとする。ちょっとした問題だったのに、その問題を大きくしようとする。
 この場合、「相手に謝らせたかった」という理由が語られるだろう。それは、たしかにそのとおりだし、正義だといえなくもない。だが、謝られることで、具体的に何の得があるのだろうか。それよりも、さっさと問題を諦める方がエネルギィも消費しない。客観的に見て、一番自分の利となる選択なのだ。
 自分の感情を抑えられたら、「ああ、得をしたな」と思えば済む話だ。違うだろうか?


【感想】

◆冒頭でも触れたように、相変わらずの「森節」が堪能できました。

突拍子もないことを言い出しているわけではないのですが、微妙に一般的な考えとは異なっていると言いますか……。

そもそも私たちが「諦める」と言ったら、タワマンに住むのを諦める、とか、タレントと結婚するの諦める、みたいな「夢を諦める」ケースを想像すると思います。

ところが森先生に言わせると、それは単に「『憧れる』ことを諦めたにすぎない」とのこと。
 僕は、その程度の行為は「諦めた」に含まれない、と考える。「諦める」とは、なんらかの作業を途中で止めざるをえない、と判断することだ。とことん考えて、綿密に計画を立てたものを断念するのなら、「諦める」ということができる。
つまり、ただ「やりたいなぁ」「なりたいなぁ」と憧れているだけでは、「諦める」うちに入らないのだそうです。


◆それを踏まえて、第1章の「諦めなければ夢は叶うか?」から抜き出したのが、上記ポイントの1番目。

ここでいうところの「本当に」や「真剣に」が、どこまで達成できているか否かにもよるわけです。

逆に「行動」すらしていないくせに、ただ「望んでいる」だけのことを、森先生は「神頼み」とバッサリ。

ただし、「諦める」ことは必ずしも悪いわけではなく、たとえば「夢」をかなえるための現在のアプローチ法を「諦め」て、違う方法を選択するケースもあります。

つまり、ここで言う「諦め」をしない、ということは、思考停止だったり、また、それまで投下した時間なりお金にこだわって最善手が取れないということ。
そうではなく、いつも柔軟に考え、現在の状況をよく把握したうえで、価値判断をすること。そのときに、「諦め」が結果的に現れるというだけである。「諦めたくない」といった感情は、きっぱりと捨てる方が良いだろう。そういった「拘り」こそ諦めよう。
なるほど、確かに。


◆続く第2章は、過去の森先生の作品にもあった、「人生相談」コーナーが中心です。

もちろんその質問内容は、本書のテーマである「諦める」ことに関連するもの。

上記ポイントの2番目の「圧倒的な能力の差を見せつけられた場合の受け入れ方」というのは、その質問を端折ったものであり、全文を抜き出すとこんな感じです。
Q 優秀な人ってずるい気がするんです。
 平気で努力の壁を越えていくじゃないですか。センスが違うのか、知能が違うのか、人間力が違うのか。多分全部です。
 そうとしか考えられないくらい、能力の差を感じるときがあります。
 歯をくいしばって、自らの能力の低さを認めて頑張るしかないのでしょうか?
 上手な受け入れ方が知りたいのです。
それに対して森先生は、そういった「差」は上手に受け入れるも何も、「絶対的に存在するもの」だとこれまたバッサリ。

ただ、ほとんどの質問が、上記で述べた森先生の「諦める」という言葉の意義を知らずになされたものなので、微妙に噛み合ってない……のですが、森先生の「人生相談」では、むしろこれが平常運転ですから、いつもどおりにお楽しみください。


◆さて、第3章では「何を諦めるべきか」という章題にあるように、「諦める」対象についての言及が。

「人」「問題」「努力」「社会」「環境」等々、色々なものがある中、上記ポイントの3番目にあるように「未来」も「諦める」ことができます。

もっともこれはあくまで「シミュレーション」であって、実際にはちゃんとチャレンジするのではあるのですが。

さらにこの章の後半で指摘されていたのが、これまでの戦後は「上り調子」だったため、「下る社会」という未体験のものを受け入れられていない、要は、「発展」を諦めきれていない、というお話です。
 今の老人たちは、特に「発展」しか頭にない。そういう人たちが社会をまだ牛耳っているから、現実と乖離した政策によって、ますます歪な社会になる危険がある。
この辺は、選挙の際に気を付けておきたいな、と。


◆なお、上記ポイントの4番目と5番目は、1つ飛んだ第5章の「諦めの作法」から抜き出しましたもの。

前者の「諦めるとは、納得を先送りして、さきに利を取る1つの方法」という指摘は、個人的には「目からウロコ」でした。

ただし、行動経済学ではなくですが、人は「損」が絡んでくると、そう簡単に「諦め」られないものなんですけどね……。

同じく後者も、感情が絡んできますから、そう簡単な問題ではありません。

森先生は
自分の感情を抑えられたら、「ああ、得をしたな」と思えば済む話だ。違うだろうか?
と締められていますけど、感情の起伏があまり感じられない先生だからこそ、と言えなくもなく。

……と思っていたら、その続きで
 そもそも、これが「大人」というものだ。それができないのが、「子供」である。
とまたしてもバッサリ斬られたの巻w


「諦め」を使いこなして、より良い人生を送るべし!

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諦めの価値 (朝日新書)
第1章 諦めなければ夢は叶うか?
第2章 諦められないという悩み
第3章 何を諦めるべきか
第4章 諦めが価値を持つとき
第5章 諦めの作法
第6章 生きるとは諦めること
第7章 変化を選択する道について


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【編集後記】

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