2021年07月07日
【オススメ!】『新装版「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た日』馬場康夫

新装版「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た日 (講談社+α文庫)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、「クイズ&雑学&名言集フェア」の中でも人気の1冊。おなじみホイチョイプロの馬場康夫さんが、珍しくご自身のお名前で書かれたエンタメ本です。
アマゾンの内容紹介から。
小谷正一氏、堀貞一郎氏という2人のプロデューサーを軸に、日本のエンターテインメントビジネスの草創期から、東京ディズニーランド誕生までを追うノンフィクション。2人が魅せられた、ウォルト・ディズニーという巨人にもスポットを当てながら、究極のテーマパーク招致に奔走し、成し遂げるまでを描きます。
単行本、文庫本、いずれも中古が3500円以上しますから、「385円」というこのKindle版が3200円ほどお買い得となっています!

Castle Disney Tokyo / Dyroc
【ポイント】
■1.注文をあらかじめリサーチしておくペリエ、ペプシコーラ、スミノフのウォッカ・トニック──ディズニー経営陣が次々に注文する飲み物が、すべて小さな冷蔵庫の中から取り出されていった。
この魔法に一同は仰天した。
「あれはアイスボックスじゃなくて、マジックボックスだ」
とロン・ケイヨが 呟いた。
もちろんこのマジックにはタネがあった。
三井物産ロサンゼルス支店の澤登がディズニー側との仲介役として起用し、帝国ホテルでのプレゼンテーションにも同席していたジャック・ホワイトハウスというPRマンがすこぶる有能な男で、ディズニーの幹部が昼食やパーティーの席で日頃どんな食前酒を飲んでいるかについて、事前に詳細なリポートを送っていたのだ。堀たちはそのリポートを分析し、各人の注文のパターンが多くても3通りくらいしかないことを摑んでおり、そのおかげで小さな冷蔵庫にすべてを詰め込むことができたのである。
■2.迷って買わなかったモノをプレゼントする
小谷は、ホールの名を世間に知らせるために、フランスからパントマイムの第一人者マルセル・マルソーを招き、公演を行った。このとき小谷は、夫に同伴して日本にやって来たマルソー夫人にひとりの部下をはりつけ、銀座や浅草での買い物に残らず同行させた。小谷はその部下にこう命じていた。
「女性が買い物をするとき、ふたつのうちどちらにしようか迷うときが必ずある。迷って捨てた方を全部記録してこい」
部下はこの命令を忠実に守り、夫人が何を買って、何を買わなかったかを、こと細かに小谷に報告した。その報告を受け、小谷は、マルソー夫妻が羽田を発つとき、夫人が迷って買わなかった方の商品をそっくりまとめて箱に入れ、プレゼントした。
女性が最後まで迷ったというのは、その商品を気に入った証拠である。中には、あちらを買えばよかった、と後悔したものもあったろう。小谷はそれを全部買って贈ったのだ。夫人が大喜びしたことは言うまでもない。
その様子を見ていたマルソーは、「コタニの招きなら、いつでも日本に来る」と言い残して日本を去る。
小谷は、人の心を摑む天才だった。
■3.『木枯し紋次郎』誕生裏話
万博終了後、還暦を過ぎても、小谷正一は現役のプロデューサーとして、さまざまな企画に 携わりつづけた。
万博で小谷と一緒に働いた市川崑が、1971年、股旅物の時代劇を『イージーライダー』のようなアメリカン・ニューシネマのタッチで映画化することを思いたち、小谷のもとに相談に訪れた。
製作費が600万円ほど足りないという市川に、小谷は、同じコンセプトのテレビ時代劇を作って、それで得た金を映画につぎ込んだらどうかとアドバイスし、古巣の電通に働きかけて、フジテレビでの放送の道筋をつけ、さらに、主役候補として、俳優座を造反して辞めたばかりの中村敦夫という俳優を推薦した。
市川崑監督、中村敦夫主演による時代劇『木枯し紋次郎』は、フジテレビの連ドラとして1972年1月から放送開始。最高視聴率 32.5%を記録し、時代劇として空前のヒット作となった。
■4.飲んで漁業補償問題を解決する
高橋は川崎の部屋に赴き、「ちょっと飲みまして」と言って、伝票の束をさし出した。もしも文句を言うようだったら、即刻「こんな会社、辞めます」と辞表を叩きつけるつもりだった。
だが、川崎は格別驚いた様子もなく、フルネームを書くのは面倒と、川という字を○で囲んだ温泉マークのような記号を、大量の領収書に書き込んでいった。金額には目もくれず、最後まで一言も口を利かなかった。
川崎が最初に言った「きみに任せる」という言葉は本当だった。
意気に感じた高橋は、浦安のふたつの漁業協同組合に所属する1800人の漁民を、たったひとりで飲み倒し、江戸英雄と川崎千春が2年はかかると読んでいた漁業権放棄の交渉を半年でまとめあげる。
漁民との付き合いには、領収書を取れない金が相当額かかったが、資産家の高橋は渋谷区神山町にあった1600坪の自宅を売り払い、身銭を切って交渉をまとめた。酒に強いだけでなく、高橋は男気の人であった。江戸英雄はもとよりそれを見抜いていた。そして高橋は江戸が見込んだだけのことはある男だった。
■5.見た目にインパクトを与える
マーケティングは電通出身の堀の専門である。堀の主導で、ディズニー向けのマーケティング・レポートの作成が始まった。(中略)
堀のもとでこのレポート作りの実務を担当した奥山は、レポート作成の最終段階で堀がこう言ったのをよく覚えている。
「ロサンゼルスに送る計画書は革の装幀にしよう。見た目にインパクトがあれば、粗末にしないで目を通してくれるはずだ」
堀は人の心を摑むすべを心得ていた。
奥山は、神田の革屋に足を運んで、革を裁断してもらい、レポートの革表紙を数十冊分作った。今度はその革表紙を持って、堀が青年会議所で知り合った八重洲の中島金属箔粉という会社の中島武社長のもとを訪れた。
「革表紙に、オリエンタルランドの紋章と、浦安計画書という文字を銀箔で箔押ししてください」
と堀は中島に頼んだ。
【感想】
◆エンタメ好き、マーケティング好きには、たまらないであろう1冊でした。ただし、サブタイトルにある「ディズニーランド」"だけ"の本ではありません。
もちろん、一番の読みどころは「ディズニーランド招致」のエピソードの数々なのですが、そこに至るまでの物語も、読みどころ満点!
そしてその中心となるのが、冒頭の内容紹介にも挙げられている2人のプロデューサー、小谷氏とその部下である堀氏です。
小谷正一 - Wikipedia
堀貞一郎 - Wikipedia
お恥ずかしながら、お2人とも存じ上げなかったのですが、その手がけられたイベントや広告は、誰でも知っているようなものが多々ありました。
特に小谷氏は、毎日新聞に同期入社だった井上靖氏の小説の主人公に、3度もなっているという。

猟銃・闘牛(新潮文庫)

黒い蝶(新潮文庫)

貧血と花と爆弾 (1979年) (文春文庫)
本書では、それらの元となるエピソードにも触れられているのですが、小説にもなるようなお話なんですから、おもしろくないわけがありません。
また、堀氏も負けず劣らず逸話が満載なのですが、あの往年のバラエティ番組『シャボン玉ホリデー』は、堀氏の名前(ホリテイ)から来ているというのは、知りませんでしたw
◆さて本書の第1章では、その堀氏がディズニーランド招致のために、本国のディズニー経営陣にプレゼンを行う場面が出てきます。
実はこの招致には、堀氏たちのグループ(三井)とはべつに、もう1つ三菱グループが名乗りを挙げていました。
そこで競合する両者が、日を変えてそれぞれ招致場所にディズニー経営陣を招待し、プレゼンを行ったとのこと。
初日の三菱グループを受けて、2日目に堀氏は、まず帝国ホテルで概略を説明し、午後にはバスで一同を浦安に招待します。
その移動バスの中で行った接待が、上記ポイントの1番目のドリンクの提供。
さらには帝国ホテルの総料理長に、「金に糸目はつけないから、アメリカ人がひとくち食べたら時を忘れるランチを作ってください」と言って、最上級のステーキを用意したのだそうです。
他にもディズニー経営陣の心を掴むため、あれやこれやの手段を繰り出すのですが、詳細は本書にて。
◆続く第2章からは、このプレゼンに至るまでの、小谷氏と堀氏の歩んできたエンタメ人生について描かれています。
抜き出してから思い出したのですが、小谷氏のエピソードである上記ポイントの2番目のマルソー夫人のお話は、この本でも触れられていましたっけ(レビューした本の新装版がこちら)。

電通マン36人に教わった36通りの「鬼」気くばり (講談社+α文庫)
参考記事:【電通式?】『戦略おべっか どんな人でも、必ず成功する』ホイチョイ・プロダクションズ(2012年07月12日)
また、小谷氏の功績として挙げておかねばならないのが、大阪万博での活躍ぶり。
万博パビリオン人気投票では、プロデュースした住友童話館が1位、電力館が3位だったのだそうです(スゲー)。
一方で、万博が終わっても小谷氏の活躍ぶりは枚挙にいとまがありません。
上記ポイントの3番目の『木枯し紋次郎』の裏話なんて、びっくりしてご紹介してしまいましたけど、これも数多くの功績の1つに過ぎないんですよね……。
◆さて、実際にディズニーランドを招致するためには、当時の浦安沖を埋め立てて、敷地を作らなければなりません。
堀氏が電通からオリエンタルランドに出向する11年前に、漁業補償問題の解決のために、三井不動産社長の江戸英雄氏が白羽の矢を立てたのが、後にオリエンタルランドの社長となる高橋政知氏。
江戸氏は仕事の付き合いで知るようになった高橋氏の飲みっぷりに惚れて、その大役を任せたところ、上記ポイントの4番目にあるように、最後には身銭を切って成功させます。
高橋のためならと、先祖代々守って来た漁場を放棄してくれた漁民1800人のひとりひとりの家を回り、高橋はこう言った。この辺のエピソードは、私も以前この本で読んである程度知っていましたが、この本、今は絶版で中古が9000円もするんですか。
「あんたの海をいたずらに犠牲にはしない。ここに必ず立派な遊園地を造ってみせる」

「夢の王国」の光と影
◆その後、その高橋氏のオリエンタルランドに出向した堀氏は、ディズニー招致のために本格的なマーケティング・レポートを作成します。
上記ポイントの5番目はそのエピソードからのもの。
このレポートでは、「人口統計、経済成長率、余暇産業成長率などのさまざまなデータから、アジアの中での日本、日本の中での首都圏、首都圏の中での浦安の位置づけが語られた」のだそうです。
レポートは、浦安ディズニーランドの入場人員を、初年度は1000万人、数年後には1700万人に達すると予測したが、この数字は1983年のオープン後の実数値と驚くほど一致している。それだけ精密なデータに裏づけられた上に、革の装丁に銀箔の箔押しとは!
そして最終的にはご存知のように、ディズニーランドが無事開園。
その開園のセレモニーの席には、堀氏は小谷氏を招待しています。
どんなときにも堀氏にだけは「まだまだだな」と言っていた小谷氏が、「きみ、いつの間にか俺を越えたな」とつぶやくシーンは、本書の白眉の1つかと。
まさに「『エンタメ』の夜明け」を知りうる1冊です!

新装版「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た日 (講談社+α文庫)
1 史上最大のプレゼン
2 ディズニーを呼んだ男
3 パッカードに乗った次郎長
4 黒い蝶
5 世界の国からこんにちは
6 祭りのあとさき
7 ウォルト・ディズニー
8 利権の海
9 白いキャンバス
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【編集後記】
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