2021年07月04日
【コミュニケーション】『同調圧力の正体』太田 肇
同調圧力の正体 (PHP新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事の中でも注目を集めていた1冊。帯で成毛眞さんが、「現代版『「空気」の研究』と言えるのではないか」と言われている注目作です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
本書では、同調圧力が発生する背景、メカニズムを読み解きながら、同調圧力の「功」と「罪」の歴史を振り返る。
また、こうした歴史が令和の世にどんな現象を引き起こしているのか、SNSの出現で新たに登場した「大衆型同調圧力」という概念を使いながら分析する。
学校のイジメ、職場のパワハラ、企業の不祥事、SNSの誹謗中傷、暴走する正義――。
すべては一本の線でつながっている!
こうした諸問題を引き起こす同調圧力を防ぐ仕組みや対処法とは一体何か?
息苦しい日々に光明が差す、「希望の1冊」だ。
なお、中古が定価を大きく上回っていますから、「21%OFF」のKindle版がオススメです!
Composure Under Pressure / The U.S. Army
【ポイント】
■1.日本は「組織が共同体化する」集団(組織を含む) は大きく2種類に分けることができる。1つは家族やムラのように自然発生的で情によってつながる集団であり、「基礎集団」と呼ばれる。もう1つは特定の目的を追求するためにつくられた集団であり、「目的集団」と呼ばれる。(中略)
大まかにいえば、ここでいう基礎集団は「共同体」、目的集団は「組織」に相当する。
この分類に従うなら、企業はもちろん、学校やPTA、それに政党や競技団体などはいずれも具体的な目的を達成するために設けられたものだから、組織(目的集団) であるはずだ。
ところが日本では、典型的な組織であるはずの企業でさえ共同体のような性質を併せ持っている。(中略)
そのほかにも本来は組織であるにもかかわらず、実際には共同体としての特徴を備えた「疑似共同体」がたくさん存在する。日本では一般論として、「組織が共同体化する」といえるかもしれない。
■2.イノベーションと相容れない共同体の論理
そしてポスト工業社会では、企業にとっても社会にとってもイノベーションこそが成長の原動力になった。しかし同調圧力が強い日本の職場では、メンバーの合意が得られやすい改善活動は盛んだが、異端者や少数派から生まれるイノベーションは起こりにくい。
また、イノベーションには、突出した意欲や個性の発揮が必要である。そもそもアイデアや創造などソフトの世界において、他人と一緒では価値がない。さらに同調圧力によって生じる「やらされ感」は、イノベーションに不可欠な自発的モチベーションと対極にある。
したがって共同体型組織に特有の同質性と閉鎖性、そして共同体主義がもたらす同調圧力はイノベーションの大敵だといえる。
■3.論理性より「空気を読む」人材を優先する日系企業
教育学者の吉田 文は、新卒総合職の採用面接経験がある企業人を対象として2014年にウェブ調査を行い、回答者の勤務先を日系非グローバル企業、日系グローバル企業、外資系企業の3タイプに分け、回答を比較している。
それによると、まず「A:空気を読んで、円満な人間関係を築くことのできる人材」と「B:論理的に相手を説得できる人材」のどちらの人材を採用したいかという質問に対する回答は、日系非グローバル企業は「Aに近い」が60.6%、「Bに近い」が39.4%、日系グローバル企業は「Aに近い」が50.7%、「Bに近い」が49.3%、外資系企業は「Aに近い」が30.4%、「Bに近い」が69.6%となっている。
また外国人留学生に抱いているイメージとして、「採用したい者が多くいると思う」という回答は日系非グローバル企業が20.7%、日系グローバル企業が40.1%、外資系企業が54.5%で ある。
■4.どれだけ成果を上げたかよりも、どれだけ犠牲を払ったか
たとえば同じ仕事でも定時にやり終えて帰る人より、時間をかけて残業した人のほうが多くの収入を得るのは不合理なようだが、それだけ自由時間を犠牲にしたと思えば周囲は納得する。しかも実際に後者のほうを評価する管理職は少なくない。また業務上の必要があるか否かにかかわらず一律に転勤させるのも、転勤や長時間残業を受け入れてきた総合職を一般職より高い地位まで昇進させるのも、建前はともかく本音としては負担の不公平を感じさせないためという理由が背景にある。
要するに日本の職場では効率性の論理と共同体の論理が渾然一体となっており、それが問題を複雑にする。一貫した論理の欠如がしばしばご都合主義や、恣意的な人事を招くことになる。そしてテレワークの普及や雇用形態の見直しなど、働き方改革も中途半端なものにとどめてしまう。
■5.圧力源が権限・序列から「正義」へ
タテ方向の同調圧力はバックボーンが公式の権限、序列だった。いっぽう新たに顕在化したヨコ方向の圧力のバックボーンは括弧つきの「正義」である。少なくとも形のうえでは、より「民主的」になったといえるかもしれない。
ところが同質的な社会では、「正義」も一面的になりやすい。いちど世間からお墨つきを得ると、「正義」の 御旗 のもと、それに反するものは容赦なく糾弾され、排除される。従来の上から下へという圧力と違って、水平方向に加えて下から上へ、たとえば政治家や組織のリーダー、著名人もターゲットになる。しかも上からの圧力と異なりヨコや下からの圧力は圧力をかける者の数が多く、姿はみえない。それだけに歯止めなくエスカレートし、ときには感情論も入り交じってルサンチマンや魔女狩りの様相を呈することもある。「正義」の名のもとに、問題の本質から離れた議論が独り歩きするケースもある。
【感想】
◆なかなか興味深い作品でした。この「同調圧力」というテーマに関しては、以前鴻上さんのこちらの本をご紹介していましたが。
同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか (講談社現代新書)
参考記事:【世間の正体?】『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』鴻上尚史,佐藤直樹(2020年08月31日)
鴻上さんが、演出家としてコミュニケーション的視点から掘り下げていったのに対して、本書の著者である太田さんのご専門は、組織論ですから「構造」から分析されています。
典型的なのが上記ポイントの1番目で、日本の場合「組織が共同体化する」ところに問題があるな、と。
また、割愛した中では、まず「お願い」という形で圧力をかけ、それに従わない場合は罰則を与える、という我が国のコロナ対策の「二段構えの政策」が興味深かったです。
要するに、共同体の圧力による自発的な協力要請と、公式組織の力による強制という二段構えの手段を備えた日本式の共同体型組織は、最初から強制に頼る欧米式の組織に比べて一見すると弱腰なようだが、実はより強力だということができる。だからこそ組織は、なんとしてもその体制を守ろうとするのである。確かにこのやり方は散々批判されていますが、変えようとしませんでしたよね。
◆さて、わが国のこうした「組織が共同体化する」傾向は、かつてはプラスに働くこともありました。
たとえば構成するメンバーに忠誠や献身を求めることで、製造業では大量生産を効率的に行うことが可能です。
またホワイトカラーの職場でも、決まった仕事をこなすためには、メンバーが従順な方が能率的でしょう。
さらには、そのメンバー自身も、年功序列制で生活が安定していましたし、手厚い福利厚生で豊かな生活を送っていました。
私自身、かつては会社員として社内旅行に行ったり、運動会で汗を流したのもいい思い出です。
◆ところが今や、これらがことごとく覆ってしまったのは、皆さんご存知のことかと。
特に1人当たりのGDPが1992年には世界7位だったのが、2000年に16位に低下したり、同じ期間で国際競争力が1位から21位に急落しているのは、わが国でイノベーションが起きていないからと言えます。
そして上記ポイントの2番目で指摘されているように、イノベーションの大敵がこの「共同体化」でした。
ところが、企業の側の意識が相変わらずであることは、上記ポイントの3番目にあるとおりです。
非グローバル企業はもとよりグローバルに経営を展開している企業でさえ、閉鎖的・同質的な共同体型組織の体質を本気で変えようとする姿勢はみられない。という太田さんの指摘はもっともなこと。
◆さらにはそこに起きたのが昨今のコロナ禍です。
テレワーク導入で生産性が向上したアメリカに対して、日本ではむしろ下がったのだそう。
日米の労働者それぞれ約1000人を対象にしたある調査によると、アメリカでは回答者の77%が在宅勤務移行後もそれまでと同等またはそれ以上に生産性が上がったと答えているのに対し、日本では「在宅勤務は生産性が下がる」という回答が43%で「生産性が上がる」という回答(21%) を大きく上回っている。実際、テレワークで1人で仕事を短時間で仕上げた人が、正当に評価されにくいことは、上記ポイントの4番目でも触れられています。
確かに1人で働いている私はさておき、隣の事務所でも昨年に比べてテレワークの回数が激減したのは、「どれだけ犠牲を払ったか」が分かりにくいからかもしれません。
また、私のように家族がいる者はあまり感じませんが、1人暮らしの人の場合、テレワークですと他者とのつながりがなくなってしまいます。
これが諸外国ですと、会社以外に地域のコミュニティやボランティア団体や、趣味の会があるところ、日本の場合「組織が共同体化」していたわけですから、「単純に家で仕事をすればいい」のではない次第……。
◆一方、テレワークを可能にしたIT技術の進化は、SNSという側面も生み出していました。
そしてそれによって起きたのが、従来からある上下関係の「縦方向」とは異なる、「横方向」の同調圧力です。
上記ポイントの5番目にあるように、直接の知り合いでもないのに、「正義」の名のもとに他者に圧力をかけることができるのは、SNSあってのこと。
本書ではこうした新しい同調圧力を「大衆型同調圧力」と命名し、従来の「縦方向」の同調圧力とは区別しています。
また本書では、SNSの種類ごとにその同調圧力の性質に差がある点にも触れられていますので、こちらもぜひご確認ください。
……やはり私にはFacebookは向いてないな、と(たまに更新し忘れることの言い訳⇒昨日、一昨日の分忘れてましたw)。
私たちを取り巻く同調圧力の正体を知るために読むべし!
同調圧力の正体 (PHP新書)
序 論 「事件」は共同体の中で起きる
第1章 なぜ日本社会はこれほど窮屈なのか
第2章 圧力をエスカレートさせるもの
第3章 パンドラの箱が開いた平安時代
第4章 コロナで露呈した日本の弱点
第5章 同調圧力にどう立ち向かうか
【関連記事】
【世間の正体?】『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』鴻上尚史,佐藤直樹(2020年08月31日)【結構スゴ本】『「空気」と「世間」』鴻上尚史(2010年09月07日)
【キャリアデザイン】『個人力――やりたいことにわがままになるニューノーマルの働き方』澤 円(2021年05月29日)
【生産性】『ドイツ人はなぜ、毎日出社しなくても世界一成果を出せるのか 7割テレワークでも生産性が日本の1.5倍の秘密』熊谷 徹(2021年04月12日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。縄文時代の歴史 (講談社現代新書)
内容紹介によると「『縄文』のすべてがわかる」という1冊。
中古があまり値崩れしていませんから、送料を足すとKindle版が500円弱お買い得となります。
【編集後記2】
◆昨日の「クイズ&雑学&名言集フェア」からの作品なのですが、こちら絶版らしくて、単行本と文庫本の中古価格がそれぞれ4300円弱、3600円弱、と高騰しているノンフィクション。新装版「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た日 (講談社+α文庫)
一方でこのKindle版は「385円」とセール価格になっていますから、興味のある方はご検討ください!
ご声援ありがとうございました!
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