2021年06月30日
【仕事術】『修羅場のケーススタディ 令和を生き抜く中間管理職のため30問』木村尚敬
修羅場のケーススタディ 令和を生き抜く中間管理職のため30問 (PHPビジネス新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、6月初旬の「未読本・気になる本」の記事にて人気の高かった1冊。既に土井英司さんがメルマガでプッシュされているので、お求めになった方も多いと思います。
アマゾンの内容紹介から。
「上司から、とうてい達成できないような目標を強要された」
「失敗の責任をすべて自分に押しつけられた」
「忙しすぎてメンバーが続々ダウン。しかし、納期はずらせない」
「部下全員が自分の方針に大反対」etc……。
仕事をしていると誰もが直面する「本当にヤバい場面」。本書はそうした「修羅場」の事例を元に、その解決策を探っていくという「紙上ケーススタディ」集。
中間管理職ならではの「上と下との板挟み」のケースから、「リストラで人を半減しなくてはならない」「社内で不祥事隠しが発覚してしまった」といったより深刻なケース、そして「家庭と仕事との両立」「病気によって休職を余儀なくされる」といったキャリアに関する問題まで、極めてリアルな30のケースを選出。「あなただったらどうするか」?というケーススタディ形式にて、それぞれの問題に対峙するためのスタンス、そして具体的な対処法について説いていく。
著者はベストセラー『ダークサイド・スキル』の木村尚
上記未読本記事の時点では出ていなかったKindle版が、「20%OFF」と大変お買い得になっています!
AGL AGM Sydney, 23 Oct 2014 / kateausburn
【ポイント】
■1.「波風立ててはいけない」時代の終焉修羅場を避けて、空気を読みながらうまく立ち回ることで出世してきたリーダーは、これからの時代は生き残れません。(中略)
成果を出せない社員を優遇するような余裕はどの会社にもすでになく、社内のポストもどんどん減っていっています。
そんな中、なんとか管理職のポストに就くことができても、結果が伴わなければすぐにポストを追われることになります。
波風立てずに生きてきたということは、「自分で決める」「反対を恐れずにやり抜く」ことをしてこなかったということでもあります。そうした人が組織のトップになって修羅場に直面すると、決めることも実行することもできず、身動きが取れなくなってしまうのです。
■2.後継者選びは「過去の実績」ではなく「未来の活躍の可能性」で
少々前の話ですが、2009年の大リーグ・ワールドシリーズで、ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜選手が大活躍したことを覚えてらっしゃる方も多いでしょう。ヤンキースはワールドシリーズを制し、松井選手はワールドシリーズMVPに選ばれました。
しかし、松井選手はなんと、その直後にヤンキースとの契約を打ち切られているのです。日本で言えば、日本シリーズで大活躍した選手を直後に解雇するようなもので、まずあり得ないでしょう。
これは「大リーグがシビアだから」という話ではなく、発想そのものが違うのです。
日本では「今年度の実績」に重きを置いて翌年の契約交渉が行われますが、大リーグでは「未来の活躍の可能性」を評価します。松井選手は功労者ではあっても、来年以降の活躍の可能性を考えると、別の選手との契約を優先すべきと判断したのでしょう。
どちらのやり方にも一長一短ありますが、少なくとも後継者選びにおいては「過去の実績」ではなく、「未来の活躍の可能性」を評価すべきなのです。
■3.独立の際は「ワーストシナリオ」を家族に説明し、理解を得る
どんな事業も、最初から順調にいくとは限りません。むしろ、確率的に言えば、新事業は失敗に終わることのほうが多いとすら言えます。だからこそ、もし失敗に終わったらどうなるのかをあらかじめシミュレーションしておく必要があるのです。
例えば、事業が軌道に乗るまで最低3年はかかるとして、その間は給料がゼロになる可能性もあると考えます。そう考えた時、チャレンジのためには最低3年間、家族が食べていくだけの貯蓄があることが不可欠となります。
さらに、もし3年経っても事業が軌道に乗らなければ、再び会社勤めに戻るとします。しかし、以前と同じ給与水準を得られるとは限りません。そこで、仮に今の7割の給与で生活を回していけるかを考えてみます。
これらのシミュレーションをした上で、「なんとかなる」というメドが立つなら、あとはパートナーに対して、このシナリオを元に説明をすればいいでしょう。
■4.つぶれる会社で「修羅場」を体験する
ただし、これまた少々「ダークサイド」の意見となりますが、もし、あなたがまだ若くてやり直しが利く、あるいはいつでも転職できるスキルを持っている、というのなら、あえて会社に残って「修羅場を経験する」という選択肢もあり得ます。企業の倒産をリアルに体験する機会は、ビジネスパーソンにとって得難い経験になるからです。
1つの会社を終わらせるには、どのような手続きや処理が必要か。最後が迫った時、経営陣や幹部社員たちはどんな行動に出るのか。現場の社員たちはどう反応するのか。こうした極限状態を目のあたりにする機会はめったにありません。
しかも黙って見ているのではなく、自ら進んで面倒ごとを引き受ければ、自分のキャリアにとって確実にプラスになります。
■5.リスクのないビジネスなど、今後存在しない
2020年に世界を襲ったコロナ禍は、「100年に一度の疫病」と言われていますが、2008年のリーマンショック時にも「100年に一度の金融危機」と言われましたし、2011年の東日本大震災も「100年に一度の大災害」と言われました。
つまり現在は、100年に一度の危機が10年に一度かそれ以上の頻度で起こるような時代なのです。(中略)
このような状況において「リスクのないビジネス」など、ほぼ存在しないことがわかるでしょう。裏を返せば、「イベントリスクはいつか必ず起こる」という前提に立ち、自分たちの事業や会社が影響を受ける可能性について、平時から考えておくべきだということです。
【感想】
◆本書はそのタイトルにもあるように、全部で30のケーススタディから構成されています。具体的にはまず小見出しである概略に続いて、具体的な「修羅場」の状況説明があり、それを受けて著者の木村さんが答えていく、という仕様。
その小見出しについては、冒頭の内容紹介よりももうちょっと詳しいものが、アマゾンの「出版社からのコメント」に掲載されており、具体的に挙げていくと
「二代目」の急激な方針転換に社内が大混乱!といった感じです。
上司が失敗の責任を「部下(= 私)のせいだ」と言いふらしている
信頼して抜擢したマネジャーが、部下から総スカン!
取引先を信じて独立したのに、突然「なかったことに」と言われ……
長年お世話になってきた取引先。今さら切るに切れない…… etc
……確かに修羅場!
もちろん、ケースがケースなだけに、木村さんお得意の「ダークサイドスキル」(ちょっとグレーなやり方)も駆使したりもするのですが、基本的には正攻法なやり方がほとんど。
実際、上記で挙げたポイントも、汎用性が広いものになっています。
◆ちなみにその「修羅場」も各章ごとにテーマがあり、第1章は「人間関係の『修羅場』」。
たとえば上記ポイントの1番目は、第1章のコラムから抜き出したのですが、かつての「上司から可愛がられる」働き方では、会社で生きていけないことを指摘しています。
かつての終身雇用・年功序列の時代なら、上の言うことを聞いて波風立てずにいれば、いずれそれなりの役職をもらえました。上司のご機嫌をうかがい、可愛がられる存在になれば、「お前もそろそろ役員にしてやろう」と引き上げてもらえたのです。確かに現在は、右肩上がりの時代とは異なり、時には上司と対立することになっても、自らの信条にのっとって働かねばならない時代になっています。
しかし、そんな時代はとっくの昔に過ぎ去りました。
とはいえ、上記引用部分にある「上司に失敗の責任をなすりつけられている」ようなイレギュラーな場合には、違った意味で「対立」せざるを得ないのですが(具体的には本書にて)。
◆続く第2章は「チームの修羅場」がテーマ。
ここでは上記ポイントの2番目の「後継者の選び方」を抜き出してみました。
例として挙げられている松井選手の件は、私自身違和感を覚えていたので、今般解説されてなるほど、と思った次第。
同じように誰かを抜擢する場合も、普通は「それまでの実績」を踏まえた上で選びそうですが、そういう「ナニワ節」ではいけないんですね。
「ナニワ節」でいうなら、やはり第2章にあった「『お荷物部門』のトップに就任」した場合に、「立て直すか」「撤退するか」という問題も同様でした。
色々なしがらみがあって「立て直す」ことを選びがちですが、木村さんはバッサリ「なるべく早期に撤退という決断を下すべき」と言われています。
事業売却にせよ、配置転換にせよ、構造改革にせよ、早ければ早いほど選択肢が多くなるからです。その例として挙げたのが、JTの飲料事業の他社への売却の件。
まだやっていけそうな段階で売却したのも、そういう理由からでしょうね。
◆また、「キャリアの修羅場」をテーマにした第3章は、読みどころ満載でした。
「修羅場」とは違うのですが、上記ポイントの3番目の「独立の際に『ワーストシナリオ』を想定する」というTIPSは、していない方も多いのではないでしょうか?
こうした説明なくして、いきなり「今の仕事を捨ててベンチャーに飛び込む」と言い出したところで、反対されるのがオチでしょう。しかし、このように最悪のシミュレーションをしてみることで、不安はある程度解消されるはずです。今後独立や転職をお考えの方は、ぜひご参考のこと。
さらに上記ポイントの4番目の「あえて『修羅場』を体験する」というのは、キャリアデザインの上では「大いにアリ」だと思います。
実際私も、顧問先の子会社が他社に吸収されたり、解散・清算する等に携わったことがありますが、担当の方は人間的にも成長される印象がありました(各種申請手続き方法等の細かいスキルは、今後活かしたくはないでしょうがw)。
◆そして第4章から引用した、上記ポイントの5番目の指摘は、すべての方に心していただきたいもの。
このお話のケーススタディは、インバウンド需要で大いに潤っていた訪日外国人向けのサービスのお話だったのですが、まさに銀座周辺で働く私にとっては、腑に落ちまくりでした。
本当、コロナ前と今とでは、目の前の風景が違い過ぎていて、今では多くの外国人で賑わっていた街並みが思い出せないくらいです。
こういった「リスク」が起こりうることも踏まえた上で、事業をやっていかなければならないんですね。
……この章にあった「社内不正」等々は、また別の意味での「リスク」ですが。
これからの時代を生き抜くために読むべし!
修羅場のケーススタディ 令和を生き抜く中間管理職のため30問 (PHPビジネス新書)
序章 誰もが「修羅場」を避けられない時代がやってきた
第1章 対上司・対経営者……人間関係の「修羅場」を切り抜ける
第2章 ミドルリーダーが陥る「チームの修羅場」
第3章 あなたの人生を左右する「キャリアの修羅場」
第4章 リストラ、不正、顧客トラブル……ある日突然起こる様々な「修羅場」
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【編集後記】
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