2021年06月19日
【自己矛盾?】『自己矛盾劇場: 「知ってる・見えてる・正しいつもり」を考察する』細谷 功

自己矛盾劇場: 「知ってる・見えてる・正しいつもり」を考察する
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、今月の「Kindle月替わりセール」からの思考術本。おなじみ細谷功さんの、「具体と抽象」シリーズの第3弾となります。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
「あの人は、人の〈批判〉ばかりしている」という〈批判〉、これが自己矛盾です。世の中に苛立ちと不毛な争いをもたらす大きな原因の一つがこの人間心理の負の側面であり、インターネットやSNSの発展によって表舞台にあふれるように出てきています。「自己矛盾」が生まれる心理の歪みと社会との関係を身近な事例を取り上げながら模式・可視化します。本書の目的は、知の構造を見据えつつ自分自身と対峙するための思考法を提案すること。メタ認知への扉を開く格好のテキストです。−「はじめに」より
なお、中古は値崩れしていますが、送料を考えるとKindle版が400円弱、お買い得です!

Humility / EpicTop10.com
【ポイント】
■1.自己矛盾の3つの特徴(1)自ら気づくことはきわめて難しい(が、他人については気づきやすい)例えば、本章の冒頭で紹介した「視野が狭いやつは絶対に許せない」や「他人の考え方に口出しすべきじゃないでしょ」など、単純な自己矛盾であるにもかかわらず、似たような発言はあちこちで聞かれます。ということは、「自分では気づいていない」場合がいかに多いかがおわかりでしょう。(2)気づいてしまうと、他人の気づいていない状態が滑稽でたまらないこれも自己矛盾に限ったことではありません。そもそも気づいていない人は、「気づいていないことに気づいていない」(「気づいていない」という状態と「気づいている」という状態が区別できていない)というのが最大の課題です。(3)他人から指摘されると「強烈な自己弁護」が始まる気づいた人が気づいていない人に指摘した場合、気づいていない人が「気づかせてくれてありがとう」と言って感謝することは滅多にありません。
大抵の人は、そのような指摘には無意識のうちに防御的になり、言い訳を並べ始めます。
■2.遠くから見る「メタ認知」
近くのものはすべて具体的なものに目が行き、枝や葉の詳細がよく見えるのに対して、遠くのものは枝葉を切り捨てて幹を見ることで「要するにどういうことなのか?」と抽象化して見ることが可能になります。その結果として、遠くのものほど本質的に重要なものとそうでないものの区別が冷静にできるようになります。(中略)
例えば、関東の人は 十把一絡げに「関西の人」と言いますが、当の関西の人からすれば「大阪と京都と神戸を一緒にするな」と言いたくなるでしょうし、さらにまた大阪の人からすれば「 豊中 と 岸和田 は一緒に語れない」ということになるでしょう。(中略)
要は、遠くからはほとんど同じに見えることが、近くから見ると小さな差が大きく感じられ、すべてが特殊であると思い込んでしまうのです。
■3.劇場モデルで見る「3つの視点」
第一の視点は、舞台の上の「演者」です。これは「非メタレベルでの愚者」と言えます。どんなに基礎的なことでも知らないことは知らないという、一見「おバカ」に思える人たちですが、その反面、他人をバカにすることもないので、ある意味で人畜無害とも言えます。
第二の視点が、観客だと思っているが実は1つ上の「メタの舞台の演者」である人たちです。第一の視点の人たちに対して優位に立っていることから、自分は賢者であると思い込むことで「無知の無知」に陥ってしまっています。その点で「メタレベルの愚者」と言うことができます。非メタのレベルでは賢者でありながら、メタのレベルでは愚者になるという、自己矛盾劇場の本当の主役がこの層です。
そして第三の視点は、「すべてを見通した全知全能の神」ということになります。「自称賢者」である 孫悟空 を手のひらで遊ばせるお釈迦様の視点であり、さまざまな思い込みにとらわれた人間にはとてもたどり着けない境地と言えます。
■4.自称賢者の勘違い「常識にとらわれるな」
「常識にとらわれるな!」
これは本当に 頻繁 に聞かれる言葉です。とくに会社などで、旧態依然とした仕事のやり方から抜けられない人たちに向けて、発せられることが多いようです。
ところがこの言葉、本当に常識にとらわれている人たちに伝わることはありません。なぜなら、常識にとらわれている人たちの問題は、「常識にとらわれているという状態が理解できない」ことだからです。つまり、「常識にとらわれている」という状態はメタレベルの問題であるにもかかわらず、それを非メタのレベルにしか存在できない人たちに言うこと自体、矛盾しているのです。
■5.自ら言うと自己矛盾になる構造
本来、他者(という自分の外側)から表現されるべきことを自ら言ってしまうと、自己矛盾が生じます。これも非メタとメタのギャプによるものです。
「私は世界一謙虚な人間です」がわかりやすい例です。実際にここまで言い切る人は滅多にいないでしょうが、履歴書の長所の欄に「謙虚さ」を挙げる人は少なからず存在するのではないかと思います。
謙虚かどうかは本来、自分で決めるものではなく他者が決めることです。にもかかわらず、それを「公言」してしまうのが、この種の自己矛盾の特徴です。
同様の構造をもつ自己矛盾の例としては、次のようなものが挙げられます。
「私は怪しいものではありません」
「これはスパムメールではありません」(というメールのタイトル)
ここまで読んできた読者のみなさんは、これらがいかに 滑稽 な自己矛盾であるか、おわかりでしょう。
【感想】
◆まさに細谷さんらしい、エッセンスの詰まった1冊でした。冒頭でも触れたように、同じテイスト(表紙イラストも同じ「一秒」さんという方とのこと)で過去2冊出ており、いずれも当ブログでご紹介済み。

具体と抽象
参考記事:【抽象化?】『具体と抽象』細谷 功(2017年04月03日)

「無理」の構造 この世の理不尽さを可視化する
参考記事:【非対称性?】『「無理」の構造 この世の理不尽さを可視化する』細谷功(2021年02月28日)
ハッキリ「3部作」と言われてない以上、今後も続くのかもしれませんが、過去2冊がツボだった方は、本書も納得の内容でしょう。
ちなみに、上の『具体と抽象』の方は、現在開催中の「プライムデーセール」の方の対象となっており、中古があまり値下がりしていないため、1100円弱お得ですから、未読の方はご検討ください(アサマシ)。
◆さて、今回のテーマは、タイトルにもあるように「自己矛盾」であり、これは過去2冊のテーマとも通じるもの。
この「自己矛盾」とは具体的には、上記ポイントの1番目にある
「視野が狭いやつは絶対に許せない」辺りが分かりやすいと思います。
「他人の考え方に口出しすべきじゃないでしょ」
これを細谷さんは、「劇場モデル」として解説。
そしてその構造は、
・舞台の「演者」(上記で言うところの「視野が狭いやつ」)の3層からできているワケです。
・「自分では観客だと思っている演者」(「視野が狭いやつ」を許せない人)
・「本当の観客」(全体の構造が見えている人)
順番が飛びますが、上記ポイントの3番目に詳しいので、そちらもご確認ください。
◆本書ではこうした「自己矛盾」のさまざまなパターンを紹介しています。
上記の「視野が狭いやつは絶対に許せない」などは分かりやすいのですが、一瞬「ん?」となったのが、上記ポイントの4番目の「常識にとらわれるな」。
要は他人が「常識にとらわれている」という状態が、客観的に見える人だからこそ言える言葉なのですが、そもそも現に「常識にとらわれている」人にとっては、それが分からないからこそ「とらわれている」わけなので、どうしようもありません。
同じパターンなのが「既成概念にとらわれるな」。
これもやはり「既成概念にとらわれている」という状態は、1つ上のレイヤー(本書では「メタ視点」と呼んでいます)からでないと分からないことですから、とらわれている人には自覚はないでしょう。
◆また、よく聞くのが上記ポイントの5番目の「自ら言うと自己矛盾になる」パターンです。
世界一かは別としても、自己紹介等で自分のことを「謙虚」と言ってしまう人は、ちらほら見かける気が。
……出会い系アプリで、自分のことを「優しい」とアピールしている人は反省してください。
同じく「怪しいものではありません」も、自ら言う時点で怪しさ満点w
こういった「言われるまでなかなか気が付かない」自己矛盾を、膨大なパターンから学べるのが、本書と言うワケです。
アナタも「自己矛盾」に陥っているかもしれませんよ?

自己矛盾劇場: 「知ってる・見えてる・正しいつもり」を考察する
第1章 自己と矛盾
第2章 滑稽と戒め
第3章 歪み
第4章 二つの頭: 知の構造と発展
第5章 「抽象的でわからない」
第6章 遠近
第7章 無限マトリョーシカ
第8章 無知の無知
第9章 知識差
第10章 非メタ
第11章 「空は黒い」
第12章 「あの人はケチだ」
第13章 「まったく気にしない」
第14章 「行動がすべてだ」
第15章 「自分の頭で考えろ」
第16章 「先進事例を真似したい」
第17章 「今日は無礼講でいこう」
第18章 「全社一丸となって多様性を推進します」
第19章 「多様性の進展度を測定したい」
第20章 「横串を通そう」
第21章 宿命
第22章 「クライアントは何もわかっていない」
第23章 「あなたのために言っている」
第24章 「イノベーターを育てる」
第25章 内在する自己矛盾
第26章 強烈な自己矛盾
第27章 逃れられないのなら
【関連記事】
【非対称性?】『「無理」の構造 この世の理不尽さを可視化する』細谷功(2021年02月28日)【抽象化?】『具体と抽象』細谷 功(2017年04月03日)
【問題発見】『問題発見力を鍛える』細谷 功(2020年08月21日)
【具体⇔抽象】『「具体⇄抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問』細谷 功(2020年03月26日)
【思考術】『問題解決のジレンマ―イグノランスマネジメント:無知の力』細谷 功(2017年11月20日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
モード後の世界 (扶桑社BOOKS)
アローズファンにはおなじみであろう栗野宏文さんのビジネス書は、中古があまり値下がりしていないため、Kindle版が1100円以上お得。

はじめての催眠術 (講談社現代新書)
当ブログでもレビュー済みの催眠術本は、中古に送料を加味すると定価を超えるため、Kindle版が500円強、お得な計算です!
参考記事:【催眠とは?】『はじめての催眠術』漆原正貴(2020年09月22日)
【編集後記2】
◆一昨日の「プライムデーセール」の講談社分の記事で人気の高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。
やじうま入試数学 問題に秘められた味わいのツボ (ブルーバックス)

「教えないから人が育つ」横田英毅のリーダー学

男は女を知らない 新・スローセ●クス実践入門 (講談社+α新書)

「あらすじ」だけで人生の意味が全部わかる世界の古典13 (講談社+α新書)
よろしければ、ご参考まで!

この記事のカテゴリー:「ビジネススキル」へ
「マインドマップ的読書感想文」のトップへ
スポンサーリンク
当ブログの一番人気!
2月27日まで
2月28日まで
Kindle月替わりセール
年間売上ランキング
月別アーカイブ
最近のオススメ
最近の記事
このブログはリンクフリーです