2021年03月18日
【日本の実態】『日本の構造 50の統計データで読む国のかたち』橘木俊詔
日本の構造 50の統計データで読む国のかたち (講談社現代新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも注目を集めていた1冊。かねてから日本の格差社会の実態を、経済学の立場から分析した著作を出されていた橘木先生の最新作です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
50の項目で、日本の「いま」を総点検!
この不安な時代に必要な、すべての議論の土台となる一冊。
なお、Kindle版は「16%OFF」とお買い得となっています!
The Poor Rich / -closed- look 4 /MyVisualPoetry
【ポイント】
■1.製造業の労働生産性は世界1位から15位へ表1‐1は衝撃的な事実を示している。日本の経済成長の柱であった製造業における労働生産性の、ここ20年間にわたる順位を提示した表である。1995(平成7)年と2000(平成12)年にはなんと世界第1位という労働生産性の高さを誇っていた。この時期は為替相場において円高だったため、ドル表示の額は高くなるので多少割引く必要があるが、それにしても高い労働生産性であった。この少し前の時代には「JapanasNo.1」と称されたほどの経済の強さを誇っていた日本であった。
しかし、その後徐々に順位を下げ、2005(平成17)年には8位、2010(平成22)年には11位、2016(平成28)年には15位にまで低下した。激しい凋落ぶりである。
なぜ順位をこうも落としたのか。ちなみに2018(平成30)年は16位だった。日本の労働生産性では、ごく最近の低下を除くと多少の増加傾向を示しているが、それ以上に、他の国が劇的に労働生産性を高めたので、日本の比較優位がなくなったのである。
■2.欧米には「塾」はない?
欧米の人に向かって日本の教育制度を説明するときに、もっとも理解してもらえないのは塾である。一部の高校生と浪人生の通う予備校も学校外教育なので塾と性格が似ているが、ここでの主たる関心は小・中・高校生の通う塾である。
なぜ欧米の人が日本の塾を理解できないのか、それらの国にほとんど存在していないからである。返ってくる質問は「学校教育が不充分だから、特に生徒は学校の外で夜に勉強せねばならないのか」である。「まず学校教育を改良するのが社会なり国家の役割ではないか」という問いが投げかけられる。
塾という制度は韓国、中国、日本を中心にした東アジアに特有な制度であり、特にこれらの国は受験戦争が激しいので、「受験に備えて生徒が塾に通って勉強するのだ」と回答するが、欧米人には納得してもらえない。例えばフランスは日本以上の学歴社会であるが、塾はない。入試の格別に困難な、大学より格上のグランゼコール(官僚、技術者、教員などのエリート養成校) を受験する場合でも、高卒後は学校(具体的にはリセ〈高校〉の上に併設された公立の入学準備学校)で勉強している。すなわち受験準備も学校でなされるのである。
■3.非正規社員は、正規より年収が60%低い
まずは給与格差である。表3‐4の2019(令和元)年「民間給与実態統計調査」によると、男性の正規労働者で年収が561万円、非正規労働者で226万円、女性の正規労働者で389万円、非正規労働者で152万円である。男女計にするとそれぞれが503万円と175万円となる。非正規の人は正規の人と比較して、年収で男性も女性も 60%近くも低いのである。
この大きな格差には次の要因が作用している。正規労働者は賃金と昇進における年功制がまだかなり残っていて、働き続ければ賃金増加があるが、非正規労働者では昇給がほとんどない。これは中・高年層になればなるほど賃金格差の拡大につながる。
第2に、非正規労働者にはボーナス支払いのないことが多い。たとえ支払われても、その額は正規の人よりはるかに少ない。
第3に、パートやアルバイトの短時間労働者は、労働時間の少ない分だけ月収ないし年収が少ないことを認識せねばならない。もっとも厳密には1時間あたり賃金の比較でなされねばならないが、それは統計によると、非正規の人は正規の人の6〜7割の賃金とされる。
■4.離婚の申し出は、女性が男性の2.7倍多い
では日本では何が理由で離婚に至るのか、それを具体的に見ておこう。図4‐4は2019(令和元)年の離婚理由に関して、裁判所による統計を示したものである。(中略)
この図で驚くべきことは、離婚は女性から言い出すのが男性のそれよりも2.7倍も多い事実である。女性が結婚生活に不満を持つ割合がはるかに高く、男性はそれに渋々応じている状況である。離婚にはさまざまな具体的な理由がある。
第1に、性格が合わない(性格の不一致と称する)というのが夫61%、妻39%でトップである。不思議なことに男性の方が女性より高い比率でこの理由を挙げる。(中略)
第2に、他の重要な理由に関しては、女性からの申し出が男性よりも多い。例えば、夫が妻に暴力をふるうとか、精神的な虐待をするとか、生活費を渡さない、異性関係などは、男性側に原因があることが多い。
■5.日本の地域間格差の特色とは?
地域間格差の特色をいくつか示しておこう。第1に、トップの東京、第2位の愛知、第3位の栃木、第4位の静岡は製造業で生産性の高い製品を作っている都県とみなせるので、所得が高くなると考えられる。東京は金融業、広告業、マスコミ業、商社などのサービス業でも生産性が高い。
第2に、大阪、京都、神戸という大都市(一般に所得の高い人々が多い)を抱えた大阪府、京都府、兵庫県がトップ10にいない。この原因はそれぞれの府県内に所得の低い地域を抱えており、域内での所得格差が大きく、平均すると県民所得はやや低くなるからである。同じことは神奈川県や福岡県にも当てはまる。
第3に、逆に県民所得の低い県は、九州地方と山陰地方に集中していることがわかる。これらの地域では農家がまだかなりあるし、中小規模による製造業や商業が多いので、生産性の高くないことが低い所得の理由となるのである。
【感想】
◆読み始めてすぐに気が付いたのですが、本書はデータを取り扱う本である以上、表やグラフが必然的に登場します。上記ポイントの1番目でも、初っ端でさっそく「表1‐1」とあるように、基本的にすべてのデータに何らかしらの図解等がある仕様。
その「表1‐1」とは、「製造業の労働生産性水準上位15ヵ国の変遷」なるもので、出典はこちらの記事の中にある、プレスリリースの4枚目になります。
労働生産性の国際比較2018 | 調査研究・提言活動 | 公益財団法人日本生産性本部
いや、それにしても以前何かの本で「日本の生産性は製造業は悪くないが、サービス業が足を引っ張っている」と読んだ記憶があったのですが、いまや製造業もダメなんですね。
本書によるとその原因は、第1に企業が設備投資を怠ったこと、第2に非物質的な投資の遅れも目立ったこと、さらに第3に大学教育に欠陥があったこと、とのことです(詳細は本書を)。
◆その「教育」をテーマにしているのが、本書の第2章。
ただ、当ブログでは同じ橘木先生のこちらの本をレビュー済みですから、私自身は既読の内容もありました(Kindle版が「43%OFF」になっているのは、何かのセール?)。
教育格差の経済学: 何が子どもの将来を決めるのか (NHK出版新書)
参考記事:【教育格差】『教育格差の経済学 何が子どもの将来を決めるのか』橘木俊詔(2021年01月18日)
なお、上記ポイントの2番目の「塾」のお話は、上記の本でも言及されていましたが、結局は日本の公的教育費が世界的に見ても低いから、起こりうることでもあるわけで(公的教育支出の対GDP比率が2.9%で、OECD35ヵ国中の最下位)。
さらには、学歴の差による生涯賃金差にも触れられていますから、こちらもお目通しいただきたく。
◆そして実はその学歴以上に大きな要素となるのが雇用形態です。
私自身、第3章から引用した上記ポイントの3番目の部分を読むまで、正規と非正規で、まさかそこまで格差が大きいとは知りませんでした。
さらにこうした賃金格差に加えて、社会保険制度に加入できなかったり、不景気の際には最初に雇用打ち切りになったり、職業訓練の機会を与えられない等々、問題点は山積みです。
結果、こうした問題があるがゆえ、結婚に踏み切れない方が多々いらっしゃっても不思議ではありません。
また割愛した中では、男女別の「職業別年収」の表もお見逃しなく!
ちなみにこれは「医師」や「パイロット」といった「職業別」であり、逆に「商社マン」「銀行マン」みたいな会社員の区分けではないので、「何であの職業が入ってないの?」という疑問点はありましたが、非常に興味深かったです。
◆一方、格差とは違いますが、第4章から引用した離婚のお話は、私は初めて知りました。
そもそも女性の方から離婚を切り出す方が多いとは思っていましたが、まさか3倍弱も違うとは!?
しかも、「暴力」や「虐待」といった女性の方の理由は分かるものの、男性の理由で圧倒的に多い「性格の不一致」というのは、理由になってないような……?
もっともこれは、本当は他に理由があって、それを原因として争っているうちに「性格の不一致」を感じることが多いのだそうです。
それと日本とは関係ないんですが、この章の国別幸福度のお話の中で、かつては飛びぬけて幸福度の高かったブータンが、今や95位になっているというのも今般初めて知りました。
◆さて、ここまで各章ごとに拾ってきたのですが、全部で10章(序章と終章を含めて)あるので、残りはほぼほぼ割愛。
最後に「地域格差」を扱った第7章から、上記ポイントの5番目を抜き出しました。
なるほど、大阪や兵庫が上位にいない理由は、そういうことなのか、と。
ただ、そもそも前提として、1人当たりの所得が、東京は543万円でダントツであり、2位の愛知県の369万円を174万円も引き離しているんですよね。
結果、地方税の収入も東京はトップであり、それに伴い、都民は教育や医療、交通、文化等々で恵まれている次第。
その分家賃や物価が高かったり、自然が少なかったりするのですが、その辺は何を優先するかにもよるかと。
なお、基本的に本書は、淡々とデータを挙げてその解説をする内容ですが、最後の終章では橘木先生の提言もありますので、そちらもご覧ください。
いまの日本を知るために読むべし!
日本の構造 50の統計データで読む国のかたち (講談社現代新書)
序 章 日本の今とコロナ禍
第1章 日本経済の健康診断
第2章 教育格差
第3章 日本人の労働と賃金
第4章 日本人の生活
第5章 老後と社会保障
第6章 富裕層と貧困層
第7章 地域格差
第8章 財政
終 章 今後の日本の針路
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【編集後記】
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