2021年01月20日
【哲学】『名著ではじめる哲学入門』萱野稔人

名著ではじめる哲学入門 (NHK出版新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、明日で終了となる「教育・学参関連本キャンペーン」でも大人気だった哲学本。哲学というと難解なイメージがありますが、アマゾンレビューを見ると「分かりやすい」という評が並んでいたので、思わず読んでみた次第です。
アマゾンの内容紹介から。
私たちを取り巻くこの世界とは、いったい何なのだろうか?注目の哲学者が、「哲学」「人間」「存在」「国家」「政治」「権力」など15の問いを設定し、アリストテレス『ニコマコス倫理学』からドゥルーズ、ガタリ『千のプラトー』まで、名著38冊と49のキーワードを駆使して、日本人の哲学力を磨く!複雑化する世界を新たな視点でとらえる、実践的学び直しの書。
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LEGOR philosophers / kosmolaut
【ポイント】
■1.口ばかりの哲学者アリストテレスはこう述べています。哲学者として言論で正しいことを述べていれば、それだけで自分を正しい人間だと思い込んでしまう人が多いけれど、いくら口で立派なことをいっていても行為がともなっていなければそれは欺瞞である、と。(中略)
たとえば現代でも、論壇や学術の世界ではひじょうにリベラルで立派なことを論じている人が、じつは性格がとてもひねくれていたり、権力的でパワハラやモラハラを繰り返していたり、家庭内でDV( ドメスティック・バイオレンス)をおこなっていたりする、というのはよくあることです。(中略)
では、どうすべきでしょうか。エラそうなことはできるだけいわない、自分も含めて人は知らず知らずのうちに自分のことを棚に上げてしまいがちだということをつねに自覚する、他人に不満があるならまずは自分で行動してみる、といったことが最初の一歩でしょう。行為とその結果によってのみ人はみずからの卓越性を示すことができる、とアリストテレスが引用文で述べているように、つべこべいっていても何も進まないのです。
アリストテレス ニコマコス倫理学 上 (岩波文庫)
■2.「われ思うゆえにわれあり」の発生
デカルトはほんの少しでも疑いをかけうるものはすべて疑い、自分の判断から排除すべきだと考えました。デカルトが生きた17世紀というのは、まだキリスト教が支配する神学的な世界観のもとで誰もがものごとを考えていた時代です。魔女がいるといわれれば、みんなで魔女狩りをしていた、そんな時代です。(中略)
では、あらゆるものを疑って、それでもなお疑いえないものとは何でしょうか。それは、あらゆるものを疑っている、この私自身です。あらゆるものを疑っていても、それを疑っている当の私の存在そのものは疑いえない。それを否定したら「疑う」という行為すらなりたちません。
ここから「われ思うゆえにわれあり」という言葉がでてきました。こうした、もっとも明晰なもの、確実なものから思考を始めるという姿勢が、その後につづく近代哲学の基本となりました。デカルトが近代哲学の始祖といわれる理由がここにあります。
方法序説 (岩波文庫)
■3.ルサンチマンに陥らないようにするには?
まずニーチェはルサンチマンを「行動上のそれが禁じられているので、単に想像上の復讐によってのみその埋め合わせをつけるような」感情の作用であると説明しています。先の例でいうと、同期社員が自分より早く出世してしまったのは自分ではどうしようもない事実なので、「アイツは実力もないくせにゴマばかりすっているからだ」と、その事実の解釈のレベルで価値を低下させることで、自分のみじめさや気持ちの落ち込みを埋め合わせようとする、ということです。(中略)
では、ルサンチマンに陥らないようにするにはどうしたらいいでしょうか。といっても私たちはルサンチマンから自由になることはなかなかできません。私たちはどうしても他人と比較して自分の価値を計ろうとしてしまいますから、他人への非難が大好きです。ニーチェもまたルサンチマンの人でした。ですので、まずは自分がいかにルサンチマンに突き動かされているかを自覚すること、そしてどんな道徳がじつはルサンチマンから派生しているのかを見極めること、が重要でしょう。
道徳の系譜 (岩波文庫)
■4.アイヒマン裁判は正当なのか?
ここでアーレントが述べているのは、ユダヤ人大量虐殺という歴史的犯罪に対しては、どんな手段でもいいから責任者が処罰され、報復がなされなければ正義は回復しない、だからアイヒマン裁判は正当なのだ、ということです。要するに、正義のためには法を無視してもいい、とアーレントは述べているのです。
このアーレントによる正当化はかなり深刻な問題をはらんでいます。というのも、もし正義のためなら法を無視してもいいのであれば、そもそも法なんて必要なくなってしまうからです。(中略)
じつは、こうした近代法の原則を否定することで成立したのが、まさにナチス・ドイツの体制でした。ヒトラーは政権を掌握したとき、全権委任法を成立させ、民主的なワイマール憲法を事実上停止しました。これによってナチスは法をこえて、ナチ的「精神」にもとづいてドイツを統治することが可能となりました。アーレントは、アイヒマン裁判を正当化しようとして、はからずもみずからが批判するナチズムを反復してしまっているのです。
エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告【新版】
■5.死刑廃止論と終身隷役刑
ベッカリーアはこの「終身隷役刑」のほうが死刑よりも犯罪を思い止まらせる「きびしさ」をもつと主張します。もちろん、繰り返しになりますが、この犯罪を思い止まらせる「きびしさ」とは、統計的な意味での犯罪抑止力ではありません。刑罰としての「きびしさ」ということです。
たとえば、死刑になりたかったから( もしくは死んだほうがラクだから)、という動機で凶悪犯罪におよんだ犯罪者に対して死刑はどこまで力をもつでしょうか。事実として、現代の日本だけをみても、そうした凶悪犯罪は決して少なくありません。8人の児童を殺害した池田小事件、9人を殺傷した土浦連続殺傷事件など、枚挙にいとまがありません。「死刑は責任でも償いでも罰ですらなく、つらい生活から逃がしてくれるだけです」と手記を残した死刑囚もいました。死刑になりたかったから、という動機をもった凶悪犯罪者たちに対して、死刑は刑罰として無力なだけでなく、( 死刑になるための)凶悪犯罪を誘発してしまったという点でも無力です。ベッカリーアの「終身隷役刑」の主張はまさにその死刑の無力さに向けられたものなのです。
犯罪と刑罰 (岩波文庫)
【感想】
◆それぞれのポイントの引用量が、ちょっと多めで失礼しました。とはいえ、もっと短くするとそれこそ説明不足で分かりにくいでしょうし、なかなか難しいところ。
そもそも本書は、上記でも掲載している各書籍の内容説明なのではなく、各テーマごとに書籍の該当部分を抜き出して解説する形式となっています。
そしてそのテーマとは、下記目次にあるように「哲学とは何か」「人間とは何か」というようなかなり根本的なもの。
各テーマについて
各項目3〜5作品、1作品につき4、5ページのテキスト+イラストで構成されており、実はこれらは月刊誌『サイゾー』に連載された「哲学者・萱野稔人の『"超"哲学入門』」が元となっているのだそうです。
なお、実際には掲載された書籍からの引用文も、本書では収録されているのですが、それまで引用するとさらにボリューミーになってしまうので、上記ポイントではすべて割愛させてもらいました(すいません)。
◆さて、テーマが15もあるので、上記ポイントではそのうちの5つ(の一部)について言及しているにすぎません。
まずポイントの1番目は、「人間とは何か」からのもの。
お恥ずかしながら、アリストテレスの『ニコマコス倫理学』なる作品を私は知らなかったのですが、本書では各テーマの冒頭で簡単なレビューが付されているのがありがたかったです。
たとえば『ニコマコス倫理学』ならば
哲学のみならず、自然科学・政治学から美学まで広範に論じた古代ギリシャの哲学者アリストテレス(前384〜前322)。その知の巨人が、人間の究極の目的は最高善を手にすることにあるとして、その方法について論じた倫理学の古典。といった感じ。
さらには、家庭内でDVをしていた「有名な例」として、小説家の井上ひさし氏が挙げられていたりするのですが、私は知りませんでしたよ(恥)。
結論としては、上記にあるような諸々を「自覚」し「行動」してみる必要があるようです。
◆また、上記ポイントの2番目は「われ思うゆえにわれあり」というデカルトのおなじみのフレーズの起源について。
ただ、このフレーズは知っていても、それが『方法序説』からのものである、ということは今般初めて知りました。
ただし、ここで掘り下げられているのは、「デカルトの3つの格率」なるものなので、一応ご留意を。
なお、このパートは下記テーマでいうと「自己と他者」からのもので、他のパートでははレヴィナスの『全体性と無限』という作品が紹介されていました。

全体性と無限 (上) (岩波文庫)
◆さらに上記ポイントの3番目の「ルサンチマン」は、「道徳とは何か」からのもの。
私は何となく「ねたみ」みたいな感情だと漠然と思っていましたが、ニーチェが『道徳の系譜』にて解説しているのだそうです。
なお、本書によると、ニーチェは「ルサンチマン」の悪しき「創造的な面」についても触れているとのこと。
この「創造的」というのは、たとえば、お金持ちをうらやましいと思いつつも「お金があるからといって幸せとは限らない」と考え、さらに発展させれば「幸せはお金では買えない」と「道徳」にできるようなことなのですが、これにニーチェはいらだっていたのだそうです(詳細は本書を)。
◆実はここまでで、まだテーマの最初の4つまでしかたどり着いていないのですが、真ん中あたりにある「政治」「国家」「ナショナリズム」「暴力」「権力」といったテーマは、異論反論が続出しそうなので丸ごと割愛。
ただでさえ、どちらが正しいか意見が分かれがちなところに、難解な哲学書のほんの一部を抜き出して紹介するのはリスキーだと判断しました。
もっとも上記ポイントの4番目の「アイヒマン裁判」もユダヤ人の立場からすれば正当化したいでしょうし、ポイントの5番目の「死刑廃止論」も国ごとに考え方が違います。
前者は「正義とは何か」、後者は「刑罰とは何か」からのものなのですが、いずれもデリケートなテーマですから、本来本書の該当部分を読んでいただくだけでなく、掲載しているハンナ・アーレントの『エルサレムのアイヒマン』やベッカリーアの『犯罪と刑罰』も目を通しておくべきなんでしょうね。
……「分かりやすい解説書」である本書にてこずった私としては、とてもそれらをレビューする自信はありませんが(涙目)。
「哲学」の名著38冊のエッセンスを学べる1冊!

名著ではじめる哲学入門 (NHK出版新書)
哲学とは何か
人間とは何か
自己と他者
道徳とは何か
存在とは何か
政治とは何か
国家とは何か
ナショナリズムとは何か
暴力とは何か
権力とは何か
正義とは何か
刑罰とは何か
自由と平和
資本主義とは何か
歴史とは何か
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【編集後記】
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