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2021年01月18日

【教育格差】『教育格差の経済学 何が子どもの将来を決めるのか』橘木俊詔


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教育格差の経済学 何が子どもの将来を決めるのか (NHK出版新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「教育・学参関連本キャンペーン」でも人気の高かった1冊。

私自身、昨年の今ごろはまさにムスコの中学受験真っ只中だっただけに、色々と考えるところの多い1冊でした。

アマゾンの内容紹介から。
所得の影響、保育園と幼稚園の差、遺伝と環境の関係、塾の効果などを格差研究の第一人者がコストとリターンの観点から徹底分析する!
いったい何が教育格差を生み出しているのか。親の所得の影響、保育園と幼稚園の差、遺伝と環境の関係、塾や習い事の効果などを、格差研究の第一人者がコストとリターンの観点から徹底分析。特に0歳から小・中学校期を中心に、子どもの将来を決める決定的要素を、豊富なデータとともに読み解く。公教育で格差を乗り越える方法や、格差社会・学歴社会の未来についても考察した決定版!

中古に送料を加えると定価を超えますから、このKindle版が500円弱、お得な計算です!






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【ポイント】

■1.貧困が子どもの教育に与える悪影響
 1つ目の図1‐1は、平成25年度の文部科学省の実施した全国学力テストの結果を、親の年収別に小学校6年生の国語と算数の正答率で見たものである。この図から明らかなように、親の年収が高い子どもほど高い学力を持っているし、国語よりも算数にその効果がやや強い。(中略)
 具体的に見ると、最低の学力と最高の学力を持っているのは、親の年収が最低(すなわち200万円未満) の児童と、最高(すなわち1500万円以上) の児童であり、その差は国語でおよそ20ポイント強、算数でおよそ25ポイントになる。これは100点満点での差なので、かなり大きな学力差とみなせる。(中略)
 2つ目の資料は、日本では低所得者層の子弟で大学進学率が低く、高所得者層で高いという事実である(図1‐2)。具体的には、親の年収が200万円以下であれば4年制大学進学率は30パーセントに満たないし、400万〜600万円でも40パーセント台である。一方で、親の年収が1000万円を超えると4年制大学進学率は60パーセントを超える。4年制大学進学率が親の年収によって最大で2倍以上違うのだから、教育における機会の平等という理念に反する恐れが高く、批判の対象になりうる。


■2.遺伝の影響は思いのほか小さい
 さまざまな研究によると、学業成績は遺伝の貢献割合が55パーセント、共有環境が17パーセント、非共有環境が29パーセントと計算されている。割合の半分以上が遺伝と言われると、影響がとても大きい気がするかもしれないが、この55パーセントは、むしろ影響が少ないという見方もできる。
 なぜなら、4種類の知能(すなわち、論理的推論能力、言語性知能、空間性知能、一般知能〔一般知能は、言語性知能と空間性知能の合計〕)のうち言語性知能以外は、遺伝の貢献割合が70パーセント前後も占めているからである。これは次のような意味を含んでいると理解していいだろう。
 いわゆる頭のいい人(知能の高い人)が学校において高い学業成績(学力)を示すのは確実であるが、それは遺伝のためだけではなく、育った環境やどのような教育を受けたかによってかなり左右される。すなわち、家庭や学校の教育によって、学業成績を上げることができる、と。
 これを現実世界の教育に適用すると、子どもに良質な教育を施せば、限界はあるもののある程度は学力が上昇する、となる。


■3.難関試験を突破するための子どものしつけ方
 図3‐6からわかるように、難関試験の突破を経験した人は、親が「思いっきり遊ばせていた」「遊びの時間を子どもとともに過ごした」「子どもの趣味や好きなことに集中して取り組ませた」という回答が、明らかに未経験者よりも多い。その差は1.5倍から2倍近くにまで達しているので、かなり大きな差である。
 図3‐7の「共有型」か「強制型」か、という違いにも注目してみよう。この図で明らかなように「共有型」のほうが、難関大学に進学する確率が高いし、困難な資格試験に合格する確率もかなり高い。逆に「強制型」は、進学や試験に関して好ましい結果を生んでいないことがわかる。
「共有型」の定義を考えれば、これらの調査はほとんど同じことを示している。つまり、子どもの自由を尊重し、趣味や好きなことに集中させて、ときには親も一緒に参加する、というしつけの仕方のほうが、子どもの学力を高めたり、困難な試験に合格できる素養を子どもに与えたりする効果が高いということである。


■4.保育園に通わせるメリット
 保育園に関して、もう1つ有益な研究を紹介しておこう。それはYamaguchi, Asai and Kambayashi(2018)に示されるものである。それによると、子どもが保育園に通うと言語能力が高まったり、いろいろな問題を取り除くのに役立ったりするというのである。例えば心理学上のことに関しては、集中力に欠けるとか、過激な行動に出るとか、他人に対して攻撃的になるとか、困った性格上の問題を持つことが、保育園に通うと減少する効果があると示されている。
 さらに、保育園に通う子どもへの好ましい効果のみならず、子育てをする母親のストレスを減少させるとか、幸福感を高めるといった効果があるので、親子にとって保育園通いは好ましいのである。この効果は親が貧乏であるなど、恵まれない家庭の子どもに顕著に出現することもわかった。


■5.秋田・石川・福井の3県が通塾率が低いのに学力が高い理由
 まずこれらの県では、学校の校長・教員、保護者、役所、市民一般が、教育の大切さをよく認識しており、学校教育の充実のために制度上必要な経済的支援を行う風潮が強い。したがって私立学校よりも公立学校が多いし、質も一般的に公立校のほうが高くなる。
 次に生徒も親も、学校に対する信頼を大都会より強くもっており、先生の教えや言うことをよく聞きながら従う傾向がある。塾の数が少ないことがその理由の1つになっており、学校の先生も研修会などを通じて教育方針をよくする努力を重ねている。
 さらに家庭においても、親は勉強を教えるのに熱心であり、子どもがよく勉強できるような雰囲気づくりに努めている。ここにも塾頼みの大都会と異なる姿がある。また学校から、家庭で勉強をさせるための宿題が数多く出される。地方には、大都会のような有名私立大学は少ないため、子ども、親、学校ともに国公立大学志向が強い。


【感想】

◆類書で分かっていたお話もありましたが、やはり読んでみて納得する部分が多い作品でした。

まず第1章の「子どもの格差を容認する親たち」からは、上記ポイントの1番目の「貧困が子どもの教育に与える悪影響」に関しての記述を引用。

いきなり「図1‐1」という、ここではご紹介できないグラフが出てきましたが、これは「保護者の年収と小学校6年生の正答率」というお茶の水女子大の調査研究からのものです。

ググってみたところ、著者の橘木先生の東洋経済の記事がヒット(下記リンク先のページ下図)。

「親が貧しい子」は勉強でどれだけ不利なのか | 国内経済 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

また2つ目の資料というのは「両親の年収別で見た高校卒業後の進路」という、東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策研究センターが作成したものです。

第3章 2.2.(5)高等学校等卒業後の進路の状況|政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

確かに保護者の年収と、子どもの正答率や進路には関係があると言えそうな。

しかも、実はこうした事実に続いて、「所得の多い家庭の子どものほうがよりよい教育を受けられる傾向をどう思うか」という質問に対しては、「当然」「やむを得ない」と回答した割合が、増加しているのだそうです。

具体的には2004年の時点で合計46.4パーセントだったのが、2018年の時点で62.3パーセントと、14年間で15.9パーセントも増えているという……。


◆続く第2章では、子どもの能力が何によって決定されるかについて分析しています。

まず思い当たるのが「遺伝」。

当ブログでも以前、下記の著作をご紹介している、安藤寿康さんの研究データにも触れられています。

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日本人の9割が知らない遺伝の真実 (SB新書)

参考記事:【行動遺伝学】『日本人の9割が知らない遺伝の真実』安藤寿康(2018年02月10日)

引用されているのは安藤さんの別の作品なのですが、上記の本は、現在Kindle版がセール価格なので、未読の方はご検討を。

いずれにせよ、上記ポイントの2番目にあるように、子どもに良質な教育を受けさせれば、「限界はあるもののある程度は学力が上昇する」ようです。


◆一方第3章は「幼児教育」がテーマ。

上記ポイントの3番目を読む限りでは、伸び伸びと育てた方がよいようです。

なお、ここにある「図3‐6」とは、「親が子どもの小学校就学前に意識的に取り組んでいたこと」で、「図3‐7」は「共有型しつけと強制型しつけの差」というもので、下記リンク先のそれぞれ「図6」と「図7」に該当。

第6回「子育てに『もう遅い』はありません〜どの子も育つ共有型しつけのススメ〜 」(3)- 日本子ども学会 〜子どもたちの健やかな成育環境づくりを支援します〜

また、共稼ぎゆえ、子ども2人を保育園に通わせざるを得なかった我が家にとっては、上記ポイントの4番目の保育園のメリットはありがたいものでした。

実際、とある研究によると「保育園出身者と幼稚園出身者の大学進学率を調べたところ、国立大学への進学率に関しては保育園出身のほうが幼稚園出身よりも有意に高い効果を持っていた」そうです(詳細は本書を)。

ただし、逆に文科省の報告では2010年に「幼稚園に通っていた子どものほうが保育園に通っていた子どもよりも成績が良い」という報告書を出して物議をかもしたそうですから、この辺については、まだ結論は出ていないといって良さげ(本書の帯では保育園が有利なように書かれていますが)。


◆そして第4章の「公教育で格差は乗り越えられるか」からは、上記ポイントの5番目にある「北陸3県」の輝かしいデータをご紹介しました。

ちなみにこれは、「全国学力テストの都道府県別平均正答数」の2015年版によるもの(小学校6年生)。

学力テスト調査2015年(平成27年度)都道府県順位:スクスクのっぽくん

そもそも都内においては、塾に通わずに良い成績を取ること自体難しいので、にわかには信じがたいのですが、この地域は、それだけ公教育が充実していると言えそうです。

いうならばこれは、たとえ両親の稼ぎや学歴に差があるとしても、子どもの成績の差は理論的には補えると言えないこともないかと。

道は険しいかもしれませんが、行政サイドの頑張りに期待したいと思う次第です。


学校に通うお子さんがいらっしゃる方なら、読んでおきたい1冊!

B08GPCCH6D
教育格差の経済学 何が子どもの将来を決めるのか (NHK出版新書)
第1章 子どもの格差を容認する親たち
第2章 子どもの将来は何で決まるのか
第3章 幼児教育のコストとリターンを読み解く
第4章 公教育で格差は乗り越えられるか
第5章 学歴社会の行方を考える


【関連記事】

【行動遺伝学】『日本人の9割が知らない遺伝の真実』安藤寿康(2018年02月10日)

【R指定?】『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘 玲(2016年04月17日)

【教育経済学!?】『「学力」の経済学』中室牧子(2015年06月30日)

【グリット?】『やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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