2021年01月16日
【教養】『人間にとって教養とはなにか』橋爪大三郎
人間にとって教養とはなにか (SB新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも人気の高かった教養本。昨今人気のテーマである「教養」の意義や、その身につけ方が分かる作品でした。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
「教養を身につけることが大事だ」とは、よく言われる。
しかし、そもそも私たちはなんのために教養を身につけるのか? 教養はいったいなんの役に立つのか?
現代の「知の巨人」が教える、変化の時代をよりよく生きるための学びの極意。
中古がまだ値下がりしていませんから、値引はなくともKindle版で読む価値は十分あるかと。
dictionary / Trevor Pritchard
【ポイント】
■1.理性と感情を切り分ける感情は、人間の自然な反応なので、感じるなと言っても無理です。怒りや悲しみなどの感情をバネにして、奮起するケースもある。感情の整理がつかず、ただウジウジするケースもある。「あの人はいいな、それにひきかえ、自分は……」なんてことを、つい思ってしまいます。
本当に考えるべき問題に、立ち向かおうとすると、いちばん邪魔になるのが、自分の感情。そういうことが、よくあるのです。
感情があるのは、仕方がない。そこで感情と理性を切り分けて、理性が感情と、切り離されて動くようにする。それが、自分の頭を正しく使うコツです。逆に言えば、ネガティブな感情につきまとわれて、理性が働かないようなら、「もう、自分はバカだなあ」と思ってください。
感情をコントロールして、理解を働かせると、ふさわしい問題設定ができるようになります。「自分ではどうしようもないこと」にかかずらわっていられない。それよりも、自分が考えるべきことはなんだろう、と。
■2.文学は「人間関係の補助線」
ひとは、自分が触れたことのないものはほぼ理解できません。
お付き合いをして、相手のことをわかったつもりになっていても、それはすでに触れたことがある人間の姿に照らし合わせているだけ。引き出しに入っているものが少なかったら、それだけ理解できていないところがたくさんある可能性が高いということです。
相手の心は、切り開いてのぞきこむことができない。相手のふるまいや言葉など、表に現れるものから、相手が何を思っているのかを推し量らなくちゃいけない。だけど、相手は自分とは違う人間だ。別の感情、別の思考回路をもっている。漠然と相手の立ち居振る舞いや言葉に触れているだけでは掴みきれません。
そうなると、相手を理解するためには何かしら「補助線」が必要だ。数学の図形問題では、補助線一本引いただけで答えが見えてくることがありますね。それと似た役割を、人間関係において果たすのが文学なんです。
■3.読むべき古典解説書の見つけ方
まず、最近書かれた解説書を何冊か見比べる。買ってもいいけれど、大きめの書店か、図書館で読み比べてもいい。
そこで、本文を読むのではなく、まず「出典」をざっと見てほしい。
「出典」とは、「本書はこれらの本を参考にして書きました」という本のリストです。解説書を書くのに、著者が、元の古典しか参照していないとは、まず考えられません。過去に出版された解説書も参照するのが普通です。そこで3冊なり5冊なりの解説書の出典をみると、1冊くらい、すべてに共通して参照されている解説書が見つかるはずです。
複数の著者が共通に参照しているということは、それだけその解説書はよく書かれているということ。いわば著者の間で「古典化している解説書」。これこそ読むべき解説書、というわけです。
このやり方で問題があるとすれば、ちょっと古い本だということ。もう買えないかもしれない。それなら、何冊かに言及されている、評判のよさそうな本にします。
■4.母国語の枠組みから飛び出そう
さて、言葉が人間の思考の基礎であることは、国語辞典のところでのべたとおり。
英語を身につけたひとは英語でものを考えるし、日本語を身につけたひとは日本語でものを考える。スワヒリ語を身につけたひとはスワヒリ語でものを考える。こうして、意識しなくても、母語の思考の枠組みができあがる。
そこで、外国語を学ぶことのポイントは、母語とは違うもうひとつの思考の枠組みを頭の中に組み立てる、ということなのです。
日本語しか知らなければ、日本語の思考の枠組みが絶対になってしまう。日本語の概念を組み合わせて、ものを考えるしかない。ところが少しでも外国語に触れると、その外国語の思考の枠組みを通して、母語の思考の枠組みを見直すことができる。英語にはこんな概念があるんだな、と知ることができる。日本語の概念は、こうなっているな、と考えることもできる。これがまさに、思考の相対化です。母語の思考の枠組みからちょっと解放されてものを考える、頭の自由度。思考の柔軟性が高まる、と言ってもいい。
■5.ネットでは基礎情報やデータを調べるのに留める
たとえば、ニーチェは1844年に生まれ、1900年に死んだ。代表作には『ツァラトゥストラかく語りき』などがある。これくらいは、ネット検索でもまあいい。
でも、ニーチェはどんなことを考えた思想家だったか、となると、ネットに書いてあることはもう怪しい。がんばってニーチェの書いた本を読むか、信頼できそうな解説書を読んだほうがいい。
「事実」は誰が書いても同じだけど、「意見」はひとそれぞれ異なります。 ニーチェはどんなことを考えた思想家だったか、は、研究者や本の読み手によって、それぞれ見解が分かれるだろう。つまり、意見なんです。
誰かの意見によれば、こうである。そのことには間違いない。しかし、誰かの「意見」をあたかも「事実」のように鵜呑みにしてはいけません。
ネットに書いてあることは、本と違って、書き手の素性がはっきりしない。一見もっともらしく書いてあっても、まるで信用ならないのです。
ネットで調べものをするのなら、誰が書いても同じ「事実」を参照する範囲に、とどめましょう。
【感想】
◆思ったよりも分かりやすく、そのせいか、ハイライトを引きまくった作品でした。まず、まえがきでは「教養とは何ぞや」という根本的なお話が登場。
日本や世界の歴史を顧みると、かつて教養は「リーダー層が意思決定を行うための基礎知識」として存在していました。
一方、いまや教養は、社会すべての人々が自分の喜びや、よりよい社会を作るためのものになっています。
そのために私たちは、「自分の頭で考える」必要があり、その際に注意すべきは、「自分が考えるべき問題を選ぶ」ということ。
第1章では、こうした「問題設定」について論じており、上記ポイントの1番目にあるように、「理性と感情を切り分ける」のが大事です。
◆続く第2章のテーマは、「人生がたのしくなる教養の身につけ方」。
そもそも「知りたいことを調べること」や、「技術の習得」は「教養」ではありません。
教養は、触れているその瞬間にはいつ何の役に立つのかわからない。でも、いつか、何かの問題に直面したときに、必ず役立つのです。楽しんで教養に触れたついでに、問題の解決にもなるのだから、こんなにいいことはない。そこで本書では、「政治」「経済」「社会」「歴史」「文学」といった具体的なジャンルごとに言及が。
上記ポイントの2番目は、もちろん「文学」からのものであり、この部分を読んで私が思ったのが、昨今のコミュニケーションの問題の一端は、ひょっとしたら文学不足にあるのかもしれないということ(マンガやアニメはそれを補完する?)。
ウチのムスコが国語が苦手だったのは、もちろん本を全然読まないことにもあるのですが、試験とは別の意味で、社会に出てからコミュニケーションで悩むような気がします。
なお、この第2章の最後には、各ジャンルごとに3冊ずつ「必読書」が挙げられていますので、そちらも要チェックで。
◆さらに第3章では、まさにその「読書」について触れられています。
実は本の中で読みやすいのは、当ブログでもおなじみの「実用書」なのですが、「実用書」は教養書ではありません。
……「いつ何の役に立つのかわからない」実用書だったら、全然「実用」じゃないですしw
そこで本書で推奨されているのが、お約束の「古典」です。
ただし、古典を読むのが大変なことを踏まえて、代わりにオススメされているのが、「古典の解説書の定番」。
そこでご覧頂きたいのが、上記ポイントの3番目の「読むべき古典解説書の見つけ方」です。
私も古典解説書は読んだことはありましたが、このような選書はしたことがなかったので、今後ぜひ試してみようかと。
◆さらに第4章では、普通の本では飽き足らず(?)辞書や事典に、その触手を伸ばしています。
かといって、10巻や20巻もある百科事典は今どきあまり見かけませんし、結局目を通さないことも多そうな。
そこで本書がオススメしているのが、「1冊ぽっきりにまとまっている百科事典」です。
百科事典に書いてある内容は、「自分より先に誰かが考え、広く共有されてきた結論」ですから、自分でものごとを考える場合の出発点になります。なお上記ポイントの4番目のお話は、この第4章の国語辞書のお話の最後の方にあったもの。
ものごとをゼロから自分で考えるのは、けっこう大変。労力も時間もかかる。ならば、先人たちが蓄積してきた知識を拝借して、「その先」を考えればいいんです。
外国語を学ぶことは、母語とは違う思考の枠組みを頭の中に組み立てること、という指摘は、私も英国語学留学時に身に染みてよく分かりました。
実際、英語で考えると、普段(日本語を使っているとき)と違う結論になってしまうことがあって、戸惑うことが何度かあった次第……。
◆一方、上記ポイントの5番目は、第5章の「知性を磨くネットとの付き合い方」からのものになります。
当たり前ですけど、ネットの海は「玉石混交」。
ネットのデマに踊らされている人は山ほどいて、大統領選の終わったばかりの米国のみならず、我が国も同様です。
それこそひろゆき氏の名言(?)である、「うそはうそであると見抜ける人でないと〜」を実感する今日この頃。
このように「見抜く」ためにも、未だかつてないほど、教養を身につける必要があるのだと思います。
教養を理解し、身につけるために必読の1冊!
人間にとって教養とはなにか (SB新書)
第1章 今こそ伝えたい、教養の価値
第2章 人生がたのしくなる教養の身につけ方
第3章 なぜ、本を読むべきなのか
第4章 辞書・事典でしか学べないこと
第5章 知性を磨くネットとの付き合い方
第6章 「深い人」のほんものの教養
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【編集後記】
◆今週末は、ビジネス・実用書系のKindleセールでめぼしいものがなかったので、こんなものをご紹介。幻冬舎 社会の裏側を知る グレーゾーンフェア (1/15〜1/28)
「30%OFF」と値引率は抑えめですが、興味のある方はご検討ください!
ご声援ありがとうございました!
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