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2020年12月15日

【異色経営?】『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』大山健太郎


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いかなる時代環境でも利益を出す仕組み


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「冬のKindle本キャンペーン」にて好評な1冊。

アイリスオーヤマの現会長である大山健太郎さんが、そのユニークな経営方針の秘密を語り明かした作品です。

アマゾンの内容紹介から。
危機のときに必ず業績が飛躍的に伸びるのはなぜか?15の選択で会社は根本から変わる。

なお、中古価格がほぼ定価並みですから、このKindle版が900円弱、お買い得となっています!





Vacuum cleaner science / AngieSix


【ポイント】

■1.マーケットインではなくユーザーイン
 プロダクトアウト型、マーケットイン型の経営が間違いというわけではないのですが、環境変化に翻弄されない会社をつくろうとすれば、ユーザーの動きをしっかりとらまえたユーザーイン型の経営ということになります。
 アイリスのように生活者向けの製品を作っている場合、ユーザーとは「エンドユーザー(使う人)」のことです。使う人が「これは役に立つ」「これは安くて使い勝手がいい」などと満足するかどうかを考えるのが、ユーザーインの思想です。
「買う人=使う人」とは限りません。技術者はどうしても、プロダクトアウトの発想になりやすい。また営業社員は、マーケットインの発想になりがちです。営業社員にとっての直接の顧客は問屋や小売店のバイヤーですが、彼らのニーズは大抵、流通のニーズです。流通は、文字通り製品を流すことが役目であり、必ずしもエンドユーザーのニーズとは一致しません。


■2.全部署が集まる「プレゼン会議」
 アイリスでは毎週月曜に全部署の責任者が全員集まり、「プレゼン会議」という名の開発会議を開きます。収納用品や園芸用品、ペット用品、家電に至るまで、アイリスの2万5000点の製品はすべて、このプレゼン会議から生まれます。(中略)
 新製品の開発提案からパッケージデザインに至るまで、アイリスではすべてが、プレゼン会議の議長である社長の決裁で進みます。開発に関することだけでなく、売り場デザインや販促キャンペーン、重要な得意先への納入価格の決定などもプレゼン会議で社長決裁です。
 もちろん、「ダメ出し」をすることも多々あります。(中略)
アイリスには約20の事業部があります。社長は全事業部の全案件を1日で決裁します。各事業部の持ち時間は数十分。次から次へと繰り広げられるプレゼンに対して、社長は「分かった。OK!」「分からん、もう1回!」という判断を即座に下します。この決断の速さが、年間1000アイテムの新製品を生み出すアイリスの事業スピードに直結しています。


■3.稼働率は7割以下に抑える
 7割以下に稼働率をとどめる理由は、売り上げが予測の150%になっても対応できるようにするためです。他社のまねではなく、需要創造型の製品を作っていると、発売してみなければどれくらい売れるかはよく分かりません。さらに、マスクにしてもそうですが、天候要因や経済要因などの外的環境の変化によって5割変動する可能性は十分にある。
 ならば、7割の稼働率にしておけば、「いざ拡販」というときに、「100%÷70%=1.42」で、5割増に対応できる。もちろん可能性としては5割増を超えて2倍、3倍に需要が膨れることもあるかもしれませんが、そこまで対応しようとするのは、さすがに過剰です。
 これで環境変化を確実にチャンスに変えられます。アイリスは稼働率7割ルールに従い、工場は常に3割の空きスペースを持っていたから、東日本大震災後のLED照明の拡販も、コロナショックのマスク拡販もでき、一気にトップに躍り出たのです。


■4.「ICジャーナル」で情報を共有する
 一般的な日報は、上司による部下の行動管理が主目的で、1日の経過を部下が書き、上司がそれをチェックします。一方、情報共有を目的とするICジャーナルの場合、事実の列挙は厳禁。日々の仕事の中で得た情報を基に、各社員が自らの「意思」を伝えるように書く。新聞・雑誌記者と同じです。
 知り得た情報を基に何を考えたか。そこにどのような意味があるか。それを経営者や全社員に向けて報道をしてもらうのです。だから日報ではなく、ジャーナル(定期刊行物)と呼びます。イメージとしては、こんな具合です。
「製品Aの拡販を狙って、ホームセンターBのバイヤーのC様に商談に出向いたところ、競合のD製品のほうが、○○の機能で人気が高いと聞いた。私は○○の機能を改善し、内部機構を見直して、価格低減の上、再提案したい」


■5.人のいるところに拠点を作る
 アイリスが家電事業に本格参入することで、家電の技術者たちの雇用・活躍の場を創出でき、そして、ユーザーインで独自性の高い製品を開発することにより、日本の家電業界を盛り上げることができれば、大きな社会貢献になると考えました。
 ところが、予想に反して家電技術者の採用は困難を極めました。家電メーカーの開発拠点は関西に多く、生活の基盤をアイリスの開発拠点のある宮城県に移すことをためらう人が多かったのです。特に大手メーカーに勤めていた人ほど、まさか自社が他社に買収されたり、自分がリストラに遭ったりするとは考えておらず、関西に住宅を購入していました。
 そこで「拠点に人を集める」のではなく、「人のいるところに拠点を作る」と発想を転換。大阪の中心地である心斎橋にR&Dセンターを設けました。新拠点設立のニュースは新聞やテレビで大きく取り上げられ、大手電機メーカーやその下請け先で働く社員から応募が殺到しました。こうして電子レンジや冷蔵庫、エアコンや洗濯機など、アイリスにはないノウハウを持つ多彩な人材を集めることができたのです。


【感想】

◆これまた非常にハイライトを引きまくった作品となりました。

そもそも私自身、アイリスオーヤマ(以下「アイリス」と略します)という会社を意識するようになったのは、こちらの本で紹介されていたからなのですが。

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ダントツ企業 「超高収益」を生む、7つの物語 (NHK出版新書)

参考記事:【ビジネスモデル】『ダントツ企業―「超高収益」を生む、7つの物語』宮永博史(2018年07月21日)

この本でサラッと触れられている部分が、ことごとく掘り下げられており、改めてアイリスのすごさを認識した次第。

ただし、本書の第2章から抜き出した上記ポイントの1番目の「ユーザーイン」という概念は、今回初めて知りました。

なるほど「マーケットイン」という概念はよく使われますが、アイリスの場合、直接消費者のニーズをくみ取っているのだな、と。


◆逆に、同じ第2章で紹介されていた「プレゼン会議」は、上記の本でも登場していたものの、本書ではより詳しい解説がありました。

たとえば、会長が社長だった頃、プレゼン会議において、お客さんの反応を尋ねた会話例ですとか。
開発担当:「施工しやすいと高評価をいただいています」
大山:「そうか。どうやって薄くしたんや」
開発担当:「制御部を分割して、脇に回路を埋め込みました」(担当者、カバーを開けて見せる)。
大山:「特許は取れへんのか」
知財担当:「方式が異なる先行特許がありますが、取得できないか検討します」
大山:「競合商品に比べて価格優位性はどうなんや」
設計担当:「はい、今は一部がダイキャスト製ですが、プラスチックに変更できればかなりいけます」
大山「プラ(プラスチック)にできたら競争力あるな。LED電球でやったように、アイリスの強みを生かせ。分かった。OK!」
こんな感じでOKが出ますから、プレゼン開始から決済まで10分も経っていないという。

実際、金曜の夜に取引先から問題点を指摘され、週末に策を練り、翌週明けの月曜のプレゼン会議で提案して了解を得てその日の午後に試作品を作り上げ、夜にはそれを届けて驚かれたこともあったのだそうです。


◆また今回のコロナ禍において、アイリスはマスクを大幅増産する、というニュースがありました。

アイリスオーヤマがマスク増産 国内で月1.5億枚 | 共同通信

実は2009年にも新型インフルエンザが大流行しており、その際にも同じようにマスクの生産量を一気に引き上げたことがあった、とのこと。

このような大幅増産は普通はできないのですが、アイリスが可能なのは、上記ポイントの3番目にあるように、そもそも普段の稼働率が7割以下に抑えられているからにほかなりません。

なお、このコロナ禍でアイリスの業績は、園芸用品、LED照明、収納家具、各種家電等のホームセンター向け売上が、前期より2ケタ延びており、さらに国内のネット通販事業も前期の2倍の売上なのだそうです。

それに対応できるのも「稼働率が7割以下」ゆえなのですが、効率性を追求していると、これはなかなかできない経営方針ではないか、と……。


◆ちなみに上記ポイントの3番目は、本書の第3章からでしたが、続く第4章から抜き出したのが、上記ポイントの4番目。

この「ICジャーナル」なる日報は、グループ1万9400人の社員のうち、現場作業を担う社員を除く約1万人の社員が、パソコンやスマートフォンから入力した内容を共有しているのだそうです。

なお、具体的内容は200字以内と決められており、共有レベル(「全社員」「特定対象者のみ」等)も指定できるとのこと。

会長自身、キーパーソン100人の内容に毎日目を通しているそうですから、社員も気が抜けないでしょう。

また、武漢での新型コロナウィルスの情報も、中国社員のICジャーナルから入って、いち早く対応が取れたそうですから、まさにアイリスの「秘密兵器」と言えそうです。


◆そして最後のポイントの5番目は、1つ飛んだ第6章からのもの。

アイリスが家電事業に本格参入したのは、2012年からであり、それまでは園芸商品等で知られる企業でした。

ただし、それまでもホームセンター向けの事務用品として、シュレッダーやラミネーターを開発しており、ある程度の技術の蓄積があったため、「チャレンジのし甲斐がある事業」と判断しだのだそうです。

それが、この「R&Dセンター」設立により、多くの人材を獲得でき、結果的にユニークな家電がいくつも生まれたのだとか。

もちろん、そのベースとなるのは、「ユーザーイン」の視点であり、確かに他社とはひと味違うな、と思わせられるものばかり。

……今後も目が離せない会社であることは間違いないですね。


アイリスオーヤマの経営の秘密が知りえる1冊!

B08J2CLXSD
いかなる時代環境でも利益を出す仕組み
序章 効率偏重経営の終わり
1章 製品開発力 売れる製品を最速で大量に生む仕組み
2章 市場創造力 流通を主導し、顧客と結びつく仕組み
3章 瞬発対応力 急な外的変化を成長に取り込む仕組み
4章 組織活性力 仕事の属人化を徹底的に排する仕組み
5章 利益管理力 高速のPDCAで赤字製品を潰す仕組み
6章 仕組みの横展開
7章 ニューノーマル時代の経営


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【夜の行動経済学?】『安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生』安田隆夫(2015年12月10日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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参考記事:【文章術】『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』山口拓朗(2016年11月05日)

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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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