2020年12月12日
【DX?】『アフターデジタル2 UXと自由』藤井保文
アフターデジタル2 UXと自由
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「冬のKindle本キャンペーン」でも人気の1冊。「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の現状を知りたい方や、自社へ導入されたい方なら、要チェックな作品です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
本書ではアフターデジタル先進国に注目し、特に中国のアリババやテンセントといった巨大デジタル企業の「戦略」、表面的な取り組みの奥にある「本質」に迫ります。事実として、アフターデジタル社会では産業構造がひっくり返ってしまいます。これは予測ではなく、実際の中国市場がそうなっており、こうした世界が広がれば、日本のお家芸ともいえる製造業は最下層に位置づけられてしまうのです。
いわゆるデジタル企業だけでなく、デジタルビジネスとは直接関係ないと思っているビジネスパーソンにも、本書を読んでほしい。なぜなら、アフターデジタルでは、リアルがなくなるのではなく、リアルの役割が大きく変わると言われているからです。
中古があまり値下がりしていないため、送料を加味するとKindle版が900円弱、お買い得となります!
wechat-5-1 / Sinchen.Lin
【ポイント】
■1.日中の差は「ホワイトリスト」か「ブラックリスト」か日本のホワイトリスト方式というのは、「やっていいことを決め、それ以外はやってはいけない」という管理の仕方で、決めたことしかやってはいけないため、自由度が低くなります。一方で中国のブラックリスト方式は、「やってはいけないことを決め、それ以外は一旦やっても良し」という市場原理に任せた管理の仕方になります。米国もこの方式になります。これだけを聞くとブラックリスト方式のほうが良く聞こえるかもしれませんが、企業や個人に責任を負わせることになるため、社会問題化した場合、大企業であろうと容易に潰れるリスクがあります。
中国の場合、ブラックリスト方式の上で、国の方針として重点領域を決めます。例えば「特定領域のデジタル推進を推奨する」となると、その領域では規制緩和や国からの投資を受けられ、逆にあまりに従わないと指導を受けるリスクさえあるため、国全体の経済の流れが作られるのです。このようにして、ブラックリスト方式が持つ自由度もある程度コントロールし、国が持っていきたい方向に発展させるという手法が採られています。
■2.体験型ビジネスを支援するミニプログラム
ミニプログラムには、以下のような例があります。図表2-3とともに参照してください。(1)EC付きの会員証機能(中国企業だけでなく、日系企業でもユニクロや無印、JINSなども提供している)。(3)の例として、私の家の近所の個人経営コーヒーショップは、メニューだけでなく店に入る前から注文しておいてピックアップできるようにしています。日本で考えれば、個人営業のコーヒーショップでアプリを作るのはコスト上難しく、ピックアップのような機能を提供するのは、スターバックスのような大企業に限られます。ですが、ミニプログラムは10万円程度の費用で簡単に作れ、少し大きめの個人経営レベルならコーヒーのピックアップ機能を提供することが可能です。
(2)レジの代わりにスマートフォンで商品バーコードを読み取って会計できる、コンビニエンスストア用「スマホレジ」機能。
(3)飲食店のメニュー機能。
(4)住宅内見をVRで実施できる機能。
■3.デジタルとリアルをつなぐ
既にお伝えしている事例の中には、テックタッチとハイタッチ・ロータッチをつなぎ合わせてシナジーを作っている例があります。
まず、前著で詳しく解説した平安グッドドクターの例です。ハイタッチで保険の営業担当者が直接訪問して対面でユーザーに話しかけ、信頼を構築した上で、アプリの使い方を丁寧に教えることで、カスタマージャーニーにオンボードさせます。このオンボーディングによって、テックタッチである「アプリ」を顧客が常日頃使うようになると、「この人はがんに興味がある」「小さい子供がいる」「運動に興味がある」といったその人に関する情報がたまっていきます。たまってきたデータを基に、再度営業担当者ががん保険の説明をしに行ったり、子供と運動するヘルスケア系のイベントに招待したり、といった形で、さらにハイタッチやロータッチに誘導します。ハイタッチ、ロータッチというリアル体験で新たなベネフィットを提示されると、よりロイヤルティーが高まってアプリを引き続き利用したり、新たな機能を使い始めたりします。
■4.Amazonの置き配
Amazonの「置き配」は非常にOMO的です。宅配ボックス、玄関、ガスメーター、車庫、自転車かごといった選択肢から「置き場所」を指定しておくと、指定した場所に置いてくれて、置いた後に配達員から「ここにこんなふうに置きました」という写真がメールで送られてきます。(中略)
置き配は、ユーザーにメリットがあるだけでなく、配達員側の効率も向上させることができます。従来は不在だと荷物を持って帰り、ユーザーから電話がかかってきたらまた同じところに行かねばなりませんでした。効率は非常に悪かったのです。置き配が受け入れられれば、不在でも再配達不要になります。Amazonはエリアを限定した実証実験を行い、モラルハザードや盗難は起きにくいことを確認した上で実践しています。ユーザーからすると家にいる必要もなく、家にいたとしても対応する必要がない「受け取り方の融通無碍」と、企業からするといちいち同じところに何度も行くことのない「安定した配達オペレーション」を両立させているわけです。
■5.接点系OMO「メルカリ教室」
メルカリ教室とは、ドコモショップなどのリアルの場を通じてメルカリが主催している「メルカリ使い方講座」です。実際に売ってみたい商品を持参し、会員登録、購入、出品の仕方などを教えてもらいながら、その場で実際に出品までします。教室の時間中に売れてしまうことも珍しくないそうです。リアルの場所を使って限られた人数にしか教えられないため、ユーザー数2,000万人を超えるメルカリにとっては非常に非効率な活動に見えますが、この教室を通して学んだ人のLTV(顧客生涯価値)が高く、周囲にも広めてくれるため、経済合理性(採算が合うか)が十分に成り立つと判断されたそうです。
メルカリ教室には若い人ももちろん来ますが、シニアの人をイメージすると分かりやすいでしょう。一般にシニア層はメルカリで売れそうなモノをたくさん持っていますが、メルカリの使い方が分からないので、例えば孫に代わりに出品してもらっているというケースは少なくないそうです。このような方が、メルカリ教室で若いお兄さんお姉さんと楽しくコミュニケーションしながら学ぶのです。実際に教室で売れたときは周囲にも祝われて大喜びされるそうです。
【感想】
◆当ブログではほとんど「DX」をテーマにした作品を扱ったことがなかっただけに、ハイライトを引きまくりました。まず第1章では、前作のおさらい的にいくつものサービスの紹介が。
ただしその多くが中国企業のものであり、技術力はさておき、なぜ日本は中国にDXでここまで遅れを取ったのか?
中国の場合、なまじインフラが整備されてなかったため、既存のサービスを超えて新しいサービスが一気に広まる、いわゆる「リープフロッグ現象」や、14億人もの人口をかかえ、貧富の差が激しいゆえの労働力の確保等、さまざまな要因はもちろんあります。
それでも「あえて理由を1つ」と言われたら、著者の藤井さんによると、上記ポイントの1番目にある「ホワイトリスト」と「ブラックリスト」の違いである、とのこと。
中国の場合、ブラックリスト方式の上で、国の方針として重点領域を決めます。例えば「特定領域のデジタル推進を推奨する」となると、その領域では規制緩和や国からの投資を受けられ、逆にあまりに従わないと指導を受けるリスクさえあるため、国全体の経済の流れが作られるのです。なるほどこれは日本では難しそうな……。
◆また、私が知らなかった用語である「ミニプログラム」が取り上げられているのが、本書の第2章です。
「ミニプログラム」とは、「アプリ内アプリ」と呼べる機能で、わざわざ専用アプリをダウンロードしなくても、WeChatやアリペイの中でアプリに類する機能として使えるもの、とのこと。
PayPay、LINE Pay、その他通信事業者系のペイメントなど、日本でスーパーアプリを目指しているアプリは、現在これと同じ「アプリ内アプリ」である「ミニアプリ」を作る流れにあります。……すいません、決済アプリを入れてないので、存じませんでした(情弱)。
そこで取り上げられている「コーヒーのピックアップ機能」なら、確かに中小の店舗でも実践できそうですし、同様に他の飲食店でもピックアップが実現可能かと。
◆なお、第3章から抜き出した上記ポイントの3番目の「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」については、説明が必要かもしれません。
これはカスタマーサクセス理論における顧客との接点のことで、「ハイタッチ」とは「1対1の接点で、訪問、相談などの個別対応」が該当します。
また、「ロータッチ」とは「1対多の接点で、リアルで複数人に対応するワークショップやイベントなど」を指し、「テックタッチ」とは「1対無限の接点で、オンラインコンテンツやメールなど、量産可能でいつでもどこでも触れられるもの」を指す次第。
事例として登場する「平安グッドドクター」なるものは全然知りませんでしたが、確かにこれはスゴイですね……。
平安グッドドクターはアプリで医療の未来を先取り、タイを足がかりに東南アジアへ|BeautyTech.jp
◆ちなみに上記ポイントの4番目と5番目は、1つ飛んだ第5章からのもの。
前作が中国の事例ばかりで、「では日本ではどうすべきか」についてが薄かったらしく(アマゾンレビューによると)、それに対応したかのように、「日本企業への処方箋」が触れられています。
アマゾンの置き配については、問題が起こるだろうな、とは思っていましたが、日本にしては珍しく上記ポイントの1番目にある「ブラックリスト」に近い気が。
ただし事後対応も考えられており、「Twitterで『置き配したら盗まれた』と書いた瞬間、Amazonの公式Twitterから相談窓口のURLが飛んできて、トラブル対応をしてくれる」そうです。
その迅速さと素晴らしさに感動した、という話もあるようです。どうしても起きてしまうトラブルに対して、多少泥臭くてもきちんとSNSを巡回しつつ、対応の手厚さによってピンチをチャンスに変えていますし、なるべくコミュニケーションの 齟齬 がないように、置いた荷物と周辺の写真を送る対応を行っているところは、さすがと言わざるを得ません。アマゾンがそこまでやっているとは知りませんでした。
◆さらに「メルカリ教室」も知りませんでしたが、それならファンも増えそうです。
教室が終わってシニアのコミュニティーに戻ると、「私、メルカリ使えます」となると自慢できますし、その人が周囲に教えたり、教室をお薦めしたりすることもあります。あー、私の母とか、ドヤ顔で自慢しそうな気が。
確かにそこまで考えられているなら、投資しても元が取れるのでしょうね。
ちなみに本書は定価が結構高い(単行本で2420円、Kindle版で2299円)ので、当ブログのスタンスとして、こういうセールでもないと、なかなか手が出せませんでした。
なお、前作も「50%ポイント還元」になっていますので、本書を読んで興味を持たれた方は、あわせてご検討ください。
アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る
「DX」の基礎と実践を学べる1冊!
アフターデジタル2 UXと自由
[まえがき] アフターデジタル社会を作る、UXとDXの旗手へ
第1章 世界中で進むアフターデジタル化
第2章 アフターデジタル型産業構造の生き抜き方
第3章 誤解だらけのアフターデジタル
第4章 UXインテリジェンス 今私たちが持つべき精神とケイパビリティ
第5章 日本企業への処方箋 あるべきOMOとUXインテリジェンス
[あとがき] 待ったなしの変革に向けて
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【Amazon流?】『amazonの絶対思考 常に、「普通という基準」を作り変える』星 健一(2020年09月06日)
【ビジネスモデル】『成功企業に潜む ビジネスモデルのルール――見えないところに競争力の秘密がある』山田英夫(2017年11月28日)
【編集後記】
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