2020年12月01日
【思考術?】『対比思考 最もシンプルで万能な頭の使い方』小柴大輔

対比思考 最もシンプルで万能な頭の使い方
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも人気を集めていた思考術本。「対比」という考え方自体は、以前からあるものですが、それを体系的にまとめることで、「思考術」として昇華されていると思います。
アマゾンの内容紹介から。
読む、書く、話すが一気にロジカルになる! スタディサプリ・Z会東大進学教室で絶大な人気を誇るNo1講師が、「対比」というシンプルで万能な頭の使い方を教える。正確に素早く文章を理解する「読解力」、文章もトークもシンプルに伝える「論理力」、どんな相手も反論できない「説得力」が、この1冊で身につく!
版元がダイヤモンド社さんですから、Kindle版は「10%OFF」とお買い得になっています!

Contrast / Lepti
【ポイント】
■1.一流デザイナーの対比目線今世界でも注目を集めるデザイナーに、nendoを主催する佐藤オオキさんがいます。その佐藤さんが「デザイン目線」で問題解決を提唱する本が『問題解決ラボ』です。
その「デザイン目線」は、対比目線と言ってもよいくらいにいくつもの対比キーワードから構成されています。 例を挙げると、「一歩前へ 半歩前へ」「凝視・中心視 ボヤッと見る・周辺視」(中略)「職人型 発想型」「自由にやるとは、好きにやるではなく、正攻法をふまえた上での別解だ」などです。
佐藤さんは、自作のデザインをいくつも例示しながら、それがどんな対比的発想から導かれたのかを語っています。しかも、そうした対比的発想法がデザイン以外の領域でも有効であることを示唆しています。私もまったく同感です。
■2.対極を想定する「対極的対比」
私が日頃指導している大学入試の小論文では、たびたび「日本の文化」がテーマとなりますが、自分自身が住んでいるからこそ自覚的に把握して表現することが難しかったりします。
そこで、海外の文化と対比させて考えることで、日本文化の特徴を明らかにすることができます。例えば、食文化の違い、住居の違い、宗教の違い、というように対比でアイディアを広げていくのです。
自分の個性も、自社の強みも、自分のコミュニティの特徴も同様です。テレビ番組の『秘密のケンミンSHOW』も、県民性を比較するからこそ発見があるのです。
他にも、小論文で頻繁に登場するテーマとして「情報化社会」が挙げられます。
これも同様に、情報化以前、コンピューター・ネットワーク以前の社会と対比させることで、情報化社会の特徴を明らかにすることができるのです。
■3.対比で頭を整理しながら、相手の言葉を受け取る
会議での発言やゼミでの発言レベルでは、対比的には語られないことが一般的でしょう。だからこそ、そこで対比で聞く技術が活かされます。明示されなかったけれど、その発言は何との対比になっているのか、そういう構えで聞くことで発見や発展を導くことが聞く技術です。
隠れた対比をくみとることもこれと似ています。ただし、発言で語られなかったものをキャッチできるのは、そのような対比が存在しないのではなく、話者が無意識に前提としていたり、暗黙の了解だったりするからです。
そうした類推ができたら、「今の発言は〇〇をふまえた(対比させた)ものではありませんか」という問いを発し、応答を重ね、対話を進行させることもできます。さらには「その対比をふまえれば、こういうことも言えるのでは」という追加もできます。
■4.無意識のパターナリズム
パターナリズムは、もっと素朴には「してあげる」という表現をするときの心理として現れることがあります。法科大学院のエントリーシートや医学系大学入試の志望理由書などで「弁護士として社会的弱者を救済してあげたい」「医療者として苦しむ患者を救ってあげたい」といった書き方をしている例がよくあります。
添削者として私は必ず修正します。「上から目線になってるよ」と。私自身、「受講者の論文答案を添削してあげる」というような表現は絶対にしません。添削してあげたり、してあげなかったりといった姿勢、すべてはこっちの心次第という上から目線はありえません。添削指導することは、私の責務であり、仕事だからです。したがって、先の表現は「社会的弱者を救済する弁護士としての責務を果たせるよう努めて参ります」などにする方がよいでしょう。
■5.ナッジによる問題解決例
ナッジの別な例を出します。適切な速度で自動車を走らせると路面とタイヤの摩擦でメロディが奏でられる道路があります。また、走行中の自動車から横断歩道が立体的に浮き上がって見え、自然に速度を落とすように誘うデザインなどがあります。私は島根県の出雲空港にアクセスする道路で見たことがあります。「スピード落とせ!」というサインを路面に書かなくて済むのです。美しい景観にも貢献します。とくに日本では標語や呼びかけが多いので。
最近、転落防止のために駅のホームにあるベンチの向きが変わったのもナッジと言えるでしょう。たったこれだけの工夫で不慮の事故を大幅に減らせるようです。乗客の安全に資するとともに、明らかに鉄道会社の利益になります。同じく駅のベンチが、 横臥 して寝ることはできず、座ることにのみ適したデザインになっているのもそれでしょう。やはりかつては「ホームのベンチで寝ないでください」という表示がありましたが、デザインを変えれば、無粋な注意書きをあちこちに貼りつける必要はなくなるわけです。
【感想】
◆本書は下記目次にもあるように、3つの部に分かれており、まず第1部では「対比」のさまざまな事例が紹介されています。それこそ身の回りのあらゆるもの、本書いわく
広告、デザイン、芸術、漫画、アニメ、映画、文学、哲学、社会学、ビジネスなどに対比があるとのこと。
本書はその事例の補強として、多くの書籍を紹介しており、実は約100冊のブックガイドにもなっています。
たとえば上記ポイントの1番目の佐藤オオキさんのお話は、本書の第2章の「対比を意識するだけで、世界の見え方が180度変わる」からのものなのですが、引用にもあるように、まさに対比キーワードがちりばめられているのだそう。

問題解決ラボ――「あったらいいな」をかたちにする「ひらめき」の技術
エステーの「自動でシュパッと消臭プラグ」ほか多数の実践例が紹介されています。また佐藤さんによれば「思いついたらまず言ってみる。すると、それを聞いた誰かが、自分の思いつきを膨らましてくれるかもしれません。恥ずかしいという思いは禁物」。これは本書の第8章での議論の仕方と共通です。
◆続く第3章では「思考力を高める4タイプの対比」なるものが登場。
上記ポイントの2番目の「対極的対比」はその中の1つです。
……といいますか、一般的に「対比」といったら、この「対極的対比」を考える人が多いのではないでしょうか?
ちなみにそれ以外のタイプとは「似て非なる対比」「対比を出して中間を行く」「垂直的対比」の3つになります。
このうち「似て非なる対比」の例で、『サイボーグ009』が挙げられているのですが、なるほどロボットではなくサイボーグが主人公であるところがミソなのだな、と。

サイボーグ009(1) (石ノ森章太郎デジタル大全)
◆一方第2部では、「対比を仕事や勉強に取り入れる」と題して、「読む」「聞く」「書く」「話す」の4つのスキルを磨いていきます。
前半2つを担当する本書の第4章から抜き出したのが、上記ポイントの3番目。
確かに、会議等の発言は、何の脈略もなく語られることよりも、それ以前の発言を前提としていることが多いハズです。
確かにこうした「隠れた前提」を明示できれば、より議論も深まりそうな。
また「話す」際のテクニックとして、本書の第5章では「思考の補助線」としての対比が紹介されています。
これは、自分の意見を導き出すために、その前フリとなりそうなものを挙げていく、というもの。
数学の図形問題を解くときにも、いきなり正答へ一直線とは行かず、まず補助線を引いてみて、ああそうかというひらめきにいたることがありますね。また慣れないうちは、手あたり次第に引いてみて、ああこれなら行けるという気付きにやっと出会ったりします。アイデアが思い浮かばないときに、実践してみたいところです。
◆そして最後の第3部は「議論に特化した対比思考」がテーマ。
第6章ではリバタニアリズム、第7章ではその反対とも言えるパターナリズムがそれぞれ掘り下げられています。
これらは私も単語として耳にしたことはありましたが、今般本書を読んで、初めてどういうものかを意識した次第。
本来は学術用語ゆえ、法や哲学的なフィールドにまで言及されています。
たとえばハワイ州では、バイクに乗る時は、ヘルメットは義務ではないものの、サングラスは義務なのだそう。
「自分の身を守るためにヘルメットを被るかどうかは自分で判断してくださいね。免許を取れるならそのくらいの判断力はあるでしょ。でもハワイの日差しは強くてまぶしい。自分の意思とは関係なく、目がくらんで他人を 撥ねるなど危害を加えないようにしっかりサングラスはしなさい」というメッセージと私は理解しています。つまり発想としては、リバタニアリズムであるとのこと。
逆に日本の法律だと、パターナリズム的ですよね。
◆これら2つの考えを踏まえた上で、最後の第9章では、その中間をいく「リバタリアン・パターナリズム」という発想法が紹介されています。
これは私も知らなかったのですが、俗に「ナッジ」と言われているものとのこと。
ナッジ(行動経済学)とは・意味 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD
上記ポイントの5番目では、そのナッジの実例が紹介されていますが、事例としてはデザイン思考にも近いような?
さらにはこうした「インセンティブ」を用いる際の「アメとムチ」の事例も紹介されており、本書では紹介されていないものの、個人的にはこの本が彷彿とされました。

ヤル気の科学 行動経済学が教える成功の秘訣
参考記事:【スゴ本!】『ヤル気の科学 行動経済学が教える成功の秘訣』イアン・エアーズ(2012年10月30日)
ご存知ない方は、上記レビューをご参考のほどを。
あらゆるシーンで使える「対比」のスキルを身につけるために!

対比思考 最もシンプルで万能な頭の使い方
第1部 思考法という「型」が必要なわけ
第1章 なぜ対比は万能な思考法なのか?
第2章 対比を意識するだけで、世界の見え方が180度変わる
第3章 思考力を高める4タイプの対比
第2部 対比を仕事や勉強に取り入れる
第4章 対比で理解する技術──「読む力」「聞く力」を磨く
第5章 対比で伝える技術──「書く力」「話す力」を磨く
第3部 議論に強くなる対比思考
第6章 学術用語のメガネをかける
第7章 対極にある考え方をとらえる
第8章 対立する2つの立場の中間を行く
【関連記事】
【思考術】『深く考える力』田坂広志(2018年05月29日)【スゴ本!】『ヤル気の科学 行動経済学が教える成功の秘訣』イアン・エアーズ(2012年10月30日)
【問題発見】『問題発見力を鍛える』細谷 功(2020年08月21日)
【モデルベース思考?】『スーパープログラマーに学ぶ 最強シンプル思考術』吉田 塁(2016年05月18日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
空海に学ぶ仏教入門 (ちくま新書)
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鉛筆一本ではじめる人物の描き方 ロジカルデッサンの技法
当ブログ的には微妙ですが、デッサン力をアップさせたい方のための1冊は、中古があまり値下がりしていないため、Kindle版が1200円以上お得な計算です!

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