2020年11月27日
【勉強?】『勉強の価値』森 博嗣
勉強の価値 (幻冬舎新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも大人気だった1冊。当ブログではおなじみである森博嗣さんが、独自の「勉強論」を展開された作品です。
アマゾンの内容紹介から。
勉強が楽しいはずない。特に子供が勉強しないのは「勉強は楽しい」という大人の偽善を見透かしているからである。まず教育者は誤魔化さずこれを認識すべきだ。でなければ子供が教師の演技を馬鹿馬鹿しく思い両者の信頼関係が損なわれる。僕は子供の頃あまりに美化された「勉強」に人生の大事な時間を捧げる必要があるか疑った。が、現在(正確には21歳から)は人は基本的に勉強すべきだと考える。そう至ったのは何故か? 人に勝つため、社会的な成功者になるためではない。ただ一点「個人的な願望」からそう考える理由を、本書で開陳する。
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questions / Enderst07
【ポイント】
■1.勉強は、釘を打つ練習であるわかりやすく例を挙げよう。たとえば、金槌で釘を打つこと、これが「勉強」というものの本質である。もし、金槌で釘を打つことが楽しいという人がいれば、それはそれで幸せである。一生その趣味を続けて、釘を打ち続ければよろしい。しかし、普通は、釘を打つ目的がほかにある。その目的が、釘を打つ行為を始めるよりもさきにある場合は、釘を打つことが楽しく感じられるだろう。自分が作りたいものがどんどん出来上がっていくし、また、釘の打ち方もしだいに上達するはずである。これもまた、楽しい体験となる。だが、その楽しさは、「作りたいもの」へ近づくプロセスが生み出している。
一方、まだ作りたいものがない人、作る目的がない人に、釘の打ち方を教えるとしたら、どうだろうか? それを教わる人は、いったい何が楽しいのか、まったくわからない。非常につまらない、と感じるだろう。もっと楽しいことが沢山あるのに、どうしてこんなことをしなければならないのか、と考えるはずだ。
■2.勉強の価値は抽象性にある
一番問題なのは、この勉強という行為の「抽象性」にあるといっても過言ではない。勉強が「何の役に立つのか?」と問われることは、非常に多い。社会に出てから、「こんな知識が本当に役に立つのか」と疑問を投げかける人も多数いるはず。
しかしそれは、勉強という行為の抽象性が理解されていないから、生じる誤解である。勉強は、そのように具体的な成果を求める行為では、そもそもない。
そこが最も重要なポイントであるにもかかわらず、いつも「何の役に立つのか?」という反発を受けるのが「勉強」であり、これに対する具体的な言い訳をしてしまうことで、ますますわけがわからなくなるのだ。
したがって、「勉強が何の役に立つのか?」と問われたときに僕は、「あなたは何の役に立つのか?」ときき返すことにしている。多少丁寧に問うとしたら、「あなたは何の役に立ちたいのですか?」となり、それに対する本人の返答が、勉強をする目的になりうるし、それがつまりは、「人間の価値」にもなるだろう。
■3.アウトプットする機会が子供にはない
勉強したことをテストでアウトプットする場合、通常は正解か不正解かという判定を伴う。点数がつき、その結果が他者と比較されるだろう。こういったアウトプットしかないから、アウトプットが嫌になる子供が増える。大勢いれば、比較結果でトップグループに入る人数は限られているから、大多数の子供はテストが嫌いになるだろう。
アウトプットを嫌がっていると、必然的にインプットも嫌になる。運動しないで食べてばかりいると肥満になるのと同じで、だんだん頭が重くなってくるし、イメージ的に、「もう頭には入らない」といった満腹感を抱くようになるだろう。
学校教育において、勉強が苦痛なものになるのは、これが原因だと思われる。スポーツのようにアウトプットすることが楽しい、汗を流すことが 清々しい、という感覚を子供に気づかせるような機会が、今の教育環境には存在しない、ということが問題なのである。
■4.自分に問い、自分に答える
ここまで書いてきたように、「勉強」は、自分で考えることが基本であり、本質なのだ。自分の頭で思考することが、すなわち「勉強」だといっても良い。したがって、どうすれば良いか、という質問には、こう答えるしかない。
「それを考えることから始めましょう」
質問をすることは、重要だ。質問が悪いわけではない。常に問うこと。何事にも疑問を持ち、何が問題であるか、自分は何がわからないのか、を認識する。ここがすべての「勉強」のスタートである。
そして、あらゆる質問に、まず自分が答えよう。つまり、自問自答しよう。
質問を考えたら、次にはその答を考える。考えることができないのなら、何故考えられないのかを考える。なにか足りない情報があるから考えられないのか。想像もできないのだろうか。間違っているか正しいか、判断がつかないからだろうか。
■5.「どう答えるか」ではなく「何を問うか」
担当した講義では、最初のうちは試験を行っていたが、講義の時間中に、全員に質問をさせることにした。(中略)
そのうち、全員の質問をワープロで打って、それぞれへの回答と併せてプリントし配布することにした。(中略)
こうすると、途端に他者の目を意識してか、質問内容を多くの学生が真剣に考えるようになった。同じような質問が多いと、自分の凡庸さが自覚される。なにか良い質問はないか、しかも講義に関する重要な点でなければならない。たった一行の質問をするために、講義をよく聴く結果にもなる。
最終的には、試験をやめて、僕はこの質問で成績をつけることにした。これは重要なポイントである。すなわち、どう答えるのかではなく、何を問うかで、その人間の理解度を測ることができると気づいたからだ。
【感想】
◆予想どおり、森先生の作品らしく、一筋縄ではいかない内容でした。一応、記事のカテゴリー的には「勉強本」にはしていますが、類書にあるような勉強法等に関する記述はほぼなし。
ただし、もうちょっと概念的に「そもそも勉強とは何ぞや?」から問うているのが、森先生らしいです。
たとえば上記ポイントの1番目は、ボリューム的には「序章」と呼んでもいいほどのボリュームがある、「まえがき」からのもの。
この「釘を打つこと」というたとえは秀逸で
また、「どうすれば釘の打ち方を効率良く学べるでしょうか?」という質問も、意味がないとまではいえないものの、本質から外れた問題だとご理解いただけると思う。方法を学んでいるのに、それを学ぶ方法を尋ねているのだ。と、勉強法そのものをバッサリ斬っています。
◆こういった「そもそも論」は、第1章でさらに発展しており、章題からして「勉強とは何か?」であるという。
上記ポイントの2番目は、この第1章からであり、「勉強が何の役に立つのか?」という話は、私たちの身の回りでもちょくちょく見かけるのではないでしょうか?
ここでの森先生の「あなたは何の役に立つのか?」という返しは、個人的には「目からウロコ」。
子供たちから言われたことはまだないですが、機会があれば、ぜひ考えさせてみたいです。
◆一方、その子供について触れている上記ポイントの3番目は、第2章からのもの。
ムスコは今春までの中学受験において、塾ではアウトプットの連続でしたし、必ずしもトップクラスに居たワケではないですが、「そういうものだ」と割り切っていました。
ただ、森先生の言われるように、他人との競争ではない形でのアウトプットがあれば、もっと「楽しい」という感覚をもって勉強ができたのかもしれません。
……実はこのポイントの3番目の部分の直後から、森先生の中学受験とそれ以降の勉強とのかかわり方が述べられているのですが、森先生は普通の方とは色々な意味で異なるので、どこまで読者の皆さんの参考になるのやら。
◆なお、こういった世間の考えとの違いからくる主張を、第3章と第4章でも丁寧に述べられているのですが、ここは割愛(すいません)。
そして上記ポイントの4番目は、第5章の「教えてもらうことが勉強ではない」から抜き出しました。
確かに、何かあっても自分で考えずに、すぐ他人に聞いてしまう人は多いですが、まず「自問自答」することは大事である、と。
質問を思いついたら、それに対して、何通りかの答を考えてみる。どんな可能性があるのかを考える。それらの可能性の中で、最も正しそうなものはどれか、とまた考える。同時に、どうして自分はそう考えたのかを考えてみよう。私自身も、心しておきたいところです。
さらに第6章からの上記ポイントの5番目も、その「質問」についてのものでした。
森先生は、過去の著作でも触れられていたように、出身校である名古屋大学で講義を持たれており、このような形で「質問」を活用されていた模様。
確かに勉強法でも、「友達と問題を作って出しあう」というTIPSが類書でもありましたし、「勉強」というものに関する本質的な部分で重要だと感じました。
あらためて「勉強とは?」を考えさせられた1冊!
勉強の価値 (幻冬舎新書)
まえがき
第1章 勉強とは何か?
第2章 勉強は面白くない?
第3章 勝つために勉強するのではない
第4章 学校で勉強させる意味
第5章 教えてもらうことが勉強ではない
第6章 「覚える」と「気づく」の違い
第7章 本当の勉強はとんでもなく楽しい
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【編集後記】
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