2020年09月18日
【名著解説】『座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」』出口治明
座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」 (角川新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中の「秋の文芸書・ビジネス書フェア」の中でも、人気の1冊。おなじみ出口治明さんが、ご自身の「座右の書」である『貞観政要』について解説された新書です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
中国は唐の2代皇帝・太宗による統治(貞観時代の政治)の要諦が凝縮された『貞観政要』。
クビライ、徳川家康、北条政子、明治天皇……と時代を超えて、世界最高のリーダー論として読み継がれている古典である。
本書では、稀代の読書家であり、『貞観政要』を座右の書にする著者が、その内容とポイントを、具体的に解説。
全組織人、必読の中国古典。
新書の定価を中古価格が上回っていますから、このKindle版が500円弱お買い得です!
Chang An -- Ancient City of the Tang Dynasty / JorizDG
【ポイント】
■1.「自分がしてもらいたくないこと」は相手にしない太宗は、『論語』にある 孔子 と弟子のやりとりを引用して、「ひと言で一生涯守り行うことのできるものがある。それは『 恕(思いやり)』という言葉ではないか」と述べています。
(巻第六 論倹約第十八 第三章)
ここでいう思いやりとは、自分がしてもらいたくないことは、人にも仕向けないようにすることです。(中略)
「相手が喜ぶことをする」という思いやりの一歩手前に、「相手が嫌がることをしない」という思いやりがあります。
自分がされたくないことは、相手にもしない。これが上に立つ人の最低限のルールです。上に立つ人は、それくらいの自制心を持つべきです。
■2.リーダーの持つ「3つの鏡」
では、良い意思決定をする上で必要な心構えは何かと問われれば、僕は迷うことなく、『貞観政要』の中で語られる「三鏡」を挙げます。再掲します。「太宗、 嘗て 侍臣 に 謂 ひて曰く、「銅を鏡にすれは、自分の顔や姿を映して、元気で、明るく、楽しそうかどうかを確認することができる。歴史を鏡にすれば、世の中の興亡盛衰を知ることができる。人を鏡とすれば、その人を手本として、自分の行いを正すことができる」
夫れ銅を以て鏡と為せば、以て衣冠を正す可し。
古を以て鏡と為せば、以て興替を知る可し。
人を以て鏡と為せば、以て得失を明かにす可し。
朕常に此の三鏡を保ち、以て己が過を防ぐ」
(巻第二 任賢第三 第三章)
という意味です。太宗は、リーダーの要諦として、「銅の鏡」「歴史の鏡」「人の鏡」の3つの鏡を持つことを説いています。
■3.あらゆる「大事」は「小事」から起こる
「朝廷で政務を決裁していると、律令違反に気づくことがある。あなたたちは、この程度のことは小事だとして見逃しているのかもしれないが、小さい問題であっても、おかしいと気がついたら報告をしなければいけない。天下の大事が起こるのは、すべてこのような小事が原因になっている。小事だからといって見逃していると、大事が起こったときには、もはや手の施しようがない。国家が傾くのも、組織が崩れるのも、すべて小事をおろそかにしたことが原因である」 (巻第一 政体第二 第八)リーダーは部下に権限を与えて、仕事を任せる必要があります。一方で、任された部下は、権限を与えられた以上、自分の守備範囲については、必死に仕事をしなければいけません。
太宗は、「あなたたちを信じて任せたのだから、任された範囲については、徹底的にかつ全力を尽くしてやってほしい。やるべきことをやっているかどうか、私はきちんとチェックしているので、そのつもりで」と、遠回しに釘をさしているわけです。
臣下は、太宗のこの言葉を聞き、「手は抜けない」と気を引き締め、緊張したことでしょう。
■4.困難に遭ってはじめて、その人の真価がわかる
太宗は、家臣、蕭瑀の忠誠心に対し、次のような詩を詠んでいます。「疾風、 勁草を知り、板蕩、誠臣を識る」疾風は、激しく吹く風。勁草は強い草。板蕩は乱世。誠臣は忠誠心のある家臣のことです。
(巻第五 論忠義第十四 第六章)
「疾風、勁草を知り、板蕩、誠臣を識る」とは、
「風が吹けば草はなびくが、強い草は風にもなびかない。それと同じで、その人の真偽は、世の中が平和なときはわからない。天下が乱れたときにこそ、その人の忠誠心がわかる」
ということです。
これは、現在の職場の組織でもそのまま当てはまります。
「まさかのときの友こそ、真の友」ということわざのとおり、苦しい状況のとき、手を差し伸べてくれる人こそ、信頼に値します。
■5.君主は「舟」であり、人民は「水」である
魏徴が古語から引用した「君は舟なり、人は水なり」は、『貞観政要』の中では有名な一句です。この古語には、2つの意味が含まれていると僕は解釈しています。
ひとつは、易姓革命の思想です。君主が人の道を外れると、天(神様)は洪水などの天災を起こして、「このざまは何だ」と警告をする。そして、それでも君主が行いをあらためなければ、人民が反乱を起こして、君主を排除する。これが易姓革命の思想です。(中略)
そしてもうひとつは、君主は寄生階級であるということです。水があって、はじめて舟は機能を発揮できます。水のないところに舟をつくっても、浮かべることはできません。
人民が生産階級だとすれば、君主は人民に頼る寄生階級です。ということは、人民や部下から、「この人についていこう」と思われなければ、組織を維持できません。人民や部下が君主に協調しなければ、君主がその地位にとどまることは難しいのです。
【感想】
◆今日ご紹介したこの作品ですが、実は当初、このように単行本で出されたもの。座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」
この赤い書影に見覚えのある方は多いと思いますが、それこそ過去のKindleセールで、何度もご紹介してきました。
ただ、中古が以前から高くて、現時点でも送料を足すと1500円以上するという……。
そこに新版として900円強の新書が出され、さらに今回のセールではその新書が半額になっている次第です。
冒頭でも触れたように、新書の中古は定価を超えていますから、かなりのお買い得かと。
◆さて、テーマとなる『貞観政要』とは、唐の時代を治めた太宗の言行録です。
貞観政要 - Wikipedia
本書では、この『貞観政要』の教えを、原文ないしは現代語訳を踏まえて、出口さんが解説している仕様。
上記ポイントの2番目や4番目の引用部分が原文で、完璧には読めないと思いますが、本書ではちゃんとルビが振られていますのでご安心ください。
なお、現代語訳だと分かりやすい反面、上記ポイントの3番目のようにやたらと長くなってしまうので、抜き出すTIPSにはかなり迷いました。
ぶっちゃけ、上記ポイントの5番目では、『貞観政要』からの引用部分(現代語訳)を丸ごとカットしているのですが、それでも意味が通じるように抜き出すとこのくらいのボリュームになってしまいます。
◆まず本書は、序章において『貞観政要』が生まれた背景を検証。
元々の発端が民族大移動から起こったことや、主人公である太宗が、どのように皇帝の位に就いたか等について述べられています。
さらには、『貞観政要』の重要な登場人物であり、太宗の生え抜きの側近である房玄齢と杜如晦、そしてかつては「敵」に仕えていた魏徴についても解説がありました。
特に魏徴は、おそらく本書でも太宗の次くらいに登場しており、とにかく太宗に諫言を言いまくり。
普通であれば、ここまで耳イタイことを言われたら、疎んだり、下手したら処罰しそうなところ、太宗は魏徴の言うことを素直に受け入れていた様子が描かれていました。
ちなみに、出口さんも部下に結構キツイこと言われている(それが言える部下の皆さんもスゴイと思います)ようなのですが、さすが『貞観政要』を座右の書にしているだけあって、こうした諫言で反省できる出口さんも流石だと思います。
◆それにしても、『貞観政要』で描かれている太宗を、ひと言で表すなら「謙虚」そのもの。
魏徴をはじめとした部下たちの直言・諫言に耳を傾け、よりよい治世を行う様は、まさにリーダーのお手本とも言えるものです。
逆に言うと、それだけ最初は間違ったことをしているのですが、いずれにせよ、自らの過ちを素直に認める姿勢は、現在の組織のトップや政治家にも求めたいところ。
まー、創業オーナーや絶対君主制だったりしないと、「間違いを認めて謝ったらその地位を追われる」可能性があるでしょうから、なかなか難しいのかもしれませんが。
なお、『貞観政要』をテーマにした作品は、本書を含め数多く出版されています。
Amazon.co.jp : 貞観政要
その中でも本書は、特に今回のセール期間中であれば非常にお買い得なので、この機会にぜひご検討いただけたら、と。
「世界最高のリーダー論」がここに!
座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」 (角川新書)
序 章 「世界最高のリーダー論」はどうして生まれたか
第1章 リーダーは「器」を大きくしようとせずに、中身を捨てなさい
第2章 「部下の小言を聞き続ける」という能力
第3章 「いい決断」ができる人は、頭の中に「時間軸」がある
第4章 「思いつきの指示」は部下に必ず見抜かれる
第5章 伝家の宝刀は「抜かない」ほうが怖い
第6章 有終の美は「自分」にかかっている
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【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ
子育て家庭にオススメしたい本書は、Kindle版が300円弱お得。
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ご声援ありがとうございました!
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