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2020年08月31日

【世間の正体?】『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』鴻上尚史,佐藤直樹


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同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか (講談社現代新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事の中でも人気だった、鴻上尚史さんの対談本。

お相手の佐藤直樹さんも、この「世間」というテーマでは何冊も著作を出されており、まさに息の合った内容になっています。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
新型コロナウイルスがあぶり出したのは、日本独自の「世間」だった! 
長年、「世間」の問題と格闘をしてきた二人の著者が、自粛、自己責任、忖度などの背後に潜む日本社会の「闇」を明らかにする緊急対談!

中古価格が定価を上回る以上、「17%OFF」に加えて、今なら「24%ポイント還元」のKindle版が、大変お買い得です!





Pressure / kevin dooley


【ポイント】

■1.世間と社会はどこが違うのか
鴻上  僕がいつも単純に説明しているのは、「世間」というのは現在及び将来、自分に関係がある人たちだけで形成される世界のこと。分かりやすく言えば、会社とか学校、隣近所といった、身近な人びとによってつくられた世界のことです。そして「社会」というのは、現在または将来においてまったく自分と関係のない人たち、例えば同じ電車に乗り合わせた人とか、すれ違っただけの人とか、映画館で隣に座った人など、知らない人たちで形成された世界。つまり「あなたと関係のある人たち」で成り立っているのが「世間」、「あなたと何も関係がない人たちがいる世界」が「社会」です。(中略)
佐藤  日本人は「世間」に住んでいるけれど、「社会」には住んでいない、ということですね。
鴻上  はい、昔からよく言われますね。エレベーターなどで知らない人と同乗すると、日本人はお互いに何の会話もしないまま、光る数字を見上げているとか。同じ「世間」の人ではないからですね。


■2.「法のルール」より「世間のルール」
佐藤 「社会」の話に戻りますと、欧米では殺し合いを避けるために法律ができた。アメリカは訴訟社会と言われるわけですが、法律以外に頼るもの、基準となるものがないんです。(中略)
 東日本大震災のときに海外メディアが避難所に避難している被災者の冷静さを見て、絶賛したという話をしましたが、では、欧米ではどうなのか。アメリカではハリケーンなどが起きると、スーパーマーケットが襲われたりするわけです。(中略)
 ところが日本の場合、なぜ被災者があんなに冷静に行動できたのかといえば、「みんな同じ」ような悲惨な状況に置かれた場合、「みんな同じ」という同調圧力が働く。自分がこういう状況でも「しかたがない」と考える。「世間のルール」が働くんですね。


■3.自殺大国日本の同調圧力
佐藤 殺理由で一番多いのは、経済的な問題。つまりは多重債務です。もちろんうつ病も自殺原因の上位にあるわけですが、正確に言えばうつ病は結果であって、原因ではない。ですからやはり、経済的な問題は深刻なんです。借金がかさめば、日本では結局、蒸発してホームレスになるか、自殺するしかない。そういう選択肢しか思いつかない人が相当数いるはずです。借金を返さないなんてのは、「社会」という観点から言えば契約違反に過ぎない。要するに、債務不履行じゃないですか。死ぬくらいだったら踏み倒せばいい。そう考えるのが海外では普通です。ところが日本人はそんなこと考えないんですよ。なぜ考えないのかといえば、先述した「お返しのルール」があるからなんです。お金を借りたのだから必ずお返ししなければいけないと思っている。だから、返済できないと「世間」から排除されても仕方ないと。結局、「ご迷惑をおかけしました」という遺書を残して死んでしまう。


■4.コロナ感染者に謝罪を求める理由
佐藤 「世間」の感情が許しませんからね。迷惑をかけられたと思っているんですよ。先にも言ったように、みんな家庭で「他人に迷惑をかけない人間になれ」と言われて育っているんです。だから他人から迷惑を受けるということについてものすごく過敏なところがある。(中略)
鴻上  自分が迷惑をかけちゃいけないと教えられてきたから、同時に他人の迷惑に対してすごく敏感になる。しかもケガレ意識まであるから、深刻な感染者差別が起きる。
佐藤  たとえば芸能人が感染したとしても、テレビで見ているだけの人にとっては何も関係がない。なのに謝罪を求めますよね。それはね、やはり、自分が迷惑をかけられたと思っているからですよ。何というか、それまで信じていた芸能人のイメージみたいなものが崩れて、その感情が反転し裏切られたと思って、それがバッシングにつながっていく。


■5.忖度という「世間」のルール
佐藤  忖度ってすごく面白い問題です。僕は「空気を読み、あらかじめ上の意向を察して、自分の行動を決定する」と定義しているんですが、これって、英訳できないんですよ。(中略)
興味深いのは『フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)』の記事のなかで忖度を定義しているんです。何と定義しているかというと、「与えられていない命令を先取りし、穏便に従うことを示す」と。つまり命令なんです。現在は命令はないけれども、これからあるのだと。僕に言わせれば、日本人にとって忖度というのは「法のルール」ではなくて、「世間のルール」なんですね。そうすると、命令などなくていいわけです。ところが海外の記者からすれば、いや、組織のなかのことなんだから、「法のルール」が存在し、絶対命令があるだろうという前提で見るから、忖度が全然分からない。分からないから、定義として「与えられていない命令を先取りする」という、余計に分からなくなるような解釈しかできないわけです。


【感想】

◆著者のお1人である鴻上さんが、これまで、さまざまな作品やコラム等で、日本の「世間」の問題について追及していたことは私も存じておりました。

そして、その代表作とも言えるのが、こちらです。

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「空気」と「世間」 (講談社現代新書)

参考記事:【結構スゴ本】『「空気」と「世間」』鴻上尚史(2010年09月07日)

……中古が800円以上しますから、現在「28%ポイント還元」のKindle版がオススメ。

実際、10年ほど前にこの本を初めて読んだ際、自分がこの「世間」というものについて、まったく意識したことがなく、まさに「目からウロコ」だった記憶があります。

その後、鴻上さんの努力もむなしく、「世間」の問題は改善されることなく、今回のコロナによって、より悪化してしまいました。

その辺のことがまとめられているのが、こちらのコラムです。

コロナで凶暴化する“世間”。感染者への攻撃は、なぜ起こるのか?/鴻上尚史 | 日刊SPA!

……ぶっちゃけ、このコラムを読んで納得された方は、この記事を読むまでもなく、本書をお買い求めいただけたら、と(アサマシw)。


◆この「世間」が、いわゆる「社会」と何が違うのか、ということについては、上記の『「空気」と「世間」』でも触れられていますが、読んだことのない方の方が多いと思われますので、上記ポイント1番目に抜き出してみました。

この両者の違いで、分かりやすいのは、たとえば「電車の中でのお化粧」等でしょうか。

つまり、電車の中にいるのは、面識のない「世間」ではない人ですから、平気で化粧ができる(もちろんできない人もいます)ワケです。

同じく、後ろからくる人にドアを押さえてあげないのも、「世間」の人ではないから(知り合いだったら押さえるかと)。

この辺は、外国で同じようにふるまうと、大層ヒンシュクを買うのですが……。


◆ただし、日本においても同じ「世間」の中では、非常にシビアな「ルール」を課していきます。

それは、本書のタイトルにもなっている「同調圧力」ゆえのこと。

極端な場合、上記ポイントの3番目にあるように、「『世間』に迷惑をかけてはいけない」と自殺に至ることもあります。

また、同じく「『世間』に迷惑をかけてはいけない」という考えゆえ起こるのが、まさに上記ポイントの4番目の、コロナ感染者への謝罪要求。

特に落ち度がなさげであっても、「芸能人だから」ということだけで、ネットで謝罪を求めたり、一方で芸能人の方も謝罪したりしています。

私は都民なので、今ひとつピンと来ないのですが、地方においては、感染者を村八分にするところも多いようですし、まさに「世間」というものが可視化されたと言いますか。


◆一方、コロナとは別に、10年前の作品には載っていなかったのが、上記ポイントの5番目にある「忖度」です。

もちろん、以前から概念としてはあったのでしょうけど、特に安倍政権によって広く知られるようになった、とも言えるもの。

上記ポイントでは割愛しましたが、お二人とも安倍政権に批判的で、このような発言もありました。
佐藤  今の政治の一番の問題は、社会が見えていないことにあります。「桜を見る会」なんかの問題で典型的なのは、安倍さんの頭の中にあるのは、自分の周りにある「世間」だけだということです。それだけ。「世間」の人間にいかに多く支持されるか、みたいなことしか考えていなくて、彼の頭の中では、その外側にある「社会」というのが全然認識できていない。お友だち内閣なんて言われますが、要は「世間」の内輪で固めた人事しかできないんですよ。
鴻上 「世間」の外側にあるのは日本という「社会」ですが、安倍首相にとっては、その日本という存在も自分の「世間」を大きく広げたものでしかないということですね。
実際、鴻上さんが何度かこうした「反政府」「反体制」みたいな文脈で炎上しているのは、「政府」という大きな「世間」の感情を傷つけたから、とご本人は推測されています。
現金給付の議論があったときに、税金を納める側として政府を監視する役割があるのだと主張したら、「国に文句ばかり言うな」みたいな反論がありました。私が払っているのは年貢じゃないんだよ、税金なんだから、当然、使い道を要求する権利だってある、という記事を書きましたが、21世紀の今、まさか「税金と年貢は違います」なんてことを原稿に書くとは夢にも思わなくて(笑)。
果たして次の政権はどうなることやら……。


◆もっとも、こうした「世間のルール」には良い面もあります。

その1つが、上記ポイントの2番目にあるような災害時の振る舞いであり、こちらは世界から賞讃されました。

それに、日本においてそもそもの犯罪率が低いのも、「世間」あってのことかと。

何とかこうした良い面を保ちつつも、「世間」の息苦しさから逃れられれば良いのですが……。

なお、対談の最後で、お二人はこのように話されています。
佐藤 つまり、「世間のルール」というものを少しずつゆるめていけば、おそらく自殺も減っていくんじゃないかと思うんです。だから僕としては、そうした生き方のほうが楽ですよ、ということを訴えたいんです。
鴻上  そうですよね。世界は簡単には変わらない。世間や同調圧力を一気に消し去る特効薬があるわけでもない。ただ、「楽かもしれない」道を模索することは大事だと思います。
本書がそうした流れのきっかけになることを、陰ながら願う次第。


「世間」の存在を認識し、対処するためには必読の1冊!

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同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか (講談社現代新書)
序章 コロナで炙り出された「世間」――戦時という風景

第1部 「世間」が生み出す同調圧力

第2部 同調圧力の正体


【関連記事】

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【オススメ!】『鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』鴻上尚史(2019年12月26日)

【ビジネスチャンス?】『クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン』鴻上尚史(2015年04月29日)

【ココロのスキマ?】『悪の脳科学』中野信子(2020年05月28日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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当ブログでもレビュー済みである文章術本は、Kindle版が500円以上お買い得。

参考記事:【文章術】『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』三宅香帆(2019年06月14日)

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【編集後記2】

◆一昨日の「Kindle本50%OFFキャンペーン」で人気だったのは、この辺の作品でした(順不同)。

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