2020年07月24日
【仕事術】『トヨタに学ぶ カイゼンのヒント71』野地秩嘉

トヨタに学ぶ カイゼンのヒント71 (新潮新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事からの仕事術本。タイトルにあるように、トヨタのカイゼンがテーマとなっていますが、他社の例や製造業以外の例も収録されており、勉強になりました。
アマゾンの内容紹介から。
リモートするほど必要な会議は、実はそれほど多くない。「ベストを追求するな」「残業を疑え」――強さの秘密は、職場のムダを徹底的になくすカイゼン=改善の積み重ね。働く人を楽にする、現場発の働き方改革決定版。
中古価格が定価を上回っていますから、Kindle版もアリだと思います!

Kaizen / KoiQuestion
【ポイント】
■1.面倒くさいことを簡単にするトヨタの製造現場上がりの副社長、河合満は「カイゼンは真面目なやつより横着者の方が思いつく」と言っている。
「昔は寝転んでテレビを見てると、チャンネル変えるのに、いちいち立ち上がって、回さなければならなかった。立ち上がるのが面倒だと思ったやつがテレビのリモコンを考えついたんだ。
そいつが今考えているのは、リモコンでさえ面倒くさいから何とかしたいということじゃないか。リモコンを使わなくてもチャンネルを変える方法を考えるのがカイゼンなんだよ。面倒くささをなくす。だから、真面目なやつより、横着なやつの方がいろんな提案をしてくる」
本書で取り上げるカイゼンとは河合が指摘したような、面倒くさいことを簡単にする方法だ。仕事、作業からムダを省いて生産性を上げるためのヒントである。
■2.売れ残りのパンを売り切る方法
さて、持ち帰りの飲食物を商う店ならばどんな店でも必ず「売れ残り」の商品が出る。
売れ残りを毎日、自分たちで食べるわけにはいかない。しかし、翌日に残すと味が落ちるから、販売するわけにもいかない。どこの店舗も廃棄処分にしているのが通例だ。(中略)
だが、満寿屋は売れ残りをなくすカイゼンをした。6店舗で残った分を帯広市内の飲食店街にある本店に集め、売れるまで店を開けておくことにしたのである。
飲食店街とはつまり、居酒屋、バー、クラブなどが集まる場所で、東京で言えば銀座の7丁目、8丁目、新宿の歌舞伎町みたいなところだ。(中略)
締めのラーメンの代わりにあんぱんやクリームパンを食べることもあれば、明日の朝ごはん用にと食パンを買っていくこともある。面白いことに、それは帯広の飲食店街の風物になってしまっている。通常、パン屋が深夜まで営業していることはない。ところが、やってみれば意外と需要はあった。ほとんど真夜中までに売り切れる。
■3.トヨタの社員食堂のカイゼン
まず、食堂の入り口から食事を受け取るカウンターまでは赤、緑、黄色などの線が床に描いてある。赤は「今日のランチ」、緑はパスタ類などの洋風のおかず、黄色が麵類だったりする。すると、うどんが食べたい人は黄色のラインに並び、今日のランチが欲しい人は赤いラインを選べばいい。床にラインを引いただけで、行列の長さは3分の1になる。(中略)
さらに、社員食堂で働く側にとっても仕事が楽になったカイゼンがある。社員食堂で常備されている醬油、ソースなどの調味料は各テーブルに置いてあるのではない。客がトレーに食事を載せた後の「調味料テーブル」にまとめて置いてある。
とんかつを選んだ人は調味料テーブルでとんかつにソースをかけて自分が食べるテーブルに向かう。刺身を取った人は醬油を小皿に入れて、食べるテーブルへ向かう。(中略)
ちょっとしたカイゼンだ。だが、醬油をテーブルに配置したり、中身を注ぎ足したりする作業がなくなり、人手がいらなくなる。その分、昼食時の調理や盛り付けに人員を振り向けることができる。
■4.セクションの人数は8人から10人にしておく
会社のセクションの人数は3人とか4人ではなく、8人から10人といったまとまりにしておくと融通が利く。小さな会社の場合は「総務」「宣伝」「広報」と分けて3人ずつのセクションを作るより、総務部のなかに宣伝と広報の係を置く。
トヨタ生産方式を指導している尾上はトヨタの生産ラインを例に挙げて、フレキシブルなセクション作りの大切さを説く。
「たとえば1人で作業するラインがあるとします。作業量が10パーセント増えたら、1人ではできないから2人でやることになる。でも、実際に2人でその作業をやると、時間が余ってしまう。2.0人が1.1人分の作業をするわけですから、2人とも『手待ち』が増える。
ところが、10人のラインで作業量が、1人あたりそれぞれ10パーセント増えたとします。1.1人×10人で、ちょうど11人分の作業になりますから、1人増やせばいい。各自が手待ちにはなりません。また、作業量が10パーセント減ったとしたら、ラインの人数を9人にすることができる。
小さな塊にせずに大きな塊にするとフレキシブルになるんです」
■5.正常と異常の区別をつける
カイゼンの4つのポイントのうち、ムダを発見して、それを取り去ると書いた。では、ムダを発見するために彼らはまず何に着手するのか。
「正常と異常の区別をつけることです」(尾上)
「まずは作業の正常、異常がわかるように、正常とは何かの基準を作る。たとえば、製造ラインの正常とは、必要最小限の在庫を持ちながらラインが流れていること。
そうすると、ラインのなかに物がたまっていたら異常です。異常を直すにはどうすればいいかを考える。ラインのなかで作業者がやることがなく手待ちをしていたら、それも異常です。手待ちをどうやって直すかを考える。作業がやりにくそうにしていたら、それも異常です。どうやったらやりやすくなるかを見ます。
ラインとラインの間を走って作業をしていたら、それも異常です。走ってまでやる作業はありません。走らなくてもスムーズにできるようにカイゼンする。作業で走るなんてことはできません。走っていたら、毎日、数百台の車を作るなんてことが続くはずがない。(後略)」
【感想】
◆新書の割には、ハイライトを引きまくった作品でした。1つには、冒頭でも触れたように、事例が必ずしもトヨタのみにこだわったワケではない、ということがあると思います。
たとえば上記ポイントの2番目は本書の第3章からなのですが、他の店なら安売りしたり廃棄したりしているところ、この満寿屋というパン屋さんは、価格は変えずに、営業時間を変える、という「カイゼン」を行ったのだとか。
十勝の最高級の小麦や素材を生かしたパン、菓子、ピザ作り 【満寿屋商店(ますや)】
……さすがにホームページでは、そのことには触れられていませんね。
また、同じく第3章では、おなじみ崎陽軒のシウマイ弁当が、運動会等のイベントで人気である秘密も明かされています。
なんでもこのシウマイ弁当、雨が降ったりしてイベントが中止となった場合、当日キャンセルが可能なのだそう。
崎陽軒の営業マンは、それをウリに営業をかけているらしいのですが、なぜキャンセル可能なのかは本書にてご確認ください(ネタバレ自重)。
◆一方、第6章でも、カイゼンのためのヒントがいくつも挙げられています。
たとえば、工場現場上がりの副社長である河合満さんいわく、
「カイゼンは0.1秒の短縮でいい」あるいは「ねじ1本拾うのだっていい」とのこと。
要は、カイゼンとは、小さなことから変えていくことが重要なのでしょうね。
同様に、上記で割愛したのが、「ミルクラン(巡回集荷)」のお話。
ミルクラン輸送 | トラック輸送 | 国内輸送 | 日本通運
なるほど、工場で作るだけでなく、原材料や部品を調達する際にも、カイゼンを行うことはできる次第。
そして分かりやすいのが、上記ポイントの3番目のトヨタの食堂のお話です。
ジャンルによって列を分けたり、調味料テーブルを用意するのは、他でもやっているかもしれませんが、いかにもトヨタらしいカイゼンではないでしょうか。
◆さて、1つ飛んだ第8章は仕事術が中心であり、いかにも当ブログ向きの内容が目白押し!
まず上記ポイントの4番目の人数のお話は、大会社ならではの解決法なのですが、確かに合理的だと思います。
……ただし、私の顧問先の多くが、「総務」「宣伝」「広報」の3つを全部「総務」でやって(場合によってはプラス「経理」も)、その人数も全部で「2人」とかがザラなんですが。
また、この章の章題ともなっている会議のカイゼンのお話は、なかなか豪快でした。
それまで結構な工数がかかっていたセクションの全体会議を、ある女性が変更したのですが、これがなかなかに大胆!?
・「役員が複数参加する会議の日時は固定(月末の月曜、午前8時)」
・3役員以外はすべて自由席
・発表資料の催促は行わず、その人の自己責任とする
というカイゼンにより、会議の設営に関わる仕事の量は1/5となったのだそうです(スゲーw)。
◆同じくこの8章からは、上記ポイントの5番目の「ムダの発見の仕方」を引用しました。
そのキモは、まさに「正常と異常の区別をつける」。
ボーっとしていると気が付かないことでも、「何が異常か」が理解できれば、上記のようにムダが見抜けるワケですね。
ちなみに、ここで触れられている「カイゼンの4つのポイント」の、その他の3つは、本書にてご確認ください。
……ということで、あれこれカイゼンについて触れてきましたが、カイゼンの本質とは、上記ポイントの1番目の「面倒くさいことを簡単にする」ではないか、と。
だからトヨタにおいても、横着な人の方が提案も多いし、提案自体を楽しんで行えているようです。
そりゃートヨタが強いワケですわ。
「あらゆる職場、学校、家庭で実践可能なカイゼン方法」がここに!

トヨタに学ぶ カイゼンのヒント71 (新潮新書)
第1章 トヨタ生産方式の「カイゼン」とは何か
第2章 横着者ほどカイゼンがうまい
第3章 常識は敵だ
第4章 ためてはいけない
第5章 それでもたまってしまったら
第6章 大事なのは違和感と嫌悪感
第7章 人間相手の仕事をカイゼンする
第8章 会議を減らす
第9章 管理職をカイゼンする
第10章 日常生活だってカイゼンできる
第11章 危機管理のカイゼン
第12章 カイゼンはクリエイティブワークだ!
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【トヨタ流】『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた100の言葉』若松義人(2013年06月22日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
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今年2月末に出たこちらの新書は、Kindle版が400円以上お買い得。

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