2020年05月04日
【思考法】『未来予測入門 元防衛省情報分析官が編み出した技法』上田篤盛
未来予測入門 元防衛省情報分析官が編み出した技法 (講談社現代新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「講談社 ノンフィクションキャンペーン」の中でも、個人的に読んでみたかった1冊。著者の上田篤盛さんは、元防衛省情報分析官であり、現在は軍事アナリストとして活躍されているだけあって、本書も情報分析や未来予測に関して、中身の濃い作品でした。
アマゾンの内容紹介から。
安全保障の最前線で磨き抜かれたメソッドを公開。自分の周囲や、会社・業界の動向を、9つの思考&分析ツールを駆使して予見する技術。「未来の自分は何をすべきか」が理解できる本。
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Customer Intelligence / deepakiqlect
【ポイント】
■1.未来予測のポイントポイントは、比較的当たる領域のものを中心に予測し、それをベースに修正を加えていくことだ。
たとえば天気予報などは、1週間先くらいまでならばかなりの精度で当てることができる。また人口統計などは数十年先までほぼ正しく予測できるし、国際情勢も大きな潮流に限れば数年先まで予測可能である。
このようなある程度まで間違いのないデータに裏付けられた予測を幹に据え、その上で修正を加えていけばいいのだ。
そして、その作業をする上で大事なのは歴史を知ることである。先程も述べたように、未来は人間がつくるものなので未来を予測しようとする者は人間を知る必要があるが、その人間なる存在を知る上で歴史ほど手っ取り早い教科書も他にないからだ。
ローマの歴史家クルチュウス=ルーフスが「歴史は繰り返す」と教えたように、歴史は人間が動かすものであるがゆえに、つぶさに見れば、そこには未来においても繰り返されるであろう普遍的なパターンを読み取ることができる。
■2.「問い」は4つ立てる
そして立てられるべきこの「問い」は、まず時系列によって「現在の問い」(ただしこれには過去から現在に至るまでの変化も含まれる)と「未来の問い」に分けられる。
次に内容的にYES/NOで答えられる問題なのか、それともYESやNOでは答えられない、たとえば「いつ、誰が、なぜ、どのように」などについて考える問題かに分類される。この場合、前者を「クローズドクエスチョン(CQ)」、後者を「オープンクエスチョン(OQ)」という。(中略)
なぜ4つの「問い」を立てることが必要なのだろうか。
先述のとおり、まず、すべての情報分析は現状を見ることから始まる。その際、焦点を絞って見る、視野を広げて見ることが重要になる。この両方の見方を支えるのがCQとOQなのである。
次に、現状分析における2つの見方を未来予測に適用するわけだから、CQ、OQそれぞれに現在の「問い」から未来の「問い」が派生する。
逆に未来の「問い」から考えていく場合は、いったん現在の「問い」に戻すことが大切になる。未来予測は現状分析の上に築かれるものだからだ。
ようするに、最も知らなければならないキークエスチョンを設定するためには、4つの質問のディメンション(分析の軸)を縦横に行き来する思考法が必要になってくるのだ。
■3.アウトサイド・イン思考
我々を取り巻く「環境」は、大きくは外部環境と内部環境に分けることができる。外部環境はマクロ環境ともいい、世界的な潮流ないしは社会全体を指す。これに対して内部環境は、業界内部の環境や自社の環境のことなどである。「現状を認識する」とは、この外部環境と内部環境を正確に把握するということにほかならない。
自社の戦略や戦術を立てるにあたって、まずは大きな外部環境に着目してから、徐々に内部環境を分析していくような思考法を「アウトサイド・イン思考」もしくは「アウトサイド・イン分析」という。まず最も大きな単位である世界について考え、それから少しずつ業界内部や競合他社、自社の能力といった身近な内部環境に着目していき、最後に自社の戦略・戦術などへの影響を考えていく思考法である。
なぜこうした思考法が重要かといえば、外部環境、すなわち世界のメガトレンドが内部環境を変化させることは往々にしてあるのに対して、その逆のパターンというのは、通常は起こりにくいからだ。
■4.アナロジー思考
アナロジー思考は「類似思考」「つながり思考」「点と点をつなぐ思考」などともいい、未来予測において仮説を立てたり、検証したりするための代表的な思考法でもある。
2001年の9.11同時多発テロにおいて米国政府及び情報機関がインテリジェンスに失敗した(つまりテロの発生を防げなかった)のは、この「点と点をつないで考える」ことができなかったためだったと指摘されている。
この事件が起こる以前の1998年には、アルカイダが関与したケニアとタンザニアの米大使館の爆破が起きていたほか、いくつかの兆候があった。そうした兆候を軽視してしまった想像力の欠如がテロを防げなかった遠因であるとの反省がなされたのである。
アナロジー思考をごく簡単に説明すれば、前例、他業界・他商品などから学ぶということになる。つまり過去の類似した事象であるとか、他領域で現在起きている同様な事象に着目することで、自分がいま直面している事象の未来の展開を予測するのである。
■5.「未来のシナリオ」で大事な3つの点
「初めてのシナリオを書き終わったところで、今後もこの作業を続けていくうえで重要なことをいくつか教えておこう。
まず第一に、『シナリオは常に修正する』こと。一度シナリオを作ったからといってそれを額縁に入れて飾っておくのではなく、環境変化や最新の情報に応じてどんどん修正していくんだ。(中略)
そしてそれ以上に大事な第2の点は、未来に向かって自己の能力やスキル、精神性を高めろ、ということだ。『未来がどうなるか?』とあれこれ思いをめぐらし、受動的、内向きになっても仕方がない。
現代のカリスマのひとりに元ライブドア社長の堀江貴文氏がいるが、彼は『人間はAIに仕事を奪われる』というよくある見方に対し、『人の知性や成長力、順応性などを考慮しない、バカらしい意見だ。AIのことを正しく学び、現在の知見から自分なりに考えてみるべきだ』などと一蹴している。私は堀江氏を全面的に信奉しているわけではないのだけど、この言葉に関しては実に的を射ていると思うね。(中略)
そして最後に、冒険やリスクを恐れずに行動し、失敗を教訓にせよということ。シナリオ・プランニングの考え方の基本は、起こり得る複数のシナリオを作成して、それに対して今から準備することだ。
【感想】
◆冒頭で触れたように、著者の上田さんは元防衛省情報分析官だけあって、前半部分の事例の多くは、国家問題に関するものがほとんどでした。「X国はミサイルを発射するか?」ですとか「Y国がD島に武力侵攻するか?」といった、国名等を伏せた(実質伏せていませんw)ものから、「中国はイランに弾道ミサイルを売っているのか?」のようにストレートなものまで、普通のビジネスパーソンでは直面しないようなお話がてんこ盛りという。
そして、こうした諸問題を解決すべく、冒頭の内容紹介にもある「9つの思考&分析ツール」が紹介されているのが、本書の第3章です。
目次にも書かれていないのですが、その9つを列挙すると以下の通り。
(1)「問い」の再設定
(2)アウトサイド・イン思考&フレームワーク分析
(3)システム分析
(4)クロノジー(年表)分析
(5)マトリックス分析
(6)アナロジー分析
(7)ブレーンストーミング&マインドマップ
(8)4つの仮説案出
(9)シナリオプランニング
◆上記ポイントの3番目の「アウトサイド・イン思考」は、上記の「9つの思考&分析ツール」の(2)(の一部)に該当しますし、ポイントの4番目の「アナロジー思考」も(6)からのもの。
正直、上記ポイントは、ここから全部選んでもいいくらいだったのですが、それはさすがに自重しました。
とはいえ、本書に収録されている図や表は使えませんから、これらがないと分かりにくいツールは割愛せざるを得なかったわけでして。
たとえば(3)の「システム分析」にあった「氷山図」は、どれも似たようなものなので、画像検索で引っ張ってきて補足できますが。
氷山図 - Google 検索
(9)の「シナリオプランニング」に出てくる「イベント(事象)ツリー」は、この記事に収録されている図に近いものの、やはりフォーマットが同じではないんですよね……。
あの事故はなぜ起きたのか!! (4) ―― How to リスク分析|Tech Village (テックビレッジ) / CQ出版株式会社
この「イベントツリー」の考え方は、個人的にはかなり気に入ったので、ぜひご紹介したかったのですが。
◆一方、第4章からの3つの章では、物語形式によるケーススタディが登場します。
しかも、それぞれ
「将来有望な職業を予測する」といった具合で、国防ネタとは無縁な、身近な事例なものなのがありがたいところ。
「未来のベストセラーを予測する」
「これからの世の中を予測する」
ちなみに第4章では上記のツールの(2)(3)(5)を使用し、第5章では(1)(4)(5)(6)(7)を、そして第6章では(8)(9)を用いて未来予測を行っており、見事にツールがばらけています。
特に、第4章のテーマは、就職・転職並びにスキルアップの参考になるでしょうし、第5章のテーマは、当ブログにもいらっしゃるであろう出版関係者の方なら一読の価値アリ!
とりわけ、後者の話で登場した、年度ごとのテーマ別のマトリックス図は、個人的にも非常に興味深いものでした。
……ただ、本書の結論的なものをテーマにして本を出してスベっても、責任はとれませんが(「誰」が書くかも大きな要素ですし)。
◆もっともコロナによって、本書の出た時期とは、世間がまったく異なるのもまた事実。
こんな記事を読むにつけ、今後国際的な交流はかなり難しくなりそうです。
韓国が24日、生活の正常化に向けた2年間のガイドラインを発表。その間はこれまでの生活には戻れない見込み。 pic.twitter.com/GHQgAqkYp0
— ロイター (@ReutersJapan) April 28, 2020
ちなみに2012年に、イギリス『エコノミスト』誌が『2050年の世界』なるものを発表し、そこで「1970年代において社会の中で言われていた未来予測」が現代においてどうだったかの検証を行っているのですが、その中に「全世界的なパンデミックの発生」という予測もあったとのこと。
8年前の時点や、本書が出た時点では「ハズレ」とされていたのですが、見事に今、当たってしまったわけです。
とはいえ、このような「変化」が起きたのなら、それを踏まえて上記ポイントの1番目にあるように「修正」を加えていただけたら、と。
「未来の自分が何をすべきか」を考察するために読むべし!
未来予測入門 元防衛省情報分析官が編み出した技法 (講談社現代新書)
はじめに
第1章 未来予測とは何か
第2章 情報分析の技法
第3章 未来予測のための情報分析法
第4章 ケーススタディ1 将来有望な職業を予測する
第5章 ケーススタディ2 未来のベストセラーを予測する
第6章 ケーススタディ3 これからの世の中を予測する
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【編集後記】
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【編集後記2】
◆昨日の「講談社 ノンフィクションキャンペーン 追加分」の記事で人気があったのは、この辺の作品でした(順不同)。ハードワーク 勝つためのマインド・セッティング (講談社+α文庫)
地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団
成長したければ、自分より頭のいい人とつきあいなさい グローバル人材になるための99のアドバイス
参考記事:【英語学習】『成長したければ、自分より頭のいい人とつきあいなさい』に学ぶ英語学習の心構え5つ(2017年09月25日)
2時間でわかる政治経済のルール (講談社+α新書)
宜しければご参考まで!
ご声援ありがとうございました!
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