2019年12月13日
【働き方】『定年消滅時代をどう生きるか』中原圭介
定年消滅時代をどう生きるか (講談社現代新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのも、昨日に続いて先日の「未読本・気になる本」の記事にて人気だった1冊。タイトルを見ると中高年向けのようですが、実際には若手はおろか、大学生の方にとっても一読の価値がある作品でした。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
これからの日本では、大学を卒業後に就職して70~75歳まで働くことになるので、個人の会社員生活は50年前後と、今の定年より10~15年程度も長くなります。
現在24年にまで縮まってきている企業の平均寿命が将来的に20年を切るようになったら、会社員生活は企業寿命の2.5倍を超える長さになってしまうというわけです。
平均的な働き方をする日本人であれば、計算のうえでは人生で3つの仕事や会社を経験しなければなりません。
そこで充実感のある人生を歩み続けるためには、どうすればいいのか――。
本書がみなさんにとって、明るく前向きに生きるための一助としていただけたら幸いです。
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Retirement Key / CreditDebitPro
【ポイント】
■1.現行の再雇用制度の弊害年齢だけを理由にして一律で給与を下げるという仕組みは、再雇用者のモチベーション低下をもたらしていることは間違いありません。それが企業の生産性の低下につながっていることを考えると、今の再雇用の制度は企業の成長のために上手く機能しているとはいえません。とくに優秀なシニア人材(60〜65歳) は、労働力不足に悩む多くの企業が相応の給与で採用したいと考えているので、給与が大幅に下がる元の企業にわざわざ残留する必要はないからです。
たとえば、知識やスキルを持っているエンジニアは給与の大幅な引き下げを嫌がって、中国や韓国など新興国の企業に転職するケースが相次いでいます。知識やスキルに見合った給与を出さないことが、貴重な人材の流出に結びついているのは残念でなりません。こうした状況を改善するために、定年後のシニア人材の給与を一律に下げるのをやめて、個人の専門性や能力に応じて待遇を大幅に見直す企業が増えているのです。
■2.会社の人材育成には頼らず自分でキャリア形成を考える
たしかに、会社は社員に対して定期的に研修を実施し、さまざまなスキルを習得する手助けをしてくれています。たとえそれがその会社だけでしか通用しない、カスタマイズされたものであったとしても、会社は社員教育に多くの費用と時間をかけてくれているため、社員ひとりひとりが自らのキャリア形成について真剣に考える必要などまったくなかったというわけです。
ところが現在、企業全体の総人件費の上昇を少しでも抑えようと、人材教育に割く費用を減少させている企業が増えてきています。通年採用やそれに伴うジョブ型雇用が普及していくにつれて、企業は新卒社員のキャリア形成にかけるコストを縮小していかざるをえないでしょう。(中略)
そのようなわけで、古き良き時代から今にいたるまで、企業はお金と時間をかけて社員のキャリアをつくってくれてきましたが、新しい人事制度が広まる時代には、社員が個々の責任で自らのキャリア形成を考えていかねばなりません。グーグルやアップルなどの人気企業では、専門性を有するのはもちろんのこと、知識や経験も積んでいる即戦力の人材を採用しています。何もできない新卒採用を初めから育成する時間など、そもそも持ち合わせていないのです。
■3.大手企業の4分の1が通年採用を導入
新卒一括採用が通年採用へと徐々に衣替えしていくのは、日本型雇用を改めさせる突破口となるのは間違いありません。経団連と大学側が通年採用の導入を推進すると合意したことによって、いよいよ多くの大企業は人事制度をはじめ組織全体の見直しに着手せざるをえないからです。
その結果として、2019年は大企業のおよそ4社に1社が通年採用を導入し、今後も導入企業がさらに増えていく見通しにあります。ソフトバンクグループやファーストリテイリング、楽天のようにすでに通年採用を導入している企業は、いずれもベンチャー精神が強く、グローバルリーダーを担う人材の獲得に力を入れています。
通年採用は採用活動のスケジュールが固定せず、効率よく集中することができないため、企業のコストが上がってしまうというデメリットがあるものの、外国人留学生や外国の大学生・大学院生を採用しやすくなるので、優秀な人材を獲得しやすいというメリットが大きいといえます。ジョブ型採用と組み合わせた新しい採用形態は、雇用の流動化が加速する契機になるでしょう。
■4.大学の改革に必要な4つの視点
(1)人材を育てるために、育成の場を縦割り型から横断型へ変え、学科や学部をまたぎ、相乗効果が見込める共同授業を提供する
(2)大学の教員の採用は開放的にし、多様な人材を採用するために、外部から人材を受け入れる
(3)優秀な人材を発掘するために、世界や社会の変化に順応して、各々の専門性に不可欠な能力は何かを常に問い直す
(4)全国の大学や企業と協力・提携を深め、共同研究や人材交流により、競争力向上やイノベーションに直結する成果を出す
(詳細は本書を)
■5.これからの時代は直感型の経営が主流になる
たしかに今の社会においては、直感による考えでは人々を説得するのは非常に難しいのですが、私はこういった時代の潮流は徐々に変わっていくだろうと考えています。というのも、ビジネスにおけるAIの席巻が、必ずしも思考のプロセスを明かす必要がないという環境を形づくり始めているからです。AIがビッグデータを深層学習して出す答えというのも、思考のプロセスがまったくわからないので誰もその答えを詳しく説明することができないのです。
ですから、これからの時代では、先に紹介した鈴木会長が行うような直感型の経営が主流となってくるだろうと予想しています。変化が目まぐるしいグローバル社会では、ひらめき型の経営者よりも直感型の経営者のほうが、時代の本質をより正確に見極めて、優位に立つことができるというわけです。その兆候としては、昨今はグローバル企業の対応が変わってきているとひしひしと感じていますし、日本でも直感型の経営判断を取り入れる企業が増えてきているように思われます。
【感想】
◆冒頭でも触れたように、タイトルの印象とはやや異なり、かなり広範囲な内容の作品でした。とはいえ、まず第1章では日本における「定年」に、今後変化がある、という指摘が。
そもそも近未来本等でもおなじみのように、日本の社会保険料制度が将来的に立ち行かないことが原因です。
その結果、政府は65歳までの雇用を義務付けていますが、これが70歳までになることはほぼ明白であり、著者の中原さんいわく、2030年代に入る前には「75歳までの雇用を『努力義務』とする」のではないか、とのこと。
もっとも現状、大多数の企業では定年再雇用制度が一般的で、給料が1/3や場合によっては1/2になる、というのが当たり前。
その結果起きているのが、上記ポイントの1番目のような問題なワケです。
要はスキルがあるなら、いつまでも働いてもらう一方、スキルがない人は、どんどん給料を下げる方向に進むという。
◆その流れは「出口」のみならず「入口」にも影響を与えており、結局最初から優秀な人材を雇えれば良いのは明白です。
最近では新入社員であっても、特別なスキルや専門技能を有する人には1000万円超の初任給を与える企業も出てきました(それでもGAFAには全然及びませんが)。
逆に入社の時点でスキルがなかったとしても、企業が研修等で教育してくれていたのが、今後は企業自身に余裕がなくなり難しくなってくる模様。
思い返せば私も、4月に入社して7月に配属されるまでの3カ月間、毎日研修だけで給料がもらえたのですが、いずれは(すでに今でも?)昔話になってしまいそうです。
そこで大事なのが、第2章から抜き出した上記ポイントの2番目にある「企業に頼らないキャリア形成」で、私たち一人ひとりが、自らスキルアップに励む必要がある次第。
かといって「新入社員一律」で教育できるようなスキルであれば、最近流行りのRPAでカバーできそうですし、自らの専門性を高めるものを鍛錬しなくてはなりません。
◆一方企業の方では、すでに動き始めており、第3章の章題は「トヨタ『採用の半数が中途』の衝撃」というもの。
実際、日本全体としても転職する年齢層が、若い世代が減って、中高年が増えるという変化が起きているのだそうです。
中高年層の転職が増えているのは、年齢が高いほど給料も上がる年功序列の給与制度が崩れてきたからです。とりわけ人手不足が深刻な近年では、若手層の給与を引き上げる一方で、中高年の給与の伸びを抑える大企業が増加基調にあるのです。中高年にとっても大企業で定年まで働くというメリットが薄れてきているというわけです。優秀な人材であればいつでも欲しいのは当然であり、それが上記ポイントの3番目にある「大手企業の4分の1が通年採用を導入」につながってくるワケで。
これは逆に、その企業でしか通用しないスキルは、もはや用をなさないということを意味しています。
そこで本来なら、就職後でも大学や大学院が社会人を対象にする公開講座等を活用して、「学び直し」をしていく必要があるのですが、その比率が日本は突出して低いのだそう。
もっともその原因は、長時間労働にあるのは明白なのですが……。
ちなみに中原さんは、「3年で1つの領域のプロを目指す」ことで、9年で3つのプロ領域を獲得することを推奨。
これも最近のデジタルコンテンツの充実ぶりや、将来的にARやVRを活かした練習等が広まれば、不可能ではないかもしれません。
◆とはいえ、どうせ学ぶのであればもっと早い方がいい、ということで、第4章では大学教育についての考察が。
まず最近の大学生は、スマホばかりやって読書量が少なすぎる、という指摘があるのですが、そもそもスマホが出てくる前から、アメリカの大学生に比べたら日本の大学生は本を読んでいないのは事実でした。
平均でアメリカの1/10だそうですから、それは知識量や思考能力に差があるのも致し方ないところ。
私も今でこそ本は読んでいますが、大学時代の読書量なんて小学校時代より少なかったと思います(恥)。
もっとも、それでも卒業できてしまうのは、大学自体にも問題があるということで、中川さんが挙げられているのが、上記ポイントの4番目の「大学の改革に必要な4つの視点」。
本書ではもうちょっと詳しく書いてあるのですが、最後に表でまとめられていたので、そちらを抜き出しております。
◆なお、上記ポイントの5番目の「直感」のお話は、本書の第5章からのもの。
対応して登場しているのが「ひらめき」で、どちらも似たようなイメージでいましたが、中川さんによると違うのだそうです。
要するに、「直感」も「ひらめき」も、誤解を恐れずに別の言葉で表現すれば、「これまでの経験知の集大成」と言えるのですが、「直感」のほうは「意識的な経験知と無意識的な経験知の集大成」、「ひらめき」は「意識的な経験知のみの集大成」と分けることができると思います。もちろん、この「直感」が生まれるためには、膨大な経験値が必要になりますから、それを補うには結局読書が一番のよう。
ちなみにこの第5章では、第4章以上に読書について言及されており、幅広いジャンルの本をたくさん、特に古典を読むことが推奨されています。
しかしながら私は、若いうちから考える癖をつけて経験知を積み増すことによって、30代や40代であっても、直感がいかんなく発揮できる脳をつくりあげることができると確信しています。そして、経験知を積み増すのに手っ取り早い方法が、本章で申し上げた「本を読む→考える」「試行錯誤する→考える」といった思考の繰り返しであるというわけです。やはりこれからのキャリアを考える上でも、読書は大事だということ。
大学生から中高年まで、必読の1冊です!
定年消滅時代をどう生きるか (講談社現代新書)
第1章 日本から「定年」が消滅する
第2章 大きく変わる企業の採用
第3章 トヨタ「採用の半数が中途」の衝撃
第4章 人材育成の仕組みを再構築する
第5章 これからを生きるための最大の武器
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【編集後記】
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