2019年11月28日
【端的?】『〔エッセンシャル版〕行動経済学』ミシェル・バデリー
〔エッセンシャル版〕行動経済学 (早川書房)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、本日最終日となる「早川書房 秋のビジネス書フェア」の中から、昨日のランキングで第9位に入った作品。当ブログでも大人気の「行動経済学」について、包括的にまとめてくれています。
アマゾンの内容紹介から。
合理的な意思決定を阻む様々な「バイアス」から、それを政府や企業の制度設計に逆用する「ナッジ」まで、ノーベル経済学賞の受賞者が続き脚光を浴びる行動経済学を最速で学ぶ。経済学・心理学を学ぶ学生、多忙なビジネスパーソン必携の入門書。解説/依田高典
なお、本日中であれば、Kindle版が600円以上お買い得となります!
behavioral economics / trendingtopics
【ポイント】
■1.外発的モチベーションに駆逐される内発的モチベーション献血も、外発的モチベーションによって内発的モチベーションがどのようにクラウディング・アウトされるかを示す重要な例だ。献血の不足には多くの国が頭を悩ませており、経済学者は献血者を増やす新たな方法を模索してきた。経済的な解決策としてわかりやすいのは、献血者にお金を払うことだ。しかし実験的に献血を促すために献血者に金銭的報酬を導入してみたところ、むしろ逆の、予想外の影響があった。報酬は人々の献血への意欲を高めるどころか低下させたのだ。理由として1つ考えられるのは、金銭的報酬という外発的モチベーションによって、良い市民であろうとする献血者の内発的モチベーションが阻害されたということだ。
■2.不当な扱いを受けると社会的嫌悪を抱く
行動経済学者のなかには、不平等回避をある種の感情、すなわち社会的感情と見る者もいる。私たちは自らの置かれた社会的状況に応じて、 羨望、 妬み、 憤りといった感情を抱く。最後通牒ゲームで不当な扱いを受けたときも、おそらく感情的要素が働くのだろう。たとえば回答者(プレーヤーB)がずるい提案をした提案者(プレーヤーA)に対して怒りを感じれば、相手を懲らしめるために40ポンド以上を捨ててもよいと思うかもしれない。神経科学者は脳撮像技術を使って、私たちの脳内で何が起きているかを解明してきた。最後通牒ゲームに回答者役で参加した人の脳を撮影した実験では、不当な扱いを受けたと感じた人は、嫌なにおいを嗅いだときと同じ神経領域が活性化していることが明らかになった。神経科学者や神経経済学者にはこれを、私たちが不当な扱いを受けたときにある種の社会的嫌悪を抱く証拠と見る者もいる。
■3.政治における確証バイアス
確証バイアスは、物事を判断するとき、もともと抱いている考えに無理やり結びつけようとするときに起こる。左派と右派の政治論争でよく見られる現象だ。(中略)
イギリスでは2015年に、大方の予想を裏切ってジェレミー・コービンが野党・労働党の党首に選出されたが、このときも確証バイアスが鮮明になった。党首として初めて首相への代表質問に立ったとき、野党党首を含めた国会議員の質問をまとめるのが慣例であるにもかかわらず、コービンは有権者からの質問を取り上げた。支持者はそれをいかにもコービンらしい民主的な姿勢だと称賛した。一方、反対派はコービンが無能で、自分では質問を考えられない証拠だと受け取った。いずれにせよジェレミー・コービンの行動によって、彼に対する周囲の意見は変わらなかった。誰もが、もともと抱いていた考えへの確証を得ただけだった。
■4.社会の空気と景気の関係
マーク・カムストラらは季節性の鬱のデータを使い、冬と夏では金融市場の動きが異なるという仮説を検証した。季節性の鬱は、季節性情動障害(SAD)の発生率によって測定できる。SADを患っている人は、慎重でリスク回避的になる傾向が高い。これが金融市場のトレーダーにも当てはまるとすれば、冬のあいだはよりリスク回避的になるだろう。日照時間が短い国で暮らしているトレーダーも同様だ。カムストラの研究チームは、夜の長さ、曇り空、気温はいずれも株式市場のパフォーマンスに強い影響があることを発見した。そして季節性の鬱はトレーダーのリスク回避性を高めると結論づけた。カムストラのエビデンスは、デビッド・ハーシュリーファーとタイラー・シュムウェイが実施した同じような調査(2003年)でも確認された。ハーシュリーファーらも、株式相場と日照時間には正の相関があるという結果を得た。
■5.ナッジ(誘導)を促すデフォルト・オプション
デフォルト・オプションによって、個人に年金貯蓄を増やすよう促すこともできる。ベナルチとセイラーが提唱した「明日はもっと貯蓄しよう(Save More Tomorrow、略称SMarT)」という年金システムについては、第4章ですでに触れた。これもデフォルト・オプションを活用している。企業の従業員に退職後に備えて貯蓄を促すため、このシステムではデフォルト・オプションとして全給料の一定割合が年金貯蓄に振り込まれるようになっており、また給料が上がれば昇給分の一定割合だけ貯蓄額が増えるように設定されている。ただこれは強制ではない。従業員には選択権がある。オプトアウトすることは可能だ。デフォルト・オプションは政策立案者の政策手段であり、ナッジのパターナリズム的側面だ。一方、オプトアウトは意思決定者の選択である。これがナッジのリバタリアン的側面だ。
【感想】
◆本書は書名の先頭に〔エッセンシャル版〕と入っているのですが、読む前にはそれがどういう意味を持つか、よく分かっておりませんでした。それが読み始めて「なるほど」と思ったのが、とにかく「コンテンツを突っ込んでいる」ということ。
実際、行動経済学の様々なテーマがよく言えば「網羅」(悪く言えば「羅列」?)されており、ページ数の割に読むのに骨が折れました。
一応、行動経済学本をそれなりに読んでいる私でこのアリサマですから、読み慣れてない方だと、結構大変かもしれません。
ただ、そういう方にとっては、各章ごとの研究や実験の結果も初めてでしょうから、きっと「目からウロコ」になるのだと思います。
◆さて本書は第1章にて、従来の経済学と行動経済学の違い等を解説。
続く第2章では、上記ポイントの1番目にあるような、モチベーションやインセンティブについて言及しています。
ちなみに引用内にある「クラウディング・アウト」とは、「駆逐」を意味するらしいのですが、過去読んだ類書では出てきてなかったか(原書にはあったのかもしれません?)と。
また、同じような事例としては、おなじみの「イスラエルの保育園における遅刻の罰金」のお話も、本書では登場していました。
遅刻は罰金を科すと急増する? 正しいヤル気の高め方|出世ナビ|NIKKEI STYLE
◆一方第3章では、社会的要因が行動に及ぼす影響について言及しています。
まず上記ポイントの2番目に出てくる「最後通牒ゲーム」は、人が合理的に動けないことがよく分かる、まさに行動経済学らしいもの。
ただし、そこにあるように「嫌なにおいを嗅いだときと同じ神経領域が活性化している」というのは初めて知りました。
また、この第3章では「利他的処罰」なる、これまた初めて知るフレーズが登場。
利他的な罰 - 脳科学辞典
炎上した人物に、Twitter等で正義をふりかざす人が大量発生するのも、うなずけます。
◆続く第4章では、「ヒューリスティック」や「バイアス」が多数登場。
上記ポイントの3番目の「確証バイアス」は、ご存知の方も多いと思います。
ここでは英国の政治のお話が出ていますが、これはまぁ、どこの国の政治も似たようなものの気が。
……結局、元から持っている考えに無理やり当てはめちゃうんですよね。
また、第5章では有名な「プロスペクト理論」が登場するものの、さすがにこれはご存知の方も多いでしょうから割愛。
同じく第6章の時間バイアスも、結構有名ですから、まぁいいかな、と。
◆1つ飛んだ第8章からは、上記ポイントの4番目を抜き出しました。
こういった外部要因で判断が変わってくる、という現象は、人間が完全に合理的だったら起こりえない話でしょうね。
さらに最後の第9章では、公共政策への応用が言及されており、上記ポイントの5番目の「デフォルト・オプション」は、他にも臓器提供等で効果を上げているようです。
ただ、この「デフォルト・オプション」は、「消費者に不利なかたちで民間企業に悪用されやすい」という指摘もありました。
個人情報を収集し、他の会社に転売することで利益を稼ごうとするマーケティング会社は、私たちがそうと知らずに自らの情報を他社に譲り渡す許可を与えてしまうような個人情報入力フォームを作成する。あー、最近もそんな話があったようなw
やや面白みに欠けますが、行動経済学をひととおり学ぶには、うってつけの1冊!
〔エッセンシャル版〕行動経済学 (早川書房)
第1章 経済学と行動
第2章 モチベーションとインセンティブ
第3章 社会生活
第4章 速い思考
第5章 リスク下の選択
第6章 時間のバイアス
第7章 性格、気分、感情
第8章 マクロ経済における行動
第9章 経済行動と公共政策
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【編集後記】
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