2019年11月04日
【オススメ】『カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』弘子ラザヴィ
カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である今月の「Kindle月替わりセール」の中でも人気の1冊。日本でもまだあまり知られていない「カスタマーサクセス」という概念について、かなり踏み込んで解説してくれています。
アマゾンの内容紹介から。
「売り切りモデル」が行き詰まり、新たな経済原理が支配する世界で日本企業はなぜ、どのように変わらなければならないのか。これからのビジネスにおける最重要課題を明解に語る。
中古価格が定価よりも大幅に高いため、このKindle版が1000円弱、お買い得となっています。
Changes in Customer Interaction / Infopark AG
【ポイント】
■1.カスタマーを虜にするリテンションモデルとは?リテンションモデルを定義しよう。本書では、以下4要素すべてを満たすプロダクトをリテンションモデルと定義する。1 利用者が、日常的・継続的にそのプロダクトを利用し、モノの所有に対してではなく成果に対して対価を払う
2 利用者が、いつでも利用を止める選択権を持ち、かつ初期費用が非常に少なくてすむ
3 利用者が、それ無しでは生活や仕事ができない・使い続けたいと断言できるほど明らかにプロダクトが常に最新状態に更新・最適化され続ける
4 利用者が、自分にとって嬉しい成果を得られるならば、自分の個人データをプロバイダーが取得することを許す
■2.モノづくりは主導権を失う
ここでモノづくり勝者が最も注目すべきは、これからもモノづくり自体は永遠になくならないが主導権を握る座は失うという点だ。これまで所有者から支持されたブランドを御旗に行使できたパワーは残念ながらすべて失う。そして新たに登場する優れたサービスを提供する企業に選んでもらう位置に転じる。なぜなら、リテンションモデルで人びとが重視するのはモノのつくり手よりもサービスの担い手だからだ。考えみてほしい。電車に乗る時に「JRで行く」とは言うが、「(JRの車体メーカーである) 日立製作所で行く」とは言わない。「ウーバーで来た」とは言うが、「(ウーバー運転手の車のメーカーである) ベンツで来た」とは言わないのと同じだ。
■3.成功を届けられない相手には売らない覚悟と仕組みをもつ
カスタマーの成功を理解する時により重要なのは、どうやっても成功を届けられない相手はどういう人かを明確にし、そういう人には時間を使わないと決めることだ。それは、値引きしてでも売れという営業プレッシャーが強い企業や、事業を立ち上げたばかり、カスタマーサクセスチームを拡大したばかり、あなたがカスタマーサクセス責任者に着任したばかりだった場合、とても難しい決断だ。
しかし、売るための時間すら使ってはいけない理由がある。先述の通り、リテンションモデルは新規顧客の獲得コストが当初の収益に対し相対的に割高な一方、関係が長続きするほど成長スピードや収益性が各段に上がるモデルだ。であれば、限りあるリソースは成功を届けられるカスタマーに絞って使うことが、同モデルの経済合理性から非常に重要だ。逆に、成功を届けられない相手とのやり取りは時間の無駄使いに終わるばかりか、組織全体が疲弊して、最悪の場合は優秀な人材の流出につながる。つまり百害あって一利無しだ。
■4.カスタマーがいらいらする負荷をなくす
エフォートレス体験を重視すると、カスタマーに対峙する姿勢と行動が大きく変わる。リンクトイン(LinkedIn) でカスタマーサクセス部門をゼロから立ち上げたペリー・モナコ氏は言う。「古い価値観だと、カスタマーから問い合わせがあった時に『こちらでは分かりかねます。担当者にお繫ぎしますのでそちらでお願いします』と答えても問題ないと思うでしょう。しかしカスタマーファーストの精神をもつ弊社では、電話を受けたその人が責任を持ってカスタマーの問題を解決する義務があるんです。同時にカスタマーを教育して『次にその問題が生じた時はここに電話せずに自分で解決してくださいね』と伝える必要もあるんです」問題が生じた時に問い合わせ先が分からない、問い合わせたが電話を転送された、転送先でゼロから説明させられた、画一的な対応で結局解決しなかった、という経験は誰にでもある。すべて「エフォートレス体験」とは真逆で、ロイヤルティが瞬時に消滅し酷評を思いきりシェアしたくなる瞬間だ。つまり、問題を抱えたカスタマーを、将来二度と同じ課題を抱えないように労力をかけてでも正しい方向へ導くのは、エフォートレス体験を届ける上で必須かつ非常に重要なのだ。
■5.カスタマーサクセス人材の5つの特性(抜粋)
(1)共感性(Empathy)が強い筆者の知る限り、米国のカスタマーサクセス界で活躍する人には「いい人」が多い。それは定義から、相手の成功に思いをはせられる、つまり「この人の成功は何だろう? 私が役に立てることは何だろう?」を脳が瞬間的に思考し、自動的に手足が動く人でなければ活躍できない世界だからだ。(2)感情よりも論理(ロジック)やデータを優先して意思決定する(1)とセットで大切なのが(2)だ。断言しよう。共感性が強すぎて情に流されやすかったり、人情や人間関係「のみ」で意思決定したりする人は明らかに適さない。(3)関係性(リレーションシップ)を重視し長期・全体へ目配りできる
「凄くカスタマーサクセスな人だなあ」と筆者が思う人は例外なくデータの鬼だ。米国ではよく恋愛と結婚を比喩にして関係性を説明する。将来よりも今この瞬間を楽しく過ごす関係を重視する恋愛と、死ぬまで続くことを前提に互いの人生を良いものにしようとする関係を重視する結婚との違いだ。カスタマーとの関係性を重視するとは、明らかに後者の関係へコミットすることだ。(詳細は本書を)
【感想】
◆ここまで読んでも「カスタマーサクセスとは何か?」については、まだピンと来ないと思います。もちろん、本のタイトルになるくらいですから、「1冊かけて説明している」と言われたら、確かにそうなのですが。
しかしそれでは埒が明かないので、アマゾンの内容紹介における表現を引用すると、
「商いは買っていただいた後が大切」の精神で「カスタマーに“成功”を届ける」こととのこと。
後半部分は、英語をそのまんま和訳しただけですが、むしろ、前半部分の「商いは買っていただいた後が大切」という考え方が大切だと思います。
◆そこで必要になってくるのが、本書全体を通じてベースとなる、上記ポイントの1番目の「リテンションモデル」への理解。
ただし、これだけ読んでも、俗に言う「サブスクリプションモデル」とどこが違うのかが分からないと思います。
なお本書には補足があるのですが、たとえばUber等のライドシェアサービスは、サブスクリプションモデルではありませんが、上記ポイントの1番目の(1)に該当するとのこと。
また逆に、「2年に1度の所定月以外は解約手数料が必要な携帯電話」などは、(2)に該当しないため、リテンションモデルには該当しないのだそうです。
本書では、このリテンションモデルを、従来のCD販売事業のようなモデル(本書内では「モノ売り切りモデル」と呼んでいます)と対比。
リテンションモデルでは、売った後もずっとプロダクトの価値が最新・最適化され続ける。結果、1つの収支モデルで一定期間にコスト回収するという従来の前提は成り立たず、供給者は収支モデルの変化を前提に事業計画をたてる必要があるまさに「商いは買っていただいた後が大切」なワケで、カスタマーサクセスが重視される次第です。
ちなみに本書では、このモノ売り切りモデルからリテンションモデルへの変換のメカニズムを、かなりのページを割いて解説してくれているのですが、ボリュームの関係で割愛させてもらいました(スイマセン)。
◆そして、そのモノ売り切りモデルが今後どうなるかについて触れているのが、上記ポイントの2番目。
確かにサービスが主流になると、メーカーがどこかは問われなくなるのでしょうね。
ただし、このクルマ絡みで、メーカーが「優れたサービスを展開して主導権を握る」可能性があるのが、イーロン・マスクのテスラです。
著者の弘子ラザヴィさんは、ご自宅でテスラ(モデルS)に乗られているとのことなのですが、初めて乗った時の感想が「車の形をしたPC」だったとのこと。
実際、このテスラのさまざまな機能やサービスは、限りなくPCに近いもののようです。
もっとも、この渡辺千賀さんの愛車の話を読むと、「PCだからこその不具合」もあるようですがw
テスラモデル3はファントム羊の夢を見るか | On Off and Beyond
◆一方、リテンションモデルの特徴として個人的に興味深かったのが、上記ポイントの3番目にある「場合によっては売らない」という姿勢でした。
確かに従来の「モノ売り切りモデル」であれば、基本的には「売ってサヨナラ」でしたから、売る相手を気にしなくても大丈夫でしょう。
ところが長期的に少しずつ収益を上げるリテンションモデルで、サービス開始後にすぐに離脱されてしまうと、顧客獲得に要した費用が無駄になりますから、これはある意味当然のこと。
実は本書の第3章で、日本における事例が紹介されている中で、以前当ブログでも触れたことのある「スタディサプリ」が登場するのですが。
【公式】スタディサプリ|短時間で、ギュッと。
こちらの高校向けサービスを始めた当初の数年間で、継続利用しない高校が多数出てきたのだそうです。
なぜなら「誰に何を届けるのか」が定まっていない状態で、営業をかけたから(詳細は本書を)。
この辺はまさに「カスタマーに“成功”を届ける」という、カスタマーサクセスの本質を突いていると思います。
◆また、上記ポイントの4番目にある「エフォートレス」という概念も「目からウロコ」でした。
これはその小見出しにもある「いらいらする負荷」がないことを意味するのですが、こうしたいらいらこそが、サービスの解約に直結するのだとか。
この件に関しては、神田昌典さん監修のこの本に詳しいそうなのですが。
おもてなし幻想
原題が『The Effortless Experience』と言うだけあって、データも豊富なよう。
たとえばこんな感じです。
・問題を抱えた顧客の心は「感動させるサービスは要らないから、とにかく早く問題を解決し、再び今まで通りに使えるようにしてほしい」という感情で満ちている……これは自社サービスの解約が多い企業であれば、ぜひご確認いただかなくては。
・ロイヤルティが消滅する主要な要因5つのうち4つは、不必要なエフォートを要したことに起因する
・ひどいカスタマーサービスを体験した人が否定的な口コミをする可能性は非常に高い(65%)
・「満足している」と「その後のロイヤルティ」の間に統計的な相関関係は全くない
◆ここまでが第2章で、続く第3章では上記で触れたように、「日本におけるカスタマーサクセスの現状」と題した事例集が登場します。
取り上げられているのは、「スタディサプリ」の「リクルートマーケティングパートナーズ」、「メルカリ」、そして名刺アプリ「Eight」で知られる「Sansan」の3社。
それぞれのサービスについては、ご存知の方も多いと思いますが、あらためて「カスタマーサクセス」という視点で考えてみると、新たな発見があるのではないでしょうか。
さらに付録である「キャリアとしてのカスタマーサクセス」からは、上記ポイントの5番目として「カスタマーサクセス人材の特性」について抜き出してみました。
こうした特性を持つ人が、専門部署があればそこで輝けることはもちろん、こうしたキャリアを積み重ねると、リテンションモデルを運営する企業において、出世が期待できるようです。
実際、リンクトインが毎年公表する「米国で最も有望な仕事」というランキングの2018年版で、「カスタマーサクセスマネジャー」が3位に選ばれたのだとか。
これは今後、日本においても注目される職種になる可能性が高そうですね。
「リテンションモデル」並びに「カスタマーサクセス」について、一足先に学ぶために読むべし!
カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」
はじめに
プロローグ ウォルマートの決断(前編)
第1章 日本企業にこそカスタマーサクセスが必須である理由
第2章 カスタマーサクセスとは一体何か
第3章 日本におけるカスタマーサクセスの現状
エピローグ ウォルマートの決断(後編)
付録 キャリアとしてのカスタマーサクセス
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【編集後記】
◆昨日ご紹介した11月分の「Kindle月替わりセール」の記事にて人気だったのは、この辺の作品でした(順不同)。確率論入門 Math&Science (ちくま学芸文庫)
カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」
ヒトラーの大衆扇動術
幸せな人は「お金」と「働く」を知っている
宜しければ、ご参考になさってください!
ご声援ありがとうございました!
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