2019年10月11日
【革命的?】『がん検診は、線虫のしごと〜精度は9割「生物診断」が命を救う〜』広津崇亮
がん検診は、線虫のしごと〜精度は9割「生物診断」が命を救う〜 (光文社新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、昨日の「健康・子育てフェア」の中でも、個人的に読んでみたかった1冊。つい先日、実用化の記事が出たばかりなので、ご存知の方も多いであろう「線虫によるがん検査法(N-NOSE)」を開発した、広津崇亮さんの処女作です。
アマゾンの内容紹介から。
2015年3月、「線虫が、非常に高い精度でがん患者の尿の匂いを嗅ぎ当てる」という論文が米科学誌に掲載された。九州大学の研究者であった著者は、その後起業し、実用化に向けた研究と普及活動に邁進してきた。たった尿一滴で早期がんが検知されることで、がん治療はどう変わるのか。検査に機械ではなく生物を用いる「生物診断」の可能性は。注目の研究者・経営者が、自身の歩みや、がん検診とがん治療の今後の展望を伝える。
中古はやや値下がりしていますが、送料を考えるとKindle版が400円以上、お買い得となります!
Not to Scale - A pretty funny C. elegans joke! / Willamette Biology
【ポイント】
■1.早期がんを、9割近い確率で検知N-NOSEは、臨床研究において、ステージ0〜1の早期がんであっても、9割近い確率で検知することができています。ステージ0〜1の早期がんを、これほど高い確率で検知できる実用化された検査は、現状ではほかにないと言っても過言ではないでしょう。
たとえば、がん検診にしばしば取り入れられている腫瘍マーカーは、基本的には進行したがんの治療効果を見るための検査であり、早期がんに対してはほとんど意味がありません。
一例を挙げると、代表的な腫瘍マーカーの一つ「CEA(大腸がん、胃がん、肺がんなどを診る)」のがんを見つける確率は、ステージ0〜1の場合、13.8%。
それに対してN-NOSEは、87.0%でした(N-NOSE臨床研究において同じ被検者について解析して比較しました)。
ステージ0〜1のがんがあるものの、まだ判明していない人が100人いたら、14人しか見つけられない検査と、87人のがんを見つけられる検査とでは、大違いではないでしょうか。
■2.低額で受けることが可能
費用が8000〜9000円程度(予定)と非常に安価なことも、N-NOSEの大きな利点の1つです。数千円でほぼ全身のがんの有無を調べられる検査は今のところほかにはありません。
たとえば腫瘍マーカーは、1種類あたり数千円程度ですが、通常は、がん種をカバーするために3種類程度を組み合わせて受けます。費用の割には、早期がんに対する感度が低いため、検診には向かないと私は考えています。
安いといえば、 便潜血検査は、キットを買って返送する方式ならば2500円程度で受けられますが、調べられるのは大腸がんだけ(痔からの出血などによってもがん陽性になってしまいます)。胃や大腸の内視鏡検査は1万5000円程度、肺のX線検査は1万円程度ですが、調べられるのはやはりその部位のがんのみです。
国立がん研究センターなどが研究中の次世代腫瘍マーカー「マイクロRNA」は、がんになると変動する血液中の物質・マイクロRNAの量を調べることで、ほぼ全身のがんの有無がわかるとされていますが、検査費用はがん1種につき数万円から10万円程度になると予想されていますから、気軽に受けられる検査ではありません。
■3.手術の成否、再発・転移の可能性も分かる
N-NOSEで変わるのは、検査だけではありません。がん治療も大きく変わります。
まず、手術の成否を測る判断材料にすることができます。
これまでは、手術で腫瘍を切り取ると、その組織を病理医が診て、悪性の度合いを判断したり、残らず全部切り取れたかどうかを判断したりしていました。
しかし、目で見て判断するために、病理医の経験と熟練度によって結果は左右されると言われています。実際に、残らず切り取ったと思った腫瘍が残っていて、がんが再発したり転移したりしてしまうケースもあります。手術後に抗がん剤治療をするのは、主にそれを防ぐためです。
しかし、手術後にN-NOSEを実施すれば、体内にがんが残っているかどうかがわかります。一定の期間を置いて何度か検査をし、その結果がすべて陰性であれば、もう抗がん剤治療をしないで済むかもしれません。
そうなれば、患者さんは苦しい思いをせずに済みますし、治療期間も短くなり、早く社会復帰できます。医療費の削減にもなるでしょう。
■4.機械による診断から生物診断への発想の転換
生物の能力を活用してがんの有無を判定することは、私にとっては発想の転換というよりは自然な流れでしたが、もしも私が医師だったとしたら、ありえないことだったと思います。医学的検査といえば精密機器を使うのが当然ですし、犬まではなんとかイメージできても、 芥子粒のように頼りない生物でがん検査をするなどとは、想像もできないし信用もできなかったはずです。
しかし私は医師ではありませんから、「これはおもしろそうだ」「きっとできるに違いない」という発想で研究を始めることができました。医師ではなく生物学者であるからこそ、「機械で生物の嗅覚を再現するのは不可能」と言われるほど生物には素晴らしい嗅覚が備わっていること、生物に匹敵するほど高性能な匂いセンサーを作ろうとしたら途方もないお金と時間と労力がかかってしまうであろうことを、深く理解していたのです。
■5.がん以外の診断の可能性
N-NOSEでは、線虫ががんの匂いを嗅ぎ分けます。要するに、がんには特有の匂いがあるのですが、じつはがんだけでなく、病気にはそれぞれ特有の匂いがあると言われています。
一般にもよく知られているのは、糖尿病になると尿が甘い匂いになることでしょう。尿に糖が出るのですから、糖の量が多ければ、人の嗅覚でも感じられるほど甘い匂いがするのです。
そのほかにも、胃腸が悪いと酸っぱい匂いや卵の腐ったような匂いがする、肝臓が悪いとドブのような匂いがする、腎臓が悪いとアンモニアの匂いがする、などの現象が知られています。
また、アルツハイマー病やパーキンソン病、うつ病などにも匂いがあるそうです。
なぜ病気に特有の匂いがあるかといえば、代謝が変わるなどして、健常時とは異なる物質が体内で作られたり、作られなくなったりするためだと考えられます。(中略)
今のところ、N-NOSEは他の病気の影響を受けない結果となっていることから、別の病気を線虫が検知するためには、尿の条件を変える、血液、唾液など別のサンプルを用いる、その病気を嗅ぎ分けるのが得意な線虫を作り出すなどの改良が考えられます。
【感想】
◆本書の内容というよりも、「N-NOSE」というがん検診システム自体に圧倒された1冊でした。これは簡単に言ってしまうと、「C.elegans(シー・エレガンス)」という名前の「線虫」の優れた嗅覚を利用し、検診者の尿の匂いを嗅がせ、がんか否かを判定するというもの。
従来のがん検診とくらべて、ほぼすべての面で優位である、と言って良いと思います。
とにかく微量の尿(1滴)で検査できますから、患者の負担はほぼ皆無。
著者の広津さんは、会社の健康診断に取り入れてもらう意図を明かしてらっしゃいましたが、すでに行っている検尿で事足りてしまいます。
……今、苦労して飲んでいるバリウムや、麻酔が必要でそれでもキツい胃カメラに比べたら、どんなに楽なことか(遠い目)。
◆しかもそれでいて、上記ポイントの1番目にあるように、その機能は画期的であり、がんを検知できる確率が、従来の検査方法に比べて圧倒的に高いです。
特にこれは早期のがんにおいて顕著で、これはすなわち、従来見落とされがちだった肝臓がんや膵臓がんにも効果があるということ(言い忘れましたが、現在18種類のがんが検知できるのだそう)。
実際、がんは早く見つかれば見つかるほど診断日からの生存期間も長いのは周知の事実ですから、「手遅れ」となるリスクも大いに下げられるわけです。
がんの部位別、病期(ステージ)別の5年生存率|筑波メディカルセンター病院
さらに、上記ポイントの2番目で触れられているように、費用も格安。
複数のがん検診を、これ1つで行えますから、時間と費用というがん検診のハードルが一気に下がることが期待されます。
一応、私のような年齢になると、区の健康診断が無料で受けられるのですが、バリウム検査が気休め程度なのは、この本でも言われていること(やはり今回のセールで「50%OFF」ですw)。
医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方
参考記事:【ガンの真実】『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』近藤慎太郎:マインドマップ的読書感想文(2018年12月22日)
かといって、私もたまに受ける内視鏡検査だと、そこそこお金もかかるんですよね……。
◆そして「N-NOSE」は、上記ポイントの3番目にあるように、がんの手術や治療後の確認にも使えます。
とくに手術の成否が分かるというのは、非常に大きいかと(さすがに終わってすぐだと、尿が使えないと思いますが)。
加えて、術後の抗がん剤も飲む必要がなくなる可能性が高いです。
というより、そもそもその抗がん剤自体に効果があるか否かも、定期的に「N-NOSE」でチェックすればわかってしまうという。
なお、現在はがんの有無はわかっても、具体的にどのがんかがわからないのですが、2022年以降はがんの種類も特定できるとのこと。
これだけいいところずくめだと、むしろ従来の既得権益者に邪魔されないか心配なくらいなのですが。
◆また、本書の第2章では、「N-NOSE」誕生の舞台裏が明かされています。
そもそも「線虫」とはなんぞや、というお話から、広津さんがどのようにして「線虫」をがん検診に使うことになったかのいきさつ等々。
これは上記ポイントの4番目で指摘されているように、広津さんが医師ではなかったことが、「線虫を使う」という自由な発想につながったようです。
実は理論的には犬でも似たようなことはできるらしいのですが、犬自体の個体差の問題や、1日に処理できる回数に問題があるらしく。
そういう点では、大量動員できて、個体差がない「線虫」というのは、このがん検診に理想的……と言えるのは結果論であり、よくぞこんなことを思いついたものだと改めて思う次第です。
◆なお、広津さんの少年時代からの歩み等を描く第3章は置いといて、第4章では、「線虫をがん検診に使う」というアイデアを「N-NOSE」という形で実用化するまでのお話が展開。
さらに第5章では、上記ポイントの5番目にあるように、「N-NOSE」をがん以外の検診に使う可能性にまで触れられています。
確かに糖尿病だった父の後にトイレに入ると、甘い香りがしたものですが、他の病気にも独自の「匂い」があれば、その検知も不可能ではなさそうな。
この辺は、広津さんの今後の活躍に期待したいところです。
……その前に、まずはがん検診としての「N-NOSE」が受診できるようになったら、私自身も速攻受けるつもりでいますが、何か?
これからのがん検診が一新されることが分かる1冊!
がん検診は、線虫のしごと〜精度は9割「生物診断」が命を救う〜 (光文社新書)
第1章 「がん検査」と「がん治療」が大きく変わる
第2章 なぜ、線虫だったのか
第3章 「謎の学生」だった私が、「がんの匂い」に出会うまで
第4章 研究から起業へ―N‐NOSE実用化のステップ
第5章 N‐NOSEが世界を変える
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【死生観?】『死ぬときにはじめて気づく人生で大切なこと33』大津秀一(2018年02月18日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた (講談社+α文庫)
今日のご本との医療つながりで(?)おなじみ山中先生の作品を。
ただし中古が底値なので、送料を足しても数十円中古の方がお得ですから、ご留意ください。
ご声援ありがとうございました!
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