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2019年09月22日

【知的生産】『新・リーダーのための教養講義 インプットとアウトプットの技法』佐藤優 同志社大学新島塾


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新・リーダーのための教養講義 インプットとアウトプットの技法 (朝日新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、昨日に続いて先日の「未読本・気になる本」の記事でも人気の高かった作品。

本書は、当ブログでもおなじみの佐藤優さんが、母校である同志社大学に「リーダー育成」を目的として開いた「新島塾」において行われた、講義や質疑応答に基づいて構成されたものです。

アマゾンの内容紹介から。
「蛇のように賢く、鳩のように素直になれ」(マタイによる福音書)不透明な世の中を渡るのに学知は最高の武器になる。新たな価値を生む発想のベースになるのが文理融合の統合知だ。膨大な情報をどう理解し、整理し、最適解を見つけるか。歴史、外交、ゲノム編集、AIをテーマに教養、論理構成、説明力、ディベート力をつけるエッセンスが満載。新島襄の精神に学ぶ、集中合宿による白熱講義が一冊に。

なお、新刊でもあるにもかかわらず、Kindle版は「45%OFF」というセール並みの値引き率ですから、お見逃しなく!





study hard! / ▓▒░ TORLEY ░▒▓


【ポイント】

■1.語学は読む力をつける
佐藤 語学を勉強するときのコツは、読む力をつけることです。読む力がその人の外国語力の天井になる。読む力を超えるほどの、聞く力、書く力、話す力は絶対につきません。だから、読む力で天井を上げておく。これが非常に重要です。さらに具体的に言えば、まず英検の準1級を取ること。英検の準1級まで英語力をつけておくとそこが踊り場になるから、それより下には力が落ちない。英検2級の力だったら社会に出て10年ぐらいほったらかしておくと中学生レベルの英語に低下する。
 準1級は国際基準においては初級なんです。そこが終わったところで、企業に就職する人はTOEICのスコア800以上ぐらい。それからイギリス圏に行く人、ドイツに行く人、オーストラリアに行く人は、IELTSで6.5以上、できれば7.0を取ってほしい。アメリカに行く人、あるいはアジア諸国に行く人はTOEFL iBTでだいたいスコア90以上。願わくは100ぐらい。それぐらいのところまでのスコアは、日本でも身につけられる。


■2.基礎知識は地方公務員上級試験の勉強で
佐藤 基本は、高校レベルの全科目の知識はきちんとつけておくこと。だから、数学はもとより、地理、日本史、世界史、政治経済、倫理、現代社会、物理、化学、地学、生物、古文、漢文、全部意味がある。ただ今さら高校の教科書なんてかったるくて開ける気にならないでしょ。1からやってたらものすごい時間もかかる。じゃあ、どういう形で文系の人が知識をつければいいか。実務教育出版から電話帳みたいに分厚い本で、『地方上級 教養試験 過去問500』という参考書が出ています。そこには大学の教養課程である文理すべての科目が入っている。英語も入ってる。実は神学部の講義では毎回だいたいここから50題ぐらい割り振っておいて、10題そこから出題する。今は内容を覚える形でやってもらっているけれど、成果が上がっている。
 だから1つのやり方としては、地方公務員上級試験の教養試験のレベルを目標にする。いろいろ参考書も出ているから短期間に合理的に勉強できるシステムになってます。問題も非常にいいです。そういった知識を具体的につければいいと思う。

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地方上級 教養試験 過去問500 2020年度 (公務員試験 合格の500シリーズ6)


■3.外交交渉で日本が失敗する理由
佐藤 ここで重要なのは、外交交渉や国際ビジネス交渉の場面で、なぜ日本人が失敗するのか。その理由です。日本の交渉で大きな失敗をする原因になるのは、相手が譲歩してきたときに、それを相手の「弱さ」と見て、自分たちのハードルを少し上げるという傾向があるからだ。相手が譲歩した、相手の善意を、善意と見ないで弱さと見て、居丈高にほんの少しだけどもハードルを上げる。このときの北方領土交渉で日本がしたことはまさにそれなんだ。
 ロシア側が歯舞・色丹の二島で譲歩したんだよ。でも日本側はちょっとスケベ心を起こした。それによって全部白紙になってしまった。すべて吹っ飛んだ。これは日本外交でも、日本のビジネスでもよくやることだ。だから相手が譲歩してきたら、そのままで取るか、あるいは相手の譲歩よりも半歩こっちが譲歩する。そうすると交渉はうまくいく。こういう人間の心理というのが交渉においては重要になる。


■4.AIは数学の「逆問題」
多久和 どんな問題かというと、皆さん、料理するときの材料を考えてみてください。肉、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、カレールーがある。それで作り方の手順も今ネットには出ています。そのとおりに作るとカレーができます。これは普通の問題(順問題)なんです。でもよく考えてみたら、これで物事が終わるのか? ということなんですね。
 例えば、外でカレーを食べる。うちのカレーよりうまい。そうしたら中に何が入っているのかな。隠し味、何かな? ということを考えるわけですね。これは原因を探るということです。ある意味、過去に遡ることなんです。これが逆問題。料理人だったら、同じ材料なのになんで味が違うのかな、作り方が違うのかなということも考えますよね。(中略)
 だから、いろんな問題があったときの距離感を考えるといいんです。いわゆる、順問題という「上の形の問題」と、逆問題という「下の形の問題」があったとき、問題の解きやすさがぜんぜん違います。AIで今言われている技術が、どちらの問題を解くのかといったら、逆問題、下の形の問題を解くんです。これは本質的に難しい。


■5.まず、量をきちんとこなす
佐藤 それからもう1つ、今回みんなから受けた相談を見ると「勉強の質」を知りたい人が非常に多い。この技法はどうやって身につけるかとか、専門的なことをどうしたら深められるかとか、語学を身につけたいとか。でも、それ以前にやらないといけないのは量です。まず、量をきちんとこなす。大学の授業をきっちりやるのは大変なことだと思うよ。だから、授業の予習復習を含めて毎日3時間は自発的に机に向かう。土曜、日曜は5時間。それぐらい机に向かう習慣を身につけることがとても重要になります。
 そのための上手な方法は、ノートを一冊買ってくる。そこに学習報告を自分で書く。あるいは、だれか学習報告を受けてくれる先生がいるんだったら先生に送ればいい。細かいことは書かない。「英語、今日何時間」「数学、何時間」。箇条書きで短くていい。あるいは、自分の解いてる問題集の何ページから何ページまでとか、読んでいる本の何ページから何ページまで読んだとか。何もやってない日は正直に「ゼロ」とか「なし」と書く。これを3カ月やってごらん。


【感想】

◆色々な意味で読み応えのある作品でした。

そもそも冒頭の内容紹介にある「新島塾」とは、佐藤さんが同志社大学の学長である松岡敬さんに働きかけて、「文系、理系の学生24人と3泊4日の合宿」を行い、そこで外部から招聘した専門家による講義や、質疑応答、ディベート、レポート作成を行ったものであり、本書はその模様を書籍化したものです。

まず初日は、佐藤さんと松岡さんが「統合知」や「キャリアパス」等について講義。

上記ポイントの1番目の語学の勉強法は第2講からで、他にも修士を得てから「地方上級公務員」を5年務めると、国際公務員になれる、という裏ワザは興味深かったです(詳細は本書を)。

一方上記ポイントの2番目でも、「地方公務員上級試験のテキスト」が登場しますが、たとえ受験をしなくとも、教養を身につける意味でもオススメのよう。

そういえば、つい先日出た佐藤さんのこの本は、「地方上級公務員試験で過去実際に出題された問題から、佐藤さんが良問と認めた60問」を選んだものだそうですから、試しに読んでみても良いと思います。

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佐藤優の挑戦状 地頭を鍛える60題 (講談社現代新書)

個人的には新聞広告でも見かけたこの問題は良問だと思います。



◆また最終日の4日目は、第7講として野口範子さん(同志社大学生命医科学部教授)の「ゲノム」のお話と、第8講の多久和英樹さんの「AI」のお話が登場。

この2つの講義では本書としては例外的に佐藤さんが口を挟まず、お二人それぞれと、学生たちとの発言のみとなっています。

結果、上記ポイントの4番目では、初めて佐藤さん以外のお名前が登場しているというw

おそらくこの2つの分野は、佐藤さんが「教養」として学生に学んで欲しかったものでしょうし、これから社会に出てからも必須の知識になると思います。

そして最後の第9講では、今度は逆に、佐藤さんがお1人で学習法について指南。

オススメ図書として、12冊ほど挙がっているのですが、そこから1冊、この本をご紹介しておきます。

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論文の書き方 (講談社学術文庫)

さらにこの第9講では、佐藤さんの高校時代のお話から、本にもなった東欧旅行のお話、浪人時代を経て、なぜに同志社の神学部を受けることになったか等についても言及がありました。

私は主に、佐藤さんの知的生産系の作品しか読んでいないので、あまりこの辺の過去のお話は知らなかったのですが、なるほどそういう理由があったのかと、本書で初めて知った次第です。


◆結局上記ポイントでは、主にこの初日と最終日から抜き出しているのですが、実は本書の中核をなすのが2日目と3日目の講義。

この2日間を佐藤さんと担当するのが、外務省で佐藤さんの上司でもあった、東郷和彦さんです。

東郷和彦 - Wikipedia

そしてそのテーマは、下記目次にもあるように「北方領土交渉問題」。

このお2人に加えて、当時は鈴木宗男さんも活躍されていたことがこの2日間の講(第3講〜第6講)を読むと分かるのですが、正直私自身、メディアで報じられている以上のことは何も知らず、鈴木さんに対しても、あまり良いイメージは持っていませんでした。

佐藤さん自身も「外務省のラスプーチン」と呼ばれていたワケですし、この辺は反対勢力が、うまくマスメディアをコントロールしたのだな、と。


◆ちなみに上記ポイントの3番目では、結論的なものをポーンと抜き出していますけど、実際はそんな簡単な話ではありません。

日本側でも、「四島一括」にこだわる人は非常に多くいた(いる)わけですし、特に政治家の場合、自分の意思もさることながら、有権者の希望も考慮しなくてはならないわけで。

さらに長い交渉の間には、日本の首相は変わりますし、ロシアに至っては、そもそも国(ソ連)からして変わっています。

ただそんな中で、何度かチャンスがあったのに、それを生かせなかったのも事実であり、それをお2人は悔いている模様。

いずれにせよ、この2日間の講義を読むことで、北方領土問題の歴史と今を、ゼロから知ることができると思います。

ただし、ボリューム的にここまで外交ネタが多い(本記事ではあえて減らしています)ことで、本書自体の評価は分かれてしまうかもしれませんが……。


社会人になっても「学び」が必要だと思うこと必至の1冊!

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新・リーダーのための教養講義 インプットとアウトプットの技法 (朝日新書)
第1講 専門を超えた統合知
第2講 知識は生きるために役に立つ
第3講 外交の実務と裏側 その1―北方領土交渉1988年‐1992年
第4講 外交の実務と裏側 その2―北方領土交渉1993年‐2002年
第5講 領土問題の現実―2018年から未来へ
第6講 熱血!ディベートの極意
第7講 ゲノム編集の現在
第8講 AIを数学的に考える
第9講 教育の技法


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【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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こちらも当ブログではおなじみである、メンタリストDaiGoさんの片づけ本。

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Posted by smoothfoxxx at 10:00
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