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2019年08月17日

【サッカー】『アナリシス・アイ 〜サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます〜』らいかーると


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アナリシス・アイ 〜サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます〜(小学館新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、「Kindle本夏のセール」のうち、小学館編の記事にて大人気の1冊。

今まで当ブログでレビューしてきたサッカー本の中でも、トップレベルの売上となっております。

アマゾンの内容紹介から。
得点したら喜び、失点したらだんまり。試合に勝てばすべて良しで、負けが込んだら監督交代…そんな「サッカーの見方」では、現代サッカーに取り残される!?プロの監督から一ファンまで、「戦術的」な試合分析が大流行する昨今。SNSで精力的に活動する「戦術クラスタ」の最古参である著者が、新しくて面白いサッカーの「分析眼」の習得法を提示する。アジアカップで準優勝に終わり、コパ・アメリカを控える日本代表の未来も見据える一冊。

中古に送料を加えると、ほぼ定価並みとなりますから、このKindle版が400円弱、お買い得です!





How to score a goal against Germany / wuestenigel


【ポイント】

■1.戦術とは「時間とスペース」を手に入れるためにある
 ある選手と相手との距離が、時間を得る上で大切な要素だということは先ほど確認しました。つまり、相手との距離が離れていればいるほど、その選手の周りには「時間とスペース」があるといえます。一般に、相手の選手が周りにいない状態の選手を「フリー」と呼びますが、厳密に定義するなら、フリーな選手は「時間とスペース」を手にしている選手といえます。
 時間とスペースがあれば、ボール保持側は様々な策を実行することができます。要するに、なんでもできます。よって、時間とスペースを手に入れるためにチームとしての戦術を考えることが、ゴールを奪い、試合に勝利することに繋がるのです。
 また、サッカーが上手い選手の定義も、時間とスペースを使えば簡単に説明ができます。独力で時間とスペースを生み出せる選手、周りの選手に時間とスペースを与えられる選手や、チームが手にした時間とスペースを無駄にしない選手が、上手い選手なのです。


■2.ボールを保持しているから攻撃しているとは限らない
 ゴールを決めるためにはボールが必要です。ボールがなければ、メッシでもロナウドでも、ゴールを決めることはできません。よって、最もゴールから遠い状況とは、ゴールを決めなければいけないのにチームにボールがない、という状況になります。
 逆に考えると、ボールを保持している状況とは、相手からゴールを決める機会を奪っているという状況ともいえます。であるならば、リードしている試合で終了間際にボールを保持して残り時間を過ごすことも、ボールを保持しながら「守備」をしているといえるでしょう。ボール保持側は、ゴールを目指すことよりもボールを奪われないことを意識してプレーしているはずです。
 つまり、ボールを保持しているから攻撃している、とは安易に表現することはできません。ボールを保持しているチームは常に、攻撃も守備も行っています。ただし、スコアと時間帯によって攻守の意識のバランスに変動がある、ということです。


■3.ボール非保持側の移動
 そもそも、移動の目的とはなんでしょう。「慣れ」という観点で考えるとわかりやすいかもしれません。どちらも、試合が進むにつれ生じる相手の「慣れ」を壊すために移動をします。
 例えば、相手が4-4-2の配置で守っていて、なかなか前に進めない局面が続く時、ボール保持側は移動を開始し、一生懸命に相手の配置を動かして慣れを壊そうとプレーします。時間が経てば、ボール非保持側のプレッシングの強度も下がっていくでしょう。となると、ボール保持側はゆっくりと試合に慣れていきます。今日の試合はこんなふうにプレーすればいいんだなと。
 すると今度は、ボール非保持側が相手の慣れを破壊するために、急に4-5-1に配置を変更します。ボール保持側にしてみると、先ほどまでとは選手の配置が変わっているので、慣れていたプレーを続けるわけにはいきません。新たな攻略法が必要になります。こうして時間を消化するという策が、トップレベルでは時々行われています。アトレティコ・マドリーの得意技です。


■4.良いクロスとはどのようなものか?
 ここで、ボール非保持側の視点からクロスについて考えてみましょう。相手のクロスボールを跳ね返して、しかもマイボールにできれば、守備者は大満足です。しかし、相手のクロスを繋いだり、しっかりと止めて味方にパスをしたりすることは、非常にハイリスクなプレーといえます。よって、守備者は第一にクリアーを考えます。自陣のゴールから遠い位置にボールを出すことができれば、クロスへの対応として問題ありません。
 では、どのようなクロスだったら、味方に繋ぐことができず、なおかつクリアーも難しいクロスとなるでしょうか。答えは「自陣に下がりながらの対応を強いられるクロス」です。クロスを跳ね返したくても、下がりながらではボールに強くアタックすることは困難極まりないです。先ほども見たように、自分を越えていくようなボールは身体の向きを変える必要があり、守備者にとってプレーしにくいクロスとなります。マークしている選手もいつのまにかいなくなっています。


■5.アジアカップ決勝における日本のプレッシングの問題点
 両チームで最も差異が出た部分は、相手のボール保持者への振る舞いでした。
 日本は、基本的にボール保持者へプレッシングをかけます。カタールは、配置の準備ができたらプレッシングをかけます。ボール保持者へのプレッシングは、相手の攻撃のスイッチを入れることにも繋がる、という点は重要です。相手がボールを奪いに来れば、ボール保持者は必ずなんらかのアクションをしなければならないからです。
 日本のプレッシングは、配置の準備が完了済みで、相手を捕まえられていれば、カタールからボールを奪い、カウンターをすることができていました。しかし日本の1列目の選手は、後ろの選手たちの準備が完了するのを待たずにプレッシングをかけてしまう場面が目立っていました。配置の準備が完了していない状況でのプレッシングは、相手の前進を加速させるだけです。さらに、カタールはショートパスによる前進を志向していたことも相まって、配置の噛み合わせでフリーになっている選手を容易に見つけながら試合を展開していきました。そして12分、日本から先制点を決めることに成功します。


【感想】

◆本書自体は、非常に分かりやすいのにも関わらず、それが上記ポイントにほとんど反映されておらず、申し訳ございません。

これはもう、ひとえに本書が挿絵というか戦術図が豊富だから。

著作権の関係で「写メ撮ってアップ」はできませんから、図が掲載されているご本人のブログ記事をご覧いただきたいのですが。

「アナリシス・アイ」緊急重版、決定!!記念に本の中身をチラ見せ(・∀・) | サッカーの面白い戦術分析を心がけます

ここに図が2つほど載っていますが、この調子で各項ごとに図を用いて解説されているワケです。

……図に章ごとの番号(「図4-3」等)が付されているので、それを足したら65(!?)ほどある模様。

これは分かりやすいワケですわ。

また、上記の図にもあるように、プレイヤーの意図というか「心の声」が付されているのも秀逸だと思います。


◆というわけで、このエントリーを読むよりも、直接ご本を読んでいただきたいのですが(ヲイw)、私が「目からウロコ」だったのが、上記ポイントの1番目。

この「時間とスペース」という概念を知っているのといないのとでは、確かにサッカーを見る目が全然違ってくると思います。

ざっくり言ってしまうと、時間やスペースがないところでもプレーできるのが、良い選手だということ。

時間で言うなら、プレーの判断が速かったり、ワンツーのパス交換でゴール前に侵入できる選手。

スペースで言うなら、本書でも挙げられているように、狭い空間でもプレーできる香川選手のような選手が「良い選手」になるわけです。

ただし、皆が皆、そういう「スーパー」な選手ではありませんから、そういう「時間とスペース」を作り出すのが「戦術」ということ。

そう考えると、いい選手を集めて、それを出しときゃ勝てる、という考え方(どこのチームとは申しませんが)は、「戦術」とは真逆になるでしょう。


◆本書は第1章にて、こうした「時間」「スペース」「配置」「選手」といった前提となる要素を解説。

続く第2章では、いよいよ試合分析のポイントについて述べられています。

本書では項として小見出しになっているのですが、列挙すると以下のとおり。
1:選手の配置図を知る  
2:見逃してはいけないキックオフ  
3:気をつけるべき偽りの序盤戦  
4:局面の繰り返しと内容の評価  
5:移動による変化を見逃さない  
6:すべてを一変させる局面変化  
7:残り時間とスコアに注意
具体的には本書でご確認いただきたいのですが、個人的に驚いたのが2番目のキックオフです。

いやもう見逃すどころか、「あー、今のうちにトイレ行っとこー」くらいにしか考えていなかった私は、猛反省しなくては。

また5番目の「移動による変化」という項は、さらっと1行で書かれるとピンときませんけど、実はここのボリュームはかなりのもの。

「列」(1列目=FW、2列目=MF、3列目=DF)のお話は当然としても、最近流行りの「レーン」(外、内、中)については、ご存じない方は多いと思います(私も去年くらいまで知りませんでした)ので、そういう方はこの部分はぜひ熟読してください。


◆一方、第3章から第5章までは、ピッチをゴールから見て手前(ゾーン1)、中央(ゾーン2)、奥(ゾーン3)に分けて、それぞれの部分について解説が。

これまでの2つの章を踏まえた上で、この3つの章を読むことで、ピッチのそれぞれにおける双方の「思惑」が理解できるワケです。

ここに来ると、結構細かい戦術的なお話が多くなってくるので、まさに図を見ながら熟読していただきたく。

私はTwitterの趣味アカウントで、サッカーアカウントをフォローしているのですが、Twitterのように文字数が限られていると、戦術名だけ述べて、それについての解説は普通ありませんから、何となく知った気でいた用語を本書で初めてちゃんと理解できました。

……「ピン止め」とか「アンカー下し」なんてのは、字面からなんとなくわかった気でいましたが、さすがに「マンジュキッチ大作戦」というのは、らいかーるとさんの造語だそうなw


◆なお、本書の最後の章では、これまでの章で解説された内容を用いて、2つの試合の分析がなされています。

その2つとは、下記目次にもあるように、「2019アジアカップカタール戦(2019/2/1)」とその後に行われた「国際親善試合コロンビア戦(2019/3/22)」。

2つの試合とも、私はいくつかのマッチレポートを読んでいましたが、なかなかここまで深掘りされたものは少なかったと思います。

試合をご覧になった方も、本書のこのパートを読んでから改めて試合を観直すと、より一層、試合自体と同時に、本書の理解も深まるのではないか、と。


ワンランク上の分析眼を持つために読むべし!

B07SMP23G1
アナリシス・アイ 〜サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます〜(小学館新書)
第1章 サッカー再考―「時間」「スペース」「配置」「選手」
第2章 実践編―試合分析のフレームワーク
第3章 ゾーン1―ビルドアップとロングボール
第4章 ゾーン2―スペースの創出と配置の破壊
第5章 ゾーン3―ゴール前の攻防
第6章 日本代表試合分析―2019アジアカップカタール戦、国際親善試合コロンビア戦


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【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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固定レイアウトなのが惜しまれる本書は、中古が定価を大きく上回っているため、Kindle版が1600円弱お買い得。

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Posted by smoothfoxxx at 10:00
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