2019年06月09日
【脱ネガティブ?】『なぜイヤな記憶は消えないのか』榎本博明

なぜイヤな記憶は消えないのか (角川新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、ネットサーフィンしていて見つけた、昨日発売されたばかりの新書。コミュニケーション系の作品の多い榎本博明の、最新作になります。
アマゾンの内容紹介から。
なぜ同じような境遇でも前向きな人もいれば、辛く苦しい日々を過ごす人がいるのか。出来事ではなく認知がストレス反応を生んでいる。そう、私たちが生きているのは「事実の世界」ではなく「意味の世界」なのだ。
なお、アマゾンの新書版の表紙だとタイトルだけでしたので、Kindle版と差し替えております!

Childhood Memories / -JGonz-
【ポイント】
■1.今の生活に不満な人の自伝的記憶は暗いだが、私たちは、過去に縛られているだけの存在ではない。逆方向の影響もある。私たちの現在の心のあり方が、私たちの過去の風景を決定するといった側面だ。
心理学者ルイスとフェアリングは、そのことを証明しようと試みた。幼児期に親との愛着関係の状態を評価された子どもたちが成長し、大学生になったときに、現在の適応状態を調べると同時に、自分の幼児期を回想させ、評価させた。
その結果、青年たちによる自分の子ども時代の評価は、実際に子ども時代に評価された親との愛着関係の良否とは関係がなく、むしろ現在の適応状態と関係していることがわかった。
つまり、幼児期に親との愛着関係が不安定とみなされた人物が、安定しているとみなされた人物と比べて、自分の幼児期を不幸だったとか不安定だったと回想するかというと、そのようなことはなかった。
結果をみると、自分の幼児期を否定的に回想する人物は、肯定的に回想する人物と比べて、現在の生活に適応していないといった傾向がみられたのだった。ここからわかるのは、自分の幼児期をどのように回想し、評価するかは、実際に幼児期がどうだったかよりも、現在の生活がどうであるかによって決まるということである。
■2.ポジティブな記憶でネガティブな記憶を緩和する
実際、ネガティブな気分のときにポジティブな記憶を引き出すことで、ネガティブな気分が緩和されることは、心理実験によって実証されている。
うつになりやすい人は、ネガティブな気分のときにネガティブな出来事を反芻する傾向があるのに対して、うつになりにくい人は、ネガティブな気分のときにポジティブな出来事を思い出すことで、ネガティブな気分から回復しているというデータもある。
これには感情コントロール力が絡んでいる。うつになりやすい人は、ネガティブな気分に陥ると、その気分に馴染むネガティブな記憶を自然に思い出してしまう。それに対して、うつになりにくい人は、ネガティブな気分に流されることに抵抗して、わざわざポジティブな記憶を思い出そうとする。
■3.気分が記憶を喚起する
気分一致効果についての心理実験でもわかるように、ポジティブな気分でいるとポジティブな出来事を記憶に刻みやすいし、ネガティブな気分でいるとネガティブな出来事を記憶に刻みやすい。ゆえに、日々ポジティブな出来事やネガティブな出来事をいろいろ経験していても、ポジティブな気分で過ごしている人はポジティブな出来事をたくさん記憶に刻むのに対して、ネガティブな気分で過ごしている人はネガティブな出来事をたくさん記憶に刻むことになる。
さらには、同じく気分一致効果により、ポジティブな気分でいるとポジティブな出来事を想起しやすい。一方、ネガティブな気分でいるとネガティブな出来事を想起しやすい。ゆえに、記憶の中にポジティブな出来事やネガティブな出来事がいろいろ詰まっていても、ポジティブな気分で過ごしている人はポジティブな出来事をよく思い出すのに対して、ネガティブな気分で過ごしている人はネガティブな出来事をよく思い出す。
■4.ネガティブな気分のときは、目の前の現実に浸かる
ふと気づくと嫌なことを思い出し、反芻している。そんな自分をみつけたら、即刻別のことに目を向ける。一番よいのは何か別のことに没頭することだ。
軽い運動をする。料理をする。お菓子づくりに没頭する。手芸に没頭する。整理や片づけをする。本を読む。録画した映画やドラマを見る。スポーツを観戦する。友だちと 喋る。家族と喋る。何でもよいので、行動することで過去の回想を断ち切る。
ネガティブな気分のときは、過去を振り返らずに、目の前の現実にどっぷり 浸かるのである。
そして、気分のよいときに過去を振り返るようにする。そうすれば、ポジティブな記憶が引き出されやすい。それによってますます気分がよくなる。そこで過去を振り返ると、またポジティブな記憶が引き出される。そして気分がよくなる。こうしてポジティブな気分とポジティブな記憶の好循環が生まれる。
■5.人と語らい新たな視点を手に入れる
上司からこんなことを言われた、ほんとにムカつく、許せないと、別の友だちに息巻いていた人がいたとする。「それは 酷いね」「許せないね」と同調するばかりの友だちでは視点が揺さぶられることはないかもしれない。だが、冷静な友人で、上司の立場からしたらこういった事情もあるのでは、というように本人の中になかった視点からの説明をされると、「なるほど、そういうこともあるかもしれない」と思えてきて、気持ちが落ち着いてきたりする。そこでも視点の揺さぶりが生じている。
会社を辞めたいといきり立っていた人物が、人に相談し、自分の思いを話しているうちに、辞表を出すのを思い止まるというようなときにも、このように視点の揺さぶりが生じ、相手の視点を取り込むことによる視点の転換が起こっているのである。
人との語り合いを豊かに経験することで、いろんな視点からものごとをみることができるようになれば、人生を振り返る際にも、かつては辛く嫌な出来事と思われた自分の経験や境遇が、それほどでもないと思われてきたりする。
【感想】
◆読む人によっては、なかなか「耳イタイ」というか、「心地よくない」作品ではないでしょうか?特に、自分の「現在」に満足しておらず、それが何らかの「過去」に起こったことに由来する、と考える方にとっては、自分のロジックを真っ向から否定されるワケで。
実際、「つらい過去」があると、人はそれを思い出さないようにする傾向があります。
たとえばうつ病の人は、過去を振り返るとポジティブなものよりもネガティブなものを思い出す傾向が強いのですが、「具体的な詳細を思い出して気分が落ち込むのを避けるために、記憶の検索を一般的レベルで打ち切る」のだそう(超概括的記憶)。
この辺はうつの人に限らず、多かれ少なかれ私たちが無意識のうちに行っているのでしょうが。
◆しかしそのままでは、現在、さらには未来の自分までネガティブになりかねません。
ということで本書の第2章は、その章題が「『そのままの自分』でいいわけがない」と、かなりのハードコア風味です。
たとえばよく聞く「そのままの自分でいい」「無理しなくていい」といったフレーズは、
心が酷く傷ついて病理水準にあるときに、こんな状態で頑張れというのは酷だということで、現実生活から緊急避難させて一時的に保護するためのものと断言。
それを日常場面に当てはめる風潮が広まった結果、
日頃から努力することも頑張ることもせず、自己コントロール力を高めることもせず、弱く未熟で傷つきやすい自分をそのままに生きている人が目立つようになった。と斬り捨ててらっしゃいます。
著者の榎本さんいわく「何かと落ち込んだり傷ついたりするのは、他人が悪いわけでもなく、自分が悪いわけでもなく、記憶システムが悪い」とのこと。
ですから、「そこを変えれば、タフな心が手に入り、前向きの人生に転換できる」のだとか。
なお本書の第3章では、「トラウマ神話」や「アダルトチルドレン神話」についてもかなり批判的なのですが、ヘタしたら炎上しかねないので割愛しております。
◆そこでどうすればよいか、が詳しく述べられているのが本書の第4章。
上記ポイントの2番目にもあるように、まずは「ネガティブな気分のときにポジティブな記憶を引き出す」のが良いようです。
具体的には、「楽しかったこと、うまくいったこと、ほめられたこと、嬉しかったこと、懐かしいこと」といった「ポジティブな記憶」を積極的に引き出すべし!
さらに意識したいのが、上記ポイントの3番目で指摘されているように、そもそも「ポジティブな気分でいるとポジティブな出来事を記憶に刻みやすい」ということです。
ただし、そうやって「ポジティブな記憶」をため込んでも、現在が「ネガティブな気分」だと、その記憶を引き出しにくくなるので、今この瞬間から、「ポジティブな気分」でいたいもの。
結局「今」というのも、未来から見たら「過去」になりますから、「ポジティブな記憶」として残すためにも、「ポジティブな気分」でいることは大事なようです。
◆とはいえ、「ネガティブな気分」のときに「ポジティブな記憶」が引き出せない場合は、上記ポイントの4番目で言われているように、「何か別のことに没頭」せよ、と。
「ポジティブな記憶」が引き出せないどころか、逆に「ネガティブな記憶」が出てくると、さらに気分が落ち込む「負のループ」に陥りかねません。
その場合は、とりあえず「何かしら行動する」ことで、その「負のループ」は断ち切れる模様。
なお、これは類書でもよく目にしますが、「微笑みの表情」をするだけで、その表情にふさわしい気分が喚起されるのだそう。
つまり、無理やりでも笑顔でいることで、気分一致効果によりポジティブな記憶が記憶が刻み込まれやすくなり、さらには過去のポジティブな記憶も想起されるワケです。
……今さっそく、この文章を「作り笑顔」でPCで打っているワタクシw
◆また、本書の第5章では、「ポジティブな記憶」をため込むための方策が紹介されています。
ここでのキーワードは「懐かしさ」。
榎本さんは「場所」「モノ」「人」「出来事」という4つの手がかりを挙げてらっしゃいますので、具体的な掘り下げ方や、その効果については本書にてご確認ください。
そして最後の第6章では、いよいよ「記憶の塗り替え」に挑戦。
上記ポイントの5番目では「他人の視点」を挙げましたが、こういう自分の考えをある意味「否定」してくれる人というのは、なかなか周りにいない気もします。
逆に、本書では特に薦められていませんが、「はてな匿名ダイアリー」みたいに、客観的な第三者の声がコメントやブコメで聞けるシステムを利用する、というのも手かも。
……その結果、かえってボコボコにされてネガティブな気分になる可能性も否定できませんが。
ポジティブな「正のループ」を確立するために読むべし!

なぜイヤな記憶は消えないのか (角川新書)
第1章 記憶を制する者は人生を制する
第2章 「そのままの自分」でいいわけがない
第3章 記憶は「今の自分」を映し出す
第4章 前向きになるための記憶健康法
第5章 心のエネルギーが湧いてくる記憶
第6章 記憶の貯蓄と記憶の塗り替え
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【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
移動力
電子書籍で著作を数多く発表している長倉顕太さんの、今年4月にすばる舎さんから出たばかりの作品。
中古が定価の倍近くしますから、Kindle版が800円弱お買い得です!

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