2019年05月31日
【オススメ!】『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部 誠

東大教授が教えるヤバいマーケティング
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事の中でも大人気だったマーケティング本。と言いつつも、タイトルでは触れられていませんが、実はかなりの部分が「行動経済学」の内容となっています。
アマゾンの内容紹介から。
人間の意思決定システムや、本能・特性を利用し、消費者を翻弄する最先端の手法を消費者を翻弄する最先端の手法を東大教授が明らかに!資本主義社会に生きるあらゆる人が知っておくべき、資本主義社会に生きるあらゆる人が知っておくべき、“悪用禁止”のマーケティング論。
上記未読本記事では定価と同額だったKindle版が、若干お安くなったので、こちらもお見逃しなく!

Massive Discounts / Kurayba
【ポイント】
■1.おとり商品による2つの売上増施策ある寿司屋では2種類の盛り合わせ──高価格・高品質の「竹」と、低価格・低品質の「梅」を提供していて、現状、これらの注文は半々です。
売上アップのために店主は「梅」より「竹」の注文を増やしたいのですが、どのようなおとり商品を提供するべきでしょうか?●「竹プラス」を出す(妥協効果)「竹プラス」は「竹」と中身(品質) は同じですが、食器を高級にしたり「期間限定」と銘打ったりすることによって、より高価になっています。(中略)●「梅プラス」を出す(魅力効果)
「竹」の「梅」に対する弱みは高価格なことですが、「竹」と同品質でさらに弱みの大きい「竹プラス」が存在することで、「竹」の弱みが和らぐ効果があります。「梅プラス」は「梅」と中身(品質) は同じですが、食器を高級にしたり「期間限定」と銘打ったりすることによって、「竹」と同じ価格になっています。(中略)
「竹」の「梅」に対する強みは高品質なことですが、「竹」と同価格なのに品質が低い「梅プラス」が存在することで、「竹」の強みが引き立つ効果があります。
■2.お店のダメージを最小限に抑える「値上げの仕方」
●複数の利得は分離クリスマスが大きなイベントである欧米では、「プレゼントを1箱にまとめるべきではない」、つまり分けて小出しにしなさい、というコトワザがあります。●複数の損失は統合金銭的支出はまとめて支払うことで、痛みが減ります。自家用車のカーナビやメンテナンスパック、戸建住宅の照明、エアコン、カーテンなど、高額商品に付随するオプションが購入されやすい理由の1つは、あとから単体で支払うより気分的に楽だということがあります。●大きな利得と小さな損失は統合税金や保険料を給料から天引きした方が、それらをあとで払うよりいいという人が多いです。●大きな損失と小さな利得は分離現金値引きよりリベートやポイント還元によってあとで他のモノを買えたりすると、何となくハッピーな気持ちになりませんか? このような小さな利得は、店舗へのリピート購買を促すだけでなく、顧客満足度を高めるという心理効果もあります。
■3.両面提示広告とその順序効果
メーカーのウェブサイトで評価の高いレビューばかりだと、「どうせ、評価の悪いレビューは削除しているんだろう」と考えて、信憑性を疑いませんか?
いくつかの消費者行動研究でも、ポジティブ要因とネガティブ要因の両方を提示する両面提示広告では、ネガティブ情報が許容できるレベルであれば、むしろ情報の信頼性を高めるため、説得の効果が高いことが示されています。(中略)
さらに両面提示の場合、ポジティブ要因とネガティブ要因のどちらを先に提示するべきかという順序効果の研究では、受け手がどれだけ広告を詳細に吟味して理解しようとするかによって違うことが確認されました。
情報処理の動機が高い場合は初期メッセージに(初頭効果)、逆に動機が低い場合は最終メッセージに(親近性効果)、より強く影響されるのです。
したがって、関心の高い商品・内容の場合は最初にポジティブ情報を、関心の低い商品・内容では最初にネガティブ情報を提示する方が、最終的な評価が高まることが示唆されます。
■4.「最低価格保証」は本当にお得か?
まず、これからこの店で買おうと思っている人に対しては、「当店はどこよりも安いので、ここで買えば間違いがありませんよ」という意味で、新規顧客や潜在顧客を誘引する役目を果たしています。
同時に、すでにこの店で買った顧客に対しては、「もっと安く売っている店があったと、あとで後悔することはありません。あなたは正しい選択をしたのですよ」というメッセージにより、顧客満足度を高める効果があります。
たとえ顧客が「他の店の価格を十分に調べないで買ってしまったかな?」などと自身の購買に対して不安を抱いていたとしても、それを解消させる役割を担っているのです。
ここまでは消費者にとっていいことずくめなのですが、実は最低価格保証は競合店に対して「値下げ競争は無駄だからやめましょう」という暗黙の価格カルテルを発信しています。
したがって最低価格保証がある場合の方が、市場価格が高いレベルに落ち着く傾向があります。
■5.値引とポイント付与では、ポイント付与の方が販売効果がある
あるスーパーマーケットのID付きPOSデータを用いた2007年の分析では、1%の値引きが3.3%の販売増加を生んだのに対して、1%のポイント付与は12%の販売増加をもたらしたことが報告されています。
つまり同じ還元率(値引率) であれば、ポイント付与は現金値引きの3.6倍、販促効果があったのです。計算上では値引きの方が得なのに、なぜポイント付与の方が顧客にとって魅力的だったのでしょう?
理由の1つは、プロスペクト理論によって説明できます。(中略)
ポイントは次回以降の購買に使えるため、今回の購入とは別の(分離された) 利得と見なされる傾向が強くなります。それに対して、現金値引きでは支払金額から値引き分が減った(統合された) 損失と見なされます。たしかにポイント還元を考慮して「実質◯◯円」と、購入時点では購買とポイントを統合して考える人もいます。しかし多くの人は、ポイントを貯め続けて、1000円や2000円といった、ある程度まとまった額になったときに使うことが既存研究で確認されていることからも、ポイントは別会計に計上されるという分離的な解釈が支持されるでしょう。
【感想】
◆自分自身、それなりに「マーケティング本」は読んできましたし、同様に「行動経済学本」も読んできました。それなのに、今般本書を読んで、新たに得た知識が多々!
実際、「マーケティング本」でここまで行動経済学の要素を織り込んだ作品は記憶にないですし、逆に「行動経済学」でも、ここまでマーケティングを意識している作品も珍しいと思います。
なお、この両者の関係について、本書の「はじめに」によると、あのフィリップ・コトラーが日経新聞2013年12月31日の「私の履歴書」で
実は行動経済学は『マーケティング』の別称にすぎない。と述べているのだそう。
そういう意味で本書は、このコトラーの発言に沿ったものと言えると思います。
◆ちなみに上記で引用した5つのポイントは、私はいずれも知りませんでした。
たとえば上記ポイントの1番目のお寿司の話で言うなら、「はいはい、松竹梅効果ね」と思ったら、「松」が出てこなかったの巻(困惑)。
ホントは最後の最後で、「高価格、高品質」の「松」も登場するのですが、「実は、両方の属性(品質と価格) の値を同時に操作したおとり商品だと、人は品質の違いと価格の違いとをトレードオフにかけて、頭の中でさまざまな計算をするため、妥協効果や魅力効果が弱まってしまう」のだそうです。
どちらか片方の属性値のみを変えることによって、商品間の優劣がより明確となり、妥協効果あるいは魅力効果が強く出ることが実験で確認されています。なお、「妥協効果」と「魅力効果」を比較すると、人は一般的には利得増加よりも損失回避を重視するため、高価格を和らげる妥協効果は、高品質を増強させる魅力効果よりも強くなる、とのこと。
◆同様に上記ポイントの2番目も、利得と損失の組み合わせで、こんなに違いがあるのかと、改めてビックリです。
1つ1つの事例は言われてみたら、確かにそうなんですけど、パターンとして考えたことはなかったと言いますか。
ちなみにこの絡みで、もうすぐ迫った「消費税増税」についても具体例(定食屋のランチの値段)が挙げられていました。
昨今の人件費や輸送費の上昇で、そもそも値上げが必要だった場合に、消費税増税と一緒にやるべきか否か?
これがなんとランチの価格が「税込み」で表示されているか、「税抜き」で表示されているかで、異なってくるという。
まずは、ランチの価格が税込みで掲示されている場合を考えてみましょう。値上げを増税の半年前に行えば、掲示される値段はまず20円アップ、次にその6か月後に30円アップと、消費者にとって損失が分離されてしまいます。逆に「税抜き」の場合は、同じように考えると……(詳細は本書を)。
一方、同じタイミングで行えば1回のみの50円アップなので、消費者の損失は統合されます。後者の方が痛みは小さいため、値上げと増税は同時にするべきです。
◆また、このポイントの2番目の一番最後にある「大きな損失と小さな利得は分離」に関して、具体例として挙げられているのが「ポイント付与(還元)」です。
これに関しては、上記ポイントの5番目で深掘りされているのですが、実際に調査の結果でも
同じ還元率(値引率) であれば、ポイント付与は現金値引きの3.6倍、販促効果があったというのにはビックリの巻!?
思い出してみても、今まで読んだ本だと、「同じ率なら、値引の方がお得ですよ」という消費者サイドからのお話だけでした。
こちらは吉澤大先生の、分かりやすいブログ記事なのですが。
参考記事:現金割引とポイント還元ではどっちが得なのか? | あなたのファイナンス用心棒 吉澤大ブログ
なのに、実際に購入に結び付いているのがポイント付与の方が大きいとなれば、売る側としてみたら、こちらを選ばない手はありませんよね?
もともと、「行動経済学」自体が、このような「実際の損得」と相反する人間の行動を扱っているだけに、この部分は非常に腑に落ちた次第……。
◆もちろん、上記ポイントの3番目の「両面提示広告」も、話としては知っていましたが、動機の高低によって順番を変える必要がある、というのは初耳でした。
さらには上記ポイントの4番目の「最低価格保証」に、「価格カルテル」の効果があったとは!?
……どう考えても、値引き合戦になってどこも損しそうな気がしたんですが、違うんですね?
なお、これだけ学術系のエビデンスをベースにしていながら、巻末に注釈が一切ないのはどうかと思いますが、ただでさえそれなりにページがある(単行本で288ページ)以上、下手に注釈を付けていたら300ページ超で、お値段ももっと高くなったハズ。
それが普通のビジネス書のお値段で、これだけ濃い内容が読めるのですから、個人的には「お買い得」だと思います。
これはオススメせざるを得ません!

東大教授が教えるヤバいマーケティング
CHAPTER 1 人は非合理的に行動する生き物 ― かしこいマーケターはそこに目を付ける
CHAPTER 2 その商品、本当に必要? ― プロダクト
CHAPTER 3 値付けに込められた意図 ― プライス
CHAPTER 4 広告を見る目が変わる ― プロモーション
CHAPTER 5 そこで買ってもいいのか? ― プレイス
CHAPTER 6 消費者に見られる心理 ― コンシューマー
CHAPTER 7 売り手側の事情 ― コンペティター
CHAPTER 8 企業が知っておくべきこと ― カンパニー
●マーケティング関連用語集
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「行動経済学」友野典男(著)(2006年07月20日)
「ヤバい経済学 」スティーヴン・レヴィット&スティーヴン・ダブナー (著)(2006年05月07日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
ビジネス中国語なんて超簡単! 最短最速で上達する中国語学習法
CCCメディアハウスさんが、こういう語学本を出しているとは知りませんでした。
中古は値崩れしていますが、「63%OFF」という値引率のおかげで、実質的にKindle版の方がお買い得となります。

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