2019年05月16日
【生産性向上?】『外資の流儀 生き残る会社の秘密』中澤一雄

外資の流儀 生き残る会社の秘密 (講談社現代新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、5月初めの「未読本・気になる本」の記事にて人気だった働き方本。昨日ようやく発売となったので、さっそく読んでみた次第です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
好むと好まざるとにかかわらず、あと数年のうちに「外資型」に変われない日本の企業は生き残れないと思います。なぜなら生産性や効率の点で、日本型経営の企業は、外資系企業にかなわないからです――終身雇用や年功序列を廃し、完全能力制に基づく「外資の勝利の方程式」を、外資系企業歴45年のプロ経営者が完全伝授。
中古もまだ値崩れしていませんし、若干お得なKindle版がオススメです!

McDonalds / JeepersMedia
【ポイント】
■1.レジの現金差は0.1%まで許容されるマクドナルドの場合、ヒューマンエラーは「起こる」という前提に立ちます。だから、売り上げの0.1%までの現金差は許容されていました。レジ上の売り上げよりも実際の金額が少なくても、誤差が0.1%までならば許されるという意味です。
当時、店の売り上げの入金などでアメリカの銀行には頻繁に通っていました。銀行の支店長と話をする機会も多く、この現金差についての話題も何度か出ていました。支店長は具体的な数字は言いませんでしたが、現金はプラスマイナスゼロにならなくても仕方がないと言っていました。
おそらく、勘定がぴったり合うまで帰れないのは日本だけだと思います。(中略)
この問題は、ヒューマンエラーをどのように考えるかの違いです。
日本の場合は100%性善説なので、金額は合って当たり前ということになります。ヒューマンエラー、とくに金銭に関してはあってはならない。だから合うまでやり直させるという発想になりがちです。
しかし、アメリカは多少 大雑把 にしていい代わりに、効率性を極限まで高めて生産性を上げることを第一に考えるのです。メリットとデメリットを比較した場合、メリットのほうが大きくなるという発想です。
■2.買い上げ率にこだわる
外食産業・物品販売業の双方で仕事をしてきた私は、その経験のなかで両者の違いを強く感じていました。
外食産業の場合、100人のお客さんが来店したら、客席が満席でない限り、100%の人が何かを購入します。その前提に立つと、100の状態をどれだけ回せるかという「回転率」と「客単価」が重要な指標となります。(中略)
1998年11月、ユニクロが都心部の1号店を原宿の明治通りに出しました。当時、ユニクロはものすごく売れていましたが、それでも買い上げ率は20%程度だったと記憶しています。それだけ流行っていても、買い上げ率は意外と高くないのです。
重要なのは、買い上げ率がわずか10%しかないということではありません。10%から11%に1%上げるだけで、売り上げが10%上がることです。そこに気づかない人が多い。しかし、10%の増収は非常に大きいはずです。
だからこそ、買い上げ率が大切になってくるのです。買い上げ率そのものの増減は1%ですから、それだけを見ると影響は小さいと思ってしまいがちです。そうなると、買い上げ率の価値を見誤まってしまいます。
■3.昨年対比より予算対比
そしてもう1つ。年間計画を立てるとき、日本企業の悪しき特徴は、いわゆる「昨対(昨年対比)」を持ち出すことです。初めてそれを聞いたとき、驚きを通り越して不思議に思いました。
上場企業の決算を統轄している東京証券取引所(東証) が、各企業に第1四半期を終えての報告書を出させます。ですが、そこには昨年の実績数字と今年の第1四半期の数字しか記入する欄がありません。今年の予算(目的達成のために計画を立てた費用) に対する実績の比率を書く必要がないのです。
しかし、上場企業が責任を負っているのは、株主に対して発表した来期の予測数字のはずです。そこに興味を持った人が株を購入して株主になっています。ということは、昨対ではなく予測に対する実績のほうが、株主にとってはずっと重要なはずです。それなのに、予測に対する実績を出さないのです。
昨対は、あくまでも自分たちの会社の論理でしかありません。会社が責任を負うべき株主を見ていません。こういうシステムである限り、経営者にも予算(目標)を100%達成しようという強いマインドが生まれません。ここにも、日本企業の問題が横たわっています。
■4.オーガニックグロースの範囲内でしか成長しない日本企業
前述しましたように、会社が現在持っている商品やサービスだけで成長する部分を「オーガニックグロース」と言います。多くの場合、既存の商品やサービスによる成長率は低く、おおむね3%以内に収まるケースが大半です。サラリーマン社長や世襲社長の多くは堅実な経営を志向し、攻める経営には概して消極的なため、基本的にオーガニックグロースの範囲内でしか成長しません。逆に言えば、ハイリスクを取らないために寿命が延び、その結果としてハイリターンを得ることができず、オーガニックグロースしか得られない──ということでもあります。
一方のアメリカの場合は、1965年には75年ほどもあった企業の平均寿命が、2015年には一気に15年まで短縮しています。そこまで短命になったのは、もちろんそれだけ競争が激しく、短期間で潰れてしまうということもありますが、すぐにM&Aによって買収されてしまうのも一因です。(中略)
日本企業はいまだに「オーガニックグロース主導の低い成長率にとどまる経営」が主流です。そのため、日本企業は世界のグローバル化の流れから取り残されています。それが日本企業の弱さにつながり、経営者のマインドが保守的であることも重なって、さらに 蚊帳 の外に置かれているように見えます。
■5.転職者の面接で見られる着目点とは?
私が転職者の面接をするとき、とくに重視するのは着目点とその順序です。
着目点は第一に「 情熱」、第二に「人柄」、そして第三に「能力」です。この優先順位が大事なのです。
いくら人柄が良く、能力的に優れていても、仕事で何かを成し遂げようとする強い情熱がなければ、何事も成功しません。
また、情熱や能力があっても、仕事は必ず他人と関わるもので、チームを円滑に運営できなければ生産性は下がります。そのとき、もっとも大切なのが人柄です。採用に関して、私は必ず転職者の前職でのリファレンスチェック(身元・経歴照会) を行っていました。外資に転職しようとする人は前職が外資のことも多いので、必ずと言っていいほど、誰かがその人の上司や部下を知っていました。その人たちに聞けば、人柄はだいたいわかります。評判が悪い人、敵の多い人は絶対に採用しませんでした。
会社はチームワークなので、そこで敵を作るということはチームでのワークができないことになります。ブランドの強い会社にいた人は、個人の能力よりも周りとうまくやれる能力のほうが大事になると思います。人柄よりも能力を優先する形で採用すると、たいていはうまくいきません。
【感想】
◆冒頭の内容紹介で、著者の中澤さんのことを「外資系企業歴45年のプロ経営者」と呼んでいますが、それも納得。新卒時の日本マクドナルドを皮切りに、ディズニー、ケンタッキーと、有名どころの外資系を渡り歩いてらっしゃいます。
特にマクドナルドでは、あの藤田田さんに重用されたようで、知られざるエピソードも多々ありました。
藤田さんといえば、孫正義さんがまだ無名の高校生の頃におしかけて、教えを乞うたことでも知られたお方。
丁度昨日、HONZの田中さんも、この本を激賞していましたっけ。

ユダヤの商法(新装版)
参考記事:狙うは女と口『ユダヤの商法』 - HONZ
◆こうした外資系の効率を重視する部分を明らかにしたのが、本書の第1章です。
上記ポイントの1番目のレジのお話は、私も知りませんでしたが、一瞬「銀行でも合わなくていいの?」とビックリしました。
ただ、確かに「重要性の原則」から言ったら、0.1%の誤差など微々たるもの。
たしかに合わずにロスになった金額はコストになりますが、合わなかった場合に合うまで現金を探したり計算し直したりするための人件費と比較すると、ごくわずかな金額です。他にも、宅配物を配達して、届け先が不在だった場合の「玄関先放置」も、盗まれてしまった場合は保険でカバーするので、再配達のコストと、保険料を計算した上でそうしている、とのこと。
この辺は私たち日本人からすると、少なからず違和感を覚えますが、パラダイムシフトが必要なのかもしれません。
◆また、上記ポイントの2番目の「買い上げ率重視」のお話は、第4章の「外資の高い効率と生産性」からのもの。
中澤さんが外資で得た経験をもとに取り組んだ、企業改革の一環の1つでもあります。
なお、上記では割愛していますが、「外食産業と物品販売業の違い」としてもう1つあるのが、「買い上げ点数の上限」。
人間の胃袋には限界がありますが、物品販売なら理論的には無限大ですから、買い上げ率のほかに買い上げ点数を増やす工夫が必要になってくるわけです(詳細は本書を)。
他にも、商品点数を絞り込むことの重要性も言われており、それは私の顧問先でも感じているのですが、なかなか難しくて……。
◆では逆に、何で日本の生産性が低いのか、について言及しているのが続く第5章。
もっともここでは「新卒採用」「年功序列」「終身雇用・定年制」とおなじみのお話が登場するので、割愛しました。
ただ、ちょうど最近「終身雇用」が限界である旨の発言もありましたし、これから徐々に変わっていくのでしょう。
「終身雇用守るの難しい」トヨタ社長が“限界”発言(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース
他にも「コミットした目標に達しなかった場合に、日本企業は甘い」という指摘も耳イタイところです。
実際、上記ポイントの3番目にあるように、予算対比をシビアに捉えるところから、考え直さないといけないかと。
◆なお、最後の第8章では「戦略的転職のすすめ」と題して、中澤さんご自身のアドバイスとQ&Aを収録。
上記ポイントの5番目はその1つなのですが、「有名外資のトップレベルを歴任した方」の意見として参考にしてみて下さい。
また、個人的に参考になったのが、ビジネスセンスの磨き方。
新聞のチラシから不動産市場の変化を見抜いたり、ニュースから業績がよくない会社の立て直しを考える等、日頃からできることは結構あるワケです。
さらには、部下に結構な値段のプレゼントを贈るなんて、日本企業ではあまり聞いたことがないような?
外資経験者の方は存じませんが、自分が外資の経験がない分、学ぶところが多い1冊でした。
「外資流」を身につけるために読むべし!

外資の流儀 生き残る会社の秘密 (講談社現代新書)
はじめに 「外資の掟」を知らない日本企業は生き残れない
第1章 効率の国アメリカ
第2章 外資に飛び込む
第3章 アメリカは日本の30年先を進んでいた
第4章 外資の高い効率と生産性
第5章 日本の生産性を落としているものの正体
第6章 外資系企業の核心「8つの掟」
第7章 今後日本に押し寄せる効率化の波
第8章 戦略的転職のすすめ
おわりに たとえ痛みを伴っても
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【出世のヒミツ】「外資系キャリアの出世術」シンシア・シャピロ(2008年03月21日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
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テーマとしては、まさに当ブログ向きとも言える問題解決本。
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