2019年05月06日
【思考術】『すべては「好き嫌い」から始まる 仕事を自由にする思考法』楠木 建
すべては「好き嫌い」から始まる 仕事を自由にする思考法 (文春e-book)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「文春祭り」にて大人気の1冊。当ブログでは、あの名著『ストーリーとしての競争戦略』以来となる楠木 建さんの作品なのですが、軽妙な文体に反して、考えさせられる内容でした。
アマゾンの内容紹介から。
「無努力主義」の仕事術。個人を自由にし、強い組織をつくり出す!『ストーリーとしての競争戦略』の著者が贈る「究極の仕事論」
なお、中古がほとんど値下がりしていませんから、セール期間中なら、このKindle版が900円ほどお得な計算です!
Jeff Bezos / jurvetson
【ポイント】
■1.具体と抽象の往復運動をする「それはどういうことだろう」「なぜだろう」という問いに対して自分なりの答えを出す。「考える」とはそういうことなのだが、その中身はつまるところ「具体と抽象の往復運動」である。断片的な具体(シュークリームが好きでクッキーが嫌い)を抽象化してみる。すると抽象的な概念なり次元(水分含有率)が見えてくる。今度はその概念を具体レベルに落とし込んで適用してみる。さらに概念が洗練され、対象に対する理解が深まる。
考えるということはすなわち言語化である。人は言葉でしか考えられないようにできている。思考は言語化を強制する。これがイイ。言語化しておかないと、自分の好き嫌いを生活や仕事の選択なり判断の基準として活かすことができなくなる。
「はじめに」で話したように、僕は「好き嫌いが大好き」なのだが、その1つの理由は、個人の好き嫌い問題が具体と抽象の往復運動の格好の題材だということにある。垂直的な思考の往復運動を繰り返すうちに、自分の好き嫌いの基準や正体がわかってくる。自分の好き嫌いについて意識的になる。
■2.「想像」は裏切るが、「経験」は裏切らない
ただし、である。僕の本音を言えば、こういうことになる。いくら目線を上げてオーナーの気持ちになって仕事をしても、実際に独立してオーナーになってみるまで本当のところはわからない。元も子もない話だが、雇われ店長である限りは、どんなに想像を 逞しくしてオーナーのつもりで仕事をしても、結局のところ、雇われ店長でしかない。(中略)
僕も若い頃は、それが仕事であっても私生活であっても、未知のことについて事前にいろいろと想像をめぐらせるということがあった。しかし、今ではほとんどそういうことはしない。
なぜかというと、無駄だからである。事前の想像がまるで役に立たないという事態に繰り返し遭遇しているうちに、想像したり予想するのがすっかりバカバカしくなってしまった。
いくら入れ込んで想像しても、実際に体験してみると、事前の予想と現実とではまるで違う。とどのつまりは、経験してみないことには始まらない。未知のことについては、それが未知であるほど、事前にあれこれ考えずに「ま、とりあえずやってみるか……」という姿勢で生活している。10時間の想像よりも1分の実体験。これが僕の結論だ。
■3.他のEコマース経営者とベゾスとの違い
ベゾスが考えたことの順番はこうだった。「購買意思決定のインフラをつくる。そうすると、これまでになかった利便性を提供できる。だから、お客が(その利便性を求めて)集まる。いきなりアマゾンでどんどん物を買ってくれないかもしれない。それでも日常的にアマゾンのサイトにある情報を見に来るようになる。そこに多くの人が集まっているので、アマゾンで売りたいという人々(メーカーやセラー)が出てくる。で、品ぞろえが充実する」。
他社は「品ぞろえの充実」を差別化として意図した。そこに利便性の原因を求めた。しかし、そんなにふわふわしたものでは話にならない、というのがベゾスの考えだった。利便性の正体は購買意思決定支援にある。それがまず顧客を惹きつけ、その上で次にセラーを惹きつける。アマゾンにとって「品ぞろえの充実」は原因ではなく、結果に過ぎない。
論理的な時間軸を取っ払って平面上にやっていることを箇条書きしてしまえば、意図していることの順番はまるで違うにもかかわらず、アマゾンと競合他社との間には(とくに初期の段階では)さしたる違いはないように見える。しかし、ことの順番を考慮に入れると、まったく違ったストーリーになっている。ここに戦略と差別化の醍醐味がある。
■4.「正しさ」をあえて劣後させる
「ナンバー1、ナンバー2戦略」、これは論理的には「選択と集中」という話であり、それ自体はとくに目新しい方針ではない。会社を変えようとする大企業のCEOであれば、だれもが考えることだ。にもかかわらず、普通のCEOは、ウェルチのように徹底してやりきれない。なぜか。
その1つの理由は、普通の(優れた)CEOが「正しい」ことをやろうとするからだ。これに対して、ウェルチは「シンプルさ」を優先した。変革のためのアクション、とくに破壊に向けたアクションは徹底的にシンプルでなければならない。組織全体で解釈の余地がないほどわかりやすくなければならない。そうでなければ、全員で方向性を共有できないし、明確な意思決定に基づいて一気呵成に破壊を実行できない。
「ナンバー1、ナンバー2戦略」は、意思決定の基準において「過剰にシンプル」だった。シンプルさ、明瞭さを追求するために、「正しさ」を半ば意図的に劣後させているのである。ウェルチはただ1つの基準に忠実に事業の選別を断行した。
■5.「誰に嫌われるか」をはっきりさせる
最初から繰り返し話してきたように、世の中のほとんどの問題は結局のところ個々人の好き嫌いに根ざしているというのが僕の思想哲学だ。「好き嫌い」が大好きな僕からしてみれば、「好き」だけでなく、「嫌い」にも重要な意味が込められている。
誰からも好かれている人は本当のところ誰からも愛されていない。誰かから好かれるということは別の誰かから嫌われるということに等しい。商売もこれと同じで、全員から好かれまくるということはありえない。もし本当にそんなことになったら、独占禁止法でパクられてしまう。裏を返せば、全員に愛される必要がない、これが商売のイイところだ。
「誰に嫌われるか」をはっきりさせる。そういう人からはきっちりと「嫌われにかかる」。ここに商売の生命線がある。僕は、自分の仕事がどういう人から、どのように嫌われるのかに大いに興味がある。罵詈雑言を浴びるたびに、自分の仕事のコンセプトの輪郭が明確になる。誰に向けて、何をすればいいのかがはっきりしてくる。それが日々の仕事の拠りどころとなる。
【感想】
◆私にとっては、久しぶりに読んだ楠木 建さんの作品でした。楠木さんといえば、冒頭でも触れたように『ストーリーとしての競争戦略』が代表作です。
ストーリーとしての競争戦略 Hitotsubashi Business Review Books
参考記事:【スゴ本】『ストーリーとしての競争戦略』楠木 建(2010年10月20日)
……単行本で500ページを超える作品なので、何日もかけて分けて読んだ記憶がw
ちなみにこの本が売れ始めた頃、私も新聞広告で推薦させてもらったことがありました(遠い目)。
記事タイトルで「スゴ本」とうたったくらいですから、実際「目からウロコ」の連続でしたし、ビジネスモデル好きの方なら、機会があれば読んでいただければ、と。
また、既にお読みになった方なら、「会社」にフォーカスした本書の第2部のあちらこちらで、『ストーリーとしての競争戦略』に通じる話を読んで、ニヤリとされるに違いありません。
◆さて、ひるがえって今回の作品。
実は、各節の最初がほぼすべて
あくまでも個人的な好き嫌いの話として聞いていただきたい。という一文で始まっています。
確かにそれは「スポーツが嫌い」だったり、「エルヴィス・プレスリーとジェームズ・ボンドが好き」だったり、「アップルが嫌い」だったりといった、一見「どうでもええやん!」的なお話ばかり。
ただし楠木さんの場合、上記ポイントの1番目にもあるように、「具体と抽象の往復運動」という行為を行うことによって理解を深めているワケです。
ちなみに、エルヴィス・プレスリーとジェームズ・ボンドは、楠木さんが小学生の頃憧れていた人物であり、当時から「具体と抽象の往復運動」によって両者の共通点や相違点を意識していた、とのこと。
それは大きくなってからも同様で、就職を考えた際にも「(1)ソロで、(2)自由度が高く、(3)利害が軽く、(4)外部にいる顧客に直接向き合える」、という4条件(楠木さんいわく「エルヴィス4条件」というのだとか)を満たすことを目指したのだそうです。
なお、「具体と抽象の往復運動」に関しては、個人的にはこの本もオススメ。
具体と抽象
参考記事:【抽象化?】『具体と抽象』細谷 功(2017年04月03日)
◆一方、こうした「好き嫌い」の対象概念として挙げられているのが、「良し悪し」という考え方です。
楠木さんは、それぞれを信条とするグループを「好き嫌い族」「良し悪し族」と命名し、ご自身が前者に属することを明言。
ただし、最近は後者の「良し悪し族」が幅をきかせていることを嘆いてらっしゃいます。
つまり、本来「好き嫌い」レベルで済ませるべきところを、相手を論破すべく「良し悪し」論を持ち出してしまうという。
上記ポイントでは割愛しましたが、「選択的夫婦別姓制度」などは、その最たるものの1つでしょう。
これは「選択的」夫婦別姓を認めるというだけであって、何も全員が夫婦別姓にしろという話ではない。好きな人は別姓にすればよいし、それが嫌であればもちろん同姓にすればよい。これほど社会的コンセンサスがとりやすい話もないと思うのだが、かたくなに別姓オプションを認めないという人がいる。どうにも理解しがたい。私も「それは当然こうすべきろう!(良し悪し)」と思っていることが、実は単なる「好き嫌い」の話ではないか、と確認しなくては……。
◆また、上記で述べたように、本書の第2部は、「好き嫌い」を会社に当てはめるお話です。
たとえば楠木さんは「タマゴサンドが好き」で、「ローストビーフサンドが嫌い」。
これは「具体と抽象の往復運動」で言うならば、「組み合わせの妙」に落ち着きます。
ただし、「ビジネス」が単純に「良い物どうし」を組み合わせるだけで良いならば、簡単に他社に模倣されてしまうワケで。
そこでキモとなるのが「レシピ」、特に「手順」であると楠木さんは断言されています。
材料やその組み合わせであれば外からある程度まで推測できる。しかし、手順は外からなかなか見えない。だから料理人はレシピを秘匿する。差別化と競争優位の源泉は順列にある。そこで例として登場するのが、上記ポイントの3番目のアマゾン。
他社はアマゾンの「順番」までは意識していない結果、似て非なるものになっているのだそうです。
◆ところで私は、楠木さんがTwitterやNewsPicksで炎上したことがあった、という話は全然知りませんでした。
たとえばこのツイートは大炎上したらしいのですが。
【メモ】なぜギャンブルが仕事になり得ないか。それは自分の利得だけを考えているから。自分以外の誰かのためにやる。他者を儲けさせて、そのことによって自分が儲かる。これが仕事。したがって投資顧問業は仕事だが投資そのものは仕事ではない。投資家という職業はない。それはただの趣味。
— 楠木建 (@kenkusunoki) 2017年8月31日
真意というか、140字で説明しきれていない分は本書でお読みいただくとして、これは確かに個人投資家の人からすれば「カチン」ときます罠。
またNewsPicksでも、以前匿名でコメントできた頃には、メチャクチャ叩かれていた(本書には罵詈雑言の例が掲載されています)のだそうです。
そのことに関して、楠木さんいわく
もちろん僕にしても罵詈雑言を浴びることそれ自体は嬉しくない。それでも、キライじゃない。ある意味、スキといっても過言ではない。とのこと。
その理由は上記ポイントの5番目にあるとおりであり、まさに「好き嫌い」を評価基準にしているだけのことはあります。
……炎上しがちな方は、参考にしていただきたく。
考え方の「パラダイムシフト」が起こるかもしれない1冊!
すべては「好き嫌い」から始まる 仕事を自由にする思考法 (文春e-book)
第1部 「好き嫌い」で仕事をする
第2部 「好き嫌い」で会社を見る
第3部 「好き嫌い」で世の中を見る(
【関連記事】
【スゴ本】『ストーリーとしての競争戦略』楠木 建(2010年10月20日)【抽象化?】『具体と抽象』細谷 功(2017年04月03日)
【思考術】『問題解決のジレンマ―イグノランスマネジメント:無知の力』細谷 功(2017年11月20日)
【編集後記】
◆昨日の「Kindle本GWセール」追加分(フォレスト出版、ポプラ社、SBクリエイティブ)の記事で人気だったのはこの辺でした(順不同)。実践!ペップトーク
参考記事:【PEPTALK】『実践!ペップトーク』浦上大輔(2019年04月04日)
最高の成果を生み出す ビジネススキル・プリンシプル
いつも結果を出す部下に育てるフィードフォワード
最高の結果を出すKPIマネジメント
参考記事:【KPI?】『最高の結果を出すKPIマネジメント』中尾隆一郎(2019年01月06日)
宜しければ、ご参考まで!
ご声援ありがとうございました!
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