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2019年04月22日

【発明?】『50(フィフティ) いまの経済をつくったモノ』ティム・ハーフォード


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50(フィフティ) いまの経済をつくったモノ


【本の概要】

◆今日ご紹介するのも、昨日に続いて「日本経済新聞出版 春の大型キャンペーン」の中から、個人的に読みたかった1冊。

フィナンシャル・タイムズ紙シニアコラムニストとして知られるティム・ハーフォード氏が、「50の発明」とそれに伴う「社会の変化」について言及した注目作です。

アマゾンの内容紹介から。
新しいアイデアは、常に勝ち組と負け組を作り出してきました。イノベーションのプラスの効果を最大限にしつつ、マイナスの効果を最小限にとどめるには、どうすればいいのか?蓄音機、有刺鉄線、パスポート、育児用粉ミルク、ビデオゲーム、空調、デパート、輸送用コンテナ、楔形文字、ディーゼルエンジン、カミソリと替え刃、モバイル送金、紙、電球…といった「50の発明」の物語から、イノベーションとの向き合い方を問います。

なお、中古がそれほど値崩れしていないため、送料を加算するとKindle版が500円以上お得となります!





Cuneiform / dailymatador


【ポイント】

■1.ピル
 もちろん、1970年代には、アメリカの女性をとりまく環境はほかの面でも大きく変わった。妊娠中絶法が制定された。性差別を禁止する法律ができた。フェミニズム運動が広がりを見せた。そして、若い男性がベトナム戦争に徴兵されたため、企業は代わりに女性を積極的に雇用するようになった。
 しかし、ハーバード大学の経済学者、クラウディア・ゴールディンとローレンス・カッツが入念な統計調査をしたところ、女性が結婚と出産を遅らせて、自分のキャリアに投資できるようになったのには、ピルが大きな役割を果たしていたにちがいないことを強く示唆する結果が得られている。変化していたほかの要因では、タイミングの問題で、起こったことをうまく説明できない。だが、ゴールディンとカッツは、若い女性にピルが解禁されたあとになにが起きたかを州別に追跡しており、それによると、それぞれの州でピルが解禁されると、専門職養成課程への入学率が跳ね上がり、その結果として、女性の賃金も急上昇している。


■2.楔形文字
 デニス・シュマント゠ ベッセラは、これとはまた別のことを指摘している。それは非常に革命的なことだった。楔形文字が書かれた粘土板の抽象的な印は、トークンを表していたのだ。ほかの誰もそれに気づかなかったのは、粘土板の印がなにかの絵だとは思えなかったからだった。抽象的なものに見えたのである。
 だが、シュマント゠ ベッセラはその意味に気づいた。粘土板は、トークンのやりとりを記録するために使われていたのである。(中略)
 古代の会計士たちはやがて、尖筆で印を刻むほうが簡単であることに気づく。つまり、楔形文字は、日用品を表すトークンを型押しした跡を定型化した絵だったのである。シュマント゠ ベッセラが気づくまで、誰もその関係を思いつかなかったのも無理はない。こうして、シュマント゠ ベッセラは2つの問題を一度に解決した。世界で最初の抽象文字が刻まれた粘土板は、詩を詠むためのものでも、遠く離れた土地にメッセージを送るためのものでもなかった。世界最初の会計帳簿を作成するために使われたのだった。


■3.銀行
 テンプル騎士団は、エルサレムへの巡礼者をイスラム軍から保護することを任務としていた。エルサレムは1099年に第一回十字軍によって奪還され、大勢の巡礼者がヨーロッパ大陸を横断して聖地に向かうようになっていた。巡礼の旅は何カ月にもわたる。その間に食べ物や移動手段、宿に支払うお金をなんらかの形で確保しなければいけないが、多額の現金をもち歩くと強盗に狙われてしまう。テンプル騎士団は、巡礼者を強盗からも守った。巡礼者は手持ちの現金をロンドンのテンプル教会に預けておき、それをエルサレムで引き出すことができた。現金をもち歩く代わりに、信用状をもち歩いていたのだ。国際送金サービスの十字軍バージョンである。


■4.モバイル送金
 アフガニスタンの53人の警察官は、自分の携帯電話をチェックしてみて、なにかミスがあったにちがいないと思った。2009年、公務員の給与を新しいモバイル送金サービス「M‐パイサ」で支払えるかどうかを試すパイロット・プロジェクトが実施され、警察官たちはその対象になっていた。このプロジェクトに参加したら給料が上がることになってでもいたのだろうか。それとも、誰かが送金額を打ちまちがえてしまったのか。メッセージが伝える給料の額は、いつもよりうんと多かった。
 じつは、それは警察官たちがずっと受け取っていたはずの金額だった。しかしこれまでは、給料は現金で支払われていた。警察庁から支払われる給料を署長がいったん受け取り、警察官に手渡していたのだが、そのどこかで給与の3割ほどの現金が抜き取られていた。それどころか、警察庁から給料を受け取っているはずの警察官の10人に1人は実際には存在しないことが、すぐに明るみにでた。


■5.S字トラップ
 1775年、カミングはS字トラップの特許をとった。S字トラップが登場したことでトイレの水洗化が進み、トイレの水洗化が進んだことで、いま私たちが知っているような公衆衛生が生まれた。すでに水洗トイレは使われていたが、臭いの問題があった。トイレと下水設備がパイプで接続されていて、屎尿を流せるが、下水の悪臭も逆流してきてしまうのだ。臭いを封じ込める蓋のようなものをつくりだせなければ、問題は解決しない。
 カミングが考え出した解決策はとても単純だった。パイプを曲げるのだ。カーブしている部分に水がたまり、臭いがのぼってくるのを防ぐ。トイレの水を流せば、水が補充される。S字型からU字型へとアルファベットが進んでいるが、いまも原理は変わっていない。カミングの発明には、改善の余地はほとんどなかった。


【感想】

◆非常に興味深い1冊でした。

そもそも、この50の発明がどのように選ばれたのか。
この本の目的は、経済に重要な影響を与えた大発明ベスト50を選ぶことではない。つまり、重大発明をカウントダウン形式で紹介するリスト記事の書籍バージョンではないということだ。
おそらく多くの方にとっても意外であろうことは、「コンピュータ」が選ばれていないことです。
私はコンピューターの影を薄くしたいわけではない。光を当てたいのだ。だから、コンピューターそのものではなく、コンピューターをいまのように多目的に使えるすばらしいツールにした発明群を見ていくことになる。人間とコンピューターのコミュニケーションがぐっと簡単になったのは、グレース・ホッパーがコンパイラを開発したからだ。電子商取引を安全に行えるのは、公開鍵暗号があるからだ。そして、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW) で有益な情報を見つけられるのは、グーグルの検索アルゴリズムのおかげである。
いずれにせよ、サブタイトルに「いまの経済をつくったモノ」とあるように、そのモノ自体の仕組み等もさることながら、人々の暮らしぶりを変えたような「発明」が多々登場している次第。

それらが、下記目次にあるように7つのテーマごとにまとめられています。


◆たとえば上記ポイントの1番目の「ピル」であれば、その後の出生率うんぬんではなく、女性の社会進出に注目。

実際、1970年代以降、女性が法学、医学、歯学、経営学修士(MBA) の学位課程で学びはじめるようになったのだそうです。

たとえば1970年には、医学の学位を取得した人の90%以上が男性だったところ、ピル解禁によってクラスの女性比率が急上昇し、1980年にはクラスの1/3が女性ということが多くなったとのこと。

一方、その反対例として登場するのがわが日本です。
日本は世界屈指の科学技術大国だが、ピルが解禁されたのは1999年になってからだった。同じ避妊薬を使えるようになるまでに、日本の女性はアメリカの女性よりも39年も長く待たなければならなかったのだ。
その結果、女性の社会進出が遅れたのでは、という指摘は、あながち的外れではないでしょう。

……なお、勃起不全治療薬のバイアグラがアメリカで認可されたときは、ほんの数カ月後に日本でも認められているそうで、さすが男女間格差が「先進国最大」なだけなことはあります罠。


◆また「暮らしぶり」の観点からすると、「お金」の話は避けては通れません。

私自身、上記ポイントの3番目の「銀行」の誕生については、初めて知りました。

ただし厳密には、このテンプル騎士団より数世紀前に、唐王朝時代の中国で「飛銭」なるものが使われていたのだそうです。
飛銭は二枚一組の証書で、商人は地方で得た儲けを現地の出先機関に預けて、首都に戻ったときに現金を引き出せるようになっていた。
ただし、これは政府が運営しており、民間銀行という意味では、このテンプル騎士団の方が近かったという。

さらに、いきなり最近の話として登場するのが、上記ポイントの4番目の「モバイル送金」です。

アフガニスタンの「M‐パイサ」に対して、ケニアでは「M‐ペサ」なるサービスが使われ、開始から2年もたたずにケニアのGDPの10%に相当する金額が「M‐ペサ」を通じて移動し、現在ではGDPの半分近くに相当するまでになっているのだそう。

ただし、上記引用部分のように、警察署長はネコババできなくなりましたし、今まで現金商売していた人たちは、売上をちょろまかせなくなるということで、皆が皆歓迎しているワケではない模様。


◆ちなみに今回、ボリューム的に引用が難しくて、泣く泣く割愛したのが「輸送用コンテナ」です。

そこで登場するのは、マルコム・マクリーンなる人物。

当ブログでもセールの際には何度もご紹介しており、私自身読むだけ読んでレビューしていないこちらの作品で、本1冊丸ごと使って描かれているのですが。

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コンテナ物語

……結構お高いものの、成毛眞さん激プッシュの作品なので、日経BP社さんのセールの時に、ぜひご検討ください。

この「コンテナ」以外にも、本書では「コールドチェーン」「冷凍食品」あたりが紹介されており、これらによって私たちの食生活は大きく変わってきたわけで。

上記のコンピュータもそうですし、こうした「発明」の関係性や組み合わせについても触れられているのが、本書の特徴の1つだと思います。

今、「普通の暮らし」を成り立たせているのも、こうしたさまざまな「発明」のおかげなんですよね。


アイデアや発明がお好きな方なら、楽しめる1冊!

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50(フィフティ) いまの経済をつくったモノ
はじめに
I 勝者と敗者
II 暮らし方を一変させる
III 新しいシステムを発明する
IV アイデアに関するアイデア
V 発明はどこからやってくるのか
VI 見える手
VII 「車輪」を発明する
結び 経済の未来


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【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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実践! 50歳からのライフシフト術 葛藤・挫折・不安を乗り越えた22人

版元がNHK出版さんということで、中身的にもガチだと思われ。

中古に送料を足すと定価を上回りますから、Kindle版が900円超、お得な計算です。


人気blogランキングご声援ありがとうございました!

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