2019年03月15日
【トヨタ式?】『トヨタ式5W1H思考 カイゼン、イノベーションを生む究極の課題解決法』桑原晃弥

トヨタ式5W1H思考 カイゼン、イノベーションを生む究極の課題解決法
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「春の雑学&実用書フェア」の中で気になっていた、「当ブログ向き」とも言える仕事術本。著者の桑原晃弥さんが、ご自身の取材や過去のトヨタ本等を基に、トヨタの「5W1H思考」を解説してくださっています。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
トヨタにとって問題は「あって当然」で、「問題がない」というのはほとんどの場合、「問題が見えていない」か「隠している」ことを意味します。
だからトヨタでは、独自の「5W1H」すなわち「WHY、WHY、WHY、WHY、WHY+HOW」で問題に食らいつき、真因を見つけ出すことで、確かな解決策を打つのです。
本書では、トヨタの現場やトヨタ式を導入した様々な企業で発生した実例を用い、大きな問題から小さな問題まで、「5W1H思考」で解決された様を解説します。
なお、中古が意外と高くて、送料を加味するとKindle版が700円弱、お買い得です!

the model of TPS(Toyota Production System) #1 / tfukaga
【ポイント】
■1.「問題ありません」ほど危ういことはないたいていの人にとって「問題」は「面倒なもの」で、「見て見ぬふり」をしたいし、できるなら「先送り」したい存在です。そしてどうしても避けられない問題に関しても、なるべく「素早く迅速に」片づけてしまいたいというのが普通の考え方ではないでしょうか。
対極にあるのがトヨタの考え方です。若いトヨタパーソンが素晴らしいアイデアを思いついた時のことです。そのアイデアを聞いた会議の参加者からは反対意見が出ないだけでなく、全員一致で「それはすごい、すぐに実行しよう」とほとんど即決状態だったにもかかわらず、その報告を受けた大野耐一氏はこんな懸念を口にしました。
「異論がないということは、異論を見逃していると思え。異論がなければ異論をつくれ。異論をわかったうえでやる」
■2.「このくらいは例外として認めよう」を許さない
当時、クランプが折れるというのは1000回に3回発生するかどうかの確率の低いものでした。これを「千三つ」と呼び、千三つの不良は例外であり、しかたのないものというのが当時の常識でした。ところが、大野氏はAさんにこういいました。
「むしろ千三つの方こそ大切なんだ。千三つをなくすよう不良発生の原因を退治しないとダメなんだ」
発生確率の高い不良退治に懸命になるのは当たり前のことですが、確率が低いとつい人は「このくらいはいいか」「しかたがないね」と大目に見る傾向があります。しかし、これではいつまでたっても「不良発生ゼロ」に近づくことはできません。確率の低いものを1つひとつ丁寧に真因を調べ、改善を行ってこそ不良は減り、「より良いものづくり」が可能になるというのが大野氏の考え方でした。
■3.「ゴミゼロ」実現のために視点を切り替える
きっかけは1人の役員のこんな言葉でした。
「ゴミゼロを簡単に達成する方法は何かわかるか?」
メンバーが首をかしげていると役員はこういいました。
「ゴミを出さなければ、ゴミゼロになるだろう。そもそもなぜゴミが出るのかを調べてみたらどうだ」(中略)
もちろん協力会社に悪意があるわけではありません。しかし、本気でゴミゼロを目指すなら、「お金を出してわざわざゴミを買っている」と考えることで、「どうすれば入口のゴミを減らせるか」と対策を練るべきです。ゴミゼロチームは協力会社や生産部門と話し合いながら、ムダな包装の簡素化、リサイクルしやすい材料への変更、何度も使える容器の導入などの改善を1つずつ進めていきました。
■4.最初からミスをしない仕組みをつくる
たとえば、部品を生産ラインに届ける時、その作業に必要な数ぴったりの部品が「取ってつけるだけ」でいいように正しい方向に並べた状態で届けられたとすれば、作業者はあれこれ考えたり、悩んだりすることなく作業を進めることができます。
トヨタ式を実践しているある企業の場合、1回の作業に8本のネジを締めるとすれば、作業者の元には都度8本だけのネジが届けられるようにしています。もしネジを入れたケースの中に1本でもネジが残っていれば「締め忘れた」ことがすぐにわかるからです。
これも「なぜネジの締め忘れが起きるのか?」という問いから生まれたものです。以前は作業者の脇にはたくさんのネジがまとめて置かれ、作業者はそこからネジをとって締めていたため、締め忘れに気づくのは最終検査、ということが少なくありませんでした。しかし、自分で気づければ、手直しのムダも省くことができますし、作業をしている人自身が自分で品質保証を行えるようになるというメリットがあります。
■5.仕事は捨てなければ増え続ける
かつてパナソニックの創業者・松下幸之助氏が、本社が事業所から上げさせる報告書の数が240種類もあると聞いて、こう提案しました。「明日会社が潰れると困るから、明日潰れるということに関係のあるものだけは残すけれども、それ以外は全部やめてしまってはどうか」。今の時代、こうした書類の種類はさらに増えているはずですが、松下氏にとって240という数はつくるのも大変だし、読むのも大変な数であり、とても実用的なものとは思えませんでした。結果、残った報告書は42種類だけになり、ムダな時間は減り、判断スピードも格段に上がったといいます。
個人でもそうですが、ものというのは放っておくといつの間にか増えてしまう傾向があります。どこで「捨てる」とか「整理整頓する」という決断をしない限りものは増え、収拾がつかなくなりますが、仕事にも同じことがいえます。
一旦始めた書類作成や仕事というのは誰かが「もうやめていいよ」といわない限り、ずっとやり続けがちです。そしてその積み重ねが「忙しさ」を生み、「ムダ」を生み、「時間」を奪っていくのです。
【感想】
◆徹頭徹尾、「トヨタ式」の奥深さと言いますか、「妥協を知らない」やり方が満喫できる作品でした。とにかく各章の各節ごとに、具体例が最低1つは収録されており、そのどれもが「トヨタ式」に則られているという仕様です。
まず序章の「トヨタは問題にこう向き合う」で分かるのが、冒頭の内容紹介にもあったように、「問題ない方が問題である」というスタンス。
その序章の初っ端に登場するのが、上記ポイントの1番目のお話です。
かんばん方式の生みの親とも言える大野さんにそう言われてしまうと、返す言葉もございません。
なお、こうした「トヨタ式5W1H」(書名だと「5」が全角で「1」が半角なのはなぜなのか?)を実現する3カ条がこちら。
(1)安易に「あ、そうか」というななるほど、徹底されていますね。
(2)問題は「現行犯逮捕」する
(3)「見つかるまで探す」という姿勢を貫く
◆続く第1章から引用した上記ポイントの2番目も、大野さんが本社工場長だったときのお話。
ちなみにここで登場するAさんは、2日間に渡って怪しい箇所に立ち、現場を見続けて原因が見つからず、その上で大野さんに報告しています。
しかし大野さんの答えは「見つかるまで探せ」。
大野氏がAさんに求めたのは、確率が高いか低いかにかかわらず、不良が発生した以上はその真因を何日かけても調べ上げるという姿勢でした。「なぜ」を深く掘り下げるというよりも、「なぜ」を考えられるすべての工程で投げかけるということです。その後3日目になって、実際に「クランプが折れる場面」にAさんは遭遇。
それを基に、機械工場の担当者と一緒に、二度と同じ問題が起きないように改善したのだそうです。
◆一方、本書の第2章でも「トヨタ式5W1Hで不可能を可能にする」という章題のとおり、「無理ゲー」の連続が。
上記ポイントの3番目の「ゴミゼロの実現」は、協力会社を巻き込んでやっと実現したケースですし、他の節のタイトルを見ても「3時間を3分に」「物流クレームをゼロにしろ」「納期40日から3時間へ」と、かなりの難題であることが伺われます。
とにかく、こうした「無茶な要求」を前にすると、普通なら「無理」とあきらめそうなところ、トヨタ式は違いました。
それぞれの現状がそうなっていることを、「なぜなのだろう?」と問いかけ、その積み重ねで問題解決につなげる次第。
なんでもトヨタ式では、「人は困らなければ知恵は出ない」とよく言われるのだそうです。
◆また、上記ポイントの4番目は「仕組み作り」のお話。
何か失敗やミスがあるたび「なぜ」と問いかけて、それを改善するのが「トヨタ式」です。
本書の第3章では、こうした現場改善のエピソードだけでなく、整理整頓や営業成績向上のヒントにも触れられていましたので、生産部門以外の方でも役立つこと必至。
さらに第4章でも、上記ポイントの5番目にあるような資料削減はもちろんのこと、残業削減や会議の改善方法にまで触れられていますから、当ブログの読者さんにも、役立つTIPSがきっとあると思います。
◆なお、巻末にはトヨタ本を中心とした膨大な参考文献も収録。
ただ、このように複数の書籍からエピソードを持ってくる際、一部を除いて固有名詞を匿名にした結果、どのお話も「Aさん」「B社」のようにA、Bから始まってしまっているのが、少々分かりにくかったです。
……おそらくアルファベットを順に当てはめていったら、26では足りなかったからかと。
もっとも、それを差し引いても、「トヨタ式」の神髄を味わえるという意味で、本書を読む価値は非常に高いと思います。
トヨタの強さの秘密が分かる1冊!

トヨタ式5W1H思考 カイゼン、イノベーションを生む究極の課題解決法
序章 トヨタは問題にこう向き合う
第1章 トヨタ式5W1Hは「しかたない」を許さない
第2章 トヨタ式5W1Hで不可能を可能にする
第3章 トヨタ式5W1Hで現場を改善する
第4章 トヨタ式5W1Hで「働き方改革」を前進させる
第5章 トヨタ式5W1Hでイノベーションを起こす
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【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
POWERS OF TWO 二人で一人の天才
以前、下記のHONZさんのエントリーを読んで気になっていた翻訳本。
送料を足した中古よりも、Kindle版が900円弱、お得となっています。
参考記事:『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』 - HONZ

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