2018年12月21日
【肥満の真実?】『一度太るとなぜ痩せにくい?〜食欲と肥満の科学〜』新谷隆史
一度太るとなぜ痩せにくい?〜食欲と肥満の科学〜 (光文社新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「光文社キャンペーン」の中でも人気だった「肥満解消本」(?)。とはいえ、単なるダイエット本とは違い、人間の味覚や行動傾向にまで踏み込んでおり、「目からウロコ」となる作品でした。
アマゾンの内容紹介から。
「太るのはイヤ」と思っている人は多い。また、一度太るとなかなか痩せられないと実感している方も多いのではないだろうか。いつか痩せると思って昔の洋服をとっておいても、結局、着ることができないといった…。肥満そのものは病気ではない。しかし、糖尿病や高血圧、高脂血症を始め、肥満は様々な疾患の原因になっているだけでなく、心筋梗塞や脳卒中など、死と隣り合わせの重篤な疾患を引き起こす。そして現在、日本や世界では、「健康を損なう肥満」が蔓延しつつある。本書では、基礎生物学の研究者が最新の知見を紹介。肥満が引き起こされる仕組み、美味しいものが認識される仕組み、食欲が生み出される仕組みなどを明らかにしながら、私たちが健康に生きるためのヒントを提示する。
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Sweets / nicubunu.photo
【ポイント】
■1.昨今、日本人男性の肥満が激増しているまず、男性について見てみましょう。2014年から2016年までの3年間の平均値を見ると、男性全体の肥満者の割合は約30%で、各世代間の差はそれほど大きくありません。
次に、30代から70以上の各世代の1982年から2016年までの年次変化を見てみます。すると、驚いたことに、これらすべての世代で肥満者の割合が増加しているのがはっきり分かります。ちなみに、20代ではこのような増加は見られません。
次に、女性について見てみましょう。女性全体の肥満者の割合は約20%で、男性よりかなり低くなっています。しかし、女性では世代が上がるにつれて肥満者の割合が高くなる傾向があり、50代以上では20代の倍以上になります。これは、女性では年齢にともなう基礎代謝量の減少が男性より顕著で、さらに閉経後に女性ホルモンが減少することで脂肪がつきやすい体質に変わるためと考えられます。(中略)
以上から分かるように、図8のOECDのグラフでは男女を合わせた値が使われていたため、男性の肥満者の顕著な増加は隠されているのです。また、男性に比べて女性で肥満者の割合が低いのは、日本人の女性は肥満に対する抵抗感が強く、太らないための様々な努力を継続して行っているからだと考えられます。
■2.人が甘味とうま味を喜び、酸味や苦みを嫌う理由
それでは、なぜ赤ちゃんは甘味とうま味を喜び、酸味や苦味を嫌がったのでしょうか。
甘味とうま味の共通点は、両者がともに体にとって有益な食べ物の味と関係していることです。つまり、甘味やうま味がする食べ物は体の中でエネルギーになったり、体を作る材料になったりします。このような食べ物を食べることで動物は生存を続けることができます。このため、甘味とうま味を「美味しい」と感じて積極的に食べようとする仕組みが動物の進化の過程で備わったと考えられます。
甘味とうま味の受容体はとても似た構造をしています。このことからも、両者が体にとって似た存在であることがうかがわれます。
一方、酸味や苦味のする食べ物には、体の調子を悪くする有害な物質が含まれていることが多くあります。そこで、このような食べ物を避けるために、酸味と苦味を「まずい」と感じる仕組みが動物に備わったのでしょう。
■3.アミノ酸と核酸の相乗効果
アミノ酸系のうま味成分と核酸系のうま味成分は、それぞれ単独で味わうよりも両者を組み合わせた場合に、うま味が飛躍的に強く感じられるようになることが知られています。これを「うま味の相乗効果」と呼びます。
グルタミン酸とイノシン酸の混合液について、両者の割合を少しずつ変化させてうま味がどう変わるかを調べた実験があります。それによると、グルタミン酸とイノシン酸が1:1のときにうま味が最も強くなり、それぞれが単独の時の7〜8倍の強さのうま味になるという結果が出たそうです。(中略)
日本料理では、昆布とかつお節からだしをひくのが基本となっています。このだしをベースにして、素材の美味しさをそのまま引き出すのが日本料理の特徴です。昆布にはグルタミン酸が多く含まれており、かつお節にはイノシン酸が多く含まれていることから、2つのうま味成分の相乗効果により、合わせだしからはとても強いうま味を感じることができます。明治時代の家庭料理の指南書には合わせだしの取り方が載っていることから、相乗効果でうま味が強くなることが経験的に分かっていたのでしょう。
■4.肥満の人が痩せにくい理由
ところで皆さんは、「特定の食べ物を食べたいという強い欲求」を感じることはないでしょうか。これは「食物渇望」と呼ばれる現象です。依存が生じた食べ物から一定期間引き離された状況で、その食べ物に関する何らかの情報が与えられると強い食物渇望が生じます。砂糖と脂肪分を豊富に含むチョコレートなどは、食物渇望を起こしやすい食べ物の代表です。
さらに、甘味と脂肪に対する依存が一度ついてしまうと、長期間にわたって消失しないことも知られています。
例えば、ネズミのコカインに対する依存状態は、コカインを断つことにより3日程度で消失します。一方、砂糖と脂肪が豊富に含まれたエサを長期間食べさせて依存状態にしたネズミは、このエサを断ってから2週間経過しても依存状態はほとんど改善しません。すなわち、甘みと脂肪に対する依存が一度生じてしまうと、その状態から抜け出すのは麻薬以上に難しくなるのです。これが、甘いものや脂肪の多いものを食べ過ぎて肥満になった人が、やせにくい理由です。
■5.他人に摂食量を決めさせない
私たちは、しっかり頭を働かせないと、他人が決めた食事量を適正だと思ってしまいがちです。例えば、コンビニ弁当やレストランで提供される食事量は、製造者や料理人などが決めています。また、ポテトチップスなどお菓子の内容量も製造者が決めていますが、多くの人はこれらの料理や食品を完食するのではないでしょうか。
これには、もったいないからという道徳的な理由もありますが、それとは別に、私たちには提供された食べ物を見ると、無意識にそれを適正な量ととらえてしまう傾向があるからです。すなわち、本来は自分自身が決めないといけない食べる量を他人にゆだねてしまっているのです。これらの量が適正量以下であれば問題はありませんが、もし適正量を超えていると食べ過ぎの原因になります。
アメリカでは販売されている加工食品の一食分の量が1970年代頃から増え始め、特に1980年代に急激に増加しました。ハンバーガーやマフィンなど一部の商品のカロリーはこの時期に以前の2倍になったといわれています。そして、この内容量の増加はアメリカ人の平均体重や肥満者の増加と一致しています。つまり、食品の内容量の増加が現代アメリカ人の肥満の原因の一つになっていると考えられています。
【感想】
◆新書でありながら、単行本並みにハイライトを引きまくってしまった作品でした。上記で引用した5つのポイントは、一応自分なりに考えた上でのモノですが、読者の皆さんが置かれた状況や興味によっては、これとは全然違う部分が響くかもしれません。
たとえば上記ポイントの1番目は、本書の第1章の「太るとなぜ病気になるのか?」から引用したお話ですけど、あくまで「私が知らなかったから」選んだ次第。
実際の本書の第1章は、「肥満とは何か」というお話から始まり、肥満で病気になる理由や、具体的な病気(糖尿病、高血圧等)との関連性についても言及されています。
ですから、ご自身にこういった病気の傾向があったり、意識されてたなら、第1章では他の部分の方にハイライトを引かれる可能性が大。
ただ、この辺は類書でも結構詳しいですし、それ以上に本書がかなりアカデミックなアプローチを取っているせいか難しいため、私自身は流し読み程度に留めております。
◆逆に、本書の特徴とも言えるのが、第2章の「美味しさを感じる仕組み」。
肥満を考える上で、その原因となる「食べる」という行為を掘り下げるのは分かるのですが、まさかその根源である「美味しさ」で1つの章を費やすというのは、かなりユニークだと思います。
ちなみに上記ポイントの2番目と3番目は、この第2章からのもの。
2番目を読む限り、人の「味」に関する根源的な反応は、生まれつきのようです。
なお、草食動物や雑食動物にとっては、甘いものは重要なエネルギー源ですから、甘味を感じる必要があり、実際に味が分かるものの、肉食であるネコ科の動物は、甘味を感じることができないのだとか。
逆に同じ肉を食べる動物でも、イヌ科やクマ科の動物は、植物性の甘いものも食べるため、甘さが分かるのだそうです。
また続くポイントの3番目も、私は「目からウロコ」だったので引用しましたけど、料理をされる方にとっては常識だったらスミマセン。
いや、昔の人の経験則はスゴイな、と……。
◆一方第3章では、この「美味しさ」を踏まえた上での「食欲」について。
上記ポイントの4番目にネズミの実験が出てきますが、そもそもネズミは「常にエサが近くにある状態」でも、太らないのだとか。
もちろんネズミも空腹になればエサを食べますが、満腹になれば食べるのをやめます。
ただしそれはあくまで「普通のエサ」の場合であって、これが「脂肪と砂糖マシマシ」のエサにすると、体重の増加が止まらなくなるのだそう。
しかも、脂肪だけと砂糖だけを増やしたエサでもマウスは太りますが、両者を同時に与えると最もよく太るとのこと。
本書の第4章にはこんな一節があります。
現代人は、この、高脂肪高ショ糖のエサを与えられたマウスと同じような状況になっているといえます。それどころか、快楽性の食欲が発達している分、マウス以上に危険な状態におちいっているともいえます。すなわち、この砂糖と脂肪の摂り過ぎが、現代人が太る最大の原因と考えられるのです。……これは怖い。
◆なお、同じ第4章では、肥満を防ぐためのいくつかの提案がされています。
上記ポイントの5番目もその1つであり、「あると食べてしまう」のは、それが適正だと思ってしまうのも原因なんですね。
これがアメリカ辺りに旅行に行くと、明らかに食べられない量が出てきて、残すのにも抵抗が減るのでしょうが、長く滞在したら慣れてきそうな。
本書では他にも「食べ物を視界に入れない」「容器を工夫する」といった方法が紹介されていますから、ご参考まで。
ちなみに「細長いグラスと太くて低いグラスを用意して、被験者に同じ量と思える液体を注いでもらうと、細長いグラスよりも太くて低いグラスの方に多くの液体を注ぐ」そうですから、子どものジュースも「細長いグラス」で与えるのがマル。
我が家としても、ヨメとムスコは肥満ですし、私もメタボが気になるお年頃なので、本書を参考にして肥満を防いでいけたら、と思います!
肥満が気になる方なら要チェック!
一度太るとなぜ痩せにくい?〜食欲と肥満の科学〜 (光文社新書)
第1章 太るとなぜ病気になるのか?
第2章 美味しさを感じる仕組み
第3章 食欲が生まれる仕組み
第4章 美味しさを支配しよう
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【編集後記】
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