2018年08月31日
【教育】『名門校の「人生を学ぶ」授業』おおたとしまさ
名門校の「人生を学ぶ」授業 (SB新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「新書フェア」からの子育て本。この手の作品ならおなじみである、おおたとしまささんが、名門校の「変わった授業」をレポートしてくれています。
アマゾンの内容紹介から。
16校の白熱授業を実況中継!名門校と呼ばれるほどの進学校ほど、実は受験勉強以外により大きな時間を割いている。しかも、それは流行りのプログラミング教育でも、ネイティブに迫る英語でもなく、「裁縫」や「なわとび」など、一見、大学受験には関係なさそうな授業である。果たしてそれはなんのためにあるのか?名門校で日々実践されている「どんな時代になっても生きていけるための力」の育て方に迫る。
なお、中古は値下がり気味ですが、送料を足せばKindle版が300円弱、お買い得となります!
Middle School Mad Science / NASA Goddard Space Flight Center
【ポイント】
■1.灘の「オリガミクス入門」〈課題7〉 正方形の折り紙ABCDがある。対角線AC、BDの交点Fを折り込み、Fが辺BC上にくるように折り目をつける。そうして得られる多数の折り目から、放物線が浮き出てくることを確かめよ。要するに、折り紙の中心に、1辺が重なるように、少しずつ角度を変えながら何度も何度も折れということだ。これをくり返すと放物線が浮き上がるらしい。これなら私にもできる。生徒の1人からピンクの折り紙を1枚譲り受け、やってみた。理屈はよくわからないが、とにかく放物線が浮かび上がってくるだけで「へぇー」とちょっと感動する。
■2.レゴで「すだれ算」を理解する聖学院
最大公約数を求めるときはすべての数字に共通の約数で割らなければならないのに、なぜ最小公倍数を求めるときは2つ以上の数字に共通の約数があればそれで割ってしまっていいのか。言われてみればたしかに私も同様の疑問を感じたことがある。しかし深く考えたことがなかった。
「この問題は10年前からこの講座で扱っていました。しかしこの原理を解明できるのは毎年1人か2人でした。ところが、レゴを導入してから毎年クラスの半数近くが答えにたどり着くようになったんです」(名塩先生)(中略)
「要するに、だるま落としです。4つの数字をそれぞれ3色のブロックで積み上げて、だるま落としの要領ですべてのブロックを落としていきます。共通する約数は1回で落とします。すだれ算をすることで、4つの数字の中で、黄色、赤、青のブロックをそれぞれ最大でいくつ使っているかがわかるのです」(名塩先生)
■3.演劇を取り入れている海城
海城では体験学習の一環として、2010年度から正式に「ドラマ・エデュケーション」をカリキュラムに組み込んでいる。中3になると、修学旅行の思い出をテーマに演劇をつくる。
右記、ファシリテーターとしての「先生」は、プロの演劇家に委託している。教員と一緒になってプログラムを考えた。学校側でプログラムづくりを主導したのは中村陽一先生だ。
「演劇を創作する中で、生徒たちは重層的なコミュニケーションや価値観の異なる他者との協働など、いろいろな経験をすることになります。ですから、楽しく演劇に触れられるプログラムさえ用意できれば、さまざまな学びが期待できると考えました」(中村先生)
そのほかにも、合意形成・相補的役割分担などのグループ内でのコラボレーション能力、そして、観客など前提を共有しない他者への十分な配慮を含んだプレゼンテーション能力など、社会生活を営むうえで必要になるさまざまな力が培われることが感じられた。
■4.聖書を学ぶ女子学院
「聖書を読んで、道徳的なことを語り合っておしまいではなく、あくまで科目としての授業です。数学や英語と同じように、100点満点の定期テストがありますし、そのための勉強もしてもらいます。暗記しなければならない基礎知識も非常に多い。基礎知識とは、自分の頭で考えるための土台です」と言うのは聖書を教える魚屋義明先生である。
「聖書科進度表」には6年間のカリキュラムがしっかり決められている。イスラエル民族の歴史、キリスト教が分派していく歴史、ヘブライイズムとヘレニズム、世界の他宗教との比較、ヨーロッパ哲学史、アウシュビッツ……。ヨーロッパ文化の源流を知り、グローバルな視点をもてるようにと設計されている教養教育だ。これだけのことを自分で学ぼうとしたら本を何冊読まなければならないのか、何年かかるか、わからない。女子学院の6年間の聖書の授業を私自身がすべて受けたいと思うような内容だ。
■5.豊島岡女子学園の毎朝5分の運針
竹鼻先生は、「運針」を「5分間の禅」と表現する。生徒にとっては毎朝5分間、集中力を高め、心を鍛錬する意味がある。担任にとっては、生徒をじっくり観察する時間でもある。針の動かし方、赤い糸の縫い目を見れば、その生徒のその日の心の状態がわかると言う。実際「イライラしているときは針目が乱雑になります」と言う生徒もいる。心の状態が、赤い糸の縫い目に表れてしまい、ごまかしようがないのだ。
しかし、鍛練を積んだ禅僧がどんな雑踏の中でも瞬時に瞑想状態に入ることができるように、豊島岡の生徒たちも、毎朝の「運針」を重ねると、白い布と針と赤い糸を手にするだけですっと無心になれるようになる。大学入試の本番に、試験会場に「運針」の道具を持ち込み、試験の直前に5分間「運針」をして集中力を高めたという卒業生もいる。
たかが「運針」されど「運針」なのである。
【感想】
◆ムスコの中学受験を控えた私にとっては、非常に興味深い作品でした。まず本書の初っ端に登場するのが、上記ポイントの1番目の灘中学&高校の、おりがみによる数学の授業。
これは中学2年〜高校2年を対象として、この授業を選択した生徒約100人を対象に行われるものです。
ちなみに本書では、「ギリシャ3大作図不可能問題」の1つである「角の三等分問題」なるものが登場。
角の三等分問題 - Wikipedia
これを折り紙を使って、先生が30秒ほどで解く模様が描かれているのですが、肝心の図が引用できないため、上記では割愛しました(詳細は本書にて)。
◆続くポイントの2番目は、聖学院中学校の1年の授業からで、上の折り紙よりはもうちょっと簡単です。
「すだれ算」というのは中学受験ではおなじみの、最大公約数や最小公倍数を求めるアレですね。
すだれ算の基本|受験算数アーカイブス
本書では、対象となる数をレゴで積み上げ、それを「だるま落とし」のように崩していくさまが紹介されていますので、ピンとこない方は本書にてご確認を。
もちろん、レゴを使った授業は「すだれ算」だけでなく、面積や数列等々にまで及んでいるようです。
……なお、聖学院の中学入試問題は、ブロックから発想を得て作られたものだそうなので、受験をお考えの方は、小さいうちから親しんでおくと良いかも。
◆この2つの学校のお話は、本書の第1章の「まるで幼児教室!?な授業」からで、比較的「勉強」に関連したものでしたが、第2章以降は結構フリーダム(?)。
なにせ第2章「他者とかかわり自己を知る」 の最初に登場するのが、あの開成中学&高校の大運動会の模様ですから、正直面喰いました。
どうもこの運動会の準備や練習に膨大な時間がかかっているらしいのですが、そんなことやっているヒマに、勉強なり部活なりやった方がいいんじゃないか、と思ったくらい。
でも、この運動会を通じて得るものも多々あるようですから、開成を狙っているご家庭はぜひご一読を。
今回この第2章からは、上記ポイントの3番目の海城中学の「演劇」を抜き出しましたが、こちらもさまざまな能力育成に役立ちそうです。
◆一方第3章の「教科の枠を超えて学ぶ」からは、上記ポイントの4番目の女子学院の聖書の授業を。
世界史だけではなく、国語や道徳にまで、その授業範囲は及ぶようです。
……なるほど「赦し」なんて漢字、普通はなかなか使わないかと。
ただ、この第3章は、女子学院以外の方がユニークで、筑駒は「水田稲作学習」、鴎友学園は「園芸」といったラインナップという。
また、第4章の「意味はあとからわかる」もユニークなものばかりで、栄光学園は「半裸でラジオ体操」、巣鴨中学&高校は「大菩薩峠越え」といったところが登場します。
それと比較すると、上記ポイントの5番目に挙げた豊島岡女子学園の「運針」は大人しめというか、「禅」というより「マインドフルネス」ですよね。
受験だけじゃない、名門校の伝統を学ぶ1冊!
名門校の「人生を学ぶ」授業 (SB新書)
第1章 まるで幼児教室!?な授業
第2章 他者とかかわり自己を知る
第3章 教科の枠を超えて学ぶ
第4章 意味はあとからわかる
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【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。アウシュヴィッツの図書係 (集英社文芸単行本)
当ブログ的には少々重めのテーマですが、アマゾンレビューが軒並み高評価なのでご紹介。
送料を加算した中古よりは、Kindle版が1000円強、お求めやすくなります。
ご声援ありがとうございました!
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