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2018年08月20日

【文章術】『簡潔で心揺さぶる文章作法 SNS時代の自己表現レッスン』島田雅彦


簡潔で心揺さぶる文章作法 SNS時代の自己表現レッスン
簡潔で心揺さぶる文章作法 SNS時代の自己表現レッスン


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、昨日の「雑学&教養本フェア」の中でも、個人的に気になっていた文章術本。

以前、未読本記事でも取り上げていたくらいですから、さっそく読んでみた次第です。

アマゾンの内容紹介から。
芥川賞選考委員で現代文学の旗手である著者が、古今東西の名著から豊富な事例を題材に、「人に伝わりやすい短文のテクニック」をアドバイス。教授を務める法政大学の講義「メディア表現ワークショップ」を基にしたSNS時代の文章読本。

なお、中古が1000円以上しますから、セール期間内であればこのKindle版が、実質600円弱お得な計算です!





Working in the sun / SkyFireXII


【ポイント】

■1.音読されることを意識して書く
 基本、文章を書く人たちは、それが黙読されることを前提で書いています。ただ、その文章が人に読んでもらえるような文として成立しているかどうかは音読してみると判然とします。よって「相手に伝えやすくする」には、文章が音読される想定で書くのがいいでしょう。ですから、出来上がった文章は朗読してみることをおすすめします。それが、するりと発音できて、相手が聞き返さずに済むかどうか、といったことを外に出す文章になっているかどうかの基準と考えてください。
 当然ともいえますが、セリフが書いてあるような戯曲や脚本はリズムを大事にしています。たとえば、俳優がナレーションをつけたり、ステージで朗読する時には、台本にはアクセントの位置がきちんとふられています。もちろんどの単語にもアクセントがありますが、ひとつの文章を朗読する時にちょっと強くする部分に印をつけていくと、それが等間隔のような形を作っていきます。こうすると文章にパルス、脈動ができる。この脈動を意識して書くと、最終的に「相手に伝わりやすい文章」になっているといっていいでしょう。


■2.「自分は間違っているかもしれない」という意識を背負う
 特に上司が部下に自己表現をするような場合は多分に自慢話の危険性をはらみます。だからこそ、こういった時には「部長ってふだんは偏屈なのに、こんな話をするんだ」と意外性のある話をするといいでしょう。この意外性というのは既に「人が自分について知っているようなこと」は話さないことで実現できます。
 ここで是非、覚えておいていただきたいのは、自己表現は「自分の良いところをアピールするのではない」ということです。ここへの意識がないとたちまち自慢話になり、人には受け入れてもらえなくなります。加えて、自己主張というと自分の意見の正当化ともとれるでしょうが、私が指南する自己表現というのはここには該当しません。必ず「自分はこう思う」の背後に「自分は間違っているかもしれない」という意識を背負ってください。これが主張の懐を深くし、身勝手な意見という批判から救ってくれるのです。


■3.自分を客観視する
 たとえば、自分が写った写真を見た時や自分の声の録音を聞いた時、何か居心地の悪さを感じたことがあるという人は少なくないはずです。このように自分は「もっと見た目がいいはずだ」とか「こんな声のはずがない」といったふうな感覚になるのは、自分を実態から離れて美化して認識しているからです。(中略)
 むろん、自分がどう見られているかを気にすること自体は悪いことではありません。それはつまり他者の承認を求めているということです。自己を美化してみたものの、「他人の目にはどう映っているだろう」という疑念が生じるわけです。そこで「いいね」とお墨付きをもらい、不安を解消しようとするわけです。  ところが、実際にお伺いは立てるけれども、耳が痛い苦言や厳しい指摘を受けると、とたんに意固地になってしまい、心を閉ざしてしまうことも少なくありません。結果、甘い評価や「よいしょ」だけをありがたく受け止め、マイナス評価には目を閉ざし、耳を塞ぐ。自分を客観視するというのは不愉快であり、時に傷つく可能性が多いにある。よって、客観視できる人は少ないということになります。だからこそ、この行為には価値があるのです。


■4.キャラクターにはコントラストのついた要素を加える
 さらに、ここではキャラクター作りの鉄則を指摘しておきます。これはヒーローめいたキャラを作る場合は必ず弱点がなければならない、ということです。完全無欠のキャラクターは魅力がないともいえるでしょう。ウルトラマンは無敵ですが、3分しか戦えませんし、木枯し紋次郎は 蒟蒻 が食べられないという設定になっています。逆にいえばヒールキャラでも美点がなければなりません。子猫を溺愛する凶悪犯とか、料理がうまいDV夫とか。ただ良い一辺倒、悪い一辺倒だとそれこそ凡庸なキャラクターになってしまいます。よって、コントラストのついた要素を加えることによってキャラを引き立たせるといった加工が、いつでも重要になります。


■5.短文での自己表現の鍛錬は手書きから始める
 今は私もすっかりキーボードを打ちながら原稿を書くようになってしまいましたが、短文での自己表現の鍛錬においてはワープロではなく、手書きから始めることをおすすめします。
 まず、手書きは文章が短くなるという効果を生みます。これは経験則ですが、手書きは労力を必要とする分、無意識に無駄なコトバを省くようになります。結果、文章が短くなり、回りくどくなくなります。こういったことが起こる理由は、書く前に頭の中で内容の取捨選択ができているからです。
 実際、手書き全盛期時代の文芸誌の厚さと、キーボード全盛の今とを比べたら、文芸誌の厚さが2倍近くになっています。ですから、現在の小説は余計な部分が残ったままの状態で出回っているとも指摘できるでしょう。ワープロ全盛の現在は作品中で費やされる言葉数が増え、長くなっている印象があります。


【感想】

◆私は島田さんの作品を読んだことがないのですが、なるほど、さまざまなこだわりをお持ちであることは理解できました。

もっともこれは島田さんだけのお話ではなくて、フィクションを書かれる方の多くに共通することでしょうし、その辺は私たちが日頃よく読むビジネス書とは違うところだな、と。

なにせビジネス書の場合、著者である経営者が語った言葉をライターがまとめあげて1冊の本になったりするワケですから、そこに著者自身の文章表現の入る余地はあまりありません(ケースバイケースだと思いますが)。

一方、フィクション、特に芥川賞の対象となるような純文学にいたっては、「言語を素材とした芸術作品」を目指しているのですから、「住む世界が違う」と言っても過言ではないでしょう。


◆とは言え、こうした純文学に見られるような手法が、私たちにとって有益なケースもあります。

その1つが本書のタイトルでもある、「簡潔で心揺さぶる文章」を書く必要がある場合。

本書では、いくつもの純文学を中心とした文章を分析することで、その手法を探っています。

たとえば上記ポイントの1番目の「音読」に関しては、類書でも「書いたものを音読せよ」とよく言われていました。

ただしそれは一般的には「おかしなところがあれば気が付くから」という話だったのに対して、本書で注目しているのは「リズム」です。

なお、島田さんいわく、俳句や短歌の字数が決まっているのも、このリズムを担保しているからである、と。

もちろん、普通の文章であれば、書く時点から意図していないとリズムはないでしょうから、「相手に伝わりやすくする」ためにも、意識してみたいところです。


◆同様に相手に影響を与える、という意味では、上記ポイントの2番目のお話も、個人的には納得。

文章表現とは違いますが、上司が部下に対して、頭ごなしに自分の意見を押しつけるよりは、「僕はこうした方がいいと思うんだけどな」と、「懐の深さ」を見せた方が、部下も従ってくれるのではないでしょうか?

一方、上記ポイントの4番目の「キャラ作り」の件は、物語だけではなくて、自分自身のブランディングにも使えるのではないかと。

実際、こうしたコントラストによって、セールスポイントがより際立つことも多々あると思います。

そしてこれはまた、商品開発や新サービスを考える上でも使える考え方ですから、ビジネスシーンで活かしていただきたく。


◆最後のポイントの5番目については、確かに、キーボードで入力することによって、必要以上に文章が長くなっている可能性は否定できず。

私自身、もしこのブログが手書きだったら、本の内容を引用する部分でもう力尽きていると思います。

ただし、島田さんいわく、「小説は長くなる一方だけれども、描写はずいぶんと淡泊になり、省かれることが増えている」のだそう。

つまり内容はかえってうすくなっているので、分厚い本でもすぐに読み終えることができる、と。

……このブログももっと短くして、かつ中身を濃くするよう心掛けなくては。


◆なお本書の巻末には、「島田教授のワンポイント添削」と題して、ネット上の文言や全国紙の社説に対する、島田さんの添削を収録されています。

たとえば、
「東京の下町にある銭湯の壁に描かれた風景画の写真などを集めた展示会が、足立区で開かれています」(放送局のツイート)
という文章に対しては、
「東京下町の銭湯絵を撮影した写真展が足立区で開かれています」
 電報を打つつもりで、字数を減らして書く。一文字増えるにつき百円ずつ余計に払わなければならないつもりで書くのがいいでしょう。
と修正文とコメントを付しているという。

また、この本からもいくつか例文を引用しているのですが、収録された添削とは違う形で、島田さんが添削しているのだと思います。

悪文 第3版
悪文 第3版

……中古は底値ですが、Kindle版は、どこかのセールの追随なのか「47%OFF」ですね。

いずれにせよ、ビジネス書の読者にとって、本書のタイトルにある「簡潔な」の部分は、この巻末のパートがかなり担っている気がしますので、最後までお読みいただければ、と。


ビジネス書の著者とは違った視点の文章術本です!

簡潔で心揺さぶる文章作法 SNS時代の自己表現レッスン
簡潔で心揺さぶる文章作法 SNS時代の自己表現レッスン
序章
第1章 短文で綴る前の意識鍛錬
第2章 私小説で考える自己表現
第3章 短文に挑む準備段階
第4章 短文に挑む準備段階 その2
第5章 短文レッスン
第6章 短文レッスン その2


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【文章術】『必ず書ける「3つが基本」の文章術』近藤勝重(2015年11月28日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

成功は“ランダム”にやってくる! チャンスの瞬間「クリック・モーメント」のつかみ方
成功は“ランダム”にやってくる! チャンスの瞬間「クリック・モーメント」のつかみ方

いわゆる「1万時間の法則」の「穴」を指摘した作品として、当ブログ的にはおなじみの1冊。

「67%OFF」という激安設定のため、Kindle版が500円弱、お求めやすくなっています。

参考記事:【成功本?】『成功は“ランダム"にやってくる! チャンスの瞬間「クリック・モーメント」のつかみ方』フランス・ヨハンソン:マインドマップ的読書感想文(2013年11月15日)


【編集後記2】

◆その昨日の「雑学&教養本フェア」で人気だったのは、この辺でした(順不同)。

稼ぐ人が実践している お金のPDCA
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[カラー改訂版]バカ売れキーワード1000 (中経出版)
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オトナの一休さん
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一瞬で自己肯定を上げる瞑想法
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未来を変える「外見戦略」
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