2018年08月04日
【交渉術】『気持ちよく「はい」がもらえる会話力』谷原 誠
気持ちよく「はい」がもらえる会話力
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中の「実用書フェア」の記事の中でも、個人的に気になっていた1冊。著者の谷原誠さんのお名前は、あちこちで拝見したことがあるのですが、まさかこんな「濃い」交渉術本を書かれているとは思いませんでした。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
9万部突破『「いい質問」が人を動かす』の弁護士が教える、上司、部下、パートナー、子供が思わず「はい」と言ってしまう超実践的交渉スキル。これを使えば仕事で結果を出し、家族が円満になる!
セール期間ゆえ、今なら送料を加算した中古よりKindle版が700円弱、お買い得となっています!
Mr. Spock vs. James T. Kirk (151/365) / JD Hancock
【ポイント】
■1.イエスという権利は、100%相手にあるあなたが車の販売員であるとしましょう。今、お客様に紹介したい、売りたいと強く思っている車が、新開発の画期的な機能を持っているとします。
あなたはお客様に、その機能がいかに新しいのか、いかに優れているのか、と説明します。その車にしかないよさをぜひ知ってもらいたい、という率直な思いからです。
しかし、そのお客様は何を望んで販売店に足を運んでいるのでしょうか。
その人は、最近結婚し、あるいは子供ができて、今までのスポーツタイプの車から、ファミリータイプの車に買い換えたい、と考えているのかもしれません。(中略)
そのような人に、あなたが専門的な車の機能について一生懸命話したとしても、ほとんど何も聞いていないはずです。
相手にイエスと言わせる権利はあなたにはありません。イエスと言う権利は、100%相手が持っているのです。
相手にイエスと言わせるには、相手の脳にフォーカスしないといけないということを憶えておきましょう。
■2.押しつけず、思いつかせる
先ほどの依頼者も、和解が最善策であることがうすうすとはわかっていたでしょう。しかし、弁護士に押しつけられたと感じたため、反発心が生まれ、拒絶していたのではないか、ということです。
そして、私は法律の専門家として、無意識のうちに、依頼者を「理屈がわからない人」だと思っていたところもあったのでしょう。自分の判断に従わせることこそ、最も正しい解決方法だと思い込んでいたところもあったと思います。
それから、私は説得方法を変えることにしました。私は依頼者に意見を述べる前に、まずは事実を提示し、選択肢を示し、依頼者に選んでもらう方法に変えることにしました。
すると、依頼者が、必ずと言ってよいほど「先生の意見はどうですか」と質問することにも気づきました。その時は、控えめに自分の意見を述べることにしました。そうすると、依頼者は冷静に考え、自分の自己決定権を行使して、合理的な結論を選択するようになることがわかったのです。
■3.お金がないときは「異次元取引」を持ちかける
ある税理士法人が、同業税理士からの依頼を増やすため、税理士向けの講演会を企画しました。そこで、ある弁護士を講師として招くことにします。講演料はいくらになるのか、心配でしたが、ともかく打診することにしました。
その弁護士は、異次元取引を知っていました。打ち合わせをし、参加する税理士が100名近くになることを告げると、弁護士は、にっこり笑ってこう言います。
「では、参加する税理士のメールアドレスを共有させてください。そうしていただければ、講演料は無料で結構です」(中略)
では、弁護士は、どうか。この弁護士は、実は税理士向けの法的サービスを展開していました。そして、税理士のメールアドレスを獲得するのに苦労していたのです。弁護士は講演を引き受けることと引き替えに、多くの税理士のメールアドレスを獲得することができ、その後、何人もの税理士が法的サービスの会員になって、講演料以上の見返りを得ることができました。
■4.交渉相手の感情に配慮する
私は弁護士として、紛争のまっただ中に介入し、解決するのが仕事です。主張が真っ向からぶつかることも稀ではありません。しかし、「こんなこともわからないのですか!」「そんな主張をするなんて、ばかげてますよ!」など、相手の自尊心を傷つけることを言ってしまうことのないように、相手の自尊心に配慮するように注意しています。これまでの経験で、不注意によって相手の自尊心を傷つける言葉を使ってしまった結果、相手が感情的になり、解決が遠のいてしまった痛い経験が何度もあるためです。
そのような激しい交渉ではなくても、相手の感情面に手当てをするよう注意をしなければなりません。金額などの条件にそれほど異論がなく、理性的に考えればよい条件であっても、感情面が邪魔をして、合意に持ち込めないことは多々あるからです。
■5.相手を非難せずに矛盾行動を指摘する
たとえば、ある交渉をしているときに、交渉相手が「私たちは、決してあなた方を軽視しているわけではありません。お互いに利益になるように、よく考えてこの提案をしているのです」というような発言をしたにもかかわらず、後で不当な要求をしてきたような場合には、次のように言うことです。
「御社が先ほど言われたように、私たちを尊重して、私たちの利益も考えて交渉していただいていることに心から感謝いたします。先ほどのご発言に感動いたしました。ところで、その姿勢からすると、今御社がおっしゃった条件は、どのように私たちを尊重し、かつ、私たちの利益になっているか、教えていただけますでしょうか?」
これで、相手は不協和状態に陥ることになります。
【感想】
◆本書はタイトルでは「会話力」となっていますが、「『はい』がもらえる」となっていることからもお分かりのように、最終的には「交渉術」の本です。ただし「単に目の前の相手を論破する」タイプの交渉術本とは、一線を画するもの。
本書の第1章では、まず「何のために、誰にイエスを言わせるのか」を考えることを促しています。
たとえば家族との約束を反故にしても、大事な仕事を仕上げるのか否か。
その場合の交渉相手も、家族なのか、客先なのか、はたまた仕事を代ってもらう同僚なのかは、ケースバイケースですし、まずそこから考えなくてはなりません。
さらにはそこが定まったとしても、上記ポイントの1番目にあるように、「はい」と言ってもらうためには、相手の立場に立つことが必須。
自分に「勝ち目」があると思うと、ついつい忘れがちなことなのですが。
◆一方、上記ポイントの2番目は、本書の第2章にある、若い頃の谷原先生のエピソードから。
何でもクライアントを説得するも、なかなか「はい」と言ってもらえないことが続き、悩んでいたそうです。
そこで意見を押しつけるのをやめて、選択肢を提示する方法に変更すると、今度は相次いで「はい」と言ってもらえたのだとか。
確かに私たちも、お店で迷っている時に店員さんに意見を押しつけられると、何か裏があるんじゃないか、と考えてしまいますよね。
また、この第2章では「拒絶されたら、すぐ質問を」といったTIPSもあり、長くなるので割愛しましたが、なかなか「目からウロコ」。
同じく部下を指導するのにも「質問型を使え」という指摘も、命令するよりも、効果がありそうでした。
◆続く第3章は、「お互いの問題を同時に解決する」パターン。
他の交渉術本でも目にしたことがあるのが、「ミカンを取り合っていたジャム業者とジュース業者が『皮』と『果肉』を分け合う」というものです。
また、一般的なパターンとしては、「金額」で折り合わない交渉に「納期」を絡めるとか、その「金額」を後払いや分割払いにするなど。
上記ポイントの3番目の「異次元取引」(お互いが自分の負担にならず、かつ、相手に価値があるものを提供しあうことにより、成立せる取引)もまさにそうです。
このように「金額」以外の部分で、「相手に価値があるもの」を探すのも、大事な「交渉術」のテクニックかと。
◆そして私というか、「税理士業界あるある」なのが、上記ポイントの4番目の「感情」のお話。
顧問先に調査に来た税務署職員を下手に刺激するような発言は、慎まないといけません。
さもないと、職員が必要以上に摘発意欲を燃やしたり、本来落としどころを探って速やかに済む調査が長期化するという地獄……。
谷口先生も
解決の糸口が見えないような激しい紛争も、きっかけは「感謝の言葉が一言でもあれば」「一度でもあのことを謝ってくれれば」といった感情面のしこりであることが多いもの。言葉足らずのまま要求を通そうとして、する必要のない衝突を起こす、もったいないケースは避けたいところです。と言われていますから、なにとぞご留意を。
ちなみに、離婚問題においては、もはや「経済合理性」以前に、「許せない」という感情のもつれがあるのだそうです。
◆なお、この「感情」とはある意味逆な「論理」を用いたテクニックを扱うのが、本書の第5章。
たとえば最後のポイントの5番目は、「認知的不協和解消理論」に基づくものです。
また、テクニックがてんこ盛りなのが最後の第6章で、ここでは『影響力の武器』でもおなじみである「一貫性の法則」や「希少性の法則」「社会的証明の法則」等が登場。
この最後の2つの章だけでも、「交渉術本」として一読の価値がありますが、個人的にはそれに先立つ「交渉テクニック以前」の部分に惹かれたという。
……一点気になるのが、なまじ多作な谷原先生だけに、過去の著作とのかぶりなのですが、未読の私にはその部分については分からず。
いずれにせよ、昨秋の時点で未読本記事で取り上げておきながら、読んでなかったのを後悔した次第です(結果的にお得に買えましたがw)。
交渉術本として、オススメの1冊!
気持ちよく「はい」がもらえる会話力
第1章 イエスを引き出すためのマインドセット
第2章 質問すれば、「イエス」が得られる
第3章 お互いの問題を同時に解決すれば「イエス」を引き出せる
第4章 「イエス」と言うか言わないかは感情が決めている
第5章 論理的な正当化が「イエス」を引き出す
第6章 相手の背中を押すテクニック
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【編集後記】
◆すいません、昨日ご紹介し忘れた、8月分の「Kindle月替わりセール」の人気本を改めて(順不同)。一生リバウンドしないパレオダイエットの教科書 (SPA!BOOKS)
文章を論理で読み解くための クリティカル・リーディング (NHK出版新書)
ヤマケイ文庫 ドキュメント 道迷い遭難
一応、ご参考まで!
ご声援ありがとうございました!
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