2018年07月18日
【オススメ!】『デザインが日本を変える〜日本人の美意識を取り戻す〜』前田育男
デザインが日本を変える〜日本人の美意識を取り戻す〜 (光文社新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中の「光文社キャンペーン」からの1冊。内容的にはもちろん「デザイン」が中心なのですが、「モノ作り」や「ブランド」といった分野についても、考えさせられました。
アマゾンの内容紹介から。
2009年、経営危機に陥り、米企業傘下から外れた小さな自動車会社では、久々に日本人デザイン部長が誕生。全車種のデザインプロセス一新を断行し、新製品は欧州を中心に海外市場で人気を獲得。マツダのモノづくりの根底にあるコンセプトの「魂動」は、今や海外メディアからも“KODO”と呼ばれるほどの地位を確立した。一地方の企業が世界と戦えるのはなぜか。これからの製造業の在り方を体現するリーダーの哲学がベールを脱ぐ。
中古にはプレミアが付いている状態ですから、明日までならこのKindle版が400円以上お買い得となります!
Mazda Shinari concept / Shane's Stuff
【ポイント】
■1.言葉はカタチの一部もちろん私はデザインにおいてフォルム自体が一番重要だと思っている。デザインである以上、何はなくとも視覚勝負だ。しかし視覚を補完するための言葉というのも無視できない存在だと思うのだ。
たとえば、あるデザインを見せたとき、そのまままっすぐ伝わる場合もあれば、50%くらいの理解力で止まっているという場合もある。半分は理解できるけど、あとの半分はわかったようでわからないという状態で「うーん」と唸っているようなときである。そういうときにポンと一言載せるだけで、「あ、そういうことか!」と一気に視界が開けることがある。感覚的につかんでいたことに言葉が足されることでイメージと意味が結びつき、ストンと腑に落ちるのである。それは脳科学的に言うならば、右脳がつかさどる感性・イメージの領域を、左脳がつかさどる言語・ロジックの領域がサポートすることにより、さらに理解が深まるということになるのかもしれない。
■2.ブランドこそすべて
そもそもブランドとは何なのか?――はっきり言って、私はブランドは企業にとって経営と同じくらい重要なものだと考えている。少なくとも、ブランドは私たちが売っている商品より上位に位置するものでなければならない。なぜなら商品が入れ替わってもブランドは続いていくし、たとえ社長の交代があっても社員の構成が変わろうともブランドはそのまま生き続けるからである。
逆に言えば、その血脈が途絶えない限り永遠に生き残っていくのがブランドというものの本質かもしれない。商品は変わる。スタッフも変わる。今こうして勤務している私たちもいずれ会社からいなくなる。しかしブランドだけは残る。(中略)
だから私は会社の商品やインフラ、社員のスキルやマンパワーというものは、すべてそこに向けて機能しなければならないと思っている。オール・フォー・ブランド。すべてはブランドのために。私にとってブランドこそ最上位概念であり、これまでもブランド至上主義者の立場からデザインを行ってきたつもりだ。
■3.カラーも造形の一部である
ここでも参考にしたのはマツダのDNAである。マツダの過去のヒット作を振り返ると、赤のファミリア、赤のMPV、赤のロードスター、赤のRX-8……など常に赤い車で人気をさらってきたという歴史がある。一般的に販売数が少ないと言われる赤い車でここまでヒットが続くことも珍しいし、そもそも赤は情熱の色。われわれが重視しているパッションや生命感とも重なるところがある。それゆえ「ブランドカラー=赤」と決めて、赤の中でもどんな赤がふさわしいか模索していく中で、深みと鮮やかさを両立させるソウルレッドに辿り着いた。
匠塗の第2弾であるマシーングレーも、そこに至ったのは「われわれは常に機械の美しさに魅了され、鉄の質感にこだわり続けてきた会社である」という理由からである。このような話をすると「色にまでルーツや哲学を求めるのか!?」と驚かれるが、それこそがブランドの記号性。マツダがこういう会社だから赤を選び、グレーを打ち出す。常にそこには確固とした理由があり、たまたまとか気まぐれという姿勢は存在しない。
■4.感動は最強の動機づけ
そのプレゼンテーションの際、工夫したことがひとつある。
それはわれわれがデザインしたニューモデルを紹介するとき、たとえ社内の人間相手であってもお披露目の除幕式を行うということである。デザイン部の人間には社内向けのミーティングでも見せ方の部分で決して手を抜いてはいけないと言い聞かせた。だから彼らは新作モデルを紹介する前にはきちんとムービーを流し、制作意図を説明し、見る者の期待を高めた上でアンベールする。社内の同僚相手にそこまでする必要があるのか? 大げさではないか? そう思う人もいるかもしれないが私の意図は別のところにある。
私は人を動かすための一番強力な手段は、その人を感動させることだと考える。まずは自分が感動した上で、仲間にも同じ感動を味わってもらう。頭で理解させるより心を動かした方がメッセージのインパクトははるかに強くなるし、長く記憶に留まり続ける。私は感動ほど人を動かすプロモーター(促進剤)はないし、すべての人を結ぶ力学は理屈ではなく感動だと思うのだ。
■5.iPhoneは日本人が作るべきだった
もっともわかりやすい例を出そう。世界中で愛されているスマートフォン、iPhone。私も長年愛用しているが(ちなみに私は側面にステンレスフレームが使用されたiPhone4が最高傑作だと思う)、本来ならこのデザインは日本から出てきてほしかった。とことんまで要素を削り落とし、シンプルかつ繊細なバランスの上に成り立ったこのデザインは私に言わせれば極めて日本的である。それも表面的なジャポニズムではなく、日本人の美意識および精神性の奥深くにあるものを見事に抽出したカタチである。
iPhoneのデザインの基盤にあるもの、それは禅の思想である。スティーブ・ジョブズが禅に精通していたというのは有名な話だ。彼は日本文化に興味を持ち、禅に深く傾倒していた。そういうリーダーに率いられていたからこそアメリカの企業であるアップルがこのデザインをモノにできたわけだが、ではそれを日本のメーカーが作り、世界に発信することはできなかったのだろうか? 自分たちのルーツに目を向け、カタチにすることはできなかったのだろうか?
【感想】
◆ひさびさに、モノ作りやデザインに関して、深く掘り下げた本を読んだ、という感想を持ちました。今まで「デザイン」と言っても、当ブログで扱うのは「デザイン思考」の作品がほとんどであり、それは確かに問題解決において有益だからこそだったのですが、「デザイン」自体をテーマにした書籍は久しぶり。
そしてその「デザイン」も、デザイナーがパパパっと仕上げるものとは違い、自社のルーツまでさかのぼり、「マツダらしさ」を追求した上でのモノでした。
そもそも、その方向性を考える際に、上記ポイントの1番目のように「言葉」からもアプローチしています。
その結果生まれたのが、「魂動(kodo)」という言葉でした。
こちらに「魂動」に関する、マツダのHPの部分がありますので、視覚的に納得するためにも、ぜひご覧いただきたく。
【MAZDA】デザイン|ブランド
◆さらにデザインは造形にとどまらず、色にまでこだわりを持たせることになります。
上記ポイントの2番目では、その代表的な色である「赤」が登場していますが、実はその「赤」も、モデルによって異なるという。
こちらは第4章で数多く登場する、マツダの社員さんのお話のパートから、デザイン本部クリエーティブデザインエキスパートの岡本さんのお言葉。
魂動デザインの進化にともない車の造形も当然進化しています。だとしたら色も一緒に進化しなければなりません。ソウルレッドクリスタルメタリックはプレミアムメタリックよりも彩度が 20%、深みが 50%アップ。赤いところはより赤く、深いところはより深く見える立体表現を可能にしました。今は単に色味の創作ではなく、質感そのものをデザインするという領域に進んでいます。実は、この各部門の社員さんのお話が面白くて、ハイライトを引きまくったのですが、ボリュームの関係で泣く泣く割愛したという。
この「色」以外にも「プレス」「金型」「塗装」「クレイモデル」といった各部門のご担当さんのお話は、うならされること必至ですので、ぜひご一読を。
◆ところで、これら社員さんたちのお話を読んで思ったのが、著者である前田さんが、うまくモノ作りをリードされてるな、ということ。
もちろん本書では、前田さんご自身が、「あーした」「こーした」という話は述べられているのですが、それを他の関係者からの証言で裏付けているという仕様です。
たとえばこちらは、プレス担当の河野さんのお話から。
また、工場内でも他部署とのコミュニケーションがスムーズになりました。われわれが金型の部署に行って「金型を直してください」と言っても、いい車を作りたいという目的が共有できているので話が早いんです。それも前田たちがデザイン戦略カスケードに呼んで、デザインの話を聞かせてくれたから。技術本部は全部で1800人近くいるんですが、彼ら全員を10回くらいに分けて前田が直接話をしてくれたんです。それは気持ちもひとつになりますよ。こうした「社員一体化」に関しては、上記ポイントの4番目にもあるとおり。
さらに、前田さんは人事査定にも手を加えています。
実際、今まで上位職種に上がるには、面接や論文をクリアする必要があったところ、「匠モデラー」と名付けた、技能のみを問う幹部社員を設置。
これにより、職人気質の社員のモチベーションが上がり、モノづくりに勢いがついたそうです。
◆ちなみに個人的に気になったのが、上記ポイントの5番目のiPhoneのお話。
今まで、技術的な部分で「日本でも作れた」というお話はありましたが、デザイン面から「日本人だからこそ」と言われているのは、あまり読んだ記憶がありません。
ただ、確かにジョブズが禅の影響を受けているのは事実ですし、そう考えると、日本人が同じようなコンセプトのデザインを生み出してもおかしくないかと。
たとえば前田さんたちは資生堂と組んで、こんなデザインのフレグランスを発表しています(サムネイルでは見えませんが、動画再生後、冒頭にボトルが登場します)。
なるほど、iPhoneに通じるフォルムだな、と。
◆正直な話、私は車を運転しませんから、このマツダの車の良さを、どこまで理解できているかは微妙かと。
それでも上記のマツダのサイトで見ることができる車のデザインは、極めてユニークで美しいものだと感じました(実際に国内外の賞をいくつも受賞したそう)。
そして、それを生み出した前田さん率いるマツダのデザインチームの働きぶりは、製造業に携わる方にとってはきっと参考になるはず。
もちろん、クリエイティブなお仕事をされてる方にとっても、彼らのアプローチ法から、得るものがあると思います。
なお、私はKindle本をKindle Paperwhiteで読むことが多いのですが、本書に限っては、カラーで再現できる端末をオススメ。
上記ポイントでも触れられている「ソウルレッド」を堪能してください。
マツダ躍進の秘密がここに!
デザインが日本を変える〜日本人の美意識を取り戻す〜 (光文社新書)
第1章 魂動デザイン、前夜
第2章 言葉論<哲学を共有する>
第3章 ブランド論<企業価値とは何か>
第4章 組織論<感動ほど人を動かすプロモーターはない>
第5章 ものづくり論<今こそ原点に帰るとき>
第6章 情熱、執念、愚直
特別対談 前田育男×谷尻 誠(サポーズデザインオフィス)
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【編集後記】
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