2018年02月20日
【戦略?】『自衛隊元最高幹部が教える 経営学では学べない戦略の本質』折木良一

自衛隊元最高幹部が教える 経営学では学べない戦略の本質
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「春間近!2000タイトル50%OFFフェア」の中から、個人的に気になっていた1冊。もともと「戦略本」自体、当ブログでも人気でしたし、今回のセールの対象作品の中では外せないな、と。
アマゾンの内容紹介から。
経営学をはじめ、世に溢れる戦略論。しかし、そもそも「戦略」とは何なのか?『シン・ゴジラ』自衛隊トップのモデルとされる伝説の自衛官が、自衛隊の戦略立案はもちろん、「きれいな戦略」が通じない人や組織の動かし方から、日本人のもっている「集合的無意識」の本質、経営学者の多くも気づいていない「安保と経済」のつながりまでを一気に伝授。
なお、中古に現時点でプレミアが付いていますから、このKindle版が700円以上お買い得です!

U.S. Navy and Japan Air Self-Defense Force aircraft fly in formation over USS Ronald Reagan. / Official U.S. Navy Imagery
【ポイント】
■1.「戦史研究」で戦略を学ぶそれでは、具体的に私たちはどのようなかたちで軍事戦略を知り、そのなかにあるエッセンスを戦略に活用すればよいのでしょうか。MBAでは、実際に起きた経営事例を、受講者が自ら追体験することを通じ、課題解決・課題発見を学ぶケースメソッドという手法があります。軍事戦略を学ぶうえで、そのケースメソッドに当たるものが「戦史」研究ではないか、と私は思います。
先の大戦の影響もあって、日本ではなかなか戦史研究というジャンル自体が認知されていませんが、海外ではメジャーな学問です。日本でも、数少ない戦史研究のなかで戦略論と日本人論のバイブルとして知られる『失敗の本質』(戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝生・村井友秀・野中郁次郎著、中公文庫)がいまなお読み継がれていることを考えても、戦略を考えるうえで豊饒な学びをそこで得られる、と考えるのが自然でしょう。
■2.リーダーの4つのタイプ
花井氏は『国益と安全保障』 のなかで、リーダーを以下の4つに分類しています。(1)目標を掲げ、部下をよく使う「有能・指導者型」、(2) 目標を掲げるが、部下は使わない「ワンマン型」、(3)明確な目標は設定しないが、部下はよく使う「行政・管理型」、(4)目標も掲げず、部下の使い方も知らない「無能型」です。(中略)
『国益と安全保障』によれば、「有能・指導者型」リーダーは、日本人には多いタイプではない、とのことですが、 あえて戦後日本の首相を当てはめるとすれば、「所得倍増計画」という「目標」を掲げるとともに、のちに総理大臣を経験することになる大平正芳や宮澤喜一ら、当時の部下を駆使した池田勇人がそのタイプだとしています。「ワンマン型」の典型は吉田茂で、「行政・管理型」は長期政権を維持した佐藤栄作。「無能型」はリーダーの資質に欠けることだけは、間違いありません。
■3.競争優位性の差を埋め、逆転する対策を施す
米軍は、珊瑚海海戦までの零戦による被害を直視し、具体的な対応策が決まるまで、やられっ放しだった零戦との1対1での戦闘では「逃げてもいい」と味方パイロットに通達しています。そのうえで、戦地で奪った零戦を徹底的に分析することで、その弱点を的確に探り出していきました。
競合他社との比較優位にすぎない競争優位性の差を埋め、逆転する対策を施す(「特別な価値」を提供する)側が次の勝利を手にすることは、企業経営でも変わらない真理でしょう。逆に競争優位性の劣化を直視できなかった日本軍は、艦隊戦ではミッドウェー海戦の1カ月前に勝利した珊瑚海海戦においても、多くの熟練パイロットを撃墜されていました。
■4.「中国側から日本を見た地図」で視点を変える
この地図を見ると、北海道から本州、南西諸島まで横に長い日本列島の存在が、中国が太平洋に進出することを妨害しているのが一目瞭然でわかります。さらには、中国は東シナ海沿いに長大な海岸線をもっていますが、朝鮮半島、九州、南西諸島、台湾、フィリピンによって、外洋への出口を塞がれていることも理解できます。
大陸国の中国が、自国の領海から北太平洋と西太平洋、そしてインド洋に出るには、他国の領海をかすめるような海路を通るよりほかにありません。中国は地理的制約による宿命を負っているのです。であるならば、自国の経済的な発展のためにも、力づくで海洋進出を進めるしかない、という選択肢をとる可能性が高い、ということが理解できるでしょう。これが「親中」「嫌中」などを超えたリアリズムに基づく思考です。
■5.「PCDA」とは異なる自衛隊の「IDA」サイクル
状況が複雑でないたんなる教育訓練であれば、たしかに「PDCA」サイクルの考え方を適用し、訓練成果を積み上げていくことができます。しかし、現実の戦いの場を想定した場合、あらゆる状況が生起し、それが絶えず変化していきます。そこで重視しなければならないのは「IDA」サイクル、いわゆる情報(Information)、決心(Decision)、実行(Action)サイクルだと思います。
そのなかでも情報は、敵、地域に関する情報ばかりでなく、自分の部隊の状況や処理されていない情報資料をも含んだ幅広いもので、「IDA」サイクルの流れの重要な部分を形成し、その精度と正確度こそがサイクルの基本となります。現代戦では、情報・決心・実行のサイクルの速度、精度、正確度が、敵に対して相対的に優越することが重要になります。そのための努力が、指揮官とスタッフに求められるわけです。
【感想】
◆冒頭の内容紹介にもあるように、本書の著者である折木良一さんは、映画『シン・ゴジラ』における、自衛隊トップがモデルです。國村隼氏演じる財前正夫統合幕僚長の「礼は要りません。仕事ですから」というセリフは、Wikipediaにも載っているくらいですから、ご記憶の方も多いことかと。
本書の「はじめに」には、東日本大震災の際に、折木さんが実際にしゃべったセリフが書かれているのですが、それは一応ネタバレ自重で。
いずれにせよ、あの映画をご覧になった方は、自衛隊という存在が身近に感じられたのではないか、と思います。
逆に言うと、そういう災害のようなものがないと、何をしているのかよく分からないのが自衛隊。
そこで本書では、災害時はもちろん、最近の北朝鮮や中国への対応を含めて、自衛隊がいかに「複眼的な視点から複雑な戦略を実行していたか」が垣間見れる内容になっています。
◆とはいえ、「戦略」をテーマに掲げる以上、避けては通れないのが、上記ポイントの1番目にあるように過去の「戦史研究」。
本書では「戦略に必要なすべては戦史が教えてくれた」と題し、第2章と第3章の2つの章を割いて、次の4つの戦史を掘り下げています。
キューバ危機 - Wikipedia
ノルマンディー上陸作戦 - Wikipedia
ミッドウェー海戦 - Wikipedia
ガダルカナル島の戦い - Wikipedia
上2つは、ケネディ大統領やアイゼンハワーの手腕を学び、下の2つは、旧日本軍を反面教師とする仕様。
特に後半の2つは、当ブログでもご紹介済みのこの本から、大きく引用されています。

「超」入門 失敗の本質
参考記事:【オススメ】『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』鈴木博毅(2012年04月09日)
上記ポイントの3番目は、この第3章からなのですが、自衛隊トップが『「超」入門 失敗の本質』を読むと、そこに着目するか、という気づきが得られました。
◆ただし、「戦史研究」はできても、実際に自衛隊が戦争をしたわけではありませんから、自分ごとのお話にはなりえないわけで。
その点、上記ポイントの4番目の「中国側から日本を見た地図」というのは、「防衛」の観点からしたら、まさに大事な視点。
たまたま最近テレビに映って、話題になってしまいましたが、数年前からこういった記事があったんですよね。
「逆さ地図」で見る、中国にとって邪魔な日本 | 外交・国際政治 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
「中国の工作員か?」とか言ってないで、この地理的な意味を考えていただきたく。
なお、本書の第4章では、こうしたお話のほか、上記ポイントの5番目の「『IDA』サイクル」や、米軍の「『OODA』サイクル」なるものにも触れられていますから、「戦史研究」以外に興味のある方は、こちらから読んでも良いかもしれません。
◆また今回、自衛隊に密接に関係あるにもかかわらず割愛してしまったのが、本書の第7章にある「休息」について。
実際、阪神・淡路大震災や、東日本大震災の際にも留意されていたのが、自衛隊員の「戦力回復」でした。
そこでこの第7章では、この本に沿って、如何に疲労回復に努めたかについて言及。

自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事
参考記事:【メンタル】『自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事』下園壮太(2017年07月07日)
ここは戦略とは直接的は関係ないものの、逆に、ビジネスパーソンにとっては、戦略以上に重要なテーマかもしれません。
……というか、本書全体を通じて、よくある「戦略本」とはやや異なりますので、その点は一応ご留意を。
お求めになるならセール期間内に!

自衛隊元最高幹部が教える 経営学では学べない戦略の本質
第1章 なぜ経営学では「戦略の本質」を学べないのか
第2章 戦略に必要なすべては戦史が教えてくれた 1
第3章 戦略に必要なすべては戦史が教えてくれた 2
第4章 「きれいな戦略」だけでは、人も組織も動かない
第5章 ビジネススクールにはない「地経学」の授業
第6章 日本人としての「集合的無意識」を自覚しよう
第7章 「休む」ことで戦略の成功確率は上げられる
【関連記事】
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【オススメ!】『戦略がすべて』瀧本哲史(2015年12月17日)
【仕事術】『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』塩野 誠(2015年03月28日)
【編集後記】
◆記事にはしていませんでしたが、現在西東社さんのこんなセールが開催中です。Amazon.co.jp: 【全品199円】あれもこれも全品一挙199円キャンペーン!(2/21まで): Kindleストア
西東社さんの場合、99円とか100円で出るセールもありますが、199円でも十分お得!
終了日が少々変則的で、明日2月20日(水)までですから、気になる本はお早めに!

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