2018年02月10日
【行動遺伝学】『日本人の9割が知らない遺伝の真実』安藤寿康
日本人の9割が知らない遺伝の真実 (SB新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中の「新書フェア」の中でも注目を集めていた1冊。「身も蓋もない」という意味では、下記内容紹介にも登場する橘玲さんのファンの方には、うってつけだと思います。
アマゾンの内容紹介から。
いま注目の「行動遺伝学」からわかってきた、遺伝と環境、才能と努力、本当の関係! ベストセラー『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(橘玲)を読んで面白いと思った人はさらに面白がれる!
現時点で中古とKindle価格が同じくらいですから、送料分弱、Kindle版がお買い得となっています!
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【ポイント】
■1.IQには共有環境の影響がある一卵性双生児の相関係数が二卵性双生児よりもずっと高いことから、遺伝の影響が働いていることがわかりますが、相関係数の比は2:1ではありません。もしIQの類似性が遺伝だけで説明できるのであれば、二卵性双生児の相関係数は0.7の半分、0.36程度になっているはずです。にもかかわらず、二卵性双生児の相関係数が0.46とやや大きいということは、遺伝の影響以外に、「より似させようとする何らかの影響」があると考えるのが妥当ということになります。
行動遺伝学においては、遺伝以外の影響とは環境です。そして家族のメンバーを「似させようとする環境」のことを「共有環境」といいます。つまりIQには共有環境の影響があるわけです。
■2.収入と遺伝の関係
人が得る収入は、その時代の景気やタイミングといった個人ではどうしようもないことに大きく左右されます。また、親が資産家であれば、事業を興すにしても有利になるかもしれません。
もし、前者の影響が大きいというのであれば、非共有環境が大きいと考えられますし、後者のように親の資産や社会的地位が影響するなら、共有環境が大きくなってくるはずです。
アメリカの行動遺伝学者ロウらは、きょうだいと半きょうだい(片親が同じきょうだい)に対する研究により、収入の42%が遺伝、8%が共有環境、50%が非共有環境によって説明できることを示しました。
また、スウェーデンのビョルクルンドらは、双生児ときょうだいのデータに基づき、収入への遺伝の影響は20〜30%、残りは非共有環境であると算出しました。意外なことに、どちらの研究からも共有環境の影響は大きくないことがわかります。
■3.親は子がどんなことに向いているかを考える
ここで大事なのは、子育て本のパターン通りに誰にでもあてはまる教科書のようなかかわりをするのではなく、自分が経て来た経験に根差す価値観に基づいて、子どもの中にある形質を見つけるように努力することだと思います。(中略)
「うちの子どもにはあまりパッとしたところがない」、そういうときこそ自分の経験や知識を総動員して、どんなことに向いているかを真剣に考えてあげる。ある分野に通じた人に子どもを会わせたり、いろんな体験をさせたりして、社会的・文化的に価値あると親が考える刺激を与えるといったことが大事だと思います。お金をかけなくともできることはたくさんあります。親にできるのは、本来そういう当たり前のことだけだと思います。
■4.教え方や先生によって学力は左右されない
またイギリスの双生児7000組を対象した調査では、学習動機つまりやる気や自分で感じる学力感が、同じクラスや同じ先生で教わった場合と異なるクラス・先生とで教わった場合で異なるかを調べています。その結果はといえば、学習動機に及ぼす先生の違いからくる影響力は、あっても2〜4%程度、つまりほとんどありませんでした。他の心的形質と同様、学習動機の遺伝率も概ね40%ですが、教え方やクラスのちがいよりも遺伝の影響の方がずっと大きかったのです。学力については共有環境が20%程度で、遺伝の影響は他の形質よりも低い30%程度ですが、やはりこの実験では先生や学校の影響は出ていません。
■5.子どもを「いい学校」に行かせても生涯賃金は変わらない
一卵性双生児でもちがう大学へ行くきょうだいがいます。中にはレベルの違う大学に行くことになってしまったケースもあります。一卵性双生児は遺伝要因も共有環境も同一ですから、その二人の差は、いわば同一人物が環境の違いだけでどのくらい異なる結果をもたらすのかという、絶対にすることのできない統制実験が、自然に成り立っているのです。
それによると差がありませんでした。もちろん通常は偏差値の高い大学の卒業生のほうが生涯賃金は高くなります。しかし偏差値の高い大学と低い大学に別れ別れに通うことになった一卵性双生児で収入を比較すると、その間に差はなかった。おかしいじゃないかと思われるでしょう。からくりはこうです。収入の差は、通った大学のレベルによるのではなく、もともとの能力によるものなのです。
【感想】
◆冒頭の内容紹介にもあるように、本書は橘玲さんのヒット作であるこの本と、かなりテーマがかぶっています。言ってはいけない―残酷すぎる真実―(新潮新書)
参考記事:【R指定?】『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘 玲(2016年04月17日)
それに関して、本書の「あとがき」で、著者の安藤さんいわく、「正直に告白しますが、この本はそのベストセラーに便乗した本です」とのこと。
ただし、上記の橘さんの作品で、安藤さんの過去の著作ががエビデンスとして紹介されており、安藤さんご自身には
私たちが長年取り組み、それなりに世の中に発信してきたつもりなのに、ほとんど届いていないと感じていた行動遺伝学のメッセージが、こんな形で取り上げられ、地方の小さな書店でも平積みにされ、電車の中吊り広告にもなるような扱いになっているという、驚きやとまどいがあったのだそうです。
そこで、その行動遺伝学の「本家」として乗り出して書き上げたのが、本書だということ。
◆手元に橘さんの本がない(当時はまだKindleで読んでなかった模様)ので、内容的にどこまでかぶっているのか正確には分かりかねるのですが、やはり本書のメインとなるのは、「遺伝」と「学力」や「教育」の関係でしょう。
安藤さんたちのグループ(双生児研究プロジェクト)は、一卵性と二卵性の双生児のデータを独自に収集。
首都圏(東京都、神川県、千葉県、埼玉県)のほぼすべての自治体の市役所、区役所に足を運び、住民基本台帳から双生児とおぼしき同じ住所と生年月日の人を肉眼でつきとめ、一人ひとり、氏名・住所・性別・生年月日を紙に書き写すという作業によって、4万組あまりを集めました。ちなみにこれは、個人情報保護法が改訂されて厳しくなる前のお話であり、その頃であっても、自治体ごとに審査があって、誓約書を書いていたのだそうです。
もちろん、過去研究のデータに基づくものも、上記ポイントの2番目にあるように紹介されていました。
実はこのポイントの2番目に関連して、別の研究によると、就職し始める20歳ぐらいのときは遺伝(20%程度)よりも共有環境(70%程度)がはるかに大きく収入の個人差に影響するものの、年齢が上がるにつれ、その共有環境の影響はどんどん小さくなり、かわりに遺伝の影響が大きくなって、最も働き盛りになる45歳くらいが遺伝の影響のピーク(50%程度)になり、共有環境はほぼゼロになるのだとか(詳細は本書を)。
つまり、最初の就職口は、しばしば親の「コネ」だったりするのが、だんだん自分の実力が問われるようになって、「遺伝」の影響が色濃くなるわけなんですね。
◆同じく上記ポイントの5番目では、学校ごとの生涯賃金について言及。
にわかには信じがたいのですが、「結局いい学校に行っても大差ない」というのが結論のようです。
つまり、ある人が「いい学校」に通っており、生涯賃金が高かったとしても、それは「いい学校に行ったから生涯賃金が高い」のではなくて、「そもそもの能力が高いからいい学校に行った」ということ。
これに関連して、上記ポイントの4番目にあるように、「教え方や先生によっても大差ない」らしく。
先生のちがいによって生徒の学力差や適応差は出てくるのですが、その環境の効果の持続性はそれほど決定的ではないのです。まー、それでも少しでも「いい学校」「いい先生」を、と願うのが親というものなのですが……。
◆なおこれらを踏まえて、本書の第5章では「あるべき教育の形」と題して、安藤さんは「大小2つの教育改革」を提案しています。
そのうち「大きい方」の改革は、本書の第6章を費やして展開されており、学年制を廃止した上で、どの程度の水準までその人が習得しているかを確認する、検定テストを導入するというもの。
イメージ的には「自動車学校」のように、知識や技能を学ばせた上で、次の過程に進ませるのだそうです(詳細は本書を)。
少なくとも近未来で実現することは難しそうですが、人本来の能力差から考えたら、確かに「アリ」だな、と。
もっとも、私たち読者からすると、個人でどうこうできない分、いかんともしがたいのですが……。
「行動遺伝学」を基礎から学べる1冊!
日本人の9割が知らない遺伝の真実 (SB新書)
第1章 不条理な世界
第2章 知能や性格とは何か?
第3章 心の遺伝を調べる
第4章 遺伝の影響をどう考えるか
第5章 あるべき教育の形
第6章 遺伝を受け入れた社会
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【編集後記】
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