2018年01月11日
【マーケティング】『もうモノは売らない』ハビエル・サンチェス・ラメラス
もうモノは売らない
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、自分のアマゾンアソシエイトの管理画面で見つけた1冊。先月の「サイバーマンデーセール」の対象となっていた作品が、現時点でも「50%OFF」となっているので捕獲したところ、想定外に濃厚だったという。
アマゾンの内容紹介から。
人々が欲しがっているものを与えることではなく、狙いどおりに感じてもらうことが重要だ。製品の何をアピールすべきか。アイデアはどこから得るべきか。広告は誰に向けるべきか。広告はどこに出すべきか。消費者調査ではどう質問すべきか。元「コカ・コーラ」全世界統括マーケティング・ディレクターが見出した、95%が間違う世界で確実に結果を出す方法。
単行本ではないので付箋画像はないものの、ページ数の割にはハイライトを引きすぎてしまいました!!
three generations of tropicana / j_lai
【ポイント】
■1.広告予算は低年齢層を対象にする繰り返すが、人は恋をするのと同じように、ブランドにも恋をする。ほとんどの場合、選ばれるのはひとつのカテゴリーにつきひとつのブランドだけだ。そしてそのとき、感情脳は自分が選んだブランドとその他のブランドの差は実際以上に大きいと思っている。また、およそ80パーセントの人が18歳までに好みのソフトドリンクブランドを決めてしまう。この傾向は他のカテゴリーでも同様だ。18歳以降に好みのブランドを変更するのは全体の20パーセントのみだ。そして変更した人の50パーセント(つまり全体の10パーセント)がまたもとのブランドに戻ってくる。この数字は重要だ。"ブランドへの恋"を生み出すための予算のうち18歳以上に向けられたものは、それ以下の年齢に向けられたものより少なくとも5倍は効果が低いのだから。
■2.こころにささやきかける
すでに述べたとおり、語りかけるのは感情脳に対してするべきだ。理性脳に働きかけても恋に落ちる人はいない。自分の賢さや美貌について説明しても誰もあなたに恋をしないのと同じことだ(それどころか、相手をうんざりさせるだけだろう)。(中略)
コカ・コーラの例で言うと、コカ・コーラの広告は爽やかさや喉の渇きをいやすこと、おいしさについていっさい語っていない。対話の要点は価値であり、それは人々の心に向けられる。試しにあなたの好きなブランドを思い出してもらえば、理性脳に働きかけた広告はひとつもないのではないだろうか。洗練性や友情、ユーモア、勇気、希望、楽観主義、愛などを伝える広告ばかりが思い浮かぶだろう。
■3.ソーシャルメディアも活用する
トレンドストリーム社の分析によると、ヨーロッパの人々はソーシャル・ネットワーク上で交流している人の意見を、「家族」や「親友」のつぎに価値があると考え、「店員」や「全国紙の記者」「テレビのアナウンサー」「セレブ」よりも上位とみなしている。また女性とソーシャル・メディアに関する研究によれば、アメリカの主婦はオンラインの消費者や専門家によるレビューを、記事や従来型の広告(テレビ、雑誌、新聞、ラジオなど)よりもはるかに高く評価している。繰り返すが、ソーシャル・メディアで勝者になりたければ、あなたの「強い支持者」にマイク(とブランドに関する話題)を提供し、彼らの声がウェブ上で拡散するように力を貸そう。
■4.デザイン変更は慎重に
デザインを大きく変えるのは慎重にしたほうがいい。親近感が大切だからだ。これまで価値を生み出してきたデザインとあまりに異なるデザインに変えると、大きな失敗になる可能性がある。
2009年、トロピカーナはオレンジにストローが刺さった象徴的なパッケージデザインを、グラスにオレンジジュースが注がれたデザインに変えた。ペプシコのトロピカーナ・ブランドはアメリカとカナダを合わせて7億ドルの売上があった。そのデザイン変更には3500万ドルの予算が費やされた。
グラフィック・デザインの歴史のなかで、それは近年稀に見る大失敗になった。「最初の2カ月間、トロピカーナ・ピュア・プレミアムの売上は20パーセント下落した。金額にして3000万ドル以上の減少だ。競合商品であるミニッツ・メイドやフロリダズ・ナチュラル、各種プライベート・ブランドは、トロピカーナの減少によって軒並み二桁の伸びを示した」とパーセプション・リサーチ・サービスのスコット・ヤングとヴィンセンツォ・キューモは書いている。
■5.値下げによる売上増は「罠」
日用品、自動車、家電など、どんな産業にも当てはまる最も一般的な罠は、価格を下げて一時的に販売量を増加させることだ。プライス・プロモーション、値引き、クーポン、払い戻し、2個買えば1個無料、送料無料など、その手段はいろいろある。しっかりと確立されたブランドが一時的に価格を下げ、競合がそれを静観すれば、(マージンは下がるものの)売上は上がる。そのときに引きつけているのは、自社のブランドに対する価値認識が低い人々、つまりプライスシーカーだ。問題は、彼らは低い価格を維持しないともう一度購入してくれないということだ。
【感想】
◆冒頭で触れたように、ハイライトを引きまくってしまったので、上記の5つのポイントだけでは、とても本書の内容をカバーしきれておりません。とにかく、久しぶりに「マーケティング本」ど真ん中である、と。
当ブログには「マーケティング」というカテゴリーがあって、私が自分で「これはマーケティングだな」と思った本はそこに分類しているのですが、ここ最近(というか数年間)、本当の意味での「マーケティング本」はありませんでした。
心理学的な知見のお話や、コピーライティング、ビジネスモデルや市場開発、ブランディング、SNS活用等々、「マーケティング要素」は含まれていたり、「マーケティングの一部」ではあるものの、本書ほどマーケティング全体についてカバーしてはおらず。
かといって本書は、自己啓発系や精神論というわけではなく、個別の事項で表やグラフを用いて、深く掘り下げていたりもします。
◆たとえば、上記ポイントの1番目が収録されていた「ブランドの成長と衰退」の部分では、架空の国における、スニーカーの市場のシミュレーションを敢行。
2つの異なる会社のシェアと販売額を年齢層(10段階も!)ごとに比較しています。
そのうちの1つであるアルファ社は、もっとも売上のある年齢層(21〜40歳)をターゲットにし、ベータ社は10代の顧客獲得に注力。
当然前者の方が全年齢層における売上高は高くなります。
しかし、どちらも消費者のブランドロイヤリティが変化しないとすると、その10年後には、シェアも売上高も逆転してしまうという……。
ここを読んでふと思ったのが、YouTubeの広告のお話です。
今まで「金のない子供相手に広告出してもしょうがないのに」と思っていたのですが、キチンとブランドロイヤリティ獲得につなげられれば、効果があるのかもしれません。
◆そのYouTubeで言うなら、上記ポイントの3番目のソーシャルメディアの活用も押さえておきたいところ。
もちろんソーシャルメディアだけに特化するというワケではなくて、メディアごとの予算のかけ方を考えなくてはなりません。
本書では、「すべてのメディア利用を推定する統一レーティング・ポイント」の作成を提唱。
スーパーのチラシから、YouTubeのコメントまでポイント化していきます(詳細は本書を)。
それを用いて、どのメディアにどれだけ予算をかけえると、どれだけ効果があるか、というシナリオを複数作成して比較。
なるほど、これを実際にやったら、広告戦略も説得力がありますね。
◆こうした「ガチ内容」だけでなく、本書は私のようなシロウトが読んでも、得るところが多々ありました。
特に心にとめておきたいのが、本書のサブタイトル(なぜKindle版だと表記していないんでしょうか?)にもある「恋をさせる」ための方策です。
たとえば上記ポイントの2番目にあるように、「感情脳」に訴えかけるのは当然のこと。
本書では「史上最大級の失敗」と言われる「ニューコーク」が、いかにファンを裏切ったかについても検証しています。
また、味だけでなく、単にパッケージを変えるだけでも注意しないといけないのは、上記ポイントの4番目にあるとおり。
ちなみにここでは触れていませんが、「裏切り」以前に、実際に買いに行って商品を見つけて、「いつもと違う」ものの「その場で飲むわけにはいかない」ため、買うのに躊躇してしまう人も多かったようです。
◆そしてこうした「ブランド」を考える上でも大事なのが「価格」のこと。
単純に値下げをしてしまうと、ブランド価値が毀損するのと同時に、結局それで買うのは、上記ポイントの5番目にあるように「安いから買う人」になってしまいます。
もちろん、リピーターにはなりませんし、なるとしたら、再度値下げした時でしょう。
類書でも触れられていましたが、日本の企業はすぐ「値下げ」で何とかする傾向があるような気がしますので、この辺は関係者の方々には、意識して頂きたいところ……。
骨太のマーケティング本が読みたい方なら要チェックです!
もうモノは売らない
序章
1章 マーケティングは感情分析だ
2章 マーケティングを最適化するアプローチ ~リサーチと組織の落とし穴
3章 ブランドへの恋を生み出す対話
4章 財布を開きたくなる数字のマーケティング
マーケティングにおける10の結論
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【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。はじめてのリーダー論 ―部下と上手につきあう31のコツ
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