2018年01月10日
【説得術】『説得の戦略 交渉心理学入門』荘司雅彦

説得の戦略 交渉心理学入門
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中の「ディスカヴァー・トゥエンティワン 書籍キャンペーン」にて人気を集めていたコミュニケーション本。弁護士である荘司雅彦さんが、心理学、行動経済学等の知見に基づき、相手を説得する術を指南してくれています。
アマゾンの内容紹介から。
会議、交渉、セールスから恋愛、就活まで。弁護士が教える、エビデンスに基づく人を自然に納得させる方法論。
中古はやや値崩れしていますが、送料を考えればKindle版が300円以上お買い得です!

PA: Working America Voter ID & Persuasion / AFL-CIO Field
【ポイント】
■1.天気によって外回り先を変える晴れた日は、絶好の新規開拓日和です。
晴れた日の爽快感は気持ちに余裕を与えるので、初めての訪問者であっても「話を聞いてみようか…」という気持ちになり易いのです。
逆に、雨の日や雪の日は、馴染み客、とくに遠方の顧客のところへ行きましょう。
「こんな天気の日にわざわざ足をはこんでくれて……」と思ってくれる人が多いので、契約や購入という"お駄賃"をもらえる確率が高くなります。
以上のように、説得が効を奏するか、はたまた後々までよくない印象を持たれるか、その日の環境の及ぼす影響は、想像以上に大きなものなのです。
■2.パーソナルスペースを上手く活用する
説得上手な上司は、まずパーソナルスペースの外である正面に部下を立たせるなり座らせるなりして、叱るべきところを叱ります。
叱り終えたら、すっと部下の横に移動して(さりげなく部下のパーソナルスペースに入り込んで)、肩を叩くなどしながら「君には期待しているんだからね」というひとことを忘れないそうです。たったこの動作ひとつで、部下のモチベーションはグンと上がるのです。
大昔の話ですが、故三木元首相は、説得上手で有名だったそうです。
ソファで向かい合いながら「理」を説き、相手が落ちそうになると相手の横の席にスッと移動して「どうだ君!一緒にやろうじゃないか」などと言って相手の膝をポンと叩いたとか。
「理」を説き「情」で落とす……今日まで語り続けられてきた逸話です。
■3.あらかじめ心の中で経験させておく
もっと卑近な例を挙げてみましょう。
あなたが男性で、彼女をラブホテル(今は「ファッションホテル」というのでしょうか?)に初めて誘いたいと思うなら、そのホテルの内部をさまざまな角度から撮影した写真や動画を彼女に見せて、「ここなんだけど、一度行ってみない?」 と誘ったほうが、成功する可能性は高くなるでしょう。
なぜなら、部屋の写真や動画を見た彼女は、自分がその部屋にいる姿を容易に想像でき、"初めて感"というブレーキが外れるからです。(中略)
このように、相手を初めての行動に導くには、相手の想像を容易かつリアルにするための写真や動画といったアイテムを見せたほうが、うまくいく可能性は断然高まります。
■4.接触頻度を高くする
かつて、銀行で個人営業をやっていたとき、私はある提案をしました。
私を含めた3人の営業マンの笑顔の写真シールを作成して、DMや不在時に入れてくるパンフレット等に、その地域の担当者の顔写真シールを貼るようにしてはどうか、という案です。
当時の私は「利用可能性ヒューリスティクス」なんて理論は知りませんでしたが、経験的に接触頻度が増すたびに顧客の態度が好ましいものになることを感じていたのです。
結果は、大成功。3人とも全員、実際に会うことがなかなか難しかった顧客たちから、驚くほど多くの新規契約をいただけました。
■5.「希少性の原則」を活用する
私事ですが、若い頃に銀行の個人営業をやっていた際、「行内限り」という赤いスタンプが押してある「ほかの金融商品との利回り比較表」を顧客に見せると、顧客の目が輝きを増したのを憶えています。
これは、当時、利回り比較広告が禁止もしくは制限されていたことから、 「お客さまにお見せするときは必ず〈行内限り〉というスタンプを見せて、あくまで内部資料ですが、と言いなさい」という上司のお達しがあったからです。
私は、上司の意図に背くことなく、ただ、
「これは特別なお客さまにしか見せることのできない資料なのですが」
というひとことを付け加えました。
それを聞いたお客さまから、
「○○銀行にある定期預金を解約するので、来週もう一度来てもらいたい」
といううれしいお返事をいただいたことが何度もありました。
【感想】
冒頭でも触れたように「弁護士」である荘司さんが書かれた「交渉」の本ということで、本書もてっきり、いわゆる「交渉術」の作品だと思っていたワタクシ。たとえば、こんな本のような。

プロ弁護士の「心理戦」で人を動かす35の方法
参考記事:【交渉術】『プロ弁護士の「心理戦」で人を動かす35の方法』石井琢磨(2013年07月29日)
他にも「Batna」ですとか、「Good Cop, Bad Cop」みたいな「交渉術」は色々あるじゃないですか。
ところがどっこい、本書が主に言及しているのは、上記のポイントにあるような「心理学」「行動経済学」寄りのお話ばかり。
……あー、でも確かに、本書のサブタイトルにあるのは、「交渉術」ではなくて「交渉心理学」ですもんね(今さら)。
◆この傾向は巻末の「参考文献」にも表れており、下記関連記事に並ぶのは、いずれもそこからのもの。
中でも、おなじみ『影響力の武器』は、オリジナルだけでなく「実践編」も挙げるほどで、実際、上記ポイントの5番目は、モロに「希少性の原理」を応用した実例という。
また、割愛しましたが、ダン・アリエリーの『予想どおりに不合理』からは、「一度ゲットしたものには大変な執着を持つ」という「保有効果」が紹介されています。
あるスポーツの観戦チケットを持っている人たちに「いくらでなら売るか?」と質問したところ、円に換算して平均25万円なら手放すという回答が得られたのに対し、持っていない人たちに「いくらなら買うか?」と質問したところ、平均1万8000円という回答で、なんと、13倍以上の差がついてしまったというのです。そしてこれを応用したのが、通信販売等の「返品可」での販売ですね。
◆ただし、本書が類書と異なるのは、こうしたエビデンスのあるTIPSを紹介するだけでなく、具体的な「説得方法」に落とし込んでいること。
たとえば上記ポイントの4番目や5番目は、ご自身の経験からのものですし、上記ポイントの2番目は「一般的な話&逸話」、3番目は「想像」(「経験」の可能性もアリw?)だったりします。
ちなみに、前職である銀行員時代のエピソードが多い(上記ポイントの4,5番目もそうですね)のは、やはり弁護士よりも「説得」する必要があったからなんでしょう。
いずれにせよ、単なる「エビデンス」に終わらせずに、実際の「説得」に結び付けようとする努力は、いたるところに感じられ、とあるTIPSでは、なかなか納得できる形に仕上がらず、「英文も含めて類書を片っ端から読んだ」との告白までありました。
◆ただ、若干気になったのは、「エビデンス」と言われる割には、具体的な論文名や書籍名が、挙げられていなかったこと(もちろん、本文内で「誰々の研究」「何々という本」のように、自然に触れられてはいます)。
よくある「科学的自己啓発書」だと、いちいち注釈やナンバリングがされていて、巻末等に論文名がぎっしりあがっていたりするものですが、そこまではされていませんでした。
もっとも私自身、英語の論文をいちいち読んでチェックしているわけではないですから、むしろ、上記で触れたように「具体的な説得方法」にこだわるスタンスは評価したいところ。
……上記ポイントの3番目のラブホの例は、「弁護士」としていかがなものかとは思いますがw
なお、私も「おわりに」を読んで知ったのですが、本書は荘司さんが過去に書かれた『話し上手はいらない〜説得しない説得術』に「大幅な加筆と修正を加えたもの」となりますので、そちらをお持ちの方はご留意を。
エビデンスのある説得術を学べる1冊!

説得の戦略 交渉心理学入門
序章 言葉よりもはるかに効果的な説得手段
第1章 人間の基本的な心理のメカニズムを理解する
第2章 常識や理性では説明できない行動の理由を知る
第3章 実証された説得技術を使いこなす
【関連記事】
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【見た目の科学】『卒アル写真で将来はわかる 予知の心理学』マシュー・ハーテンステイン(2014年10月29日)
【編集後記】
◆同じ「ディスカヴァー・トゥエンティワン 書籍キャンペーン」の対象作品のこちらなのですが。
中学入試レベル 大人の算数トレーニング (ディスカヴァー携書)
買った当時は、範囲的にまだムスコが解ける問題がほとんどなかったので積読していたのですが、今読むと良問わんさかで「拾いモノ」をした気分(買ってますww)。
これが今なら「432円」なんですから、中学受験をなさるご家庭の方なら、この機会にぜひ!

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