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2017年12月28日

【地位財?】『幸せとお金の経済学』ロバート・H・フランク (著),‎ 金森重樹 (翻訳)


B076Q2N3QJ
幸せとお金の経済学


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中の「ビジネス書フェア」の中でも、前々から読みたかった1冊。

「隠れたスゴ本」を見つけてきては翻訳する金森重樹さんが選ばれたくらいですから、抜かりありませぬ!

アマゾンの内容紹介から。
収入が増えない時代のコスパ最強の金銭感覚。他人と比べたとき、あなたは中流から下流へ落ちていく―。世界の幸福学に影響を与えた、NYタイムズ紙で話題のお金の話。

中古はやや値崩れ気味ですが、送料を加味するとKindle版が500円弱お買い得です!





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【ポイント】

■1.地位財と非地位財に関する2つの思考実験
 1つ目の実験では、自分は4000平方フィート(訳注:約110坪)の家、他の人は6000平方フィート(訳注:約150坪)の家に住んでいるAの世界、自分は3000平方フィート(訳注:約80坪)の家、他の人は2000平方フィート(訳注:約60坪)の家に住んでいるBの世界のどちらかを選びます。なお、選んだ後で、その世界における自分の家の位置づけは変わらないこととします。(中略)
 実際にはほとんどの人が、絶対的なサイズは小さくても、相対的には大きな家が持てるBの世界を選ぶと答えます。(中略)
 2つ目の思考実験では、自分は1年に4週間、他の人は6週間の休暇がとれるCの世界、そして自分は2週間、他の人は1週間の休暇がとれるDの世界のうち、どちらか一方を選びます。この場合は、Cの世界、つまり相対的に短くても絶対的に長い休暇を選ぶ人がほとんどです。


■2.本書で論じる4つの命題
命題(1) 人には相対的な消費が重要だと感じる領域がある。

命題(2) 相対的な消費への関心は「地位獲得競争」、つまり地位財に的を絞った支出競争につながる。

命題(3) 「地位獲得競争」に陥ると、資金が非地位財に回らなくなって幸福度が下がる。

命題(4) 中間所得層の家庭では、格差の拡大によって「地位獲得競争」から生じる損失がさらに悪化した。

(詳細は本書を)


■3.金持ちが大きい家を建てると、庶民の家まで大きくなる
 こうした大邸宅ができたことに中流家庭が気づいているからといって、それを不快に思っているという証拠にはなりません。それどころか、多くの人々が雑誌やテレビでそうした大邸宅を目にすることを楽しんでいる節もあります。
 ところが、トップ層のすぐ下の層にとっては、どんな家が必要か、あるいは望ましいかを決める基準枠がこうした新しい邸宅によって変えられてしまうのです。
 ひょっとすると、今では娘の結婚披露宴や大きなディナー・パーティーを家で催すのが当たり前になっているのかもしれません。
 そして、富裕層に近い層が建てる家が大きくなると、今度はそのすぐ下の層が1万平方フィート(訳注:約300坪)の家では不十分だと思うようになり、それが所得階層のずっと下のほうまで連鎖的に伝わっていきます。


■4.デューゼンベリーの相対所得仮説
 支持される消費理論には、次の3つの基本パターンが含まれています(訳注:いわゆる相対所得仮説)。(1)富裕層の貯蓄率は低所得層よりも高い、(2)国全体の貯蓄率は収入が増加してもほぼ一定である、(3)短期的に国全体の収入が変動しても消費の変動は比較的小さい(訳注:物価の上昇や増税によって可処分所得が減少しても、消費者はそれまでの消費水準をしばらく維持しようとするラチェット効果を示唆している)。
 最初の2つは一見矛盾しています。もし富裕層の貯蓄率が高ければ、豊かになるにつれて貯蓄率は上がるはずです。しかしそうはなりません。
 デューゼンベリーは、その理由として貧困の相対性を指摘しています。つまり低所得層の貯蓄率が低いのは、他の人たちの支出が増えれば、無理して追いつこうとするからです。その状態は国全体の収入がどれだけ増えても続くので、国全体の貯蓄率は上昇しません。


■5.コモンズの悲劇
 私たちが迫られる判断は、軍拡競争のようなものです。各国が爆弾を購入するのは、愚かだからではありません。相手が爆弾を持っているときに自分たちが持たないのは賢明ではないからです。つまり国が爆弾を購入するのは愚かではありません。しかし、購入数を制限するという合意を進めるのは、きわめて賢明です。両国が合意内容を監視し、相手国に遵守を求められます。
 また、全員が小さい住宅や車を購入し、その差額を見栄の消費以外に使えば幸せになれることはわかっていても、一人ひとりの消費者にできる判断ではありません。やはり問題は、各家庭が他の家庭を気にせずに、自分たちの支出をコントロールできるかどうかです。
 一部にとって賢明な行動が、全体にとって賢明な行動とは限りません。長年の経済分析でも解明され、「コモンズの悲劇」(訳注:共有地を利用者が自由に使うと、最終的に資源の枯渇を招くという経済学における法則)と呼ばれる状況で見受けられます。


【感想】

◆上記ポイントの1番目ではいきなり引用してしまいましたが、本来、まず「地位財」と「非地位財」という用語の説明を行わねばなりませんでした。

以下、本書の「監訳者まえがき」から。
●地位財=他人との比較優位によってはじめて価値の生まれるもの。 (例:所得、社会的地位、車、家など)
●非地位財=他人が何を持っているかどうかとは関係なく、それ自体に価値があり喜びを得ることができるもの。 (例:休暇、愛情、健康、自由、自主性、社会への帰属意識、良質な環境など)
これを踏まえて、上記ポイントの1番目を見ていただくと、「Aの世界」における「家の広さ」が「地位財」で、「Bの世界」における「休暇」が「非地位財」になります。

よく類書でも言われているのが、お給料の絶対額が低くても、周りと比べて相対的に高ければ人は満足する、というお話で、まさにこれ。

逆に今まで「Bの世界」のようなケースの思考実験はしたことがなく、正直、ここを読んだときには「目からウロコ」でした。


◆そして本書の中心となるのが、上記ポイントの2番目にある「4つの命題」です。

地位財は命題(1)にあるように、相対的なものですし、命題(2)にあるように、「地位獲得競争=支出競争」へとつながる次第。

それについて言及しているのが上記ポイントの3番目で、上流階級が建てた馬鹿でかい家が、その下の層にまで影響を及ぼしてしまうのだそう。

ところが、相対的であるがゆえ、周りも同じように支出すると、満足感自体は逓減してしまいます。

ちなみに、本書の冒頭の「監訳者まえがき」で、金森さんが奥さんに買ってあげたピアジェの腕時計(350万円)が、もっとバカ高い時計にマウンティングされるお話が出てきますが、まさにそういうこと。

……ここにある「ドゥ・グリソゴノ」というブランドの機械式デジタル時計らしいのですが(高っか!)。

デジタルなのに超複雑な機械式のユニーク時計 - 日経トレンディネット

さらに、命題(3)で指摘されているように、「地位獲得競争」にお金を使ってしまうと、「非地位財」に回すお金が不足してしまうということに……。


◆加えて問題なのが、命題(4)にある「中間所得層」の損失の悪化です。

昨今のように所得格差が拡大することに伴い、この問題はさらに大きくなっているのだそう。

たとえば、所得分布が安定していた第二次大戦の終戦直後の数十年間、家を持つことによって生じる平均的な負担はほとんど変わりませんでした。

ところが1970年以降、負担は急激に大きくなりはじめ、2010年になると、平均的な労働者が家族を平均的な価格の家に住まわせるためには、1970年のほぼ2倍働かなければならなくなったとのこと。

一方で所得の伸びは不均一で、所得が上にいけばいくほど、伸びも急激に増えています。

本書では「税引前所得」「税引後所得」「純資産」のそれぞれについて所得層ごとに、棒グラフグラフを載せているのですが、ひと目で分かるほど格差が広がった模様。

つまり、所得の伸びに比べて、地位獲得競争にのめり込むと、資産まで減らしてしまうワケです。

この辺は、上記ポイントの4番目にある貯蓄率のお話にも通じるかと。


◆ちなみにここで「税引前」「税引後」とわざわざ載せているのは、本書で指摘している問題点の1つが、「富裕層に対する減税」だから。

期間や所得層が同じでないため、一概には言えないものの、1979年からの伸びを最富裕層に絞って比較すると、税引前が「+68.0%」だったのが、税引後だと「+201%」となっています。

もっとも、これはアメリカのお話であって、日本はここまで極端ではないでしょう。

それに税金のことまで考えても、市民としてはどうしょうもありません(もちろん選挙で意思を反映させることは可能ですが)。

それよりは、上記ポイントの5番目にあるように、「各家庭が他の家庭を気にせずに、自分たちの支出をコントロール」すべきではないか、と。

結局「よそはよそ、ウチはウチ」を徹底させて、「非地位財」にお金を使うことが、幸せにつながるわけですね。


お金を「いかに稼ぐか」よりも「いかに使うか」を考えるために!

B076Q2N3QJ
幸せとお金の経済学
監訳者まえがき――金森重樹

I 収入が増えない時代の幸せとお金の研究序説
幸福にのしかかる経済的圧力の正体 *序文――2013年版
無駄な消費に駆り立てる見えない因子 *序文――2007年版

II 「普通の生活」でもどんどんお金が減っていく理由
第1章 なぜ私たちは同じ答えを選んでしまうのか?
第2章 所得の変化が映すいびつな世界
第3章 幸福の研究が明らかにしたもの
第4章 幸不幸を左右する見えざる手

III 地位財・非地位財でわかる幸せのコスパ
第5章 私たちは身の丈以上にお金を使っているのかもしれない
第6章 ヒトをマウンティングに向かわせるホットシステム
第7章 ダーウィンの仮説で見る地位財? 非地位財?

IV 「平均以下」が私たちを幸せにする?
第8章 より過酷になり、脱落しつづける中間所得層
第9章 その正しい選択が、振り返ると愚行となる
第10章 格差から1人抜け出し、生き残る知恵

V 今、問われている納税者としての金銭感覚
第11章 公共政策を意識すると、私たちの支出も変わる
第12章 生き残るカギは収入と支出のバランス

最後に、日本語版読者へ寄せて――ロバート・H・フランク


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【ミニマリズム】『より少ない生き方 ものを手放して豊かになる』ジョシュア・ベッカー(2016年12月19日)

【ライフハック】「減らす技術 The Power of LESS」レオ・バボータ(2009年08月08日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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参考記事:【全20冊】未読本・気になる本(2017年07月09日)(2017年07月09日)

【編集後記2】

◆昨日の「ビジネス書フェア(ファイナル版)」で人気だった作品は、この辺でした(順不同)

B01LYPWM3B
リストマニアになろう!――理想の自分を手に入れる「書きだす」習慣

B01M1EBX16
アイデアソン! アイデアを実現する最強の方法

B017CLX1MS
拒絶される恐怖を克服するための100日計画

一応、ご参考まで。


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