2017年11月28日
【ビジネスモデル】『成功企業に潜む ビジネスモデルのルール――見えないところに競争力の秘密がある』山田英夫

成功企業に潜む ビジネスモデルのルール――見えないところに競争力の秘密がある
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事の中でも、個人的に読みたかった1冊。著者の山田英夫さんは、これまでも興味深いビジネスモデルについて著作を残されており、本書もこの手の作品が好きな方には、たまらない内容となっています。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
ビジネスモデルを見る時、我々は外部から見えやすいところばかりに目がいきますが、実は見えにくいところに、成功している企業の優位性の秘密があるのでは? そう考えた著者は、ユニークなビジネスモデルを持つ企業を数多く取材し、その謎を解明したのが本書です。思わず他人に話したくなるようなビジネスモデルの事例が満載です。
なお、中古にはプレミアが付いている上に、版元がダイヤモンド社さんということで、セールを待たずにKindle版を買うのが正解かと。

Your Elm Narita / ltsc1980
【ポイント】
■1.紙幣の補充役を担うセブン銀行の「売上金入金サービス」セブン銀行は創業後間もなく、法人向けに「売上金入金サービス」を始めた。店舗等の現金売上を、専用カードを使ってATMに入金するサービスである。(中略)
売上金入金サービスによってセブン銀行は、専用カードで入金する際に発生する手数料収入を得ると同時に、紙幣調達コストも下げることができた。
コンビ二ATMは入金より出金のほうが圧倒的に多く、補充しないと紙幣がなくなってしまう。しかし、セブン−イレブン内のATMは売上金入金サービスのおかげで、月1回ほど綜合警備保障(ALSOK)が現金を運び入れればすむという。
すなわち売上金入金サービスは、入金者にはセキュリティを提供する一方で、その入金がセブン銀行の紙幣調達コストを大幅に下げているという、画期的なビジネスモデルなのである。
■2.物販・飲食等の成田空港のリテール事業
かつては、出国手続きを経た後は、搭乗口まで多くのスぺースがあったものの、そこは小規模な売店のようなものしかなかった。テレビが見られるモニターが設置された待合スペースのほかに、リラックスするための場所もあったが、国際線の場合、出発の2時間前にはチェックインをすませておくことが求められるため、多くの乗客は暇を持て余していた。リテール事業は、この余剰の「場所」と「2時間」という資源を最大限に活用する事業だったのである。
さらに、2001年に米国で同時多発テロが起き、その後空港のセキュリティチェックはより厳しく、時間もかかるようになった。それゆえ、混雑期に乗客は、より早く空港に来るようになった。
こうしたことを背景に、成田空港では2006年ころから出国審査後のエリアに、免税店やブランドモールが登場した。(中略)
こうした結果、成田空港のリテール事業の売上はショッピングセンターのランキング(繊研新聞調査)で、並み居るアウトレットを抑え、2013年度から3年連続1位となっている。
■3.BtoCに特化した青山フラワーマーケット
街にある花屋の多くは、BtoCだけでなくBtoB事業を持ち、ホテルや冠婚葬祭業に定期的に花を納めている。彼らはセリでつぼみの状態で落としてきた花を、店内の冷蔵庫で寝かせ、開花し始めたころに納品している。
これに対して青山フラワーマーケット(企業名はパークコーポレーション)は、BtoCに特化し、花束を中心に、2〜3日で花を売り切ってしまう花屋チェーンである。したがって店内に冷蔵庫はなく、人通りの多い場所に狭い間口の店舗で開業できる。2〜3日で売り切るため、多少開きかけた花も仕入れられる。つぼみと開きかけた花の仕入れ原価は、もちろん後者のほうが安い。
BtoCに特化し、売り切るビジネスモデルにしたことから、固定費も変動費も大幅に低い構造を実現したのである。
■4.マイルがないことを逆手にとったスカイマーク
マイレージには、仕事で出張する場合、航空運賃を支払うのは企業で、マイルを獲得できるのは個人という、知る人ぞ知る構造があった(マイルを召し上げる企業も一部ある)。そこでスカイマークは、出張費用を安く抑えたい企業に直販を行い、料金を安く、出張につきものの搭乗便の変更も無料にした。
もちろんJAL、ANAも法人営業を行っているが、低価格で販売したうえに、マイルを発行するコストを考えると、スカイマークより安い価格には設定しにくい(かつ、法人営業の客だけマイルを付与しないこともできない)。
会社が「出張はスカイマークで」と決めれば、出張者はそれに従うしかなく、企業の出張コスト削減ニーズともマッチした施策であった。スカイマークは、航空券の購入意思決定者(Decision Making Unit)を、出張者から会社に変えたのである。
■5.顧客本位でネットとリアルを提携するヨドバシカメラ
家電の販売において、アマゾンなどのネット比率が高くなる中、リアル店舗を持つヨドバシカメラは、店舗の値札にバーコードを表示し、スマホでそれをかざすと、「ヨドバシ・ドットコム」に飛ぶことができ、リアルとネットの同一価格を保証する仕組みを作った。店舗で購入する顧客は、従来は「もしかしたらネットのほうが安いかもしれない」という不安を持ちながら購入してきたが、その不安をなくしたのである。
ヨドバシカメラがさらにすごかったのは、自社サイトだけでなく、他のネットショップの価格も同時に表示し、そこから他社サイトにも飛べるようにしたことである。顧客が競合企業に流出するリスクはあるが、自社で囲い込むことよりも、顧客の利便性を重視したやり方といわれている。
あえて他社サイトとの比較を可能にすることで、(仮に最安値でなかったとしても、)かえって顧客からの信頼を勝ち取ろうとする戦略ともいえよう。
【感想】
◆冒頭でも触れたように「ビジネスモデル好き」にはたまらない1冊でした。しかも本書のキモは、「見えないところ」に競争力のあるビジネスモデルが中心であるということ。
たとえば、上記ポイントの1番目の「セブン銀行」も、普通に使っているお客さんから見たら、どうやって紙幣を補充しているのかまでは分かりません。
それが「売上金入金サービス」というサービスによって、一石二鳥で行われていたとは!?
この「売上金入金サービス」、私たちはあまり必要性を感じませんが、夜間営業の店舗や、深夜に仕事を終えるタクシー運転手にとっては、なくてはならないものなのだそうです。
おまけに、入金するときも、ATMとして出金するときも手数料を取っているのですから、確かに「画期的」と言えるかと。
◆一方、「見えなかった」というより「気が付かなかった」のが上記ポイントの2番目の成田空港のリテール事業の例。
従来、空港の店舗は、見送りに来た人も対象としていたため、出国手続き前にある方が普通でした。
ところが、それまで死んでいたスペースを活用したところ、上記のようにショッピングセンターランキングで1位となるほどの売上を計上。
さらに税関検査後の通路は、免税での販売にもっとも適した場所であり、実際に訪日客の間では「最後に成田で買う」ことがSNSで広まっていたそうです。
ちなみに同じようなアプローチをしているのが、高速道路のパーキングエリア(PA)やサービスエリア(SA)。
かつて高速道路のPAやSAは、トイレ休憩の場所であり、いかに駐車場の回転を高めるかに注力していました。
それが今では、民営化を契機に「どれだけ滞在時間を長くするか」という方針に変更し、店舗やアミューズメントの施設が置かれるようになったという。
◆本書はこうした各事例について、第2章では「会社単位」で丁寧に分析しています。
それを続く第3章では、「ビジネスモデル単位」で整理分析。
さまざまなアプローチごとにまとめ直し、その「コスト構造」と「競争構造」について明らかにしています。
たとえば上記ポイントの3番目の青山フラワーマーケットは、「伝統的企業と仕組みを変える」アプローチの中からのもの。
また、ポイントの4番目のスカイマークは、「伝統的企業の資産を負債にする」格好の例と言えるかと。
実際、従来のJALやANAを選ぶ乗客にとって、マイレージは大きなインセンティブでしたが、後発のスカイマークが今からマイルを発行しても大手2社に追いつくことは不可能です。
それを法人営業することで、出張族を取りこんでしまえば、もはやマイルは関係ない次第。
……実際に出張する人からは、不満が出ていそうですがw
◆加えて最後のヨドバシの例は、まさに私自身、某量販店で掃除機を買った際、後から同じ量販店のネットサイトでは1万円安く売られているのを見て、ショックを受けた経験があります。
常識的に考えて、接客するにも費用がかかっていますから、しょうがないといえばしょうがないんですけど、それを一切フラットにしてしまう(他社サイトも含めて!?)のがスゴイところ。
これは「カニバリゼーションを克服する」一例なのですが、本書では他にもエプソンやブリヂストンのケースも挙げられていますのでご覧アレ。
というか、第3章と第4章に収録された、ビジネスモデルケースで、気になったものを挙げてみると……
・消費者に倉庫に来てもらい、ほしい商品を運んでもらうコストコ等々、興味深いものが多々ありました。
・客の目の前で調理し、厨房をなくしたベニハナ・オブ・トーキョー
・空港から出発する人の車を、空港に到着した人が借りるリレーライズ
・クレジットカードの保険の足りない分を補う「カード上乗せ保険」
もちろん、私のような単なる「ビジネスモデル好き」だけでなく、アイデアを分析・応用して、起業に結び付けたい人も必読の内容。
成功企業の「見えないビジネスモデル」を学べる1冊です!

成功企業に潜む ビジネスモデルのルール――見えないところに競争力の秘密がある
はじめに 見えにくいところに、ビジネスモデルのツボがある
序章 利益が出ないなら、ビジネスモデル自体を変えよう
第1章 なぜ見えないビジネスモデルか
第2章 見えないビジネスモデルを読み解く
第3章 真実は見えないビジネスモデルにある
第4章 ビジネスモデル構築と運用のポイント
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【課金モデル?】『課金ポイントを変える 利益モデルの方程式』川上昌直(2014年01月06日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。
眠れなくなるほど面白い<図解>物理の話
内容紹介を読むと「文系の人でも理解できるよう、とにかくわかりやすく、またとにかく図を使ってうまく説明しました」とあるので、私のような「超文系」でも大丈夫!(多分)
中古自体とKindle版のお値段が近いため、Kindle版が300円ほどお得な計算です。

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