2017年11月20日
【思考術】『問題解決のジレンマ―イグノランスマネジメント:無知の力』細谷 功
問題解決のジレンマ―イグノランスマネジメント:無知の力
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「東洋経済新報社 創立122年記念フェア」の中でも、特に気になっていた1冊。『地頭力を鍛える』でおなじみの細谷 功さんが、私たちが知っておくべき「思考法」について指南してくださっています。
アマゾンの内容紹介から。
問題解決ができる人は問題発見ができない!「問題発見のための思考回路」を理解し、「無知・未知」を意識することで、「常識や壁」を打ち破る発想が生まれる。
なお、現時点で中古が1200円以上しますから、セール期間内であればKindle版が実質800円以上お買い得です!
【ポイント】
■1.日常の課題の「3つの領域」1つ目は「問いも答えもわかっている領域」で、過去の経験や知識が該当する。ビジネスや日常生活ではすでに起こった過去のことで、今後の活用のために共有したり保存したりすることが重要な領域である。代表例が入学試験等の試験問題といえる。(中略)
2つ目は「問いはわかっているが答えがわからない」領域で、狭い意味で「問題解決」という場合にはこの領域を指す。つまり、与えられた問題を解くことである。例えば「コストが低いほうが売れることがわかっていて、その方法がわからない」ことに挑戦する製品開発等がこれに相当する。(中略)
そして最後の3番目が「問いすらもわかっていない」(当然答えも)という領域で、これは広い意味での問題解決、つまり問題発見の対象領域といえる。不確実性が高く、過去の延長で考えるだけでは成功に結びつかず、イノベーションが必須である現代のビジネス界で目を向けるべき領域は圧倒的にこちらにシフトしてきている。
■2.キリギリスは「楽をするための努力」を惜しまない
同様に、乗り越えられないような困難な状況、つまり「高い壁」に直面したときに、アリは何とか「一穴」を開けるべく最大限の努力を積み重ねてついには小さな穴を開け、そしてそれを少しずつ大きくすることで困難を乗り越える(先の「道路工事」の例でいえば、なんとか「いまある道」を通れるようにしようとする)。
対してキリギリスは、それに正面から取り組もうという気はさらさらない。キリギリスが考えることは「いかにその壁を回避するか」である。抜け道だろうが、ジャンプの方法だろうが、とにかくその壁をうまくすり抜ける方法を徹底的に考える。(中略)
つまり、アリとキリギリスでは注力するポイントが根本的に異なっている。アリは決められた土俵の中でベストを尽くすのに対して、キリギリスはいかに他の土俵を見つけて既存の土俵で「楽をする」かに注力するのだ。「楽をしている」ように思えるのは、あくまでも(高次元の変数が見えない)アリの視点からの見え方であって、キリギリスは「楽をするために徹夜で考える」こともあるのである。
■3.「禁止」に着目して「特異点」を見つける
例えばファミリーレストランで「勉強禁止」という案内を見かけることがある。
「禁止」という言葉からは必ず「2つのニーズ」を嗅ぎとることができる。1つ目は「禁止したい側」のニーズで、もう1つが「禁止されている側」のニーズである。
まず「禁止したい側」の短期的ニーズで、そのための規制や管理のツールや仕組みを作るビジネスチャンスが発生する。そして「もう片方の視点」としての「許容側」に関しては、こうした状況には間違いなく「増えてきているニーズが満たされていない」というシグナルが出ている。禁止してもニーズがある限り、それは別の形で顕在化してくる。むしろそれに先手を打ってしまえば、そこにもビジネスチャンスが広がっていることだろう。
■4.「無知の知」は「メタ認知」の産物
何か問題がある状態を「1つ上の視点から」眺めて、それが問題であるという認識を持つのが「メタ認知」の視点である。
「問題である」ことそれ自体はもちろん問題だが、「問題であることを認識していない」のが本質的かつ根本的な課題だということである。
例えば「ああ、酔った、酔った」と言っている酔っぱらいと、「まだまだ、全然、酔ってない」と言っている酔っぱらいとでは、どちらが「たちが悪い」か。
この他、「メタ認知」ができていない例は以下のようなものである。・「足を引っ張っている人」は足を引っ張っていることを自覚していない
・何かを「理解していない」人は理解していないことに気づいていない(だから理解の対象を「おかしい」と思う)
■5.入口と出口は具体的にする
図表4‐5で具体→抽象化→再度具体化という流れを論じたが、ここでのポイントは、初めと終わりは「徹底的に具体的に語ったほうがよい」ということである。ここに抽象化の1つの盲点がある。抽象化という言葉から常に抽象的な言葉やモデルで語るのが抽象化であると捉えられがちであるが、あくまでも抽象化は抽象「化」であって、最終的には再び具体的な事象に落とすための「具体化」とセットである必要がある。
抽象化によってアイデアを膨らませるための「元ネタ」はなるべく具体的な「固有名詞や数字」が入っていたほうがよい。それと同時に最終的に描くビジネスモデルもユーザーの姿が明確になるよう、徹底的に具体的な場面が描かれていることが望ましい。つまり「抽象化」といっても「入口と出口」は徹底的に具体的である必要があるのである。
【感想】
◆過去最高レベルで、ハイライトを引きまくった作品でした。厳密には、数だけで言ったらもっと引いた作品もあったのですが、ページ数から考えると、密度的には1,2を争うかと。
ただし、上記で引用できる数は限られている以上、そのほとんどが割愛せざるを得ないのですが。
ゆえに、今回のポイントも、どこを選ぶかかなり迷ったのですが、まず本書のタイトルからして、上記ポイントの1番目は触れておきたかったところ。
ここにおける「3つの領域」は、順番に「既知の既知」「既知の未知」「未知の未知」と呼ばれるものです。
元々は、元アメリカ国防長官のドナルド・ラムズフェルド氏が、イラクの大量破壊兵器に関して発言した中にあった言葉らしいのですが。
知られていると知られていることがある - Wikipedia
……厳密にはこれらに加えて「未知の既知」と呼ばれる領域もあって、これはいわゆる「認知バイアス」等を指すのですが、詳細は本書にて。
◆以上のお話は、本書の第1章からで、続く第2章ではサブタイトルにもあるように「『問題解決』できる人は『問題発見』ができない」というお話。
ここで登場するのが「閉じた系」「開いた系」という概念で、前者は「問題を解決するため」に、何らかの「境界」を設定することから生じ、後者は逆にそうなっていないことを指します。
これらは例えば「会社」にも言えることで、会社というもの自体、本来は何らかの「問題を解決する」べきものですから、必然的に「閉じた系」となるかと。
ちなみに組織でありながら、「卒業」した人も「系」として組み込んでいるリクルート社は、稀有な「開いた系」である、という指摘には思わず納得。
またこれは「人間」にも当てはまる話で、「何かしらを短期間で成し遂げる人」は、たいてい「閉じた系」です。
ただし「閉じた系」の人は、考え方が硬直している分、環境等の変化に弱いのですが……。
◆そこで第3章では、「問題解決から問題発見へ」向かう道筋を探ります。
そこで登場するアナロジーが、上記ポイントの2番目にある「アリとキリギリス」で、アリは「閉じた系」でキリギリスは「開いた系」に該当。
本書では両者を「ストックかフローか」、「巣があるか(線を引く)かないか」、「2次元か3次元か」等々の視点から分析していきます。
特に大事なのが、最後の「次元」の問題で、「与えられた問題を解く」ために、アリは「目の前の手段」を着実に実行するのに対し、キリギリスは「目的」のためには「手段」を選びません。
結局キリギリスは、「目的」という上位概念で考えた上で(次元を上げる)、特定の手段にこだわらず目的を達成するワケです。
これはまさに、平面から逃れられないアリに対して、ジャンプで壁を越えられるキリギリスそのものですね。
◆では具体的に「次元を上げる」にはどうすべきか、というお話は、最後のPART4にて展開されるのですが、代表的な方法の1つが「抽象化」です。
これに関しては、以前細谷さんのこちらの本をご紹介したことがあるのですが。
具体と抽象
参考記事:【抽象化?】『具体と抽象』細谷 功(2017年04月03日)
……
171128追記:こういう事情だそうです。
『具体と抽象』の版元dZEROです。ご紹介感謝です。申し訳ありませんが、同書は絶版ではなく発売インプレス→発売もdZEROという変更によって新ISBNとなりました。ややこしいことになり申し訳ございません。Amazonは一時的に品切れですが、今週中には在庫ありとなります。https://t.co/4aBlpzNAHH
— dZERO (@dzero_since2013) 2017年11月27日
本書はそれに加えて、「思考の『軸』」や「Why(上位目的)」によって次元を上げる方法も指南しているのですが、それぞれ細かいお話になるので、これまた詳しくは本書にて。
なお、後者の「Why」に関して、「5W1H」の中で「Why」だけが特別であることが、この本でも指摘されていましたっけ。
メタ思考トレーニング 発想力が飛躍的にアップする34問 PHPビジネス新書
参考記事:『メタ思考トレーニング』が想像以上に凄い件について(2016年05月20日)
この本も、中古に送料を足すとほぼ定価になるという人気ぶりですね。
◆こうした本の流れとは別に、上記のようなポイントに個人的に強く惹かれたので、あえて抜き出してみた次第(スイマセン)。
たとえば上記ポイントの3番目は、具体的な問題発見方法の1つですし、ポイントの4番目は、次元を上げることによる「メタ認知」について言及したものになります。
さらに最後のポイントの5番目も、抽象化における注意事項と言えるかと。
なお、今回は割愛せざるを得なかったのですが、実際の本書は、部分部分で表や図が適切に配置されており、その点も秀逸です。
これらと一緒に読み解くことで、より理解が深まること必至。
まさに、これからのAI時代を生き抜くための思考が身に着く作品だと思います。
「問題解決」から「問題発見」へ向かうために読むべき1冊!
問題解決のジレンマ―イグノランスマネジメント:無知の力
PART1 「知」と「無知・未知」~その構造を明らかにする
PART2 「問題解決」のジレンマ~「問題解決」できる人は「問題発見」ができない
PART3 「アリの思考」vs.「キリギリスの思考」~問題解決から問題発見へ
PART4 問題発見のための「メタ思考法」~次元を上げて問題を発見する
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【オススメ】『誰も教えてくれない 質問するスキル』芝本秀徳(2017年03月30日)
【モデルベース思考?】『スーパープログラマーに学ぶ 最強シンプル思考術』吉田 塁(2016年05月18日)
【思考法?】『ユダヤ式Why思考法』石角完爾(2015年05月20日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。人生の99.9%の問題は、筋トレで解決できる!
内容紹介を読む限り、ガチで筋トレ方法が指南されている模様。
送料加味した中古よりも、このKindle版が700円弱お買い得となります!
【編集後記2】
◆今回の「東洋経済新報社 創立122年記念フェア」では、細谷さん原作(?)のこの本も人気です。まんがでわかる 地頭力を鍛える
原作をお読みでない方も、この機会にご検討ください!
ご声援ありがとうございました!
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