2017年09月14日
【社会】『人生100年時代のお金の不安がなくなる話』竹中平蔵,出口治明
人生100年時代のお金の不安がなくなる話 (SB新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも人気だった新書。おなじみライフネットの出口治明会長と竹中平蔵さんのお2人が、これからの日本や私たちの生き方に対して、アツい提言をして下さっています。
アマゾンの内容紹介から。
AIで雇用がなくなるのか。将来、年金はもらえるのか。これから日本はどうなるのか―。私たちがなんとなく抱えている将来の不安について、日本屈指のブレーンである竹中平蔵氏と、ビジネス界きっての教養人・出口治明氏が徹底討論。歴史、経済、世界情勢まで及ぶ話に、なんとなく感じていた「不安」が、一気になくなります!
なお、若干お買い得なKindle版も、すでにリリース済みです!
Barcelona old boys / soreen.d
【ポイント】
■1.年金政策は「中・中」か「高・高」で出口 「負担が給付である」というのが近代国家の大原則ですが、今の日本は「小負担・中福祉」。これでは、サスティナブルであるはずがありません。日本に残された具体的な選択肢は、「中負担・中福祉」(それほど高い負担は課さないが、給付は現状程度を維持する)か、北欧諸国のような「高負担・高福祉」しかないと思います。
公的年金保険についてもいろいろな意見がありますが、そこは選挙で問われるべき話ですね。
極端にいえば、「消費税を25%にしますが、その代わり、公的年金はさらに手厚くなり、教育も無料です」と、北欧型の制度を主張する政党があってもいいし、そうではなくて、「消費税は15%ぐらいにとどめます。その代わり公的年金保険は現状レベルの金額なので、あとは自分で貯めてください」と主張する政党があってもいい。政党は政策を軸に争うべきです。
■2.年金よりも医療の方が深刻
竹中 医療よりも年金のほうが議論されるのは、政府の財政の中で、医療につぎ込むお金よりも、年金のほうが少し多いからなんです(2016年度予算)。ところが伸び率は、医療のほうが圧倒的に大きい。2017年度予算では、年金を抜いています。
しかも年金には、一応、基金があるんですよね。現在の日本の公的年金は、基本的に「賦課方式」(年金支給のために必要な財源をその時々の保険料収入から用意する方式)で運営されていますが、一部は積立方式(現役世代から集めたお金を積み立てておき、その世代が高齢者になったときにそのお金を受けとる)を取り入れているので積立金がある。(中略)
でも、医療には積立金がまったくありません。ということは、財政的に見ても非常に危険だということです。
■3.残業を減らして生産性を上げる
出口 長時間労働がGDPを引き上げるわけではありません。そのことは数字に表れれています。日本の年間労働時間は、正社員で見ると平均2000時間です。ユーロ圏は1500時間未満です。この数年間の平均成長率を比べてみると、日本は1%未満なのに、ユーロ圏は2%近い成長です。日本はユーロ圏よりも長時間仕事をしているのに、成長率が低いのです。
なぜ長時間働いているのに成長率が低いのかといえば、それは、世の中が製造業主体の工場モデルからサービス産業主体のモデルに移行したのに、工場モデルに合った働き方を今も続けているからです。いわゆる、付き合い残業やダラダラ残業です。
ですから、残業上限規制やインターバル規制を入れて、少ない時間で成果を出そうという考え方は間違っていないと思います。
■4.これからの時代で大切なのは「コンピタント」
竹中 英語に、コンペティティブ(Competitive)とコンピタント(Competent)という2つの単語があります。どちらも「競争力がある」という意味ですが、コンペティティブとコンピタントは違います。
コンペティティブというのは、現状のルールや限られた範囲の中での競争力のことで、たとえば、「エクセルをこんなに上手に使いこなせる」というのは、コンペティティブです。一方で、コンピタントは、エクセルがなくなったり、もっと新しいシステムに変わっても、したたかにやっていける能力のことです。つまり、根本的なことがわかっている人が、コンピタントなんですね。
これからの時代で大切なのは、コンピタントであり、基本の力です。基本力が備わっているのなら、限られた範囲での経験は忘れてもかまわないと思います。
■5.文句を言う暇があるなら、行動に移す
出口 選挙に行かないのは服従の証です。税金がどう分配されようと、教育にいくらお金がかかろうと、医療費負担が10割になっても、文句は言わないということです。
北欧の若者の投票率は80%前後あります。一方で、日本の若者の投票率は、20〜30%前後あるでしょうか。世界の先進国から見れば、20〜30%の若者しか選挙に行っていない日本は異常な国です。
それに今は、フェイスブックでもツイッターでもブログでも、自分の意見を発信できる場所がたくさんあるのですから、「これはおかしい」「自分はこう思う」と意見を表明することもできるはずですよね。
「世の中はすぐには変わらない」ことは人間の歴史が証明していますが、だからといって文句ばかり言っていてもしかたがありません。文句を言う暇があるのなら、行動に移したほうがいいと思います。
【感想】
◆本のタイトルと反して(?)、現在の日本の置かれた状況を改めて認識できた1冊でした。もちろん「少子高齢化」という事実や、今後の未来予想図は、先日ご紹介したこの本でも明らかにされている通りでして。
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)
参考記事:【少子高齢化】『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』河合雅司(2017年06月27日)
ただし、単なる状況予測のみならず、それを政治経済でどうリカバリーしていくか、という部分については、かつての当事者であった竹中さんや、「保険のプロ」である出口さんがいる本書の方が上。
もっとも、その解決策が、どれほど実現可能か、というと、また話は別なのですが。
◆たとえば上記ポイントの1番目にある年金政策の「中負担・中福祉」も「高負担・高福祉」も、どちらも負担は今より増えます。
ただ、その負担の具体例として挙げられている消費税率が、中負担で「15%」、高負担で「25%」と言われても、それ掲げたら、どの政党でも選挙では勝てませんって。
もっとも出口さんはもっとラジカルで、税率は明言してませんが「所得税を廃止して、すべて消費税でもいい」とまで言われています。
さらには「相続税100%と贈与税0%を組み合わせる」という提言までされていますが、こちらは課税当局が了解しないでしょう。
また、上記ポイントの2番目の医療費問題は、高齢者の負担も3割にする等言われているのですが、これはまた選挙を考えると難しいところ。
実はこの辺の話は、以前ご紹介したこの本で、冨山さんが力説されていたことでもあるのですが。
30代が覇権を握る! 日本経済 (PHPビジネス新書)
参考記事:【激白!】『30代が覇権を握る! 日本経済』冨山和彦(2012年06月21日)
◆そういう意味でも、上記ポイントの5番目にあるように、若い世代ほど選挙に行くべきかと。
あまりに日本の若い層の投票率が低いため、出口さんは知り合いの外国人から、「日本の若者はおかしい」と言われたことがあるのだそうです。
その人いわく「20代の投票率が70%、80%になれば世の中が変わるのではないか」、と。
とはいえ、こうしたアクションに対する具体的な効果が見えにくいのが、社会問題の特徴とも言えます。
一応、年金問題のところで竹中先生が、「今の若い人も『将来が不安だ。自分の年金が不安だ』と思うのなら、個人年金に入ればいい」と言われているのですが、そんな余裕がないから将来が不安なワケで……。
◆個人的な感想としては、内容紹介にある「なんとなく感じていた『不安』が、一気になくなります」というのは、ちょっと盛ってる気がします。
もちろん出口さんが考えてらっしゃるように「定年制がなくなり、生涯働く」ことができれば、老後のお金は大丈夫かもしれません。
ただ、そもそものところで、現状は定年制ですし、独立や起業というのも、今度は違った「不安」との戦いになるかと。
もっとも、ひたすら不安を煽る本よりは、ポジティブなメッセージを投げかけてくれる本書の方が、たとえ「精神論」に近くても価値があると思います。
ぶっちゃけ当ブログ的には、具体的なノウハウが欲しかったのですが、そんなものがあれば苦労はない、というところでしょうか。
まずは現状を認識するところから!
人生100年時代のお金の不安がなくなる話 (SB新書)
第1章 今、時代はどう動いているのか
第2章 超高齢社会到来!! 老後のお金の不安とどう向き合うか
第3章 人生100年時代の働き方
第4章 これからの時代に活躍できる人の条件
第5章 日本経済は持ち直すかそして、給与は上がるのか
第6章 日本を根底から変えるために必要なこと
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【少子高齢化】『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』河合雅司(2017年06月27日)
【編集後記】
◆昨日「前日ランキング」をお送りしましたが、本日終了するKindleセールには、こんなものもあります。Amazon.co.jp: 【50%OFF】アルク 英語文法学習本特集 (9/14まで): Kindleストア
……これからの時代、やはり英語は出来た方がいいかと。
ご声援ありがとうございました!
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