2017年08月04日
【なぜか激安?】『武器化する嘘 ──情報に仕掛けられた罠』ダニエル・J・レヴィティン
武器化する嘘 ──情報に仕掛けられた罠
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事で、密かに注目していた1冊。相変わらず単行本のページには紐づけられていないので、昨日まで気が付かなかったのですが、この本、上記のようにKindle版が配信されており、かつ、なぜか「72%OFF」という激安状態になっております。
アマゾンの内容紹介から。
わたしたちは、毎日、頭で処理できない量の情報を受け取っている。質の低いデータ、半端な真実、そしてあからさまな嘘の嵐にさらされているのだ。このような情報化時代において最も信頼できる指南書の1冊である本書では、国際的に高く評価される著者が、誤解を与えるようなニュース報道や統計、グラフ、ウェブサイトなどを見破る方法を伝授し、真偽や正誤の判別を難しくする、ウソつき狐たちの手法を明かす。
アマゾンのページには記載されていませんが、本書の冒頭には『習慣の力』のチャールズ・デュヒッグほか、多数の賛辞の言葉が寄せられている注目作です!
moon3 / SebastianBartoschek
【ポイント】
■1.販売不振は累積売上でごまかす注意して見れば、直近四半期の販売不振がわずかに見て取れる。直近の四半期では、線は上向きではあるものの、角度が緩くなっているからだ。それが販売減少の目印だ。しかしわれわれの脳は、このような変化率(※微分積分用語で1次導関数と言う。このグラフ線の傾斜を指す。)にはなかなか気づけないのだ。したがって、ざっと確認しただけでは、この会社がすばらしい業績を維持しているかのように見えてしまうので、会社側としてはフラベゾイドが依然大人気の商品であると、多くの消費者に信じさせるはずだ。
これは、まさにアップルのCEOティム・クックが、最近のiPhoneの売り上げ発表で用いたプレゼンテーションなのだ。
■2.意識調査で質問は操作される
ある政治家候補に雇われ、対立候補アリシア・フローリックの情報を集める仕事をしたとする。フローリックがすべての論点ですべての人の心をつかむという離れ業でもしていないかぎり、有権者はフローリックになんらかの不満をもっているだろう。したがって有権者たちにこんな質問をすればよい。「この候補者を支持していても、彼女の言ったことに少しでも賛成できない点や不満な点はありませんか?」。誰とて気に入らない点の1つや2つはあるはずなので、こう報告すればよい。「81%の人がフローリック候補を不支持としています」。つまり、どんな小さな異論もないでしょうかと尋ねて、あることについてのデータを集め、それらを同じような意味をもつ不満の山として処理し、「不支持」と再定義すればよいのだ。これなら間違いは犯していないといえる。
■3.条件付き確率の逆は成立しない
ある外科医は90人の女性を、リスクが高いという理由で健常な乳房を切除するよう説得した。彼は乳がんの93%が、高リスク群の女性に発生していると知った。ある女性が乳がんであるという条件のもとに彼女がこの集団に属している確率は93%である。つまりP(高リスク群|乳がん)=0.93なのだ。4分表を使って、1,000人の典型的な女性を標本とし、57%の女性がこの高リスク群に入るという追加情報と、先ほど述べたある女性が乳がんである確率は、0.8%であるという情報を加えれば、P(乳がん|高リスク群)を割り出せるのだ。(中略)
ある女性が高リスク群に属しているという条件のもとに、その人が乳がんである確率は、93%ではない。93%というのは外科医の誤解であり、実際の確率はわずか570分の7、すなわち約1%である。この外科医は、実際の乳がんのリスクを100倍近く多く見積もってしまったのだ。そして取り返しのつかない結果を招いた。
■4.リスクのフレーミング
確率のフレーミングに関連した問題に、リスクを論理的にフレーミングしないという問題がある。たとえば、飛行機の利用は、たとえアメリカで起きた9.11の攻撃による死亡者数を勘定に入れても、最も安全な交通手段である。そしてあり続ける。2番目は、僅差で鉄道だ。旅客機あるいは鉄道事故で死亡する確率はゼロに近い。にもかかわらず、9.11直後には多くのアメリカ人旅行者が飛行機の利用を避け、高速道路のほうを選んだ。そして自動車事故による死亡が劇的に増えたのだ。人びとは、論理的に反応するのではなく感情的直観に従い、リスクの上昇に注意を払わなかった。自動車事故の発生率の増加は、基準値を超えるほどではなかったが、安全性の低い交通手段を選ぶ人の増加は、交通関連の事故で死亡する人数を増やした。
■5.月面着陸のカウンターナレッジに反論する
月面着陸の場合、先に挙げた疑問、そして他の主張は容易に反証可能だ。オリジナル映像では、地球と月での通信は、たしかに2秒ほどの時間差がある。しかし、ドキュメンタリー映画やニュース報道では、視聴者を引きつけるために、時間差が編集されているのだ。写真が高画質なのは、宇宙飛行士たちが高解像度のハッセルブラッド・カメラと高解像度の70ミリフィルムを使用したからである。月の空に星がないのは、画像の大半が月の昼間の時間に撮られたからである。そうでなければ、宇宙飛行士の姿が写らない。国旗は、はためいてはいない。NASAは、空気のない月では旗が垂れ下がってしまうのがわかっていたので、上辺をTバーで支えた旗を用意していた。「波打っている」ように見えるのは、保管しているあいだについた生地の折り目である。風が吹かず、旗がたなびかないからこそ、折り目がついたままなのだ。旗が波打っているという主張は、静止画に基づいたものだが、動画のほうを見ると、旗はたなびいておらず静止している。
【感想】
◆邦題のせいもあるのでしょうが、私は本書について、てっきり「意図的な嘘」を集めた本だと思っていました。要は「武器化する」くらいであれば、「意図的」であってしかるべきかと。
しかし実際には「意図的」なものだけではなく、「意図せず間違っていた」ものや、「勝手に勘違いした」お話も多々。
これらは基本的には、行動経済学で言うところの「認知バイアス」に該当します。
たとえば上記ポイントの4番目のお話は、「武器化」したわけではなく、「勝手に勘違いした」だけのこと。
◆一方、「意図せず間違っていた」ケースが、上記ポイントの3番目。
実はこのお話、何度かご紹介したこともあって、比較的最近では、この本にも登場していました(今日まででしたら60%OFFです!)。
不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100
参考記事:【行動経済学?】『不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100』スチュアート・ サザーランド(2017年05月28日)
それが本書では、「4分表」と呼ぶ下記のような図で、分かりやすく解説(数値は本書にならって四捨五入済み)。
これを見ると確かに「乳がんの93%が、高リスク群の女性に発生している」からといって、「高リスク群に属する女性が、乳がんである確率が93%」ではないことがわかります。
ただ、ある調査によると、医師の90%が、この異なる可能性を同一に扱っているのだそう。
◆逆に「意図的」であろうものが、上記ポイントの1番目の「数字のトリック」。
上記のリンク先にiPhoneの売上のグラフが載っていますが、確かに累積売上だと、角度の緩さは気が付きにくいです。
もっともこれはまだいい方で、棒グラフのタテ軸を途中からにしたり、折れ線グラフの横軸を中抜きにして急角度にする等のイカサマも登場。
一番すごかったのが、タテ軸のラベルを付けずに、2つの折れ線グラフを一緒に表示しており、片方が上昇し、もう片方が下降することで、途中で交わっているというもの(詳細は本書を)。
実はこれ、本来規模が違い過ぎて、交わりようがないのですが、「ラベルがなく」「片方が上昇&もう片方が下降」していれば、そういうグラフを作っても「間違い」ではありません。
パッとグラフを見ただけでは、分かりませんから、こういう印象操作には気を付けないと。
◆そして気を付けるという意味では、上記ポイントの2番目の「意識調査」も、聞き方次第です。
そういえば、ちょうど先日レビューしたこの本でも、新聞によって聞き方が違うことで、同じ事象でも異なった印象を与えられることを紹介していました。
芸人式新聞の読み方 (幻冬舎単行本)
参考記事:【情報リテラシー?】『芸人式新聞の読み方』プチ鹿島(2017年07月10日)
さらに本書では、「カウンターナレッジ」と呼ばれる虚偽情報についても言及。
上記ポイントの5番目は、昔からよくあるお話ですが、最近では「フェイクニュース」という形で、明らかに「意図的に」流された「嘘」もありますので、こちらにも注意しなくてはなりません。
本書ではその対処法にも触れられていますが、実際、ゼロから嘘を検証していくのは、結構非効率な気がしないでもなく……。
◆以上のように、本書は多種多様な「嘘」について、幅広く解説しています。
単行本だと341ページもあり、最後の方は用語集や注記ですが、読むのに結構骨が折れるかも。
ただ、個人的には上記の「4分表」の作り方を、イチから指南してくれているだけでも、読んだ価値がありました。
なお、このKindle価格については、どうもセールではなさそうなので、いつまで超お買い得なのか分かりません。
この記事を読まれた時点で、普通のお値段になっていたらごめんなさい。
嘘情報にだまされないためにも読むべし!
武器化する嘘 ──情報に仕掛けられた罠
はじめに:批判的思考
Part1 数字を吟味する
Part2 言葉を吟味する
Part3 世の中を評価する
結論
【関連記事】
【情報リテラシー?】『芸人式新聞の読み方』プチ鹿島(2017年07月10日)【統計リテラシー】『ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方』カイザー・ファング(2015年08月24日)
【行動経済学?】『不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100』スチュアート・ サザーランド(2017年05月28日)
【データ分析】『統計学が最強の学問である』西内 啓(2013年01月27日)
「行動経済学」友野典男(著)(2006年07月20日)
【編集後記】
◆今気が付いたのですが、上記の関連記事のこちらも、知らぬ間にセール価格になっていました(同じCCCメディアハウスさんなので、ひょっとしたらやはり今日8月4日までなのかも!?)。ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方
送料を足した中古よりも、このKindle版が500円弱お買い得です!
ご声援ありがとうございました!
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