2017年07月10日
【情報リテラシー?】『芸人式新聞の読み方』プチ鹿島
芸人式新聞の読み方 (幻冬舎単行本)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「幻冬舎・幻冬舎コミックスフェア」の中からの1冊。あの佐藤優さんに下記のように言われたら、読むしかないでしょう(断言)。
と言うわけで、アマゾンの内容紹介から一部引用。
プチ鹿島氏の読み方はとても役に立つ。
新聞が今より10倍面白くなる。
――佐藤優(作家・元外務省主任分析官)
なお、セール期限である7月13日までなら、このKindle版が実質600円弱お買い得です!
Newspapers / Robert Brook
【ポイント】
■1.同じできごとの「見出し」「扱いの大きさ」を比べる同じできごとを報じていても、新聞の「キャラ」によって、その扱い方や論調は驚くほど違っていることがある。
たとえば、2015年8月末に起きた、安保法案をめぐる国会前のデモでは、その報道姿勢に各紙ハッキリとした違いが出ておもしろかった。『朝日新聞』や『東京新聞』は一面で大々的に報じたが、『読売新聞』や『産経新聞』は社会面で報じたのみ。
具体的にふりかえってみよう。
『東京新聞』は国会前に集結する人々を一面で大きく報じた。『朝日新聞』や『毎日新聞』も一面で大きく報じたが、もっともページを割いて伝えたのが『東京新聞』であった。(中略)
一方、『産経新聞』『読売新聞』は一面では報じず、社会面で淡々と伝えた。
『読売』は8月30日(日曜日)の反対デモだけではなく、29日(土曜日)に行われた安保法案賛成派デモとセットで報じていた。(中略)
『産経』は「デモの人数」について焦点をしぼっていた。《警察「3万人」主催者「12万人」 周辺、雨中騒然》という見出しが目立った。
■2.「見出しの書き方」で政権との距離の近さがわかる
夏の参院選に合わせて衆院選も実施する「衆参同日選」の可能性が持ち上がったことがあったが、5月25日には『毎日』が《(自民)党内で同日選論拡大》、『読売』が《同日選見送りの公算》と、まったく逆の見出しを打ったのである。
こんなときも、各紙の「キャラ」の違いを知っていれば、「政権と近い読売のほうがおそらく正しいのでは」という見立てが可能になる。果たして、その年の衆参同日選は回避された。あとで「やっぱりな」という答え合わせができるのである。
それにしても新聞が政権とそんなに近くてよいのだろうか? という疑問もある。猟犬ではなく権力の番犬になってよいのか? という。でも一方で、政権のことを知りたいなら『読売』をチェックしたほうがいいのも事実。読み比べの魅力で言えば。
こうした見方は、新聞をフラットに公正に読もうとしていたらできないことだ。ある程度「予断」や「見立て」をもって下世話に前のめりに読むことで、一歩深く読み込むこともできるのである。
■3.産経新聞のアンケートにおけるチカラ技
"安全保障関連法案の参議院特別委員会での採決は、質疑が行われず、与野党の議員がもみ合う混乱状態のまま終了しました。こうした事態の責任は、与党側にあると思いますか、野党側にあると思いますか。"なんというアクロバティックな切り口か。『朝日』や『毎日』が「与党のあの強行採決ってよくないよね」という、いわば確認行為として質問をしていたのに対して、『産経』はあの状態を「与野党議員がもみ合う混乱状態」と定義し、与党と野党どちらに責任があるか問うたのだ。
回答結果 与党側………………………23.3%
野党側………………………17.2%
与党・野党両方にある………57.2%
この問いに対する気になる回答は、「与党・野党両方にある」が57.2%ともっとも多い結果に。つまり、『産経』は見事に「みんなが悪い」に持ち込むことに成功したのである。
■4.スポーツ新聞は「嘘は書かないが盛って書く」
「白なのに黒だとは書かない。負けたのに勝ったとは書かないし、打ってもないのに打ったとは書かない。でも……何て言ったらいいんだろう。スポーツ新聞です。ここだけの話だけど、記事を書く時は少し盛り気味に書きます。」
これは『デイリースポーツ』の名物コラム「松とら屋本舗」の一節である(2016年3月30日)。スポーツ新聞の「魅力」についてみずから語っていた。デイリーといえば熱烈な阪神推し。では金本監督の初陣を報じた一面を見てみよう。《超攻めた開幕戦 金本監督『最強のチームを作ろう』》(3月26日・デイリースポーツ)一面の真ん中は、金本監督の満面の笑み。見出しといい、写真といい、華やか。しかしよく読むと、試合は「負けている」のである。しかし紙面は大勝したかのような雰囲気。まさにスポーツ新聞が爆発している。
■5.ネットに流されると文脈や前提から切り離されてしまう
昨今は新聞記事の多くがネット配信される時代だ。たとえば『ヤフーニュース』は、たくさんの数の新聞社や雑誌社からのニュース記事を集めて配信するポータルサイトとして機能している。ネットユーザーは「あの記事、ヤフーニュースで見たな」という認識でしかなく、その配信元が『時事通信』なのか『産経新聞』なのか『日刊ゲンダイ』なのか、いちいち確認していない人もいると思う。
ひとつひとつのニュース記事が、文脈や前提から切り離されてネットに流れてしまう。「産経がまた吠えてる」「辛口のゲンダイ師匠」という前提の楽しみ方は受け取ってもらえず、すべてがフラットな情報として読まれてしまう。(中略)
新聞によって論調や個性が偏っているからこそおもしろかったはずが、ネットではその機微が通用しなくなっている温度差を感じる機会が増えた。これに関しては、炎上や社会問題が相次ぎ、しばらくは難しい時代が続くだろう。
【感想】
◆冒頭で触れたように、佐藤優さんが「とても役に立つ」と言われるのも納得の1冊でした。よく、池上彰さんや佐藤さんが「新聞は複数読め」と言われていますが、本書の著者であるプチ鹿島さんは、なんと朝刊紙をすべて読んでいる(『朝日』『読売』『日経』を宅配で、他を有料電子版で契約)のだそう。
それだからこその分析ができたのが、上記ポイントの1番目の「安保法案をめぐる国会前のデモ」の件でしょう。
たとえば『東京新聞』では、デモ参加人数に関して、主催者発表の「12万人」しか記載されていません。
それとは逆に『産経新聞』では、その「12万人」に疑問を投げかけ、警察関係者発表の「3万3千人」の方が近いことを独自に試算し「多くても3万2千人だった」ことを指摘。
安保法案反対デモ、本当の参加者数を本社が試算 - 産経ニュース
……ただし、その試算方法がかなりアバウトなものであったため、上記記事のブクマも含め、Twitter等では賛否両論だったようです。
◆こうした新聞の「印象操作」は、アンケートの設問にも表れる、というお話が、上記ポイントの3番目。
基本的にほとんどの新聞は、「採決が強行された」こと自体について質問している中、『産経』だけは「どちらに責任があるか」とした上で、設問に「両方にある」を設置。
……でもこれって、「与党」か「野党」の二者択一だったら、さすがに「与党」の方が多くなったと思うのですが。
ちなみに、それ以外の新聞も、表現上に微妙な違いがありました。
たとえば、『朝日』や『毎日』は設問上で「採決が"強行"された」と言っているのに対し、読売は「与党が採決した」といたってマイルドw
もっとも、そもそも「その新聞」を購読している時点で、「その新聞に寄った意見」に立っているようなものですから、あまり関係ないのかもしれませんが。
◆こうした政治関係の「色の違い」は、直接選挙にも関わってくるだけに、度が過ぎるといかがなものかとは思いますが、それを余裕で上回るのがスポーツ新聞の世界。
上記ポイントの4番目の『デイリースポーツ』の件は、チラ見だけしていたら、絶対に試合結果まで勘違いしそうですw
もっとも、こうしたスポーツ新聞を購読している人もまた、その「推しチーム」のファンの方が多い(『報知』の読者が巨人ファンであるのと同様)でしょうから、目くじら立てる人もそうはいないハズ。
むしろ「やってるやってる」くらいに、生温かく見守っているのではないでしょうか?
ただし、上記ポイントの5番目にあるように、昨今は、その記事のみがネットに流されることも多々あるわけで、「Yahoo!ニュースで見た」場合、そういった前提は考慮されないことがほとんどです。
結果、炎上しかねない、というのも、さもありなん、といったところでしょう。
◆なお、本書の第2章では、「朝刊紙はキャラごとのベタを楽しめ」と題して、朝刊各紙の特徴を分析しているのですが、第3章では同じようにスポーツ紙各紙の特徴を列挙。
どのチームを推しているかはもちろんのこと、それ以外の特徴にも言及されています。
たとえば『サンケイスポーツ』は競馬とラグビーに強く、『東京中日スポーツ』はF1ほかの「クルマの記事が出ない日はない」のだとか。
また、『スポニチ』は圧倒的に芸能ネタに強く、実際、例のSMAPの解散ネタも、『スポニチ』が他紙をリードしていたそうです。
こうした特徴を知っておくと、駅の売店でスポーツ新聞を買う時には、かなりお役に立ちそうな予感!?
情報リテラシーが高まること必至な1冊です!
芸人式新聞の読み方 (幻冬舎単行本)
第1章 新聞はミステリー小説だ
第2章 朝刊紙はキャラごとのベタを楽しめ
第3章 朝刊スポーツ紙は「芸能界の言い分」を読める
第4章 夕刊紙・タブロイド紙は「匂わせた行間」を読め
第5章 新聞は下世話な目線で楽しもう
第6章 ネットの「正論」と「美談」から新聞を守れ
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【編集後記】
◆昨日速報し損ねましたが、『芸人式新聞の読み方』ほか、「幻冬舎・幻冬舎コミックスフェア」の中では、この辺の作品が人気でした(順不動)。人生の勝算 (NewsPicks)
多動力 (NewsPicks Book)
天才シェフの絶対温度 「HAJIME」米田肇の物語 (幻冬舎文庫)
情熱大陸への執拗な情熱 (幻冬舎単行本)
笑って泣いてドラマチックに学ぶ 超現代語訳 戦国時代 (幻冬舎単行本)
順当と思えるものもあれば、意外なものもあるという……。
ご声援ありがとうございました!
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