スポンサーリンク

       

2017年06月05日

【ファスト&スロー?】『意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策』阿部修士


意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策 (講談社選書メチエ)
意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策 (講談社選書メチエ)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、一昨日の「講談社の書籍・雑誌1万点セール」の中でも読んでみたかった「科学的自己啓発書」。

ダン・アリエリー等の「行動経済学」関係の作品がお好きな方なら、必読の1冊です。

アマゾンの内容紹介から。
人間関係、道徳的判断、お金…。生きているということは意思決定の連続である。速いこころと遅いこころ。二重過程理論で解き明かす意思決定の仕組みとは?マシュマロテスト、トロッコジレンマ、損失回避性、ブドウ糖・薬の影響…。実験によって科学的根拠ありとされる、脳とこころの癖を知り、よりよい意思決定を実現するための必読書。

なお、中古に送料を足すと定価を超えますから、その定価と比較してもKindle版が600円以上お得な計算です。





Miniature marshmallows / oskay


【ポイント】

■1.システム2はシステム1を制御できない
 システム1のはたらきをシステム2のはたらきで止められない一例として、錯覚と呼ばれる現象があります。図1-1に示したのは、有名なミュラー・リヤーの錯視です。上下に平行する2本の線が並んでいますが、上の線の方が長く見えます。これは線分の両端についている斜めの線によって、線分そのものの長さが異なっているように主観的に見えるだけで、実際の長さは変わりません。
 ここでの重要なポイントは、わたしたちはこの図形が錯視であり、実際には線分の長さは変わらないことを、理屈で理解してもなお、主観的な知覚が変わらないということです。この現象は、システム1に対するシステム2の無力さを決定的に示すものと言えます。


■2.マシュマロテストの結果の差は脳の働きの違いによるもの
 fMRIによる研究では通常、MRI装置の中に横たわった実験参加者が、脳の撮像と同時に、目の前に映し出されたコンピュータの画面を見ながら、心理学的な実験に取り組みます。この実験では、実験参加者には笑顔や恐怖の情動を示した顔の画像が1枚ずつ呈示され、呈示された顔の表情に応じて、手元のボタンを押す(Go反応)、あるいはボタンを押さずに行動を制御する(No-Go反応)、というGo/No-Go課題を行いました。
 その結果、幼少時にマシュマロテストで欲求の充足を先延ばしにできた人たちはそうでなかった人たちに比べ、ボタンを押すのを我慢する時に下前頭回とよばれる領域の活動が高いことがわかりました。下前頭回は、脳の前頭前野の一部です。前頭前野はこれまでの研究から、衝動の制御や論理的思考を担っていることが明らかとなっており、まさに理性を司っている領域です。


■3.株式投資で利益を上げられない理由
 このように、利益があがってくるとわたしたちはその利益を確定させようとしがちです。逆に、損失が出てしまうとその損失を確定させないように行動しがちです。しかし、これこそが大きく深い落とし穴なわけです。少しの利益を確定させてしまう一方で、損失は放置するという行動を繰り返していると、株価が大きく下がる局面でも、なかなか手放すことができずに多大な損失を被ることになります。
 投資で失敗する多くのケースで、このように「損失を確定させたくない」こころのメカニズムが働いているのです。したがって、半年後に自分の想定外の損失を出した株式は、本来はその時点で思い切って手放さないといけません。損失が拡大する可能性を未然に防がないといけないのです。


■4.失恋から回復するには、気をそらす
 1つの方法は、恋愛対象であった彼・彼女──言い換えれば、中毒の対象の痕跡を消し去ることです。フィッシャーによると、どんな状況下でも、かつての恋愛対象にメールをしたり、電話をしたりしてはいけないのです。連絡をとって声を聞いたり、顔を見たりすれば、また気持ちに火がついてしまうからです。
 また、常に忙しくするように、というアドバイスもあります。友達に電話をかけたり、旅行に出かけたり、ゲームをしたり、方法は何でも良いので、気を紛らわせるのです。
 さて、ここまで読み進めてきた読者の中には、あることに気付いた方もおられることでしょう。実はこれらの方略は、マシュマロテストのミシェルが提唱している、気をそらす方法とまったく同じです。目の前のおやつを我慢できない子供であっても、欲求の対象から気をそらすことで、より長い時間を待てるようになったことを思い出してみてください。失恋から立ち直る場合であっても、この方略が有効だというわけです。


■5.「トロッコジレンマ」「歩道橋ジレンマ」の結果の違いは脳の働きによるもの
 この実験で最も重要な結果は、歩道橋ジレンマについての道徳的判断を行う時に、内側の前頭前野の活動が認められたことです。この領域の活動の解釈については、難しい面もあるのですが、グリーンらは情動との関連を指摘しています。情動のはたらきによって、たとえ5人を助けるためだとしても、1人を犠牲にすることを許容できないと判断している可能性があるわけです。(中略)
 その一方で、トロッコジレンマについての道徳的判断を行う時には、中前頭回と呼ばれる領域を含む、背外側前頭前野の活動が認められました。この領域は認知的制御、すなわち行動のコントロールや合理的・理性的判断に関わるとされています。背外側前頭前野が「クールな」情報処理を行うことで、1人を犠牲にしてでも5人を助けることは道徳的に許される、とする判断を導いていると考えられるのです。


【感想】

◆一部学術用語をそのまま引用した結果、分かりにくくなってしまい申し訳ございません。

まず上記ポイントの1番目に出てくる「システム1」と「システム2」。

これは、もともとはトロント大学の心理学者であるキース・スタノビッチとリチャード・ウェストによって提唱されたもので、「システム1」は「素早く、無意識的で自動的な情報処理のプロセス」であり、「システム2」は「遅く、意識的で統制された情報処理プロセス」を指します。

もっともこれらの用語が広く知られるようになったのは、この本によるところが大きいのですが。

ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?  文庫 (上)(下)セット
ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 文庫 (上)(下)セット

参考記事:【速報!】プレミア付きの名著『ファスト&スロー』がいよいよ文庫化!(2014年06月17日)

……ちなみにこの本、上記記事の際に買うだけ買って、絶賛積読中なワタクシ(ダメじゃん)。

実際、本書のいくつかの項目で、この「システム1」と「システム2」は登場し、それらと脳の働きの関係を解説しているという。


◆典型的なのが、上記ポイントの5番目の「トロッコジレンマ」と「歩道橋ジレンマ」のお話です。

上記でWikipediaのリンクを載せましたが、簡単に言うと、「トロッコジレンマ」とは、「暴走したトロッコの先に5人の作業員がいて、このままだと全員死ぬところ、進路を切り替えると1人の作業員だけが死ぬときに、分岐器を切り替えられるか」というもの。

一方「歩道橋ジレンマ」とは、「トロッコジレンマ」と前提はほぼ同じで、分岐器の代わりに「歩道橋の上から人を1人突き落とせばトロッコが止まって5人の作業員は助かる(その代り突き落とされた人は死ぬ)」というものです。

その行動を起こせば最終的な結果は同じですが、「トロッコジレンマ」だと多くの人が「切り替える」と答えるのに対して、「歩道橋ジレンマ」だと「突き落せない」という答えが多いのだそう。

従来からこの問題はあったものの、ハーバード大学の心理学者ジョシュア・グリーンが、fMRIを用いた「道徳的判断の際の脳活動」の研究論文を2001年に発表。

具体的な脳の部位はさておき、要は「トロッコジレンマ」だと「システム2」、「歩道橋ジレンマ」だと「システム1」が働いているワケです。

……わたしはてっきり、「歩道橋ジレンマ」だと「自分が直接手を下すから」だと思ってたのですが。


◆また、上記ポイントの2番目の「マシュマロテスト」も、よく「自制心」のお話に登場しますが、単に「待てた子はその後の学校の成績が良い」ですとか「社会的に成功している」という結果部分だけしか知りませんでした。

ところがこちらも「脳のはたらき」が関係しているとのこと。

つまり「システム2」に関係する部位が発達していると、「マシュマロテスト」でも「待てる(=将来の利益が得られる)」ワケです。

ただし、「システム1」の欲望に対抗するための「工夫」が有効なのは、上記ポイントの4番目でも触れられているとおり。

ちなみに「失恋」ではなくて、通常の「マシュマロテスト」で興味深かったのが、実際のマシュマロを「ただの写真」であると考えるように仕向けると、待てる時間が長くなる、というお話です。

逆に目の前にマシュマロの画像を置いても、本物であるよう想像させると、待てる時間が半分以下になったのだとか。

なるほど、誘惑から逃れるために色々工夫するのも有効なんですね。


◆なお、著者の阿部さんは、上記のジョシュア・グリーンの研究室に2010年から2年間在籍し、「人間の正直さ、不正直さを規定する脳の仕組み」を調べるための研究を行っていたのだそう。

その研究結果等については、本書の第6章にて収録されていますので、詳しくは本書にてご確認を。

いずれにせよ本書は、当ブログで推している「科学的自己啓発書」というジャンルの中でも、よりエビデンス重視の傾向が強いので、この手の本が好きな方なら楽しめることウケアイでしょう。

巻末にも引用文献が大量に掲載されていますが、そのほとんどが英文なのはちと残念ですがw


お求めになるなら、セール期間内の8日までがオススメです!

意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策 (講談社選書メチエ)
意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策 (講談社選書メチエ)
第1章 二重過程理論--「速いこころ」と「遅いこころ」による意思決定
第2章 マシュマロテスト--半世紀にわたる研究で何がわかったのか?
第3章 「お金」と意思決定の罠――損得勘定と嘘
第4章 「人間関係」にまつわる意思決定――恋愛と復讐のメカニズム
第5章 道徳的判断の形成――理性と情動の共同作業
第6章 意思決定と人間の本性――性善か性悪かを科学的に読む
第7章 「遅いこころ」は「速いこころ」をコントロールできるのか?


【関連記事】

【速報!】プレミア付きの名著『ファスト&スロー』がいよいよ文庫化!(2014年06月17日)

【オススメ】『ずる―嘘とごまかしの行動経済学』ダン・アリエリー:マインドマップ的読書感想文(2012年12月11日)

【スゴ本!】『やってのける 〜意志力を使わずに自分を動かす〜』ハイディ・グラント・ハルバーソン(2013年09月24日)

【スゴ本!】『ヤル気の科学 行動経済学が教える成功の秘訣』イアン・エアーズ(2012年10月30日)


【編集後記】

◆同じ講談社さんのセールで気になっているのがこちら。

「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》 (講談社学術文庫)
「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》 (講談社学術文庫)

今から読んで、セール期間内にレビューできるか微妙なのですが……。


人気blogランキングご声援ありがとうございました!

この記事のカテゴリー:「自己啓発・気づき」へ

この記事のカテゴリー:「潜在意識・右脳開発」へ

「マインドマップ的読書感想文」のトップへ

スポンサーリンク