スポンサーリンク

       

2017年04月17日

【コミュニケーション】『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』平田オリザ


わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書)
わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書)



【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「はじめての現代新書フェア」の記事でも人気だったコミュニケーション本

そちらでも触れたように、カリスマナンパ師・公家シンジさんに直接薦められていた作品です。

アマゾンの内容紹介から。
【新書大賞2013第4位】 日本経団連の調査によると、日本企業の人事担当者が新卒採用にあたってもっとも重視している能力は、「語学力」ではなく、「コミュニケーション能力」です。ところが、その「コミュニケーション能力」とは何を指すのか、満足に答えられる人はきわめて稀であるというのが、実態ではないでしょうか。わかりあう、察しあう社会が中途半端に崩れていきつつある今、「コミュニケーション能力」とは何なのか、その答えを探し求めます。

なお、新書が値崩れしており、Kindle版よりわずかにお得なのですが、ほんのわずかですから、セール期間中にぜひ!





Kitchen talk / milkisprotein


【ポイント】

■1.コミュニケーション能力のダブルバインド
 現在、表向き、企業が新入社員に要求するコミュニケーション能力は、「グローバル・コミュニケーション・スキル」=「異文化理解能力」である。OECD(経済協力開発機構)もまた、PISA調査などを通じて、この能力を重視している。(中略)
 しかし、実は、日本企業は人事採用にあたって、自分たちも気がつかないうちに、もう1つの能力を学生たちに求めている。(中略)
 日本企業の中で求められているもう1つの能力とは、「上司の意図を察して機敏に行動する」「会議の空気を読んで反対意見は言わない」「輪を乱さない」といった日本社会における従来型のコミュニケーション能力だ。
 いま就職活動をしている学生たちは、あきらかに、このような矛盾した2つの能力を同時に要求されている。しかも、何より始末に悪いのは、これを要求している側が、その矛盾に気がついていない点だ。ダブルバインドの典型例である。パワハラの典型例とさえ言える。


■2.対話と討論の違い
「『対話』と『対論』はどう違うのですか?」という質問もよく受ける。 「対論」=ディベートは、AとBという二つの論理が戦って、Aが勝てばBはAに従わなければならない。Bは意見を変えねばならないが、勝ったAの方は変わらない。 「対話」は、AとBという異なる二つの論理が摺りあわさり、Cという新しい概念を生み出す。AもBも変わる。まずはじめに、いずれにしても、両者ともに変わるのだということを前提にして話を始める。(中略)  
 幾多の(おそらく私よりも明らかに才能のある)芸術家たちが海外に出て行って、しかし必ずしもその才能を伸ばせないのは、おそらくこの対話の時間に耐えられなかったのではないかと私は推測している。様々な舞台芸術の国際協働作業の失敗例を見ていくと、日本の多くの芸術家は、この時間に耐えられず、あきらめるか切れるかしてしまうのだ。


■3.日本語には女性からの指示語がない
 男性の上司が、男性の部下に、「これ、コピーとっとけよ」と言っても、あまり違和感はない。いや、一昔前ならそうだっただろうが、いまは少し乱暴だと受けとる部下もいるだろうか。
 一方、女性の上司が男性の部下に、同じことを言ったらどうだろう? これは確実に、ちょっときつい感じに聞こえるだろう。(中略)
 日本語は、大きな諸言語の中で、もっとも性差の激しい言葉の1つである。このことが、無意識のレベルで女性の社会進出を阻んでいることは、おそらく間違いない。社会の変貌と共にこの点が変わっていくのは、もう止めようのない変化である。実際に、中高生くらいまでは、話し言葉の男女差は、急速に縮まってきている。


■4.「対話」の言葉を持たない政治家
 およそ、日本のほとんどの政治家は、「対話」の言葉を持たない。そして、これまでは、それでもかまわなかった。
 戦後政治を代表する田中角栄という政治家は、とてつもなく「演説」のうまい政治家だった。「川中島で上杉謙信公が勝っていれば、新潟は裏日本などとは呼ばれなかった」と始まる名調子が聴衆を惹きつけた。また彼は、「会話」も得意だった。演説が終わると、選挙カーを降りて、背広に長靴といういでたちでズカズカと田んぼに入っていき、農民たちの肩を叩いて、「やあ、やあ、今年の米の作柄はどうだい」と聞いて回る。これなら選挙に負けるはずがない。
 しかし田中氏が、長岡市民と1対1で向きあい、「あなたの考えはそうですか、しかし私の考えはこうです。でも共通点は見いだせますね」というように「対話」を行う姿は想像できない。


■5.日本の国語教育とは正反対の「フィンランドメソッド」
 フィンランド・メソッドに象徴されるヨーロッパの国語教育の主流は、インプット=感じ方は、人それぞれでいいというものだ。文化や宗教が違えば、感じ方は様々になる。前章までで説明してきたように、車内で他人に声をかけるという行為一つとっても、それを失礼だと感じる人もいれば、声をかけなければ失礼だと感じる人もいる。(中略)
 しかし、多文化共生社会では、そういったバラバラな個性を持った人間が、全員で社会を構成していかなければならない。だからアウトプットは、一定時間内に何らかのものを出しなさいというのが、フィンランド・メソッドの根底にある思想だ。
 これは現行の日本の国語教育と正反対の構図になっていることがわかるだろう。私たちは、「この作者の言いたいことは何ですか? 50字以内で答えなさい」といった形でインプットを狭く強制され、一方でアウトプットは個人の自由だということで作文やスピーチでお茶を濁してきた。しかし、現実社会は、どちらに近いだろうか。アウトプットがバラバラでいいなどという会社があったら、即刻潰れてしまうだろう。しかし、どの企業も多様な意見や提案を必要としている。問題は、その多様な意見を、どのようにまとめていくかだ。


【感想】

◆本書はジャンルとしては間違いなく「コミュニケーション」になるのですが、類書とはかなり違った内容でした。

実際、下記の関連書籍を選ぼうとしたところ、そもそも思い当たる本がほとんどなかったくらいです。

というのも本書は、「他人と仲良くするにはこうしましょう」「こういう言い方をすると好かれます」等々を指南するハウツー本とは違うから。

むしろ、そういう「テクニック」以前の「考え方」について掘り下げた本と言えると思います。

そしてその前提となるのが、タイトルにもある「わかりあえないことから」という立ち位置でしょう。

従来のコミュニケーション本は、「わかりあう」ことに重点がおかれてきましたが、本書は逆に「わかりあえない」ところからスタートしている次第。


◆個人的になるほど、と思ったのが、上記ポイントの2番目の「対話と討論の違い」で、指摘されてみたら、確かに「対話」は普段していないかも。

誰かと議論する場合、さすがに「ディベート」まではしないものの、基本的に「どっちが正しいか」という「0対100」になりがちです。

しかし著者の平田さんのいた欧州では、平田さんの意見(A)と相手の意見(B)を30分もかけて摺合せた結果が、Cと言うよりは、ほとんど平田さんの意見に近いもの(A')となっても、「これは2人で出した結論だ」と言ってくるのだそう。

そして同じく上記ポイントの2番目にあるように、日本人の多くの芸術家は「日本型コミュニケーション」だけに慣れているため、「何でわからないんだ」と切れるか、「どうせ、わからないだろう」とあきらめてしまうとのこと。

要は、「異なる価値観」に出くわしたときには、粘り強く共有できる部分を見つけ出す必要があるわけです。


◆また、「対話」について言うなら、上記ポイントの4番目のお話も「目からウロコ」でした。

「演説」は一方的なコミュニケーションですから別としても、「会話」は同じような価値観の人とのある意味「世間話」に過ぎません。

ところが、「異なる価値観」を持つ相手に、「粘り強く共有できる部分」を見つけ出す「対話」は、政治の世界ではどれだけあるのやら……というほど、政治をキチンとウォッチしていないのですが。

ただ、政治の世界に限らず、そもそも「あうんの呼吸」で物事を進めてきた私たち日本人にとっては、「異なる価値観」との調整は苦手なのだと思います。


◆さらには、上記ポイントの3番目にあるように、「日本語には女性からの指示語がない」という指摘も、言われてみたら確かにそうかもしれません。

結局正解は、この例で言うと「これ、コピーとってください」にならざるを得ず。

これを男女や役職を問わず、地道に習慣づけていくことが、「対話」の言葉を定着させる方策はない、と平田さんは言われています。

つまり、一番変えなくてはならないのが「年長の男性」ということ。

先日炎上(?)したこのエントリーも、書いている方が80歳近いんですから、さもありなんですよね……。

はてなブックマーク - 役職者を「さん付け」する会社が崩壊するワケ | 上司と部下の常識・非常識 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準


「対話」の習慣を身につけるために読むべし!

わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書)
わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書)

第1章 コミュニケーション能力とは何か?
第2章 喋らないという表現
第3章 ランダムをプログラミングする
第4章 冗長率を操作する
第5章 「対話」の言葉を作る
第6章 コンテクストの「ずれ」
第7章 コミュニケーションデザインという視点
第8章 協調性から社交性へ


【関連記事】

【オススメ!】『コミュニケイションのレッスン』鴻上尚史(2013年05月28日)

【結構スゴ本】『「空気」と「世間」』鴻上尚史(2010年09月07日)

【誤解?】『だれもわかってくれない:あなたはなぜ誤解されるのか』ハイディ・グラント・ハルヴァ―ソン(2015年10月22日)


【編集後記】

◆今日の作品のセールは「講談社現代新書」ですが、同じ講談社さんで、文庫本もセールになっている模様。



Amazon.co.jp: 【30%OFF】講談社文庫の100冊フェア(4/27まで): Kindleストア

文芸作品が多い中、畑村先生の失敗学本等もありますから、よかったらチェックしてみてください!


人気blogランキングご声援ありがとうございました!

この記事のカテゴリー:「コミュニケーション」へ

「マインドマップ的読書感想文」のトップへ

スポンサーリンク




               

この記事へのトラックバックURL


●スパム防止のため、個別記事へのリンクのないトラックバックは受け付けておりません。
●トラックバックは承認後反映されます。