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2017年02月08日

【教え方】『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』篠原 信


自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書
自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書



【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在「文響社セール」の対象となっている「教え方本」。

自分でも「教え下手」を自覚している私には、色々と気づきの多い1冊でした。

珍しく(?)出版社からのコメントを。
世の中には、たくさんの「部下の育て方」本が出版されています。
その中でこの本は、いちばん肩の力が抜ける一冊。
実績に基づいて書かれているので、納得感もありますし、かつ、今まで「細かく教えなくちゃ! 」と思っていた発想が、じつは違っていたかも…と省みるきっかけをくれる本です。
いろいろ試したけれど、うまくいかないという方。
まだ部下を持ちたてで、どうしていいのかわからないという方。
まずはこの本に、一度目を通してみてください。
上司としての格が上がり、部下が自然と育っていく。
そんな結果を期待する方に、おすすめの一冊です。

一応、単行本もございますが、やはりセール期間中は、お買い得なこのKindle版一択かと。





Long Division, Long Time / Peter Gene


【ポイント】

■1.軍隊式では「自ら考えて動く部下」は生まれない
 考えてみると、恐怖で「やらせる」方法は、体育会系、スパルタ式、軍隊式と呼ばれる方法だ。日本では、日露戦争後、逃亡兵があまりにも多いのに業を煮やした軍部が、鉄拳制裁など恐怖で支配し、従順な兵隊を育成しようという動機からこの方式は生まれたらしい。四の五の言わず、命令されれば何も考えず猪突猛進する。そんな兵隊を求めるところからこの方式は生まれた。(中略)
 つまり、人を恐怖で支配し叱責で動かす方法は「考えない人」を生むための方法だ。だから「自ら考えて動く部下がほしい」と思っていながら、軍隊式で部下を鍛えようとしているのだとしたら、そもそも矛盾した手段を取っていることになる。「なんでうちの部下は何も考えないんだ?」と腹を立てているとしたら、そもそも取っている手段が「考えないように仕向ける方法」なのだということを、自覚する必要がある。


■2.質問形式で部下を考えさせる
 質問形式のよいところは、次のようなものだ。
(1)なぜ問題だと考えるのか、質問の前提として理由(あるいは情報)を伝えることができる。
(2)何かしら答えをひねり出さなければならないので、「能動性」を部下から引き出すことができる。
(3)自分の頭で考えたりすることで、記憶がしっかり刻まれる。
 自分がひねり出した解答は、納得感も得られやすい。「お、それいいねえ」と上司が追認してくれると、自分でなかなかよいアイディアを導き出せた、という自己効力感も得られやすい。
 上司が「正解」を教えてしまうより、理由や情報を提供しながら質問し、部下に追究することを促し、自ら答えを導き出そうとしてもらう。そうすると、仕事の憶えはずいぶん早くなるだろう。


■3.一緒に問題を掘り下げる
 ちょっと変な話をするようだが、「恋人は見つめ合う関係、夫婦は同じ方向を向く関係」という言葉を聞いて、膝を打つ思いをしたことがある。恋人は「俺のほうを見ろよ」という要求があるから「対面型」になるが、夫婦は同じ船に乗って同じ課題を乗り越えなければならない関係だということらしい。
 それをもじるなら、部下の怠惰を詰問する形は「対面」、一緒に課題を考える姿勢は「問題に向かって、同じ方向を向いている」形。相手を面と向かって難詰する形ではなく、同じ課題を一緒に並んで同じ方向を向いて考えよう、という姿勢を示すことが大事。対面か同じ方向を向いているのか、「姿勢の方向」を意識するとよいだろう。
「難しいのは何が原因なんでしょうね。何か気づいたところはありますか?」  
 一緒に問題を掘り下げる、という姿勢でいると、「こんなことに気がつきました」という意見がポロリポロリと出てくるだろう。


■4.「ほめて育てる」か「ほめるとつけあがる」か
 実は、両者はほめるところが違っている。前者は「よく頑張ったね」とか「ここのところ、上手にやったね」と、"工夫や努力、苦労"をほめる。後者は「100点なんてすごいね」「こんな成績、過去に誰も挙げたことがないよ」と本人ではなく、"結果"をほめている。(中略)  
 前者のほめられ方をすると「もし同じようなことが起きたら、同じ工夫をもっと上手にやってみよう」「まだ今回のやり方は稚拙だったから、もう少し工夫を加えよう」と、改善を試みようとする。工夫したこと自体をほめられてうれしくなり、もっと工夫をして驚かせてやりたい、と思うからだ。
 後者のほめられ方をすると、過去の成績を笠に着て今を正当化しようとする。昆虫のように鎧を身にまとった「外骨格」を作ってしまい、ナイーブな内面を守ろうと見栄を張るようになる。(中略)
 だから、ほめるのだとすれば結果や成果といったその人の「外側のこと」ではなく、工夫や苦労、努力といったその人の「内面」のことをほめるほうが、次につながる。


■5.部下に仮説的思考を身に付けてもらう
 そう、「仮説的思考」というのは、どう接したらよいか分からない物事に対し、とりあえず「こうではないか」と仮説を立ててみて、その仮説に従って行動してみることだ。(中略)
 創意工夫ができない人とは、世界のどこかに「正解」なるものがあって、それを自分は知らない、知り得ないのだと諦めてしまっている人のことだ。しかし世の中のことは、正解がないことがほとんどだ。なのに「自分ではない他の誰かが、正解を知っている。だけど自分は正解を知り得ない」と諦めてしまう。これは残念なことだ。こうした人は、仮説を立てることをやめてしまっている。だから未知のものとの接し方が分からなくなってしまう。
「仮説的思考」の大変優れているところは、「知らない」ことを、時間はかかっても「知っている」に変えることができることだ。


【感想】

◆冒頭で触れ損ねたのですが、実は本書に先立って、著者の篠原さんがつぶやいた一連のツイートがかつて話題になりまして。

「指示待ち人間」はなぜ生まれるのか? - Togetterまとめ 「指示待ち人間」はなぜ生まれるのか? - Togetterまとめ

ブクマ2000超ですから、かなりの大ヒット!

ご覧になった方も多いのではないか、と思います。

ただし、このtogetterを読めば本書を読まなくていいかというと、まったくそんなことはなくて、上記まとめは本書でいうところの第1章の最初の部分に過ぎません。

どちらかというと、ツイートを無理やり薄めて本にしたどころか、新たなコンテンツがてんこ盛りの巻。

むしろ、このツイートを見て出版しようとされた版元さんが慧眼と言うか、上記ツイートは「氷山の一角」に過ぎない篠原さんがスゴイと言うか。


◆とはいえ、本書の根底にあるのは、あくまで「自分の頭で考えて動く部下」の育て方。

まず初っ端の序章では、あの『三国志』を題材に「いかに諸葛孔明が『指示待ち人間製造機』だったか」を論じています。

たとえば、有名な故事成語である「泣いて馬謖を斬る」のエピソードもその1つ。

泣いて馬謖を斬る - Wikipedia

私はキチンと文献に当たっていないので、あくまで本書の受け売りになりますが、馬謖がもし優秀であれば、孔明に言われるまでもなく「山上の陣地は危ない」ことは気がついていたハズ。

それを事細かく指示されたため、かえって自分の才を見せたいがために反発した可能性があるのではないか、と篠原さんは言われています。

しかも「逆らうと処罰される」という結末。
しかしこんな事件があったら、以後、孔明の部下はみんな孔明の指示に従って、自分の頭で考えることをしなくなってしまうだろう。
なるほど確かに。


◆そこで本書で推奨されているのが、「質問形式」での教え方。

上記ポイントの2番目にあるように、答えをこちらから言わずに、部下にまず考えてもらいます。

篠原さんのツイートから引用するとこんな感じ(ツイートが埋め込みできなくなった(?)のでそのまま引用します)。
私の場合、指示を求められたときに「どうしたらいいと思います?」と反問するのが常。私は粗忽できちんとした指示を出す自信がないので、指示を待ってくれる人の意見も聞くようにしている。最初、指示待ちの姿勢の人はこの反問に戸惑う人が多い。しかし私は引き下がらず、意見を求める。
「いや、私もどうしたらいいか分からないんですよ。でも何かしなきゃいけないから考えるきっかけが欲しいんですけど、何か気づいたことあります?」と、何でもいいから口にしてくれたらありがたい、という形で意見を求める。そうするとおずおずと意見を口にしてくれる。
「あ、なるほどね、その視点はなかったなあ」「今の意見を聞いて気づいたけど、こういうことにも注意が必要ですかね」と、意見を聞いたことがプラスになったことをきちんと伝えるようにし、さらに意見を促す。そうすると、だんだんとおずおずしたところがなくなり、意見を言うようになってくれる。
その際の注意事項や、うまくいかない人の場合の問題点等は、上記togetterをご参照のこと(もちろん本書が一番ですがw)。

なお、これは部下ならずとも、子どもに教える際にも有効な方法なので、私としてはさっそく子どもたちに試してみようかと。


◆その子育てで言うなら、上記ポイントの4番目の「ほめ方」の方が、私にとってはお馴染みでした。

この本が有名だと思うのですが。

マインドセット:「やればできる!」の研究
マインドセット:「やればできる!」の研究


参考記事:【オススメ!】『マインドセット: 「やればできる!」の研究』キャロル・S. ドゥエック(2016年01月18日)

前者がいわゆる「しなやかマインドセット」で、後者が「硬直的マインドセット」。

単純に「ほめ方」の問題と考えていましたが、そもそも教える時点から意識すべきだったとは。


◆そして実は、上記ポイントの5番目にあるように「仮説的思考」の考え方こそが、「自分の頭で考えて動く」ためには必要であり、「創意工夫」の源となります。

確かに私たちは、小学校に入ってからは「いかに『正解』をたくさん覚えるか」の訓練ばかりしてきたわけですし、そりゃ工夫もしなくなります罠……(反省)。

単に「人に教える」ことだけに留まらず、色々思うことがあった本書。

タイトルや装丁からは想像できないくらい(全然間違ってはいないのですが)、奥深い1冊でした。


「人に教える」機会がある方は必読!

自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書
自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書

序章 三国志に学ぶ理想のリーダー像
第1章 いかにして「自発的部下醸成方式」が生まれたか
第2章 上司の非常識な六訓
第3章 上司の「戦術」とは何か?
第4章 配属1日目〜3年目までの育て方
第5章 困った時の9の対応法


【関連記事】

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【教え方】『教え上手』有田和正(2016年09月13日)

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新入社員が選ぶ超イカした『人気講師のすごい教え方』10選(2010年11月03日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)
打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)


私もいつぞやのセールで購入した、米原万里さんの全書評集。

圧倒的な実力差に、私が打ちのめされそうなんですが……。


人気blogランキングご声援ありがとうございました!

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