2017年01月28日
【感動!】『豊田章男が愛したテストドライバー』稲泉 連
豊田章男が愛したテストドライバー
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「小学館 2016年売上ランキング ベスト300セール」の対象だった1冊。セール自体は一昨日でいったん終了したのですが、その後「ポイント還元」に形式を変えて延長しているようなので、急いでレビューしてみた次第です。
アマゾンの内容紹介から。
59年ぶりの赤字転落、レクサス暴走事故で米公聴会出席…“どん底”の豊田章男を支えたのは開発中の事故でこの世を去ったテストドライバー・成瀬弘の言葉だった。育ちも立場も世代もまるで異なる師弟が紡いだ、巨大企業再生の物語―
私は正直、クルマにはほとんど興味がなかったのですが、そんな自分でも胸を打たれるお話でした!
Mr. Akio Toyoda / Moto@Club4AG
【ポイント】
■1.豊田章男が成瀬に運転を習った経緯日本だけでも7万人の社員を擁するトヨタという大企業のなかで、ある独特の地位を得てきた成瀬の目に、アメリカ帰りでゴルフが趣味だという創業者の孫・豊田章男はどのような人物に映っていたのだろうか。
「このトヨタには、俺たちみたいに命をかけてクルマをつくっている人間がいる。そのことを忘れないでほしい」
成瀬はそう続けると、しばらく間を置いてから、もしよければ──と語りかけたという。「月に1度でもいい、もしその気があるなら、俺が運転を教えるよ」
以来、豊田は静岡県袋井市にあるヤマハのテストコースなどで、成瀬からドライビングのイロハを習うようになった。
「それから僕はアメリカで本当に好きだったゴルフをやめた。真剣にクルマをやり始めたら、ゴルフをしている場合じゃなくなったから。優先順位ってものがあるでしょ。クラブをステアリングに持ち替えたんだよ」
■2.トヨタバッシング収束の理由
その日、公聴会が終わった夜、豊田はCNNのトークショー「ラリー・キング・ライブ」に出演した。司会者のラリー・キングからの辛辣な質問に答えた彼は、最後に「どのクルマが最も好きか」という質問を受けた。
豊田は言った。
「私は年に約二百台のクルマに乗っている。クルマが大好きですから」と。
一連の品質問題による大規模なトヨタバッシングが収まり始めたのは、そのインタビューの後だったという実感が彼にはある。全米の視聴者に対してトヨタ自動車の社長が会社経営ばかりに興味を持つ人物ではなく、クルマそのものを愛する男だということを印象付けたからだ。そしてその回答は言うまでもなく、成瀬との日々が彼に言わせたものに違いなかった。
■3.成瀬弘の能力の高さ
現在、高木と同じ「トップガン」の一人である江藤正人は言う。
「成瀬さんの優れたところは、テストで感じ取ったクルマの動き、現象が車体のどの部分、どのパーツに由来するものなのかまでを、かなり的確に言い当ててしまうことでした。僕らが『低速コーナーでの動きが鈍い』と指摘するのに対して、彼は『前輪のブッシュを少し柔らかくすべき』と言う。日本メーカーの社内ドライバーでそこまでできる人は、1社に1人か2人というところでしょう。成瀬さんは間違いなくその一人でした」
成瀬は多くを語る指導員ではなかったが、後輩たちにこのような自分の姿を常に見せた。3年間のプログラムのなかで自ら進んでハンマーとドライバーを持ち、クルマを改造しては走りの微妙な変化を彼らに感じさせようとした。
■4.ニュルブルクリンク24時間耐久レースに出場した豊田章男
豊田章男は2007年のこのレースを運転教育の大きな「節目」として、後に社長としてトヨタ自動車の舵を取る上での拠り所を得た。
「僕の目的はこうした極限の経験を、最終的に普通のモデルに活かしていくこと」
そう語る彼は続ける。
「いまでも新入社員は『いいクルマっていったいなんですか』と聞きますよ。でも、それは自分で考えることなんです。僕にだって明確な答えはありませんよ。正解はないんです。それが社会人というものだよね。成瀬さんだって『こうしたらいいクルマになる』なんてことは言わなかった。塩を入れたらこうなるぞ、うまいかまずいか、じゃあ胡椒をいれたらどうだ、うまいかまずいか。そういうことをずっと続けてきた相手だった。
いいクルマをつくるのは人なんです。つまり、僕がしなければならないのは、人を作ることなんだ。そこに部署は関係ない。(後略)
■5.成瀬の死の直後の株主総会
「そう、ニュルを走っているとき、僕はいつも怖かった。この一周を自分は安全に帰ってこられるのか、といつも思っていた。それでも僕が走れたのは、成瀬さんが前を走っていてくれるからだった。彼がいたから、目の前のことだけに集中することができたんだ」
彼にとって成瀬と過ごした日々はこの十年間であまりに濃密な体験であり、いままさに経営者となった自分の原点だった。
その成瀬がいなくなったという事実を、彼は受け止められなかった。前を走ってくれる成瀬の存在なしに、一人で走り続ける自分の姿がうまく想像できなかった。そして、その恐怖とも戸惑いともつかぬ思いを抱えたまま、彼は最初の株主総会を終えた。
【感想】
◆本書は、上記ポイントの4番目にある「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」の本戦直前からスタートします。ただし、初参戦の2007年ではなく、2011年。
そしてそれは、本書の主人公の1人である成瀬弘氏が亡くなってから、丁度1年後のことでした。
その地で著者に、成瀬氏との思い出を語る豊田章男氏。
彼は言います。
「成瀬さんが言ったように、あの公聴会にだって命の問題はないでしょ。出席して命まではとられない。その気持ちはニュルを走っていなければ、生じなかったんだ」と。
◆そしてそんな豊田氏に対して、著者は違和感を覚えます。
世界を代表する企業の社長が、すでに亡くなった1人のテストドライバーについて「いつもみたいに僕の隣に座って見てくれているような気がする」と語ることに。
果たして「成瀬弘」という人物はどういう人なのか、そしてそこまでして深まった2人の関係とは?
そこで本書は、まず第2章で、成瀬弘のトヨタ入社からの足取りを、周囲に人に聞くことによって丹念に描き出していきます。
上記ポイントの3番目でも、その能力の一端がうかがえますが、こんなのは序の口。
「伝説のドライバー」「ニュルマイスター」とうたわれた彼のスキルに関するエピソードは、車に大して興味も知識もない私にも、十分魅力的なものでした。
◆たとえば、トヨタがレースを自粛していた時期に、成瀬氏が知り合いのドライバーのテスト走行を見学したときのこと。
走行中に違和感を感じたドライバーが、ピットイン後メカニックに「左の後ろだよ」と具体的に指示しても、何も問題は発見されませんでした。
それでも「もう1回よく見てくれよ」と食い下がるドライバー。
こんなやり取りをピットサイドで眺めていた成瀬氏は、見かねて近寄り後輪をしばらく覗き込むと、ドライバーを逆さにして柄の部分で後輪のホイールを何度か叩きました。
すると、ホイールを取り付けていた5本のナットのうちの1つが、ポロリと折れてしまったという……。
後日これは設計ミスだったことが分かり、事故は未然に防がれたワケです。
……いやもう、こういったスゴイお話がザクザクあるんですけど、きりがないのでとりあえず割愛w
◆さて、上記ポイントの5番目のほか、本書で何度も「ニュル」と略されているのが、「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」並びにそのコースです。
私も本書を読むまで全然知らなかったのですが、結構過酷なことで知られている模様。
ニュルブルクリンク24時間レース - Wikipedia
「その荒れた路面や連続するコーナーから、全開で一周走るだけで"一般公道を800km走るのと同じくらい"ダメージを受けると言われる」というのですから、半端ありません。
そして成瀬氏は豊田氏とともに、このレースに参戦して、無事完走を果たします。
……本当は、豊田章一郎氏から章男氏を「レースに出してはならない」と言われていたそうなんですがw
◆その後トヨタは、成瀬氏が「自らの最初で最後ともいえる『作品』」であるLFAを開発。
LEXUS > LFA
豊田氏も、社内の反対の声を抑える防波堤となります。
やがてできあがったLFAの、さらに「ニュルパッケージ」と呼ばれる限定高性能版に乗った成瀬氏は、「すげえなこのクルマ。俺はトヨタに来て初めてこんないいクルマに乗ったよ。ぜんぶこれにしたいくらいだ」と大感激。
しかし、成瀬氏がその車に乗って亡くなるのは、翌日のことでした……。
◆本書の最後まで、特に成瀬氏の葬儀における豊田氏の弔辞を読んだ後に、できればもう1度、本書の最初の部分を読んでいただきたく。
1年後、同じニュルブルクリンクで、なぜ豊田氏が「いつもみたいに僕の隣に座って見てくれているような気がする」と述べたのかが、きっと腑に落ちると思います。
2人の関係は、詳細を伏せて読んだら、まるで町工場の2代目社長と先代から仕えるベテラン工員のよう。
アマゾンレビューでも「泣いた」という声が多いのは、そんな「どこにでもありそうな話」ゆえ、皆、共感しやすかったのではないでしょうか。
もちろん、クルマ好きな方なら、より楽しめること必至。
いつまでなのか分からないのですが、ポイント還元中に、ぜひお求めください!
豊田章男が愛したテストドライバー
第1章 運転の師
第2章 幻の第七技術部
第3章 聖地ニュルブルクリンクへ
第4章 社長育成
第5章 幸福な時間
第6章 弔辞
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【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと
中古に送料を足すと定価を超えてしまいますので、「54%OFF」だとそのまま半値以下ということ。
我が母もいつどうなるか分からない以上、読んでおくべきなのかもしれませぬ。
ご声援ありがとうございました!
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