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2017年01月19日

【ロジスティクス】『アマゾンと物流大戦争』角井亮一


アマゾンと物流大戦争 (NHK出版新書)
アマゾンと物流大戦争 (NHK出版新書)



【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、1月の「Kindle月替わりセール」の中でも注目を浴びていた1冊。

昨秋に出たばかりとはいえ、「定価と中古の差が数十円しかない」という人気作です。

アマゾンの内容紹介から。
生き残りをかけた競争が今始まった!
アマゾンが仕掛ける物流革命から、今、経済の地殻変動が起こり始めている。ウォルマート、楽天、ヨドバシカメラ─アマゾンに立ち向かうための戦略はあるのか? あらゆるビジネスを飲み込む巨人アマゾンの正体とは? 流通先進国アメリカで取材を重ねる気鋭の物流コンサルタントが、日米ビジネスの最前線からレポートする!

Kindle版は「50%OFF」ですから、新書版よりも400円ほどお得になります!





Amazon Fresh / Atomic Taco


【ポイント】

■1.アマゾンの持つ洗練されたノウハウ
 例えば、アマゾンで本とペットボトルの飲料と陶器のお皿を買ったとしましょう。それらの品物をどのように倉庫からピッキング(取り出すこと)して、どのサイズのダンボール箱に、壊れないようにどのように詰めればいいのでしょうか。サイズや重さ、材質の違う、それぞれの品物を効率よく手早く梱包するノウハウは、ネット通販が登場する以前にはほとんどありませんでした。アマゾンは20年もの長い年月をかけて、それらの1つひとつに洗練された技術を積み上げています。顧客が何を注文したかによって、どのサイズの箱を使えばいいのか、そのアルゴリズムをソフトウェアとして持っているのです。


■2.楽天が急成長できたワケ
 ネット通販の初期において、楽天市場のようなモール型ECサイトが急成長できたのには理由があります。先ほど示したように、一言で言えば中小のネット通販会社の集合体であったからです。(中略)
 これを裏側から見れば、要するに楽天は物流をそれぞれの店舗に委ねていますので、余計な時間がかからなかったともいえます。繰り返しになりますが、ロジスティクスは積み上げであり洗練されてくるまでに相当に時間がかかるものです。大きな投資をして物流センターを築き、システムを作り、運用のノウハウを積み上げてステップを踏む必要があります。そもそも楽天のようなモール型ECサイトは、ロジスティクスのノウハウを必要としていなかったため、立ち上がりのスピードが速かったのです。


■3.アスクル成功の要因
 1つは、もともとが文具メーカーの社内ベンチャーであり、文具などオフィスの事務用品に商材が絞られていた点が功を奏しています。アマゾンが本のネット通販からスタートしたことは本章の冒頭に書いた通りですが、アスクルもまた初期より商材が絞られていたことで、入荷から保管と在庫管理、ピッキングから梱包、出荷へと至る物流機能のノウハウをレベルの低い段階から着実に積み上げていくことができました。(中略)
 もう1つは、オフィス向けのB2B(Business to Business:企業間取引)であったことが大きいと思います。図5のように、ネット通販などB2C(Business to Customer:企業と一般消費者の取引)の物流と比較すると、商品を届ける最終地点がオフィスであることが、非常に効率のいい物流につながっていることがわかるでしょう。人が集まる拠点となっている会社に、不在のため再配達となることもなく、まとめて配送することができるからです。


■4.日本のネットスーパーでは最大規模のイトーヨーカドー
 イトーヨーカドーのネットスーパーの展開は堅実です。店舗型の受注数が増えてきて、ピッキングと梱包の作業をする店舗の従業員の負担が増え、非効率になってきた段階でセンター型に移行しています。物流センターを設置しても、ある程度の稼働率が見込めることは重要です。
 サミットネットスーパー、ウェブバンの失敗例、ピーポッド、イトーヨーカドーの成功例をそれぞれ並べてみると、ネットスーパーを成功させるための鍵が「いかに小商圏で、短期間に会員を獲得するか」にあることがわかります。
 小商圏の理由はやはり配送効率です。第1章で取り上げたビール1本から無料で配送するカクヤスは「店舗から半径1.2キロメートル圏内」を配送の範囲としていましたが、店舗型でスタートすることが多いネットスーパーも小商圏でスモールスタートにするべきでしょう。


■5.ファッション特化のゾゾタウン
 彼らの事業形態はユニークです。ファッションブランドが集まるモール型ネット通販サイトではありますが、スタートトゥデイが自前で持つ物流センターに各ブランドからの商品を「受託在庫」として預かって販売し、その手数料をメインの売上としているのです。(中略)
 物流センターはスタートトゥデイが自前で運営しています。ブランドから預かった受託在庫は直接に荷受けし、ファッションアイテムは専用の撮影スタジオで写真撮影まで行います。そのためゾゾタウンに掲載されている写真は統一がとれており、ファッション専門のサイトらしくとても見映えがします。また、ファッションアイテムは入荷されると同時に、ゾゾタウンの基準により独自に採寸されます。購入ページには「ゾゾサイズ:M」など、正式表記とは別に表記があります。日本製か海外製か、またブランドごとに異なる基準サイズで買い間違えることのないように、きめ細やかな配慮がなされています。


【感想】

◆タイトルを見たときは「ふーん、アマゾンとライバルの物流(ロジスティクス)の本なんだなぁ……」程度にしか考えていなかったのですが、上記ポイントでもお分かりのように、それだけではなく思いっきりビジネスモデルに関係したお話でした。

ネット通販というと、どうしても品揃えや値段ばかりに目が行きがちなところ、実はそれを支えているのが「ロジスティクス」ということ。

ただし、単純に「宅配便が運びます」というレベルだけでは済まないことは、上記ポイントの1番目にもあるとおりです。

よくアマゾンから届いた品で、USBメモリー等の小さなものが「箱デカ杉」「空気運んでる」などと言われることがありますが、あれも「何も考えていない」のではなく、逆に考え抜いた結果、それが最適解だということかと。

バカにして、正直スマンカッタ!


◆ただし、この物流に多額の初期投資をすると、確かに効率性や経済性でのメリットはあるものの、その負担が大きくのしかかってくるという。

それを避けたのが初期のころの楽天であるのは、上記ポイントの2番目にあるとおりです。

ただし、初めの頃は良くとも、徐々に投資をしたところ(アマゾン)との差が広がってしまいますから、実は楽天も物流子会社を作っていたのだそう(知らなんだ)。

ところが、先行投資のコストがかさんで債務超過に陥り、会社は清算し、一応物流支援サービス会社はあるものの、計画は縮小されました。

本書の言葉を借りるなら、結局ロジスティクスを、楽天は短期で買えるもの、つまり「コスト」と考え、アマゾンは長期で構築する「投資」と考えたところに、違いが出たワケです。


◆とはいえ、楽天のような「モール型ネット通販」だと、いくら全体の売上高が高くとも、それぞれ個別の店舗が宅配を頼むわけですから、規模のメリットが生じません。

さらに、私たち消費者も、同じモールで買い物をしても、違う店舗で買ったら、それは配送料はそれぞれかかってしまいます。

その辺を上手いことカバーしているのが、上記ポイントの5番目のゾゾタウン(本書内ではカタカナ表記なのでそれに合わせますが、違和感ありますねw)。

ファッション通販ZOZOTOWN・冬セール開催中!

お恥ずかしながら、私は利用したことがないので知らなかったのですが、サイズの件も含めて、なるほど人気が出るのもうなずけます。

……配送料のことで炎上したのも、それだけ社長がロジスティックに熱心だったのかもしれませぬ(擁護するワケではありませんが)。


◆なお、今回色々なケースが紹介されていて、割愛したお話が多々あったのですが、中でも触れおきたかったのが、ヨドバシカメラです。

まず配送料は、アマゾンのような年会費を払わなくても、基本的にすべて無料(配送会社を指定すると別途350円必要)。

さらに実店舗では、フリーWi-Fiのサービスがあり、それを使ってネット通販のより安い価格で購入すること(ショールーミング)を推奨しているそうです。

ヨドバシが王者アマゾンを猛追する転機となった消費者のある行動 | 日刊SPA!

その他、店員の対応等も優れているらしく、これは家電を買うなら見逃せないところかと。

私も旗艦店とも言うべき秋葉原のお店には、何度も訪れたことがあったのですが、全部店内にある「有隣堂ヨドバシAKIBA店」に本を見に行くためでしたw ←ダメじゃんw


◆本書の著者である角井さんは、物流の専門家というだけあって、非常に読みごたえがありました。

その一方で内容も分かりやすく、これを教科書にして、大学で授業があってもいいのでは、と思ったくらいです。

現時点で在庫が切れているようですが、今月中ならKindle版がお買い得……ってKindleはロジスティクスと関係ないですねw

……ただしアマゾンがKindleを出したのは、あのアップルに対抗するためだった、というのは知りませんでしたよ(詳細は本書を)。

アマゾンもそのロジスティクスも、「恐るべし」と思わせられた次第。


ビジネスモデル好きなら必読の1冊!

アマゾンと物流大戦争 (NHK出版新書)
アマゾンと物流大戦争 (NHK出版新書)

序章 アマゾンが変える世界
第1章 物流のターニングポイント
第2章 巨人アマゾンの正体
第3章 物流大戦争の幕開け


【関連記事】

【ベゾスの素顔】『ワンクリック―ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛』リチャード・ブラント(2012年10月31日)

【オススメ本付き】『通販―「不況知らず」の業界研究』&一緒に読みたい6冊(2010年08月14日)

「楽天市場がなくなる日」 宮脇 睦 (著)(2006年03月13日)

【Amazon】今週号の週刊東洋経済は、やっぱり買っとくべきな件(2009年08月24日)


【編集後記】

◆今日の本の中で何度も登場する作品がこちら。

ジェフ・ベゾス 果てなき野望−アマゾンを創った無敵の奇才経営者
ジェフ・ベゾス 果てなき野望−アマゾンを創った無敵の奇才経営者


……今度日経BPさんのKindleセールで対象になったらアタックしなくては!


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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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